【インタビュー】金融庁とRCCの二軸で積極転換すべき

2002年10月15日

feldman_r020710.jpgロバート・フェルドマン (モルガンスタンレー証券調査部長・チーフエコノミスト)
Robert Alan Feldman

1953年生まれ。イェール大卒、MITでPh.D.取得(経済学)。NY連銀、IMF勤務など経て現職。著書に「日本の衰弱」「日本の再起」。Institutional Investor誌「The All-Asia Research Team Poll」で第1位 を獲得。

工藤 最近の株安の原因をどう見てますか。

フェルドマン 市場には基本的に、本当に小泉首相、竹中大臣のやりたいことを実行するかどうか疑問が残っています。株価が下がったのは、やらないだろう、こんなのはだめだということではなくて、やるなら徹底してやれという意味だと思う。確かに本格的にこれをやったら、銀行や困った企業にとって悪いニュースということは皆分かっている。だから、そういうところが下がっています。特に今は海外の特別要因もあります。最近のアメリカやヨーロッパのファンド、国際投信の解約が結構大きくて、おカネを戻してほしいというお客さんの依頼もあります。

工藤 つまり、海外で損しているから、日本でも損をなるべく最小限で確定したいから解約するということなのでしょうか。

フェルドマン 損したのはもういいから、とにかく損切りしておカネを返せと言われていると聞いています。そういうファンドがどういう株を持っているかというと、優良な株ばかりです。弱い企業の株は持っていない。海外の問題が日本に伝染している面もあります。例えば一番優秀と言われている小売業の株はここ10日間ぐらい2割下がっていますが、一番弱いと思われている企業の株はそれ以上、下がっている。だから、市場では合理的に相対パフォーマンスが開いている。つまり、日本ではこうした状況になるまで待ちすぎた、ということです。

工藤 こうした状況を打開するために、竹中大臣を中心に検討が始まっています。フェルドマンさんの意見は。

フェルドマン 成功させるには2つの軸があると思います。1つは金融庁の軸です。金融庁は今、何をすべきなのかということです。この軸からお話しますと、まず債務者区分の基準を本当に厳しくできるのか、ということです。それには、本当に徹底したバランスシート、収益性をもとにした債務者区分を作り直さないとならない。

もう1つは、銀行の自己資本の定義です。銀行の自己資本は8%をクリアしているといっても、その大部分は(税の払い戻しを想定した)税効果や国の資本増強によるものです。税効果を5年間繰り入れることはいいのですが、問題はその総額です。私は100%を資本に入れることは余りにも優し過ぎると思っています。金融機関の収益性の問題も、今まで柳澤さんは、ROAとかROEの目標を立てないと言ってきたのですけれども、とにかくROAとROEの評価基準を立てなくてはなりません。

もう1つは銀行に対する、早期是正措置ルールを厳しくしないといけない。今のルールでは、国内銀行の場合、自己資本比率がゼロ%を下回りますと閉鎖できますが、閉鎖する必要はない。だから、裁量的にその銀行を閉めるか閉めないかということを決めるわけです。これでは緩すぎます。私はすべてアメリカの方式がいいとは思っていませんが、自己資本比率が2%以下になりましたらもうアウトだとしないといけない。銀行に対する資本注入ルールもこれまでの資本は減資することが原則になると思います。最後ですが、金融庁で検査と監督が同じ組織内にあるということは、私は利益相反があると思います。海外を見ても、こういう組織になっていますと、どうも検査が緩くなります。だから、特に銀行の検査機能を日銀に移すべきだと私は思います。これを早くやるべきです。

工藤 もう一つの軸はなんですか。

フェルドマン RCCをどうするのかということです。銀行のバランスシートで今、塩漬けになっているものを、RCCのバランスシートに移してそのまま塩漬けにするというのでは何にも意味がないからです。だから、RCCを塩漬け機構にするのではなく、処分機構にしなくてはならない。では、それを実行するために何が必要かということですが、まず生存不可能の企業と生存可能な企業の選別能力と基準を公表しないといけない。もう1つはRCCの規模の問題です。今、RCCは3000人前後しかいないのですが、これでは足りません。少なくとも3倍にしないといけないと私は思います。これまでのやり方はどうも小売のやり方です。RCCの方が小売でいろいろなものを売り掛けています。これではだめです。バルクセールでどんと市場に出さないと経済活性化につながらない。早く売れば売るほど自分が得する、遅くやったら自分が損だというインセンティブが必要です。

こうした金融庁の軸とRCCの軸で考えれば、両方とも遅いというのが柳澤さんのやり方でした。今の市場の考え方は、改革は始まったけれども、恐らくいろいろな理由で戻ってしまうのではないか、というものです。官僚に足を引っ張られる。あるいは、ふたをあけたら(不良債権のロスが)大き過ぎるからできないで、またふたをする。そういうことで、柳澤・高木ラインの考え方に戻る。それがいわゆる失望論です。逆に有望論は、本格的にやりますということです。そのためには、これまでの考え方を転換して、RCCを軸に不良債権をドーンと動かす。そういうことも必要だと思います。

この失望と有望のメルクマール(指標)として幾つかあります。もちろんこうした処理を可能にする景気対策も必要ですけれども、まず人事です。金融庁、RCCが竹中さんの哲学でやるような人事をしないといけない。これは当人たちに対する批判では必ずしもないんですね。哲学が揃っているのか、という問題です。政治のところでは抵抗勢力の引退です。泥仕合いになったときに、そんなのはだめよということで小泉さんがリーダーシップを発揮できるのか、ということもあります。また、民主党の動向もあります。民主党の分裂になったら、分裂した党が小泉さんとくっついて助けますというのも私の関心です。

特に10月末の景気対策、特に安全網(セーフティネット)のつくり方が、これまでの(生存不可能な企業の)温存でなくて、資本と労働の移動を阻まない形で出るということです。税制はいろいろやるべきことはありますけれども、需要をサポートするための税制改革は必要ないと私は思う。むしろ経済活性化の税制改革が必要です。特に失業保険機構はもうおカネがないんです。だから、10兆円でもいいから債券を発行する枠をつくる。そういうことが成功条件になると思います。そのためには国債を発行してもいい。

工藤 先ほどの話で債務者区分の見直しはどのようにやるべきと考えていますか。

フェルドマン 私はむしろこういうやり方がいいと思っています。これは1年だけの数字ではよくないのですが、3年間平均をとって縦軸にROAがあります。そしてレバレッジ比率(負債比率)が横軸において、その組み合わせで区分をすべきだと思います。そこではレバレッジが高いからといってだめな企業ではないんです。代わりに収益が高ければいいわけです。ただし、収益率が低い企業であればレバレッジが低くないといけない。例えばマイカルが倒産したときは、収益率はプラスだったんです。3年平均で0.2%ですね。0.2%しか収益を毎年生めない企業のレバレッジ比率が9倍ということはやはり無理なのです。区分を優しくしてはいけません。

工藤 収益率が低い企業は負債比率が低くないとダメですね。

フェルドマン そうです。しかもこれは実際に出たデータで、誰かが予想した数字ではありません。そしてそうした区分に沿った引き当てを銀行はするわけです。また、資本の定義を変えていくわけですから、結局、BIS比率を達成していないことになります。

工藤 それで、早期是正措置の発動になるわけですか。

フェルドマン はい。資本注入に手を上げてもらうこともあり得るし、強制的に入れるという手もあります。しかし、その第1段階はもちろん債務者区分をしっかりした、国民が信用するやり方でやらないといけない。

工藤 もう1つ、RCCが銀行から不良債権を買い取る場合の価格はどうするのですか。

フェルドマン 私は現状の引き当てを前提にした実質簿価という考え方はとんでもないことだと思っています。これはこっそり資本注入するのと同じです。銀行は健全ですという前提でとっているということで、国民が絶対納得しないと思います。価値のないものを価値があるという前提で買っていると、結局、経営責任、株主責任をとらなくて済むような資金の入れ方です。これは国民も絶対許せない。買うとしたら市場価格ですね。

工藤 時価に応じた正当な引き当てが積まれていれば、実質簿価は結果的には時価と一緒になるわけだけれども、現実にはそうなっていないということですか。

フェルドマン 現在の実質簿価でやるなら、どこかでうそをつくしかない。そういうことだったら、市場価格でいいということです。

工藤 不良債権の裏側には、債務者である企業の再生の問題があります。フェルドマンさんの話だと、こうした企業再生には、産業政策である程度、政府が誘導したほうがいいとの議論のほか、マーケットに売ってその中で判断させたほうがいいという意見もあります。フェルドマンさんの意見はその後者のようですが。

フェルドマン というのは、政府がそれをやっても結局、官僚的な考え方で経営します。これは絶対うまくいきません。アメリカだって同じことをやって同じ失敗をしたんです。だから、市場に売らないと、経営者がいい会社をつくるというインセンティブにはならない。もう1つ、決まった産業しか悪くないという意見があるのですけれども、私はそうではないと思います。例えば同じ流通業でも物すごくしっかりしている会社と全然バランスシートが傷んでいる会社はあるわけですね。精密機械はほとんどいいと思いますが、ホテル業はほとんどぼろぼろです。商社を見るとしっかりしている企業と、もうどうかなという企業もありますよね。だから、どの産業も非常に収益性の高い会社もあって、全然だめなのもある。だから、これは産業を中心にしてやるのではなくて、どの産業でも収益性とバランスシートの状況で個別にやるべきだと思います。大きな企業ではまず整理して分割すべきとの議論もありますが、私は逆だと思います。市場に売らない限りはそういう分割が進まないし、それを官僚がやった場合はかなり時間がかかってしまう。中小企業も全てがだめだというのは真っ赤なうそで、しっかりした企業も多い。むしろ中小企業の環境を厳しくすると日本の再生が早くなるということだと思います。

工藤 この債務者の問題ですが、よく代表的な何十社だけをやるみたいな議論がありますが。

フェルドマン そうした議論の仕方には私は反対です。30社リストとか50社リストとかの議論は、ある意味で責任逃れの現象だと思います。これだけ直せばうまくいく。我々は悪くない、悪いのはこの30社だ。ある意味でスケープゴートというか、陰謀論ですね。今は国民の金融制度に対する信頼をまず得ないといけないわけです。経営者責任、株主責任、信頼できる債務者区分を出さないと信頼が戻らない。銀行は自分の貸している貸出先に対して何らかの形でバランスシートと収益率はわかっているはずです。やる気になればできるはずです。

(聞き手は工藤泰志・言論 NPO代表)

フェルドマン 市場には基本的に、本当に小泉首相、竹中大臣のやりたいことを実行するかどうか疑問が残っています。株価が下がったのは、やらないだろう、こんなのはだめだということではなくて、やるなら徹底してやれという意味だと思う。確かに本格的に