【座談会】参院選で「政策選択の選挙」実現できたか―メディアの課題 page2

2004年8月06日

〔 page1 から続く 〕

新聞対応「自民敗北・民主躍進」「民主躍進・自民と拮抗」など様々

倉重 政治記者が、あるいは新聞社として、「選挙結果をどう判定するか」というところの覚悟というか、リスクをとるということが必要ですね。最初にピシッと社説でもあるいは紙面でも書くといった、明確に判断することを避けているんです。ただ、投票日の翌日の紙面で「自民敗北、民主躍進」と明確に書いたのは、毎日と朝日だけ。でも、これも最後の最後まで相当悩んだんです。最後の1議席が分からなかったというのがあるんです。

メモ: 参院選開票結果を受けた主要新聞メディアのヘッドライン
朝日新聞 「自民敗北 改選数割る 民主躍進 自民を上回る 首相は続投明言 年金・イラクが打撃」
毎日新聞 「自民敗北 改選数割れ 民主躍進 獲得議席1位 年金、イラクが響く 首相は続投 与党は過半数を維持」
東京新聞 「民主勝利 自民51割れ 2大政党化が定着 与党では安定多数」
読売新聞 「自民不振 民主が躍進 二大政党化が進む 公明堅調 共産激減自民 改選50割れ 民主 自民を上回る 与党は安定多数を確保」
日経新聞 「民主躍進 自民と拮抗 首相は続投を表明 公明堅調 共社は不振」
産経新聞 「民主躍進 自民伸びず 首相続投 手法に批判 与党は安定多数維持」

工藤 あ、敗北って書いたのは2社しかなかった?

倉重 うん。結果的にね。多分そうだと思うけど。

  読売、日経あたりは、「自民不振」とかでしたよね。

倉重 「伸びず」とかね。それから、日経は、「民主自民、拮抗」という形にしたんだよね。これも事実なんですけどね。価値観なんですよ。

  1996年、2000年、2003年と衆院の小選挙区で3回の選挙をやってきたけれど、日本人の気分が、もちろんメディアも有権者も、二大政党制にまだ定着していないんですよ。やっぱり二大政党制の場合は、それこそ"Winner takes all"ですから、1議席でも1票でも勝ったら勝ちなんです。それによって、今までの自民党一党支配から政権交代可能な......まぁ、小選挙区の最大の利点は政権交代が可能だということだから......要するに、小選挙区制を導入したにもかかわらず、1票でも多ければ勝ちは勝ち、1人でも多ければ勝ちは勝ち、政権交代をしやすくする制度なんだという、そこの部分をまだ理解できていないままに、制度だけが動いてるということなんです。

二大政党化の潮流踏まえ政権交代前提に制度設計も必要

牧野 そこがポイントですね。これから二大政党化が潮流となってきた時、責任野党のほうも、「政権選択を前提に制度設計を」という格好でやっていくことが必要ですよ。政権が代わったら、またがらっと制度が変わってしまうというのでは、混乱だけを与えてしまう。このため、ある程度、年金改革などにしても持続可能な制度設計をたてると。そういうふうにしていけば、国民のほうも「では、次は民主党を選んでみようか」というようなことになるかも知れないです。そのあたりが、まだ出来ていないという感じですね。

  そうですね。ただ、私は次のステップを考えると、そう悲観的ではない。なぜかと言うと、今までの自民党というのは、選挙でお灸をすえられると、すみませんでした、では次のネクスト・バッターズ・サークルにいる有力者が継ぐ。例えば岸信介が駄目だったら池田勇人がやるとか、そういうのがずっと続いてきたわけです。だけど、いまは小泉の後がいませんからね。

それから、民主党に岡田代表という自民党に対抗する人が出てきた。彼も基本的にはもともと自民党の流れの人です。周りの小沢さんも羽田さんも藤井さんも鳩山さんも、気が付けばみんな田中・竹下派ですね。そうすると、もう自民党と変わりがない。さらに岡田さんという51歳の、政策が分かる人が出てきている。「岡田効果」というのが自民党に跳ね返っていて、小泉の後にはもう、岡田に対抗できないようなタマは選べない。

自民党に、今までみたいな政権たらいまわしの中で、右が駄目だったら左、ハトが駄目だったらタカというようなやり方で補充する人材がいなくなった。岡田ショックで自民党はおそらく誰を出しても簡単には対抗できない。そういう意味では、次の総選挙に向けてのかなり面白い舞台設定が出来たということで、今度の参院選は面白かった。

確かに、今回の選挙は、いろいろと食い足りなかったし、メディアも反応もいま一つだったということはあるけれども、長い目で見て、96年の小選挙導入以来、10年ぐらいかけてやっと日本にも小選挙区制というか二大政党制のメンタリティーが定着してきたということから考えれば、前進はしていると思うんです。

工藤 昨年の政権選択をめぐるマニフェスト報道をきっかけに、政局報道から政策報道へとか、有権者に対する判断材料をどういうふうに提供するかとか、かなりいろんな形で組みかえがメディアで始まったように思うのですが、今また政局報道に実態的に戻ってきてしまったというさきほどの話でした。これをもう一回組みなおしていくには、どういうことを考えなきゃいけないんでしょうか。確かに、このままいったら政局報道だけになっちゃいますね。

牧野 それは極めてリスキーなところですね。

メディアも民意を見極めた報道姿勢が必要

倉重 メディアが民意を整理して、何が今回の意思表示だったのかというのを突きつけなきゃいけないんでしょうね。そういった意味で言うと、年金はある程度はっきりするでしょうね。その後の世論調査の結果でも、それでは困るということになっています。ただ、そこにおいても、メディアの中で「じゃぁ、どうしたらいいんだ」という部分の論議は、まだ空白になっていますね。でも、そこが出来なければ何も出来ないのか、というわけでもないんです。「白紙撤回して、一からまた協議会でも作って議論していけ」というようなのをね。要するに、選挙後のフォローアップをどうするかという問題なんでしょうがね。

工藤 でも、やらないとまずいですよね。なんか、このまま行ったら建て直せなくなってしまうというか、タイミングがつかめなくなる可能性がありますね。

牧野 選挙後の報道をみていて、メディアに一番欠けているのは、フォローアップのところだと思います。ウワーっと盛り上げておきながら、後であまりフォローしないというのが問題だ。

倉重 さきほど、星さんは、二大政党制のメンタリティーは10年近くたって出来つつあるんじゃないかという前向きな評価でしたが、私もそう思うんですよ。ただ、日本の国民性として、急激な変化を常に望まないと、非常に保守的なメンタリティーが、また一方であるのでね、その中で、いたずらにあおって引っ張っていてもしょうがないのでね、そこはやっぱり国民の信頼性というか、彼らの投票行為の結果を尊重するしかないんでしょうね。その尊重するための問題設定みたいなものは、ある程度のことはメディアとしてやってきたと思うんです。では、それをどう読むか。国民の意思表示をどう読むか。そういうことだと思うんですよ。

制度改革のスピード遅過ぎる、民主が党利党略に走ること警戒

  倉重さんが言った「急激な改革を望まない」というのは、それはそれでいいのだけれども、やはり。世界の中で考えれば、改革のスピードは、なんとも遅いわけです。

今度の年金改革では不備だと思ったら修正するとか取り下げるとか、手直しすれはいいのだけれども、「選挙がありました。自民党の年金改革が否定されました。だけど変えません」となると、おそらくこの年金問題は、これから3年間も論議が続きますよ。民主党からすれば、今回味をしめたから、ずるずるこれをやっていって、3党協議にも時々応じるでしょう。応じるけれども、抜本改革は進まない。民主党案はスウェーデン方式でいきます、自民党、公明党は今の帳尻あわせでいきます。そのうちまた出生率の数字が下がりましたとか、社会保険庁にスキャンダルがありましたとなって、また、今の年金では持ちませんよということになって自民党が負ける。民主党は味をしめたから、3年後の総選挙でも、これで勝てると思うわけですよ。そうすると「いったい何年かけて改革やっているんだ?」ということになりかねない。

倉重 それはそうだな。年金は確かにそういうシナリオがあるな。

  東大の学者に聞いたのですが、今のEUとか世界的な動きを見ると、消費税を早めに入れた国や地域が、高齢化社会を乗り切っているのです。つまり、スウェーデンとかそのあたりが典型なのですが、例えば、40%の消費税を、高齢化社会がくるからと45%に上げてもあまり感じない。しかし日本の場合、5%を10%に上げたらものすごい変化となる。

今、どこの国にも団塊の世代問題があるから、それを乗り切るために、消費税で微調整して乗り切ってしまう。北欧などはそれで非常にうまくいってるんです。

日本の場合は遅くて、これを、例えば大平さん(元首相)の時にやっていれば、もうちょっと違っていたかもしれないですが、年金問題は、何年かけてやってるか分からない議論をしている。改革というのは、中身はさることながら速度が大事です。だから、どんなに良い案があっても、ゆっくり何年もかかっていたのでは意味がない。

工藤 小泉さんはどうして年金制度改革で政府案にこだわっているんですかね。一度可決したものでも問題があればまた見直しますというのは駄目なんですかね。

首相自身が確固たる自分のプラン持っていないのが問題

倉重 小泉首相は常に確固たる自分のプランを持っていないから問題なのですよ。

  それがおそらく正解でしょう。

倉重 だから、どうやっていいのかが分からないというのが一つあるんでしょうね。

それと、やっぱり、政局本位で考えるんでしょうね。民主党を利することはしたくないということなんでしょうね。

  例えば、民主党と大連立で組めるということであればやるんでしょうが、民主党は、もう単独政権が見えてきたから、大連立なんかは組みませんよね。

倉重 そして、ますます年金改革が遅れるという非常に皮肉な結果になってね。国民にとっては大変な損害ですよ。民主党にしても、よろしくない。次の選挙でも同じ味をしめようというやり方をとりかねない。

「55年体制」下の自民党では、常に緊張感があった。現実的に、これまでならば小泉首相を倒して次の政権を握る候補がやってきた。ただ、今回だけは、小泉さんの後があまりに弱すぎるから、しかも岡田さんという新しい政権担当の可能性ある人が出てきたから、なかなか出にくくなった。まさに政局なんですよ。権力闘争がないからこそ、緊張感がないと逆の部分が出るんです。

工藤 メディアの話に戻りたいのですが、今回の選挙での小泉首相の説明義務違反というのは非常に分かり易くていいんですよ。ただ、政策論になった場合、メディアもなかなか入り込めない。それから、もう一つは、判断というか、負けたところから判断の差がつくというところが、非常に気になっているのですが、今、メディアというのはどんな状況にあるのですか。政治が大きく変わる局面の中で、政局から政策報道にいくように、緊張感を持つような環境を作っていこうとか、やっていきましょうとか、そういう流れで動いているわけではないように見える。

倉重 メディアの置かれた状況に関する非常に難しい質問ですね。メディアというか、一つの経営体としてのメディアのスタンスがあります。それを見ると、今の局面は、この2年間ぐらいの流れは悪くないんです。要するに、世の中の景気回復ということからすると、小泉さんが改革で実現できたかどうかは別にして、いろんな事情で多少良くなってきて、広告収入も上がってきている。ということからすれば、メディアは何が何でもこの政権を、自分たちの経済的なスタンスから下ろさなきゃいけないというところはなくなりつつあります。

あと、一連の改革路線、しかも改革にスピードが必要だという路線からすれば、小泉さんの政権担当後の3年間はやはり、言葉が踊っていただけで、結果的に出てきたものはニーズに合ってないという判断がだんだん固まりつつあります。

それと、さきほども言いましたが、我々の仕事というのは、何が動いてどうなのかという横並びの緊張感があって、大きな人事や大きな政変で互いに切磋琢磨して一歩前に出なきゃいけないということの緊張感が、今はあまりにも薄い、そこで、少し前向きの報道改革をしなければという気持はあります。

3年前に小泉首相を手放しで応援したメディア決算も必要

  その問題は、3年前にさかのぼる。小泉改革に対してメディアは相当やるんじゃないか、やらせてみよう、ということで、かなり手放し気味で応援していた。それから田中真紀子さんも持ち上げた。私は、どちらかと言うとシニカルに見ていたほうなのですが、その部分のメディアの決算をしなければいけないと思うんです。

つまり、メディアが小泉を手放しで評価したじゃないかと。その小泉はいまどうなってるんですか。少なくともあなたがたの言った評価というのはどうなっているんですかというのを、メディア自身が自分たちで点検していくという作業をしなくてはいけない。

これは、外国では本気で取り組むことだ。私たちは何をどうして、どこが間違っていたのか、間違っていなかったのか。メディアがそれをやらないままにずるずると、小泉路線に対する評価から批判のほうへ少しずつ変えていってるわけです。これは良くないことです。

気がついてみたら、部屋の右側にいたのに、いつの間にか左側にいるとかいうね、よく宴会なんかに行くと、そういう人がいますけども(皆笑)、そういうことは許されないんです。ポジションを変えるには、その時その時に自分たちの責任で説明しなければいけない。それこそ、メディアの説明責任なんです。

牧野 確かに、メディア自身が、自らの報道姿勢について、点検して、新たな報道スタンスを決める、ということは重要なことです。メディアの人間は妙にプライドが高いので、なかなか軌道修正したり、自己反省といったことをしたがらないけれども、時代を見据える立場からいえば、自己点検作業は重要ですね。

  例えば、道路公団の問題なんかもそうですよ。民営化は良い良いと礼賛していたのが、いつの間にか批判していて、最終的には、小泉さんは骨抜きだと書いている。じゃぁ、最初に小泉改革が良いと言ったのはどうなってるんだと。さっき倉重さんが言ったけれども、要するに、小泉には案がないわけです。

道路公団で何があったかと言うと、道路公団の民営化をやれと小泉が言うわけです。そうすると、民営化推進委員会に、改革案A・B・C・Dというのが出てきて、その連中の中で内ゲバが起きる。それで、猪瀬改革、川本改革、中村改革と出てきても、小泉が「これでいけ」と言わないものだから、役所と族議員が内ゲバの様子を見て「これに乗っかればいいや」といって、パクっと猪瀬改革に乗る。それがそのままずっと通っていくわけです。そういう全体の流れを見ていて、どこがインチキでどこが限界だったかということをきちんと評価しないものだから、内ゲバで、だれが勝つかということだけを報道するわけです。

今度だって、内閣改造で、幹事長にだれがなるかとか、外務大臣にだれがなるのかとか。そういう話じゃなくて、「内閣を変えるというのはどういう意味なんだ」「一内閣一閣僚と言ってたのはだれなんだ」というところを、しつこく提示していくのが、本来のマスコミの仕事だと思うのですが(笑)。

倉重 そうだよね。

工藤 金井さんに話をうかがいたいのですが、3年前にはまだ「景気か改革か」なんて話があったけど、今お話をうかがっていると、スピードの問題なんだと。うまくいってないんじゃないかという形があって、これはかなり変わってきているわけですよね。じゃぁ、なぜうまくいかないのかということを、メディアもある程度考えなきゃいけないのに、その曖昧なところは、かなりばらつきになっていますよね。あと、だれもいないんじゃないかとか。メディアの反応のばらつきは、世論調査の結果と似ていますよね。

「野党が引き延ばし与党が先送る」サイクルだけは監視を

金井 メディアの報道を、選挙後の緊張感がないという視点も含めて考えると、与党は争点を選挙後に先送りしようとして、野党は引き延ばそうとする。星さんが言われた話で言えば、民主党は次の総選挙まで引っ張ろうという動きで、自民党は、郵政民営化といういちばん大きな肝を選挙後に決める、ということです。それで、緊張感がなくなってスピードが落ちているという要素はすごくあると思います。だから、少なくとも我々メディアは、そういう「野党が引き延ばし、与党が先送る」というサイクルを厳しく監視し続けなければいけないと思います。

工藤 そう、でもその時に、メディアはまず問わなきゃいけないですよね。

金井 ええ。例えば、自民党のマニフェストに、「郵政民営化については2004年の9月を目途に」と書いてあったのを見た瞬間に「これはダメだ」と、各社がそれなりに書いたんです。でも、もっと激しく、「せっかく国政選挙のサイクルがあるのに、なんで選挙が終わった時を見計らって始めるんだ」ということを言い続けていかなければいけないのだと思います。

それと、「解散すべきだ」というようなカードはあったのではないかな。それこそ政権選択の選挙で、だいたい4年の公約で示しているので、任期満了の選挙で4年に1回ずつ政権選択が行われるというような......これもロジカルに虚像が出来上がっているような気がするんですが、今回は紛れもなく自民党が負けた選挙なわけだから、これをもって「国民に信を問え」というような論調が、もうちょっとあってもいいんじゃないかなと、個人的に思ってるんです。

工藤 そうですよね。

金井 「選挙をやれ」という主張は、自民党内から「小泉代えろ」というというのが起きなかったのと同じように、「小泉やめろ」という論調はなかなか書きにくいものがあるのかもしれないけれど、「解散で信を問え」というのは、もっとあっても良かったんじゃないかなと思いますね。

工藤 新聞が、今回の選挙後の小泉さんの対応を見て、「これでは無理だ、民意を全く反映させていない、真意を問うべきだ」というふうに書いたらどうですか?そうやってどんどん書いていったら、それが流れを作れるんじゃないですかね。

世論調査システム活用し民意を拾い上げる手法の検討も

牧野 例えば世論調査などをたくみに活用して、「今、民意はこうだ」「選挙後の民意はこうだ」というふうな形でやるというのも1つの手法だともいます。そういった点で言えば、解散のテーマでもいいわけですよ。政治部の編集局の会議で、突然、「解散問題について社説で取り上げてみようや」なんてことをやったら、「何でそんな議論が出てくるんだ」ということにもなりかねないし、いま一つ噛み合わないかもしれない、つまり何か意図的にやってるんじゃないかみたいになりかねない。しかし、世論調査を使って、民意が拾い上げるころが出来れば、メディアは、それを根拠に論陣を張ればいい。民意を探るための手法の開発は、必要なのではないですか。

工藤 民意を反映するシステムがいろんな形で形骸化しちゃっているわけですから、やっぱりこれを戻さないとまずいんですよ。

  ただ、僕は、解散については、ちょっと違っていて、そんなに急ぐ必要はないと思う。つまり、今度の参議院に、民主党の議員が50人出てくるわけです。自民党議員は49人しかいないから、明らかに民主党の人たちのほうが多い。議会は基本的に民意の反映なわけだから、その議会の人達が参議院という場で政府を追及する、選挙の結果を受けて、政府の対応を「なんだ」と指摘するということで、いかにも政府の言っていることに無理があることが分かるわけですよね。そこでやっていくしかないんだと思うんです。毎週毎週、解散するわけにはいかなわけだから(笑)。

工藤 国民投票制度を作るみたいなことはどうですかね。

  議会というのは民意の反映のためにあるわけです。今度の参院議員には、そこに民意が詰まっているわけだから。それで、その委託を受けて、我々が議会での論争を評価する、そこをまじめに評価していくということだと思うんです。

工藤 うん。民主党がそういう形でちゃんとやるかどうかですよね。やらないとまずいですね。ただ、そういう問いかけをする必要はありますよ。今のこの無秩序な感じの雰囲気には、何かしなきゃいけないと思います。

それから、小泉改革の限界と言いましたが、時間軸の問題を含めて、もう一つの大きな問題は、改革には、もう時間がないということなんですよね。つまり、今後どんどん人口が減っていくだろうし、高齢社会対応で増税もしなきゃいけないし、いろんなことがあるのに、小泉政権は何のカードも案も出していない。これはやっぱりメディアとしても良くないんじゃないかと思っているんですね。

もっともっと政策に緊張感を持たせる形とか、逆に言えば、政党側が出していなくても、対立軸をメディア側が描いてしまって、政策オリエンテッドでやって、それを政党側が「まだ足りない」ということで追い込むとか何かしていかないと。今の政治が、民意が政治を決めて、政治が今の状況を決めるという形でもいいんですが、かなり厳しい時代になっちゃうんじゃないかという気がすごくするんです。どうでしょうか。

農業専門紙が健闘し農業問題で対立軸、政治を動かす

  今度の参院選挙で、農業関係の専門紙がかなり健闘して、農業問題を対立軸にして、自民党と民主党の問題をやったと聞いています。多分、取り上げたのは日本農業新聞だと思うんですが、民主党の直接補償という提案に対して非常に反応がよくて、一人区で民主党が当選したのは、その新聞の功績が大きいんじゃないかという人がいるんです。

つまり、メディアが自分達で問題を設定して、その賛成・反対を相当しつこく追及したわけです。民主党の資料によると、農林漁業従業者の民主党支持の度合いが、ものすごく高くなっている。地域によっては、自民党を超えている。そういう、問題設定を、実はメディアによっては、もうやり始めている。 

大手メディアはまだ薄く広く、ある意味で定食みたいなことをやっている、可もなく不可もなくみたいになっている。メディア自身もこれから相当問われていくだろうけれども、やろうと思えば、相当面白いことができる。

工藤 本当にそうですよ。今の年金にしても何にしても、政策論争にしてみれば、幼稚ですよ。もっともっと対立軸をはっきりさせてどうだとか、合意を形成するための判断材料を提供するとか、まだまだやらなきゃいけないことがいっぱいあるような気がします。

倉重 そのとおり。ところで、今の農業の話は初めて聞いたけれども、面白い話ですね。やっぱりそういうニーズがあるんだよね。

  民主党の人が言っていましたが、だいたい農業の関係の人って、読んでるのは、地方紙か農業新聞か、それかテレビしかないわけですよ。どうも地方紙がやってるとは思えないから、農業新聞の影響だというんです。

倉重 僕らなんかは、はじめから、農業なんかは争点にもならないと、バカにしていたきらいがある。民主党がなぜ今回、農業に熱心なのかは分からなかったけれど、いまの話を聞くと、実はそういうところで動きがあったんだね。

  もちろん民主党にしてみれば、戦略的な、政略的なところもあったけれども、そこはやっぱり政策と絡んでいる。

倉重 しかし、その点でいえば、年金問題なんかはもっと大変なニーズと関心があるはずだからね(笑)、老人とか、特に若者もね。

牧野 さきほどの話で、農業県で民主党が意外に善戦したのは、農業者年金の問題もあると思う。自民党にとって保守基盤の票田地域でも、今回の政府の年金案などを見ていると、農業者年金も先に展望がない、自民党は頼りにならない、という空気が出て、民主党がうまく不満を吸い上げたのかもしれない。

  それはありますね。

三位一体でメディアが財務省と総務省の代理戦争に加担

工藤 三位一体もそうですが、今の報道のやり方は、国の調整を追っかけていって、その論理体系の中で議論を展開しようとしているから、無理なんですよね。

  そうなんです。そうすると、どういう現象が起きるかというと、メディアも、社内の議論を聞いてると、ものすごく白熱した論議をしてるんですが、よくよく聞いてみると、片方は財務省の論理、片方は総務省の論理で、その二人で代理戦争をやっている。

工藤 だからそれはもっと、地方分権じゃないけど、有権者が負担と給付を決めるとかというところまで行ったら、それに対してどういうアクセスがいいのかとか、何がポイントなんだとか......そういうのがありますよね。何かの議論で、これを解決すれば次に進むという、それをメディアが具体的に提起すれば、流れが変わるというのはあるでしょうね。

牧野 そういう面で、やっぱり報道の原点だけども、「現場に帰る」ということですよね。農業の話もしかり、年金の話もしかり。ジャーナリストは現場に判断材料を見つける努力が必要だ。霞ヶ関や永田町では、問題の本質をつかめないですよ。

  本当にその通りですよ。霞ヶ関の役人の代理戦争をやってもしょうがない。明らかに有権者の気持ちは変わってきている。「おそらくこの年金制度ではもちませんよ、消費税をどうにかしないといけません」という気持ちは分かっていてそれを隠す。隠してとりあえず繕うという自民党案よりも、正直に言ってくれる民主党案のほうがいいということなんでしょう。だから、負担が大きくなるかどうかというよりも、隠すか隠さないかという価値基準に変わってきている。

工藤 自民党の若手にも、年金問題のところで消費税案を言ってた人がいるじゃないですか。それは、表に出したらダメなんですかね。

  それは二つあって、公明党が消費税引き上げは絶対ダメだと言うから、公明党との関係が悪くなる、場合によっては選挙も応援してもらえなくなると心配して引き上げを打ち出せない。もう一つは、小泉首相が、消費税はいじらないと言ってるから、「消費税をやりましょう」と言ったら、少なくとも今度の内閣改造では、自分は登用されないと思うからです。

自民党の良いところは、どんなに短期的に自分がパージされても、長期的なことを考えて言い続けることだ。例えば昔、「何といっても日中国交回復だ」と言っていた松村謙三とかがいた。でも、そういうのは、今はもう全くいなくなって、人事の季節になると急に静かになってしまう。

メディアのガバナンスが効くようにすることも課題

工藤 いやぁ、これは良くないですね。ガバナンスが全体的に効いてないと思いますね。

牧野 全くその通りだと思います。今日の議論はとても良かったと思います。メディアの報道姿勢をこれからどう作っていくかは、僕ら自身のガバナンスでもあると思います。なんとなく状況に流されて報道していくのでなくて、さきほどの話のように、マニフェストについては定着させていきたいと思います。それはメディアの責任だと思うんです。つまり、我々が緊張感を作って政治状況を作って、有権者と政治の仲介役を僕らがやり、それで、方向づけをどうやるかは、それはまさに有権者に問うという格好でやると。

工藤 僕たちは非常に問われていますね。

倉重 メディアも問われてるなぁ。3年経った今、小泉改革路線でどう評価するか、ここが大事なところなんですね。ここを中途半端にしちゃうと、その後の報道ができなくなる感じだろうね。もう実際、3年たっているからね。

工藤 皆さん、どうもありがとうございました。

(聞き手は工藤泰志・言論NPO代表、牧野義司・言論NPO理事)

倉重 政治記者が、あるいは新聞社として、「選挙結果をどう判定するか」というところの覚悟というか、リスクをとるということが必要ですね。最初にピシッと社説でもあるいは紙面でも書くといった、明確に判断することを避けているんです。ただ、投票日の翌日の紙面で