【日本経済新聞】 「活字の海で」「言論NPO」が新登場―出版事業の枠超える試み

2001年10月07日

2001/10/7 日本経済新聞

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同今、一番不況なのはこの国の言論ではないか。そう考える人々が、建設的な議論の場を設けようと、十日に「言論NPO」という組織の設立を発表する。その名の通り非営利の団体で、企業経営者、弁護士、官僚、ジャーナリストらが職種や思想の枠を超えて個人の資格で参加し運営に当たる。まずは、ネット上で活動を開始、十二月に新雑誌創刊をめざす。既存の出版事業の枠を超えた試みが、どこまで影響力を発揮できるか注目されよう。

言論NPOの代表は、東洋経済新報社のオピニオン誌「論争」の元編集長、工藤泰志氏。同誌は質の高い経済論文を掲載することで一定の評価を得てきたが、部数は伸びず、今年四月発売の五月号をもって休刊した。これを惜しんだ、劇作家の山崎正和氏、富士ゼロックスの小林陽太郎会長、東京大学総長の佐々木毅氏らの声に押され、「既存の出版形態が無理なら非営利で言論活動に取り組もう」と同組織の発足を決めた。

7月にはインターネット上にホームページを設け、「ウェブ論争」を試験的に無料公開した(http://www.genron‐npo.net/)。九月号では「小泉内閣は経済不況を乗り越えられるか」をテーマに、竹中平蔵・経済財政担当相へのインタビューなどを掲載、構造改革を巡る議論を展開中だ。こうした議論を重ね、雑誌創刊の準備を進める。  代表工藤がめざすのは米国のフォーリン・アフェアーズ誌だ。同誌は多数の個人会員や財界人の寄付で支えられており、米国の外交政策に大きな影響を与えているといわれる。言論NPOの世話役を務める財務省の現役官僚も「中央官庁の役人は数々の不祥事があって以来発言を控えてきた。このままでは思考停止状態に陥る恐れがあり、発言の場がほしかった」と、官民で政策議論が盛り上がることを期待する。

問題はNPOの運営費用だ。賛同者からの寄付や会費徴収でまかなう計画だが、今のところ中核となる基幹会員は約百五十人。雑誌の創刊を考えると、一般会員を含め千人を超える会員が必要だ。代表工藤は「その場限りの無責任な批判や主張が多いなかで、継続的で建設的な議論を展開し、賛同者を増やしたい」と意欲を示す。既存のメディアにNPOという新しい形態が加わることで、日本の言論が活性化することを期待したい。

(文化部 兼吉毅)

 

2001/10/7 日本経済新聞