【座談会】道路公団改革を日本の将来設計の中で組み直す(会員限定)

2003年1月04日

hasegawa_t020327.jpg長谷川徳之輔 (明海大学教授)
はせがわ・とくのすけ

1936年生まれ、1959年東北大学法学部卒。建設省、(財)建設経済研究所常務理事などを経て、1995年より現職。2000から2001年までケンブリッジ大学土地経済学部客員研究員として、『80年代と90年代の不動産金融危機』の国際比較を研究する。主な著書に『東京の宅地形成史』『不動産金融危機最後の処方せん』等。

hayashi_yo020906.jpg林良嗣 (名古屋大学大学院教授)
はやし・よしつぐ

1951年生まれ。名古屋大学工学部土木工学科卒業、東京大学院土木工学専攻博士課程修了。東京大学講師、名古屋大学助教授を経て、現職に至る。運輸政策審議会委員、世界交通学会理事兼ジャーナルエディター、シドニー大学交通研究所外部評価委員、JICAバンコクおよびハノイ都市交通計画等策定調査委員長等、国際的なリーダー役を努める。土木学会論文賞等、国内外6つの賞を受賞。主な著書は『The Environment and Transport』『地球環境と巨大都市』等。

matsutani_a021209.jpg松谷明彦 (政策研究大学院大学教授)
まつたに・あきひこ

1945年生まれ。69年東京大学経済学部経済学科卒業。70年同学部経営学科卒業後、大蔵省入省。主計局調査課長、主計局主計官、横浜税関長、大臣官房審議官等を歴任。97年大蔵省辞職後、政策研究大学院大学教授就任。専門分野はマクロ経済学、財政学、金融論。主な著書は『人口減少社会の設計』『社会資本の未来』等。

yokoyama_y020422.jpg横山禎徳 (社会システムデザイナー)
よこやま・よしのり

1966年東京大学工学部建築学科卒業。設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。 75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター就任。89年から94年に東京支社長を務める。2002年6月退職。主な著書に『成長創出革命』、『マッキンゼー合従連衡戦略』、その他訳書、論文多数。東北大学、一橋大学大学院で非常勤講師も務める。

概要

日本の高速道路建設は、80年代にシビルミニマムを達成しており、高度成長時の計画のギアチェンジ、過去の膨大な債務の処理が必要である。日本の将来像をふまえたシステム設計の変更が問われる中で、道路公団改革はどのように進めるべきなのか。3人の大学教授と元コンサルタントが議論を交わした。

記事

工藤 道路公団の問題が議論になっています。政府の道路関係4公団民営化推進委員会の最終報告の内容については、別の形で議論を進めておりますが、本質的な解決とはほど遠いものになったと私自身は考えています。そこで、道路問題の議論を深めるために、日本の将来像をにらみ、国のシステム転換の視点から、今回の議論を行いたいと思います。では、まず道路公団の問題はどこにあったのか、というところから始めたいと思います。松谷さん、いかがですか。

松谷 道路公団の予算はいわゆる認可予算です。この場合、ほとんど全部が国の補助金で成り立っているような公団と違って、道路公団のように自前の収入を持っているところは、財政当局がコントロールする力がそれだけ弱まります。

なぜこういうことになったのかということですが、それは自前財源を持って独立採算制ですから、形式上、採算性さえ整えば、計画をある程度拡大できるというところなんでしょうね。その仕組みがあるからこそ、道路公団は政治的にも珍重されたと思うんです。

これからどう考えるかですが、私は考え方の出発点を道路公団に置いたのではだめだと思う。10年、20年、場合によっては100年ぐらいのタームで物を考えたときに、本来どうあるべきか、そこにどうやって近づけていくのかを議論しないと。


日本の経済なり社会

なりが、どういう方向に変わっていくのか。大きな変化としては、人口の減少、高齢化。もう1つは環境問題を含めた資源制約という変化でしょう。そうした中で、経済をどういう経済にすればよいのかをまず考えて、では道路はどうあるべきなのかと。

気になったのは民営化の議論です。マスコミをはじめ、民営化は良いことのようにとられますが、道路というのは道路網となってこそ意味があるのです。その道路網を民間でというのは不可能だと思うんですね。
また、これからの経済は縮小していくわけですから、道路の収支採算性を議論すること自体がばかげている。結局、膨大な借金は全部棚上げ、加えてかなりの補助金を突っ込む、それで儲かる状態にしてからの民営化でしょう。これは言ってみれば国民から企業へ所得を移転しているに等しい。


シビルミニマムと経済論理性

横山 私の理解は、シビルミニマムとして必要なものがあって、基本的なある水準の生活をするインフラをつくる時代は、だいぶ前に終わっているというものです。シビルミニマムがある程度達成されたのは、でこぼこはあるけれども、1970年代なのだということです。

それ以降はエコノミックス的につじつまの合わないものをやってはいけない。それなのに、もう30年間、百歩譲っても20年間それをやってきた。つじつまの合わないことをやってきたから、これをどうするかは、腕力仕事しかないんですよ。理屈を言っても始まらない。だれかが痛みを伴って短期的に整理しなければいけない。それと今後どうなっていくかは別の話なんでしょうね。

先日も鳥取県知事が「おれたちは後回しにされたから、つくってくれ」とおっしゃった。私は広島出身だから実感としてよくわかりますが、あの辺の高速道路に車はほとんど走っていないですよ。

今後どうなるかというと、確かに人口は減るんですね。ある種の物理的な衰退と、ある種の豊かさが混在する時代が来るだろうと思います。人口が減るときに、日本国の効率を考えると、いろいろな形で主要な経済圏に集中していくだろう。その姿を描いた上で道路を語らない限り、政治家の地域の要求に任せておいたら何も解決しない。

民営化とは何かというと、顧客が満足しない限り民間企業は成り立たないわけですね。お上にはその感覚はない。だれが顧客であって、満足させることができるかという議論をすべきです。そのときにそれに適した形態にすればよい。
アメリカで刑務所を民営化しようとしたけれども、うまくいかなかったという話がすぐに出てくる。当たり前なんですね。囚人には刑務所を選ぶ権利がないからです。

国鉄民営化がなぜ意味があるかというと、彼らは競争に直面している。東京-大阪であれば、飛行機もバスもあるし、車を運転して行ける。そういうチョイス(選択肢)があるところで、選ぶことができれば競争になるから、国鉄は民営化して良くなっている。

それからもう1つは、道路は土木エンジニアリングの世界なんですね。エンジニアリングのロジックが存在する。その上にエコノミックスのロジックが乗って、その上にロジックとも言えない政治が乗る3層構造になっている。エコノミックスのロジックが規律を作らない限り、エンジニアは別に悪気がなく立派な道をつくってくれるんですよ。

エコノミックスと言うときに、道路にはエクスターナリティー―外部経済があって、それが測りにくいという問題がある。ところが、ばかなことを20年間やったので、こういうのは外部経済として全然発生しないよという例はたくさんある。今はすでに西広島のショッピングセンターに浜田とか米子から車で来れる。私も走ってみたけれども、トラックなんか走っていないですよ。

 昭和30年ごろに道路の財源の制度が出来てきて、高速道路を財政投融資でつくるのは、発展途上においては見事なシステムでした。需要の逼迫を解消してやらないと次の経済の発展の踏み台にならない時代に、国を挙げてのシステムを作った。

一般財源は景気変動の影響を受けやすい。これはインフラにとってすごく悪いんです。それに対して道路特別会計はガソリン税から自動車税、重量税まで投入してきましたね。景気変動を和らげる格好になるわけです。財投によって変動の少ないインフラのつくり方をしてきた、無駄遣いのないおカネの使い方をしてきたと思います。

日本人の貯蓄好きを巧みに利用した。それを使って投資すれば、国全体としては必ずそれを上回るリターンが来る仕組みがあったんですね。ところが、その後、先ほど横山さんは20年ぐらいとおっしゃったのですが、リターンが返ってこない路線ができてきたわけです。

では、どうすればよいか。民営化とかをやるべきところはやったらよいと思います。ただ、もっと大事なのは、もう少し地域に任せないといけない。

高速道路だけではなくて、福祉から何から全部プールして、地域に渡して、地域の責任で、一体どっちをとるのかをきちんと選択していく、そういう仕組みが一方にどうしても必要である。今の高速道路のシステムは、手を挙げてお願い、お願いと言い続けて、取ったら取り勝ちで、ほとんどその地域の負担はないも同然です。これでは全然責任がなく、歯どめがなくなります。

所得が上がってくると何でもって満足するかが違ってくる。15年ぐらい前にみんなが言い始めた「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」とか、あの辺りですね。

何でもって満足するか、要素は5つぐらいあると思う。1つは雇用とか経済の機会。それから、私は生活機会と呼んでいるのですが、例えば教育や文化、医療。3つ目は快適に暮らせるかということで、アメニティみたいなものですね。それから安全、安心。最近に至っては、環境負荷のようなものに対してどのように考えるかということもある。

そうすると道路が必要と思っている人が、地方部でもどれぐらいいるのか。それこそ地域ごとに選択するものだし、個性ある地方が再生できると思います。

工藤 今まで頑張ったことで膨大な借金を抱え、このまま道路をつくり続けたら破綻してしまう状況です。やるべき道路と、やるべきでない道路との、とりあえず2つに分けた方がよいような気がします。長谷川さん、いかがですか。

長谷川 (民営化委員会の議論は)道路公団の高速道に限った議論になってしまって、全体的に非常にテクニカルで、非常に短期の話になっている。公共事業の全体を見る、資源配分全体を見てくる、それは小泉改革の言う郵政改革も、財政改革もそうでしょう、そういうところが抜けてしまっている感じがするんですね。

いわば議論としては、民営化のテクニカルな話であって、それを超えていない。道路が欲しい人は民営化ではできないと言うし、おカネがないと言う人は民営化しなければ駄目だと言う。行政改革、財政改革全体の中の1つのスタートだったはずなので、その意味では、もっと総論の話があってしかるべきだと。

私は(旧建設省の)道路局にいたのですが、確かに政治と土木と経済は三位一体であるんです。実は本州四国公団だって、本四モデルというきちっとした経済モデルがあって始めた話です。本四モデルについては当時、相当の議論になったはずなんですね。

そして国際比較をするとき、シビルミニマムは常に国際比較だったわけです。しかし、今はそれを言う人はいなくなった。例えば橋にしても、大きなインフラが進んでいることがわかったからです。

資源配分をどこかで、政治、経済、土木の間で誤ってしまったのではないか、それの修正過程だと思うんですね。しかし、やるべきものはやらなければいかん。やってしまったものは、だれかがカネを持たなければいかんという状況になって、そのカネの持ち方がテクニックだと。

横山 シビルミニマムは達成されているから、国際比較ができなくなったわけでしょう。

長谷川 比較すると笑われる状況になっているのではないでしょうかね。

横山 だから、もうエコノミックスの議論に入るべきなんです。

松谷 それはシビルミニマムの定義の問題です。豊かになればその水準を維持するために、さまざまなものが必要になる、そういう面もあるでしょう。

横山 私はアメリカの道路の問題もやったことがあるのですが、ある水準まで来たら、それから次はないんですよ。シビルミニマムは世界的にこの水準というものはあって、豊かさをそういうところに求めなくなっているはずなんですよ。

工藤 国際比較では舗装化率などの指標があります。日本は舗装化で遅れていると言っているけれども、その定義が違っている。どうしても舗装しなければいけないところを舗装している他国に対して、日本は農道だろうが何だろうが全部舗装化しています。

横山 スーパー農道と書いてある、そこを通ると、素晴らしいですよ。

松谷 シビルミニマムの定義をしても、あまり意味がないと思う。社会として必要なインフラは何なのか、国民全体でなり、市町村民なりが判断する問題でしょう。

横山 私は建築もやってきましたので、あらゆる公共施設の一巡というのを知っています。例えば、一巡して最後に美術館をつくって、もうやるものがなくなってしまったと。

松谷 例えば東京で言えば、切れっ端のような公園がやたらとあって、豊かな市民生活を送れるような公園はそれほどないですよね。また、社会福祉関係などはかなり問題がある。

 名古屋の例なんですが、栄と名古屋駅はご存じでしょうか、大体3キロくらいあるんですね。その範囲を都心部と定義しますと、7万人ぐらい、名古屋の人口220万人の3%しか住んでいないんです。

今後100年間で人口が半減すると言われています。そうなると、今の1人当たりの税負担をキープしようと思ったら、市街地の維持費もそれに合わせて半減しなければいけない。そうでないと、1人当たり倍の負担をしなければいけないんです。市街地に公共投資が要るわけです。それを半分にしましょうというシミュレーションをやってみたら、実に40%の交通量を減らすことが出来たんです。

私どもの計算結果があります。名古屋市の周辺部から都心部へ移転する場合、3割ぐらいの住宅の補助を出し、5000万円の家を取得する世帯には3割の1500万円を補助してやると、やっと都心部の人口が全体の10%、現在の7万人から20万人ぐらいになる。

交通量が40%減ることは、今の道路の4割は要らないことを意味するわけです。シビルミニマムをどこで定義するかという今の議論で、部門別に細分化していくと、道路はこれだけ、鉄道はこれだけ要ると......。

横山 いや、私が言っているのは、もう要らない、追加をするなと。

 もう1つ言うと、4割の道路が要らないということは、10本に4本の道路は、例えば緑道のプロムナードにできるわけですよ。さっき公園がないとおっしゃったのですが、都心部だったら多分2本に1本は要らない。2本に1本を公園にしてしまえば、公園が非常に増える。

一番いけないのは、通路インフラというか、道路、下水道、鉄道、そういうものが土地利用のむちゃくちゃな拡散のツケを全部背負うことになっていること。予算のパイは縮小するのだから、シビルミニマムも現状の土地利用の固定観念を捨ててダイナミックに考えないと。

横山 それは、エコノミックスの論理でやっておられるでしょう。人口が減る中で、コンパクトシティーの考え方でしょう。

 広い意味でのエコノミックスと言えると思いますね。


日本経済の将来と道路建設

工藤 昔は高度成長があって、地価が上がり、どんどん郊外に発展していって、それをベースにいろいろなインフラをつくっていた。それが変わってしまったけれども、まだつくろうと思っている人たちがいるから、そのコストだけでも大変。このシステム、設計を変えなければいけないということですね。

 しかも、部門別に鉄道は鉄道、道路は道路でつくらなければいけないと思っているものだから、際限がないんですよ。

松谷 横山さんは、これからは都市を充実させていくことだと。だけど、林先生は必ずしも都市でないわけですね。そこがまずはっきりしないと道路の話が出てこない。例えば東海道メガロポリスみたいなものをさらに高度化して、それをエコノミックスの論理でやるべきだとなれば、第2東名などは必須の道路になるんでしょうね。

そうではなく、これからは3大都市圏への集中を是正して、地方の時代だと考えるのであれば、第2東名などは要らない、東名だけで十分となる。

横山 それはそうです。

工藤 多分それは、皆さん同じでしょう。

松谷 私が最初に言ったように、まず最初に日本の社会とか経済について、どういうものを想定するかを決めないと議論にならないんですよ。

工藤 次にその話に入るのですが、低成長になっているときに、公共投資における優先順位を大きく見直さなければいけない段階になっていると思います。

 例えば経済成長がせいぜい2%だとしたら、おカネの範囲だってわかるわけです。その範囲内で、総合的な予算としてそれぞれが判断できるようしないといけない。

インフラ補助という整備制度があります。モノレールなどをつくるときには、基本的に下の道路も4車線化してしまう。例えば名古屋のガイドウエーバスは、下の道路の方がもっと便利になっている。そんなものを同時にやったのでは、効果は相殺してしまう。

予算はトータルの責任を持つような与え方をした方がよい。地方単位でやった方がよいというのは、そういう意味です。

横山 経済成長はほとんど無理です。今まで日本は生産性を高めて成長したと思われているけれども、これは違う。生産性の高いのはほんの一部、就業人口の10%を雇用している分野のみ、鉄鋼と自動車、精密機器、そしてエレクトロニクスなんですよ。日本の90%は国内経済で、この生産性はものすごく低い。

投資は増えない。なぜかというと、リターンがとれないわけですよ。カネはあるけれども投資できない状況なので、生産性を向上しない限り日本経済は全く成長しない。生産性を向上した結果のアウトプットを吸収できる市場があるかというと、今度は人口が減る。しかも高齢者が多く、60歳になると消費が20%減る。1000万人の団塊の世代は2006年から60歳を超えるんですね。

それでも生産性を上げることによって、ある程度のことを維持するとしたら、ある種の効率を考えない限り、日本の経済はもたない。

松谷 私の計算でも、日本経済は2008年をピークにすう勢的にマイナスになりますが、今度はGNP(国民総生産)の大きさではなくて人口1人当たりの国民所得だと考えれば、ほとんど横ばいです。日本経済が衰亡するわけではないんです。

人口が減少し、労働力が減っていくと、日本経済全体としての生産設備の量は減っていく。どれぐらい減るかは技術進歩の速度、つまり省力化の問題ですね。でも、労働力の減少の方が大きいから、結局、日本全体としての生産資本ストックは減少していく。生産資本ストックを増やすのが設備投資ですから、設備投資は間違いなく落ちていく。

横山 落ちますね。

松谷 設備投資が落ちていくことが、実は日本全体の経済、それと地域経済を考えるに当たって極めて重要なんです。

道路のインフラと言っても、投資財産業が3大都市圏の辺りに集中していて、この投資財産業を効率よく動かすために大規模な道路が必要なわけですよね。ところが、設備投資が落ちていくと投資財産業も縮小する。そうなると高速道路の必要性はそれだけ小さくなる。

長谷川 20世紀には日本の人口は4000万人から1億2000万人と3倍になっている。ヨーロッパは軒並み1.3倍から1.4倍ですよね。それも移民が入ってそれくらい。アメリカはふえているけれども、これも移民ですよね。日本は極めてラッキーで、道路公団の組織も特異でラッキーな時代を前提にできているわけです。ところが、21世紀になって、その条件がみんな消えてしまった。リターンの率が1になったときに、5の仕組みではできなくなった。道路公団の本質はそこだと思うんです。

そこで道路がいいのか、鉄道がいいのか、福祉がいいのかというプライオリティー(優先順位)の問題が出てくるはずです。成長率5%の時代には欲しいものは何もかも、一番最後にいてもあずかってきたが、もうあずかれなくなった時代だ。

道路の問題は、高速道路か一般道路か都市道路かという議論がなければならない。道路公団の経営上の損得の問題としてしか、やっていない感じがするんですよ。しかし、その前に必要なのは、日本におけるシビルミニマムでもいいが、本来そういうものが行政改革の前提になければ、プライオリティーは決められないと思う。

横山 腕力仕事をやらなければいけないところで、時間を取られてしまっているということはありますね。その次に、残された時間で今おっしゃったような、どこにプライオリティーを置くかという議論がされるべきなんでしょうね。ただ、プライオリティーの議論へ入ると、今度は今のメンバーでできるのかという議論になりますよね。

工藤 民営化委員会のメンバーですね。それはできない。

横山 あそこでは結局、今の延長のところで、腕力仕事、つじつまを合わせること以上はできないだろうと思いますね。


日本のシステム再設計と公共事業

工藤 昔の高成長などをイメージしてつくった高速道路であるとすると、今ストップするしかないのではないですか。流れとしては、まず凍結......。

松谷 本当は公共施設の整備のあり方からやっていかなければいけない。鉄道もあれば海運もあるわけですよ。そういうものを一体的に考え、最も効率がよく、つまり最小の費用で最大の効用を上げるにはどうするのかと。

もう1つは、その意思決定をする人はだれなのか。先ほど横山さんがおっしゃった、国としてのシビルミニマムは一応終わったというのは、ある程度そうでしょう。そうすると、もう国レベルではない、地方のレベルだと思う。だから地方がそれを必要とするかどうかで判断する。これが第2点です。

次に、財源、ファイナンスはすべて税金でやる。税金でやれば、プライオリティーがシビアになるんですよ。自分たちが選択した以上、負担は自分たちでする。選択に当たっては、負担と効用がきちっと1対1で結びついていることが重要。それは税金でやるということです。

 私も土木の出身なのですが、土木のやる仕事は、全総(全国総合開発計画)のような計画があっても、道路局だの縦割りの各予算部局が意思決定している。調整なんてできないんです。最初から全体の計画をつくらないと。

横山 一方で、都市は7000年の歴史を持った、人間のつくった最も複雑なシステムだと言ってもいい。あらゆる違うロジックの重層構造になって機能し、そして自己調節能力を持っていますよね。こんなシステムはほかにない。

では、そこに人間の頭脳でマスタープランなどということができるのか。オーストラリアのキャンベラでやってみたけれども、最初の都市計画は失敗した。今はその自律発展によって何とかなっている。そうすると自律発展、自己調節能力を信じて、ミニプランで行こうじゃないか、境界条件なんか決めなくていいじゃないかというアプローチになりました。

全体感を持てと言われると、だれも反対はできないんですよ。でも、それは「お父さん、お母さんを大切にしよう」と言っているのと同じであって(笑)。だけど、出来るかと言うと、私は無理だ思っています。

ある範囲でやって、あとは自己調節させるか、境界条件で何か破綻を来したら、また別のミニプランをつけ加えていくダイナミックなプロセスでしか解決しない。受益者に決めさせろ、自分たちでプライオリティーの高いものを選べと言うよりしようがないと。

 何の枠組みもない、青天井のマスタープランは、おっしゃるとおり、それ以上のものではないですね。そうではなくて、予算はこれだけよと言って全体を考えるという、その段階も今はないのではないか。  

工藤 みんな縦割りになっているということでしょう。

横山 それはよくないけれども、一方でマスタープランの方へは行けないよと。だから、現実的にここからどこまで行けるかということですよね。

 参考になるものとして、ドイツなどはすべてのインフラは最小の行政単位で責任を持ってつくることになっているんですよ。例えばミュンヘン空港は戦後のヨーロッパ唯一の大空港ですが、あれは州がやっている。可能な限り小さい単位でやらせるんですね。そのようにして選択させるシステムができている。

横山 ミニプラン投資をやるんです。

 イギリスでこういうことがあった。交通省が幾つかの都市に補助金を出す。ところが、バーミンガム市が数年間1回も当たらなかった。それで彼らが考えて出したのがインテグレーテッド・トランスポートという概念です。つまり、鉄道とか、道路とかを全部ひっくるめて、こういう効果があるよと分析して出したんですよ。

「そうしない都市はおかしい。鉄道も道路もと言ったら、効果が相殺するに決まっている」と。それを全部照査したものを計画として出さなければイカサマだと言った。そして彼らが勝ったんです。その後1年か2年して、運輸省はどのようにファンクション(機能)するかをチェックした中身を出してこいということになった。

自己責任を持つ範囲で全体を見る、そういうシステムは、国全体でも要る。ところが、全総と言っても漠然とした絵をかいているだけです。

松谷 まさに全総も、国が計画をつくって、だんだんおりてくる。まずそれと逆にする必要がある。国全体として最後の調整は必要ですが、地域がまず全ての公共施設について計画をつくる。

工藤 その財源もちゃんと考えてね。

横山 税金は、その地域の税収でやるんですか。

松谷 基本的にはね。ただし、国として最後の財源調整は必要でしょうね。ただし、1つ1つひも付きというのは問題ですから、一般財源としての財源調整ですね。これは必ず要るんですよ、これだけ経済格差が存在している以上は。

 地方間で助け合いをしてもいい。これもドイツの例ですが、ボン基本法で、州間の均衡ある発展と、ちゃんとうたっている。ある算定式があって、上がっているところは落ち込んでいるところへ少しずつ助けてやる。

松谷 財源調整についていえば、今後、東京とか中京とか阪神、そういう大都市圏で、1人当たり県民所得は減少します。そのほかの東北、九州・沖縄、中国地方は増加するんですよ。人口減少、高齢化に向かっていったときに、そのほうが財政収支はよくなる。

これは、今後の高齢化のスピードは、大都市の方が地方都市より大きい。だからそうした労働力構造に見合ってうまく地方に産業ができるという前提の下での話ですが。しかし、そうすると財源調整はそれほど心配しなくてもよい。 

横山 元マッキンゼーにいた人が、出身の香川県に帰って香川の経済を調べていると、就業人口の6割は県に直接、間接にぶら下がって生活している、これはどこまでサステイナブル(持続可能)なのかということを言っている。地方交付税とか公共投資にぶら下がっている就業人口が6割いるという前提でも、そうなりますか。

松谷 私がつくった地域経済の予測モデルに即していえば、労働力の平均年齢が若いところに、製造業などの生産性の高い産業が集まる。年齢構成と生産性には一定の相関関係にあるわけです。中長期のモデルですから、相当な調整期間はあるのでしょうけれども、最終的にはそういう姿になると考えているわけです。

 またドイツの場合ですが、高速道路のつくり方は日本と全然違うんです。先ほども言ったように州間の均衡ある発展と言っているから、全国に散らばった幾つかの都市から高速道路をつくっていった。バイエルンなどは、ミュンヘン五輪までは経済的には辺境の地だった。例えばBMWなどを誘致するのに、州が無償で土地を提供したとか、そんなことをミュンヘンの北の方、ニュルンベルクとの間ぐらいのところでやるわけです。均等なインフラの条件を与えてやったがために、そこにクッと食らいつくような核を注入してやると、そこがパーッと花開くことが可能になったんですね。

日本はネットワークのパターンが逆で、東京―大阪間に集中的に先行重点整備をしたものですから、高速道路のネットワークを延ばせば延ばすほど、大きいところが小さいところを食いつぶしていく......。人口6千万人から発生する需要のボトルネックを回避して、日本が高度成長をするために必要だった。しかし安定成長期に入った80年頃から、ドイツ型の地方にグリッド型で整備する方式に切り替えるべきだったと。

横山 ストロー効果でしょう。

 それがはっきり起こっていて、つくればつくるほどそうなっているのではないか。

横山 さっきの鳥取の例では、広島に買い物に来るようになるんですよ。

 そうすると、それは全く逆になるわけですよ。

工藤 逆になるというのは......。

 鳥取のほうが損をするわけですよ。


過去のツケの負担とギアチェンジ

工藤 それでも道路が欲しいのかというわけですね。横山さんは腕力勝負と言っていましたが、どういうふうに腕力なんですか。

横山 その前に、今のドイツの話で言えば、戦後の冷戦の中で、集中化を避ける構造があり、ある意味で功を奏した。今はベルリンの壁の崩壊後、変容していると思う。ベルリンへの集中はだんだん出てきましたよ。

何が言いたいかというと、彼らはギアチェンジをしているんですよ。アメリカもギアチェンジをする。この時代はこういうやり方をした、今度はこういうやり方をすると。

なぜか日本はギアチェンジをしない。制度を変えたら、それは永久に素晴らしいと思い込む。しかも、まずいことに発展途上国型のシステムでやってきた。

だれかが痛みを感じざるを得ないわけです。何かのおカネを投入しない限り、つじつまは合わない。だから腕力であって、理屈ではない部分はありますと。

工藤 どうすればいいんですか。

横山 おカネをつぎ込まなければしようがない。

工藤 つまり、処理のために国民負担をすると。

横山 国民負担をしなければしようがないと思います。

 私もそれに賛成です。これからの成長力を見たら、われわれの世代で払い切れないものは、次の世代でも絶対に払い切れない。今、国民負担をなるべく小さくと言っているけれど、100年間の国民負担を小さくすることを狙わなければいけない。現世代の国民負担を小さくすると言ったら、それは要するに次の世代へツケ回しをすることです。

松谷 その場どうしても、こことここだけは必要だということを十分議論して、それ以外のものは全部廃線にすると。そうでないとこれからの維持管理費がかさむばかりです。

工藤 そのカネが大変だと。

松谷 政府を選んだ国民の責任ですから、国民が負担しなければしようがない。さらに無駄な負担はかけないように、要らないものを切ればいい。

工藤 では、できているものの中では......。

松谷 できているもので要らないものは切っちゃうんです。

工藤 新規はやめるわけですね。

松谷 ええ、新規もやめるし......。

横山 つくるコストとオペレーション(運営)のコストとを全部見て、つじつまが合わないものは、もう無しなんですよ。できちゃったから使うということはない。

それから、民営化がよいかどうかの議論より、どのように組み立てるか。国鉄の民営化は、絶対に成り立たないものをつくってしまった。貨物はそうです。昔、石炭運送で食っていたのが、今は運ぶものがない。四国とか北海道で成り立てと言っても無理ですよ。

地域分割という発想は余りよくない。NTTも地域分割は失敗だと思う。固定電話の将来はあまりぱっとしないにもかかわらず、分けたからどうなるものでもない。そこにもう一工夫も二工夫も必要だと。

 予算を地域に分けたとしますね。その人たちが、知事さんでもだれでもいいのですが、一体何を選ぶかということをやってもらうといい。

松谷 その時に、維持管理費は地元負担ですよと。

 そうです。そのトータルのライフサイクルコストを全部持つと。

長谷川 今の知事さんたちは、有料道路で自分の負担がないから欲しいとおっしゃっているわけでしょう。

 まさにそうですね。

長谷川 先日の新聞に、一般道路でやると100年かかりますと出ていた。有料道路ではなくて、100年かかってやりますよと知事さんに言った場合に、どういう選択をするか。そこは残った2000キロを何でつくっていくかという答えがあって、地方に選ばせるしかないと思う。

松谷 地域に財源をきちんと配分した上で、その他の公共施設も含めて、知事が青写真をかくべきなんですね。県として使えるおカネ、その財政規模の中で、道路はこうなる、堤防はどうなる、住宅はどうなるという全体の絵をかいて、幾つかの案をつくって、住民に選ばせる。

横山 日本国には100年計画というのはあったためしがないんです。奈良の大仏にしても、詔勅から完成まで28年です。ところが、先ほどミュンヘンの空港が出ましたが、オランダのスキポール空港は100年計画で、1933年にスタートして2033年完成なんですよ。

日本は自分の目の黒いうちに筑波研究学園都市も見えてしまって、しょうもないものをつくったという反省もないまま、また何かするわけですよ。そこも含めてギアチェンジをやるのかと言っているわけです。

長谷川 高速道路だけではなくて......。

横山 あらゆることに、今はギアチェンジの時代なんです。

長谷川 そうだと思います。だから、今の高速道路のギアチェンジというのは、できないところは凍結し......。

工藤 新規はもう全部やめるわけでしょう。

長谷川 欲しければ自分で、税金でつくれと。

横山 テレビを買ったら生活水準が上がった、車を買って生活水準が上がったという発展途上国型生活水準の向上という時代はもう終わったんです。その辺は住民のほうがわかっている。政治家の方が発展途上国型なんですね。お上もそうなんです。

長谷川 20世紀から21世紀への日本のギアチェンジとして国民全体が認識する。道路公団は、いわばその最初のサンプルであると理解する。それには国と地方の関係もあれば、責任と負担の関係もあれば、総合的なものと個別的なものもあれば、いろいろなもののギアチェンジがあると思います。

横山 サンプルが一番難しいやつだったんですね(笑)。


道路公団は日本の公共事業の縮図

松谷 先ほど林先生がおっしゃったように、財投は恐らく75年あたりを契機として、どんどん公共施設を野方図に拡大してきた一番の原動力になっている。その根本は何かというと、人のカネでつくってもらうこと。結局そこなんです。

長谷川 道路公団の役員の賞与は経費で落ちる、固定資産税は払わない。だからバランスシートをつくって減価償却をする必要もなければ、利益を出す必要もなかった。民営化するというのは、ちゃんとバランスシートをつくって、損か得かをはっきりさせろ、公団の総裁の賞与もバランスシートによって払えということだと思います。

松谷 民営化したって、やはり「人のカネで」ですよ。自分のカネで最後の最後まで全部自分が面倒を見るんだという発想で全てのプライオリティーを考えていかないとね。その上で、これは中長期にわたって負担が必要であるから公債でとか、あるいは、この部分は民間にやらせたほうが効率的かもしれないということで、後でその経営形態を考えればいい。

工藤 そのお話は確かに正しいかもしれません。でも今は、1回つぶさなければ駄目な段階なんですね。

横山 全部民営化ではなくて、ここは市場の論理でやったほうがよい、ここは政府が介入したほうがよいというシステムを設計をした上で、それから法律とか、いろいろなアクションをとってほしい。このシステム設計がない。ただ、土木のエンジニアは道路をつくるときに、コストの発想はほとんどないでしょう。コスト感覚を埋め込めという部分は、民営化がどうかという以前にあるんです。

 中部空港はコストがもともとの予算の1割ぐらい減ったんですね。今までには考えられなかった。民間のそういうノウハウを持った人が、入らなければいけないのは間違いないです。それと地域の、自分のトータルの責任で一体どうするかという、その両方の意識が働かなければならない。

横山 地域のほうが大枠としては正しいと思う。けれども、きれいごとではなくて、指定業者か何かで、高いコストでやらせるに決まっていると思っているわけですよ。

松谷 確かに、地方公務員のレベルは、そんなに高くないかもしれません。しかし、それは逆にやらせなかったからという面があると思う。だから、授業料だということで、やらせてみることでしょうね。

工藤 情報公開をさせながら......。

横山 やらせることと、能力アップの訓練と、両方をやらなければいけない。能力アップの訓練の仕組みまでつくって、地方官僚がこういうことをできるようになるという、そういう施設もない。それもシステムデザインの一部です。

工藤 そのサンプルが道路公団なので、そこでまず今ギアチェンジができるかが問われているんですよね。

松谷 まさに人のカネで公共施設をつくる代表格が道路公団なんですよ。日本の公共事業の1つの縮図になっている。そこから手をつけるのは、意味があると思う。

横山 民営化ではなくても、コスト感覚を持たせることができるのだったら、やったらいい。

工藤 でも、今は民営化のポリシーを伸ばすことのほうが早い。

松谷 一つの考え方でしょうね。

長谷川 第三セクターだって民営化でしょう。

横山 第三セクターは最低ですよ、当事者意識のある人がいないんだから。第三セクターは典型的だし、住専もそうでしたが、経営能力のない人が経営しても駄目なんですよ。

工藤 天下りとか、みんなやっていましたよね。

横山 経営させるのだったら、経営の訓練をしないとだめだと思いますよ。だから、天下りはやめてもらいたいですよね。

工藤 先ほど林先生は、人口が減り、負担が大きくなる中で、郊外から人を呼び戻すとか、方向を変えないと駄目だとおっしゃったわけですよね。

 地価と同じように、土地利用だって戻せると。郊外のインフラの建設コストも、維持費も、全部その人が大金持ちでやるのだったら、郊外にやってもらえばいい。今はそれを全員が、悪平等で均等に払っている。郊外へ立地することは、ある種の劣等財です。優等財だったら、補助を出してもいい。都市の中へ入る世帯におカネをつぎ込んだらよいと思う。粗っぽいシミュレーションだけれども、3割補助をすれば戻ってくるんです。

松谷 3割補助を出して、それからどうするんですか。

 戻るようなストックがないといけないので、街区で将来計画をつくって、これを法定の計画として認定、認証する。この法定計画に準拠した開発を、地主が相続の時とか、建て替えの時にやれば、固定資産税を例えば10年間半額とかにして、住むにふさわしい豊かなものにする。そうやると、だんだん郊外の人口が減ってくるので、そのインフラの維持コストが要らなくなるんですよ。


今後の道路建設をどう考えるか

工藤 議論の流れとしては、地方に任せて、地方の住民が決断するという方向ですね。今の知事会議の議論を見ていると、全然違いますが。

松谷 人のカネでつくってもらおうという発想ですね。

長谷川 先進的な知事ほどそう言っているんじゃないかな。

工藤 どうすればいいでしょう。

 高速道路をつくれと言うかわりに、「大都市はみんなのおカネを使ったじゃないか。私たちは後回しにされてもらっていないから、それに相当するおカネをくれ」と言う知事が出てきたら、もうちょっとましだと思う。そこで選択させてくれ、私たちはもっと責任を持って何がいいのかを考えると。

工藤 国もおカネがないでしょう。

松谷 まずは財源を地方に譲与すると言うことでしょうね。これがなかなか言えない。

工藤 特定財源ですか。

長谷川 もう一般財源が入る余地がないぐらいです。問題は、日本の公共事業は中央集権で出来ているわけですよね。単におカネだけではなくて、人、技術まで、あるいは組織もですから。何とか整備局というのを地方公共団体に渡さなければいけません。

松谷 まずはバーチャルなシミュレーションをやる。各地域に財源を配分して、そのおカネで自分たちが必要な道路を考えてくださいと、国の方から玉を投げる。

長谷川 地方道はね。

松谷 長期予測で、各県ごとにこのぐらいの財源になりますと。

 人口10万人くらいの地方都市の例がありまして、わざと郊外の道路建設をしないことにしているんです。旧建設省系と旧農林水産省系の農道が、あと少しつくればつながって、すばらしい道路になる。ところが、彼らは「縦割りで話し合いがつかないから、つながない」とうそをついている。そこをつないでしまったら、ひどい状況になっている中心市街地からもっと人と商店が出ていく。出て行ったら一体どれぐらい市街地維持のインフラコストがかかるかを、彼らはわれわれと議論して意識し始めた。うそをついてストップしているんです。

工藤 地方は道路よりもっと別なことをやるとか、これしかおカネがないんだから......。

松谷 それでいいと思います。

 それから、先ほどのような郊外へしみ出すようなものはやめて......。

工藤 それは地方で考えればいいわけですね。

 ええ。やはり高速道路が欲しいと言うのだったら、それでもいいんですよ。

 私などが本当に思うのは、集落をぎゅうっと束ねてくるほうに予算を使ったほう
がいい。それこそ、もし中心市街地へ引っ越したら半額負担でもやってあげましょうと。

松谷 林先生の意見に大枠賛成です。先ほど横山さんが言われたような3大都市圏を強化することには反対ですけれども、ある程度これからの地方の核となる都市を整備すべきだと。高齢社会になると、介護などで費用がやたらとかかる。施設をそうした核となる都市に集約したほうが、コストははるかに低くなる。下水道なども同じですね。

 「土地利用および交通」という枠組みで予算が上げられたら本当にいいと思う。両方をインテグレートした計画をつくり上げて成功するところも、今の惰性で行ってもっと失敗するところも出てくる。やはり10年はかかりますよ。10年ぐらいしたときに、私たちは失敗したな、彼らはうまくやったなとなれば、やりますよね。今のままだと全然考えないですから。

松谷 行政は誤りを恐れるから、トライ・アンド・エラーをやらない。今、先生がおっしゃったように、やらせてみればいいんですよ。

 道路をつくったほうが得すると思うところはつくっていくでしょう。だけど、スパイラルにコストがかかってくる。道路だけではないですから、市街地拡散に付随するもの全部にかかるわけですからね。

工藤 本四架橋とか、ああいうものはしようがないんでしょう。

長谷川 そのために4公団のプール制はどうするとか、そういう問題提起だけはしてあるんですよ。その問題提起をギアチェンジで本当にできるのかどうか。本当に国費なくして、本四公団の3兆8000億円何がしが、有料道路で償還できるのかどうか。

工藤 もう無理だということですよね。

長谷川 むしろ、本四公団を含めたら無理だとか、有料道路の財源でやったら、もう維持管理費で駄目だとかいうことを明確に出して、それから凍結するなら凍結すると。

何かテクニカルなある一点に集中してしまうと、ちょっと惜しい。これをギアチェンジなり何なりして、道路全体、公共工事全体、財政全体についてのプライオリティーの議論、国と地方の議論に広げていくことまで、この改革の方向を打ち出してくれ、これはそのサンプルというか第1歩だというふうにしてもらえれば......。

工藤 これは全然無理だという根拠となるデータのようなものは。

松谷 道路は何も収支採算性だけで判断すべきものではない。例えば、本四架橋にしても、島があって、就業機会その他でその人たちの生活を支えている面がある。あれは3本も要らないと思うけれど。そういう難しい問題もある。しかし、まずは線引きをやる。とりあえずは収支採算性でやって、経営効率200以上は廃線と。

工藤 200というのは収支比率ですね。

松谷 100円の収入を稼ぐのに、維持管理費を含めて200円かかる、そういうものは廃線だと。まずは、特にひどい、例えばワースト10とか、それは廃線ということを打ち出す。

工藤 第2東名はどうなんですか、やめたほうがいいんでしょう。

長谷川 効果は大きいし、カネは大きいし、完成度は高いし......。

工藤 東名があるでしょう。防災上の理由はあるかもしれないけれど......。

松谷 第2東名は今の1極か3極か、経済的にも人口の上でも、1極・3極集中構造を前提にした道路ですよね。

工藤 それはもう無理だと。

松谷 低成長(私はマイナス成長だと思っているのですが)、さらに東海道メガロポリスがどんどん拡大していく状況にはないとすると、第2東名は要らないのでしょうね。

長谷川 交通量は、もうあと10何年の限界量で、下がっていく。

 物流なのか人流なのかということでは大分違うと思う。工業生産に頼るような時代がどこまで行くか。そんなに伸びない。ただ、人流は十分あると思うんですよ。

松谷 私は理想的には、日本に幾つかの自立した経済圏が出来るとよいと思う。

長谷川 道州制......。

松谷 そういうイメージですね。その域内道路というのは、もうちょっと整備したほうがよい部分があります。ただ、それは高速道路ではなくて高規格一般道路でしょうね。

長谷川 高規格一般道路も高速道路も、われわれが見たのではわからないんです。通るだけなら、自動車専用道路すらわからない。片方は道路財源を入れて、地建(地方建設局)にやらせて、後で道路公団にちょっとだけやらせてというような、そういうテクニックを大蔵省が随分指示したんですよ(笑)。だから、国民から見れば一般国道も高速道路もわからないんですよ。

松谷 信号があるかどうかぐらいですね。

 もう1つは、採算の話があるから、たくさん走ってもらうといい道路であるように言われていますが、私は逆だと思う。どうしても必要なときに走れるようなのが最高だと思うんです。自由走行ができる範囲、渋滞しない範囲が一番いいと思うんですよ。

アクアライン(東京湾横断道路)は理想的には、木更津、房総半島側をどのように活用するかという議論から始まったと思うんですね。

一番いけないのが、東京に勤める人が木更津に家を持って毎日通う、これは採算上は大歓迎だが、非常に反社会的というか、反地球的ですよ。ものすごいCO2を出すわけですから。

長谷川 エネルギー、環境問題から言えば逆なんですね。

エンドレスからエンドの21世紀

 国土計画的な理想は、優良な企業が木更津に立地してきて、そこに勤める人は環境豊かなところに家を持って、15分とかで通勤でき、人々が高いクオリティ・オブ・ライフを享受できること。しかし、そういう上位の理念の下にやろうということがなくて、先にとにかく道路ということになっている。

工藤 本四架橋も、世界の遺産だから国民がおカネを出すと言っている。でも今は、地元に負担させる流れになっているでしょう。

長谷川 役人の考えというのはエンドレスなんですよ。国もエンドレスだし、おカネもエンドレス、会計自体もエンドレスなんです。借金は積み立てておけばいい、借金は資産勘定にしておけばいいと、エンドレスにみんなそう思っているわけです。だけど、21世紀はすべてにエンドが来ているんですね。

 よく機会均等とか入り口の平等と言うでしょう。結果は自分たちの責任だと言うけれども。こういうことに関しては、結果のバランスがどれぐらいとれているかを先に見ておかなければいけない。

アルプスでおじいさんと暮らす、ハイジという少女のアニメーションの世界があるでしょう。ああいうところに住んでいる人は、高速道路に来てほしいとは思わないですよね。自然に囲まれて住んでいることが幸せで、クオリティー・オブ・ライフの要素がある。日本全体でトータルしたものが大体バランスすればよいと思う。

工藤 ゼネコンとか、つくりたい人がいっぱいいるじゃないですか。

長谷川 ストックよりもフローという意識がある。日本経済そのものに、そこに物が出来ることよりも、物が出来るためにおカネが流れることが地方の振興だという意識がある。だから、取ったら必ず持ってこなければ損じゃないかという話になる。

 それで何も残らないんです。

松谷 今まではフローが毎年拡大することが前提になっていましたから、フローだけで議論が済んでしまっていた。これからフローは年々縮小していくとみんなが認識すれば、ストックが大事だということになると思う。

 ロンドンとかパリのような、建物はまねをする必要はないけれども、彼らは植民地を持ったりして大変金持ちになった時に、そのフローのおカネを全部ストック化した。だから、彼らはそんなに使わないでいい。その自立システムは、道路以上に、日本では土地利用でできていない。だから、この機会に道路にツケ回しするのはやめろと言わなければいけないと思っている。

長谷川 自民党の5原則、高速道路は国の責任だというようなことまで......。

工藤 国土の均衡ある発展のためにという......。

長谷川 それはもう50年間やってきたんだから(笑)。

 入り口均等の国土の均衡ではなくて、帰着ベースで均衡するほうがもっと大事ですね。

工藤 ありがとうございました。

(聞き手は工藤泰志・言論NPO代表)