【ガバナンス】 「声なき日本」と訣別し言論不況に立ち向かう男

2002年11月01日

2002/11/1 月刊『ガバナンス』2002年11月号

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 バブル経済崩壊後、長期にわたって停滞を続ける日本経済。この十数年間、「不況」という言葉を見聞きしなかった日はないかもしれない。だが、この国が直面している「もうひとつの不況」について言及する人は数少ない。

「言論不況」。この造語は、月刊誌『論争 東洋経済』の編集長を務めていた工藤泰志さんが最終号(2001年5月号)の特集テーマとして、世に問うた言葉である。

「停滞状況から脱却するために議論を仕掛け、世論を形成していくのはマスコミの役割のはず。ところがその多くは、対立の構図を煽って、傍観者的な批判に終始している。当事者意識に欠けた批判ばかりでは何も変わらない。国民もこうした状況に嫌気がさし、やがて建設的な政策論議にも関心を示さなくなる。この言論不況は深刻です」

日本が陥ったこの悪循環をいち早く察知した工藤さんは、真剣勝負の議論ができる言論空間を創り上げるべく自ら会社を辞して動いた。そして、昨年10月に設立されたのが「言論NPO」だ。

「日本は今、経済に見られるようにかなり危機的な状況です。でも改革は、人任せでなく、私たちが当事者意識を持ち挑戦するところから始まるのです。私たちは市民に質の高い議論を提唱し、参加型の議論の舞台をネット中心につくることにしたのです」と工藤さんは思いを語る。

言論NPOには、そのミッションに賛同した企業人、官僚、学者など、各分野のエキスパートが無報酬で参加している。また社会人や学生たちがボランティアとして、運営や事務を支えている。
工藤さんはこう呼びかける。

「地方自治を担う人々にも議論に加わってもらい、現場ならではの問題意識、情報、智恵を私たちに提供してほしい。まずは、組織からの“精神的な脱藩”をお勧めしたい。一人ひとりが個人の資格で行動し、発言していくことが国を変える原動力になるのですから」


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工藤泰志 言論NPO代表
1958年青森県生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士修了。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。

言論NPO
雑誌、インターネット、メールマガジンなどを駆使し、新たな言論空間の創造に挑戦するNPO。政策当事者、経営者、エコノミスト、学者、ジャーナリストによるウェブを使った議論の他、政策フォーラムなどを繰り広げている。アドバイザリーボードには、山崎正和氏(評論家)、佐々木毅氏(東京大学総長)、北川正恭氏(三重県知事)、小林陽太郎氏(経済同友会代表幹事)、宮内義彦氏(オリックス会長)が名を連ねている。会員は現在400名。
https://www.genron-npo.net

2002/11/1 月刊『ガバナンス』2002年11月号