これまでタブー視されてきたテーマについても、 冷静な議論ができるプラットフォームに期待 / 増田寛也 (株式会社野村総合研究所 顧問、元総務大臣)

2016年1月01日

増田 寛也
(株式会社野村総合研究所 顧問、元総務大臣)

 昨年来、私は、日本の人口減少問題を問いかけてきました。

 今年もわが国の人口減少問題について問いかけたいと思いますが、その中で、どうしても議論しなければならないのは外国人の問題、つまり、外国人が、日本でどのように活躍してもらうのか、あるいは振る舞いをしてもらうのか、という問題があります。

 有り体に申せば、外国人を労働力として使おうと思っている人もいるかもしれません。しかし、地域で、日本という国土の中で、宗教や民族を超えて、外国人とどのように共生していけるのか。本当の意味で、日本人と外国人の能力を引き出していくことが可能なのか、そうしたことが今年、我々に問われることになると思います。

 また、ヨーロッパに目を転ずれば、まさに、いま憎しみの連鎖が広がり、外国人、特に難民や移民を排斥しようという極右が台頭してきています。これらの動きを反面教師として、日本にどのようなことができるのか、そして、世界の中で日本が本当にグローバル社会で活躍できるのか、ということが世界から問われる年になるのではないでしょうか。


日本人は宗教、民族を超えて外国人と共生できるのか、という議論が必要

 なぜ私が外国人の問題を今年の大きなテーマにしたかというと、日本の人口減少がこれから急激に進んでいくという現実があります。

 一方で、AIやロボットという技術革新によって、人口減少を克服しようという動きがありますが、その技術革新をもって補いうる量を遙かに超えるだけの労働力が減ってきます。この問題に対して、私は、従来の技術技能研修という形で外国人を安価な労働力として用いるようなことがあってはならないと思います。外国人の問題に対して、すぐに移民の問題であり、国のあり方が違うと議論を嫌う向きがありますが、そうではなく、人口減少をきっかけに、日本人と外国人は、宗教、民族を超えて共生できるのかというテーマをテーブルに乗せて議論を始めることが必要だと思います。

 その上で、私は、外国人をこれから日本は積極的に受け入れていくべきと思いますが、必ずしも移民として受け入れるということを意味しません。移民は、最終的に国籍を変える可能性を持ちますが、アジアの国々を見ていると、中国も一人っ子政策が続いたために急激に若年層が減っていくことからも、日本に移民を出せるような国はないのが現実です。

 しかし、昨年のラグビー・ワールドカップの日本代表チームのように、国を超えて、お互いに職場を違う国に求めるということは、これから起きてしかるべきであると考えますし、国籍や民族というものを、どう考えたら良いのかということは、一度問わなければならないテーマだと思います。

 日本は、島国であるが故に、国境が陸続きでなかったが故に、これまでこうした議論を行ってこなかったのではないでしょうか。


希望出生率1.8が実現しても、これまでの制度を根本的に見直す必要がある

 人口減少問題の解消に向けて、安倍政権は、「2025年の希望出生率1.8」という目標の実現に向けて施策を立案していますが、これらの施策はきちんと達成されたとしても、その効果が出てくるのは、30年、40年先の話になります。そこで、この5年間、あるいはこの10年間を考えた場合、全ての産業において圧倒的に労働力は足りなくなります。特に、長距離運送のドライバーの不足という問題に対して、切迫感を持った産業界は、自動運転による克服を目指して既に公道実験も始まっています。

 一方では、人口減少によって、イノベーションが更に加速されうるという側面があり、私も大いにやるべきだと思いますが、例えば西欧諸国が東欧から人々が来られるような施策に取り組んでいるように、日本においても、労働力不足という現実的な問題をきっかけに、外国人の人たちが、日本で活躍できる方法を考えるべきではないかと思います。

 近年、人口減少から人口増加に転じたフランスを検証すると、移民を入れた方が出生率も高くなるということは事実ですが、もう一つのキーは事実婚を認めていることにあると思います。事実婚を認め、生まれてくる非嫡出子の権利が嫡出子と区別無く保護されていることで出生率が高くなりました。

 日本の場合、法律婚によって生まれた子供が98%で、非嫡出子の割合は2%しかありませんが、フランスにおいては既に、生まれてくる子供の53%が非嫡出子になっており、他のヨーロッパもそれに近い状態になっています。オランド大統領も事実婚のパートナーだったロワイヤルさんとの間に4人のお子さんがいます。

 日本でフランスのようなことをすぐに行うのではなく、事実婚についてもきちんと議論しなければならないと思いますが、不足する労働力をどうしていくのかということを考えると、外国人の話が出てきます。専門家とも相当議論したのですが、日本に移民を出せるには、せめて同一の文化圏からではないと難しいという結論になりました。

 しかし、現在、余剰人口がある地域は世界的に見て、アフリカと南米の一部であり、東南アジアは、インドネシア、フィリピンで人口が増加していますが、いずれ経済成長が止まるにあたり、成熟化した社会になることが考えられます。その結果として日本に移民を出せる国は、ほぼ無くなるのではないかと言われています。その点、アフリカはヨーロッパの植民地だから、ヨーロッパに入りやすいと言えます。


「一億総活躍社会」という環境を活用して、
タブー視されてきたこともしっかり議論することが重要に

 もう一方で、労働力の不足という問題については、現在、高齢者、女性の活躍で補おうという議論から、安部政権は、「一億総活躍社会」や「まち・ひと・しごと創生」という政策を掲げています。そこで、気を付けなければいけないことは、「労働力が足りない、だから高齢者をもっと使おう、高齢者の活躍を利用しよう、女性にも活躍してもらおう」ということだけではいけないということです。

 そもそも、労働者の話とは別に、女性については北欧で30年前、40年前に解決したM字カーブの解消、女性の働き方という問題があります。日本における、女性の社会での働き方について、女性が劣悪な環境に置かれている問題、シングルマザーの問題というのは、従来なかなか政治の議論の遡上に上ってきませんでした。

 いま、「一億総活躍社会」ということで、議論の俎上に乗せやすい環境になったことを活用して、産業界でも「女性の産休を一杯取らせたら大変だ」「競争力が低下する」という話をタブー視せず、解決する良いチャンスだと捉える。そうした議論が起こることで、イノベーションが進むかもしれないし、M字カーブがちゃんと解消されて、女性の社会的意見が強くなるかもしれない。

 また、高齢者ばかりに目を向けていることをもっと若者に目を向けることになるかもしれません。こうした議論を通じて、相当、国柄が変わるのではないかとも考えます。

 従来、日本でタブーと言われていたこと、議論しづらいこと、議論しようとすれば、文字通り炎上するようなことについて、時に身を以て、火の粉を浴びるようなことがあっても、データ、あるいはファクトから冷静な議論を提供できる言論空間、熱い議論を冷静に議論できるという言論空間を提供して頂きたいし、それができる実力を持つところが、言論NPOの、言論NPOたるところではないかと思います。