7月10日に投開票を迎える参議院選挙、言論NPOは外交・安全保障と物価高騰などの経済対策の二分野について、マニフェスト評価会議を緊急開催し、有権者は何を判断軸に選挙に臨むべきかについて議論を行いました。
ロシアのウクライナ侵略や米国と中国の対立が、世界の政治・経済面での分断や世界的なインフレを加速させていますが、今回の選挙戦ではこうした世界の歴史的な変化に日本がどう対応し、日本自身の将来を描くのかがいまだに議論の焦点になっていません。
今回開催された外交・安全保障、経済・物価高騰対策の二つ会議は、先に言論NPOが公表した有識者のアンケートで今回の選挙の最も大きな問われるべき争点とされたもので、有権者の判断をサポートするために、第一線の専門家7氏が出席しました。
各党の公約は日本の将来を見据えたものでなく、漠然としたスローガンや応急的なバラマキを競っているだけ、世界の危機の中で日本外交のアイデアも全く見えない
評価会議では、世界が分断や対立に向かう歴史的な分水嶺に立ちながらも、政党の公約や、選挙戦での議論が日本の将来を見据えた本質的な発言や論戦もなく、むしろ選挙受けする目の前の一時的なバラマキ対策やスローガンを競っているだけとの厳しい指摘が相次ぎました。その上で、日本の政治がこの状態を続けると、日本が世界の変化から落伍するだけでなく、政策的に対応できない事態に追い込まれ、暴力的な市場の調整が起こりかねない、との意見も出ました。
外交・安全保障の会議では、参加者の全員から、多くの政党が防衛費の増加や外交の役割が重要だと語っているが、ではどのような抑止力が必要か、どのような外交を行うのか、特に中国と日本がどう付き合うのか、といった中身の説明が全くなく、意識的にも選挙戦で避けている、ことが問題になりました。
その背景には、選挙戦での減点を怖れて無用な発言を抑えたいとの政治側の判断もあると思うが、そもそも、日本の政党には、この世界の危機の中で平和と安定を生み出す外交のアイデアやそのための意欲もないのでは、との疑問も提起され、選挙で日本外交の方向を説明できない日本の政治に日本の未来を託せるのか、と言った厳しい発言もありました。
成長できない日本の経済構造をどう立て直すのか、物価高騰では本当に困った人に行うべきで、バラマキを競争し、財政拡張を続けることへの危機感も政党に感じない
経済と物価高騰対策の評価会議では全員が、本来本当に困っている人を見定め、その人たへの対応を行うべきとの考えであり、全員に感染リスクがあったコロナ対策と同じ発想で今回も全員へのバラマキ支援を競う矛盾に、多くの政党は気が付いていないとの指摘がありました。
日本経済が他国と比べて既に大きく衰退し、急激な円安がそれに追い打ちをかけている中で、成長ができない日本経済の構造を改革できない日本の統治構造の問題に、日本の政党が何ら関心を示さず、日本経済のビジョンが与野党も含めて提起されていないことにも、疑問が相次ぎました。
この中では、自民党の「新しい資本主義」はこれまでの何がだめだったのか、何をどう変えるのかについて説明がなく、野党も対案がないことが問題視され、このまま財政拡張を制御できない中で、物価がさらに上がり金利の引き上げしかない政策環境は極めて危険だが、政党にはそうした危機感さえ見られない、との厳しい批判も相次ぎました。
評価会議では、日本のメディアも今回の選挙の意味を表面的にしか触れていない、との問題も指摘され、言論NPOが3年前に断念したマニフェスト評価を新しい形で再開すべきとの議論もありました。
その上で、参加者からは有権者は日本が厳しい環境にあることを理解すること、さらに日本の政党が、この世界的な変化と課題に真剣に向き合っているかが投票日に考えることだ、との意見があり、このような状況では選挙で誰に投票がするかは、政党よりも個人や、将来の政治環境を意識した、戦略的な投票にならざるを得ないとの声もありました。
言論NPOは、政党不信が高まる中で、日本の未来に向けた課題解決で有権者と政治との緊張感を高める舞台の再開に向けた作業を開始します
これを受けて、評価会議の司会を務めた言論NPOの工藤は、この状況を変えるために、日本の将来のための政策を本気で議論し、政治にそれを継続的に提起し続ける舞台をもう一度作るための作業を開始したい、と語りました。
外交と安全保障の評価会議には、東京大学大学院総合文化研究科教授の川島真、慶應義塾大学総合政策学部教授の神保謙、日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中均の3氏が参加、また、物価高騰や経済分野では、元経済財政諮問会議の民間委員で日本総研チェアマン・エメリタスの高橋進、元日銀局長で東京財団政策研究所主席研究員の早川英男、法政大学経済学部教授の小黒一正、元アジア開銀研究所長で環日本海経済研究所所長の河合正弘氏の4氏が参加しました。
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