「地方の再生」と地域提携 3知事座談会 / 第5話:行政区域を超えた連携の意味

2008年3月28日

080112_tottori.jpg2008年1月12日
福祉フォーラム実行委員会主催 「Japan'sea 福祉フォーラム8 in とっとり」



出席者:平井伸治鳥取県知事、古川康佐賀県知事、溝口善兵衛島根県知事
コーディネーター:言論NPO代表工藤泰志

行政区域を超えた連携の意味

工藤 世界を意識しながら連携し、競争する。しかも、経済圏というレベルでは、もう行政区域を超えて動き始めている。この動きの先はどんなふうになっていくのですか。つまり、そういう連携なり、経済的な展開が、行政区域を変え、デモクラシーという問題を上回ってしまうのでしょうか。

「グローバリズムの中におけるリージョンの新たな枠組み」

平井 多分、今は時代の変わり目だと思います。その理由は、1つは、古川知事が強調されていますが、経済はもう世界化しているということだと思います。EUができたときに、1985年に地方自治憲章をつくりました。いわば地方自治の憲法です。EUとして国同士がまとまるときになぜ地方自治の憲章をつくったかというと、結局、国境が取り払われていく中で、最後に住民生活と密着するところは地方のレベルである、ここの財政などをきっちりしましょうということです。例えば第9条には、特に財政の自主財源をきちんと保障しましょうということが書いてあるのです。

 今、アジアも変わってきたと思います。確かに国境はあり、日本、韓国、中国、ロシア、こういうように分かれています。しかし、事実上の国境は、経済界の手によってもう既に取り払われつつあるわけで、お互いに競争したり結びついたりということになりました。現に物は行ったり来たりしています。その中で、それぞれの地方がしっかりしていこうということになった場合には、地方自治をきちんとやろう。さらに、地方自治を取り巻くところ、これもヨーロッパもそうですが、リージョンとしてある程度グループをつくって、そこでまた新しい発想、枠組みをつくっていこう。こういうようになってきているわけです。

 こういう世界のトレンドを、今の日本は追いかけるようにして来ているのではないかと思います。ですから、それぞれの地方の中で市民社会が成熟してきて、行政との対話がきちんとしてくる。そして、パートナーシップに基づく事業がいろいろな意味で展開されてくる。そういう市民の力が成長してくるに従って、県庁や市役所なども変わってきている。さらに、市民活動、県民活動はそもそも境目がないから、それが他地域と結びついていく。そういう成熟化の時代を今迎えつつあるのではないかと思います。

工藤 よくこういうデザインをするときは、道州制といったように、まず形から入る人が多い。でも、形よりも実態的に何かの変化がそれを動かしてしまう。古川さん、そう理解していいですか。

「暮らしから見たら、県という制度は邪魔ではないか確かめる時代」

古川 私もそうだと思う。結果的にどうなるかという話です。佐賀県の東の端に鳥栖市があります。人口6~7万人で、鹿児島本線という九州の縦のラインと長崎本線という九州の横のラインのちょうど分岐点です。高速道路も分岐点です。そこにシンクロトロン光研究センターという放射光施設を県立で新しくつくりました。そこのオープニングに、福岡県知事がぜひ自分を出させてくれというお願いをしてこられました。なぜですかと言ったら、「これをあなたのところがつくってくれたから、うちの県がつくらなくて済んだ。こんなありがたいことはない。一言、感謝の意を表したい」と言う。福岡県の企業にもぜひ使えと言うからとか、いいものにしていこうやという話をされるわけです。それはもうやりましょうというので、やっていっています。

 福岡県にも医療施設はじめいろいろなものがあって、我々も助かっている部分があります。例えば精神障害の分野などは福岡に非常にいい先生がおられて、実態として、福岡県と佐賀県の両県をみていただいています。

 戦後、テレビ局もそうですし、医科大学もそうでしょう。何でも各県単位でやってしまって、昔から持っていた地域とのつながりをある意味切ってしまっている部分があると思います。全部フルセットで、各県でそれぞれ1個やりなさいと。それが逆に何か阻害要因になっているところが、今だんだん解き放たれつつあるなという感じがしています。

 私は、地デジに対応して、今度はテレビ局の再編もあるのではないかと思っていました。佐賀県にベースを置く民放は1局しかありません。フジテレビ系列のSTSというところで、あとはみんな福岡の局を見ている。それはそれで全然困りませんが、ローカルニュースだけは困る。私のような立場からすると、STS以外の朝日系列やTBS系列を見ていると、私の顔がほとんど出てこないのです。選挙のときなど、......。

工藤 麻生さんばかりですか。

古川 そう、麻生さんばかり出て、ちょっとあなたたちも頑張らないといかんよとかと言われる。私が出るときは、大概、何か困っているときとか、よくないニュースですね。福岡のマスコミは余りいい話は取り上げてくれないのです。例えばRKB毎日は福岡県の県域の局ではなく、佐賀県も含めたところでも電波が出せることを正面から認めるようにしてくれという話をするのですが、なかなかうまくいかないのです。

 今回、デジタル化を今の局の体制のままだけでやると、それぞれの局の資本が非常にきつくて、多分山間部も含めたところで、今見られている状態を全部確保するのは非常に大変だと思います。それよりも本当は塔が1つあれば、電波は4つも5つも出せるわけなので、まとめてテレビ局を少し統合したほうが、実はどこの地域に住んでいても、きちんと鮮明なデジタル波が見られることが確保できるのではないか。逆に各県単位というのが邪魔をしているのではないかなと思ったりもしています。

 だから、そういったところについて、いろいろな知事さんたちとも一緒に声を出していって、まず権限が先にありきとか、枠組みが先にありきではなくて、暮らしという面から見ていくようにしたい。県という制度が邪魔になっていないか、県域が邪魔になっていないかチェックするような時代になっているのではないか、言い換えれば、県とか県域とかがだんだん崩れていくのではないかなと思います。

工藤 今のような話は、多分5年前や10年前にはだれもしなかったのではないですか。変わったなと感じましたが、溝口さん、今の話をどう思いますか。

「行政が障害にならないような協調を強化する過程に」

溝口 おっしゃるとおりでして、経済活動が県境とかに影響されないで動くようになり、それがますます進んでいると思います。そういう中で、行政が障害にならないような協調を強化していくというプロセスにあるということです。道州制がそのずっと先にあるのでしょうが、その道筋はまだはっきりしませんね。これは日本全体でこれからよく議論しなければいけない問題だと思います。知事会でも議論をしています。

 国と地方との関係、あるいは仮に「道(どう)」というものができた場合に、「道」と「道」の間でやはり格差は残りますから、そういうものをどう調整していくのか。あるいは、「道」の中に含まれる地域の中でも格差はありますね。そういうものを一体どうするのか。難しい問題がありますので、これはしっかり議論していかなければならない。しかし、それは行政という、いわば人工的な世界の話です。そうではなく、日常生活、経済活動はそれと関係なく動きますから、行政がその流れに遅れないようにしなければいけないというのが当面の私の関心事であり、課題だろうと思っています。

工藤 EUの統合では、フランスとドイツが、単なる国だけではなくて、住民を含めてすごい交流をした。島根県と鳥取県はそういう相手方ですか。

平井 特に県境のところではそうです。

溝口 いろいろなところで交流がありますから、平井さんも考えは一緒ですが、県の職員なども時々一緒に集まって研修をやっている。研修といいますか、話し合う場をつくったりして、知事だけではなく、課長とか課長以下のレベルでも議論ができたりする。お互いに同じような問題を抱えているでしょう。産業振興ですと、鳥取はどういうやり方でやっているのか、島根はこうやっているよと意見交換したり、いろいろな問題を議論できるのではないかと思います。そういう問題も今年は平井さんと一緒にやっていきたいと思っています。

「島根、鳥取はアダプトプログラムなどで一緒に」

平井 お互いの県境のところは中海という海でして、これはラムサール条約の指定湖沼なのです。ここをきれいにしなければいけない。ちょうど今、新年度が水質環境保全の計画をつくり直さなければいけないときでして、こんなことは両県で絶対一緒にやらなければならないですね。

 すごいのは、この県域の人たちがみんなでこの中海のことを考えてくださっていることです。中海を大切にしましょう、というNPOの活動は幾つもありますし、あるいはアダプトプログラムといいまして、ここからここまではうちの会社、ここからここまではうちの町内会がやりますという活動もある。中には鳥取県議団の場所とかもあるのです。そのような形でアダプトプログラムでやっておりまして、溝口知事とも一緒にごみ拾いをしたこともあります。

 経済界では、安来、松江、境港、米子の各商工会議所の皆さんは、例えば中海、大山、隠岐といった圏域のすばらしい観光情報をポータルサイトに出そうと一緒になってやっている。これは米子の商工会議所がやりましょう、松江の商工会議所が担当して中海に船を浮かべるプロジェクトをやりましょう、といったように、相互乗り入れといいますか、一緒になってプログラムを組んでやってきているのが現実です。本当に人は完全にごっちゃになっていまして、例えば安来(島根県)の商工会議所の会頭さんの会社は米子(鳥取県)にあります。米子の前の商工会議所の会頭は、実は島根のルーツの方です。このように、ほとんど混在しているわけです。ただ、県境だけが引かれていたということではないかと思います。


Profile

080112_shimane.jpg溝口善兵衛(島根県知事)
みぞぐち・ぜんべえ

1968年東京大学経済学部卒業、大蔵省入省。77年から80年在西独大使館書記官。80年主計局主査、大臣官房企画官、銀行局企画官、85年世界銀行理事代理。89年国際金融局開発政策課長、国際金融局総務課長、93年副財務官。94年在米国大使館公使。主計局次長、総務審議官、官房長、国際局長を経て、2003年財務官就任。04年より国際金融情報センター理事長。06年退任。

080125_tottori.jpg平井伸治(鳥取県知事)
ひらい・しんじ

1984年東京大学法学部卒業後、自治省入省。福井県財政課長、自治省選挙部政党助成室課長補佐、カリフォルニア大学バークレー校 政府制度研究所客員研究員鳥取県総務部長、副知事、総務省自治行政局選挙部政治資金課政党助成室長を歴任後、2007年 2月に総務省を退職し、4月鳥取県知事選挙初当選、鳥取県知事に就任。

camp4_saga.jpg古川 康 (佐賀県知事)
ふるかわ・やすし

1958年生まれ。82年東京大学法学部卒業後、自治省(現・総務省)入省。自治大臣秘書官、長崎県総務部長などを経て、03年無所属から佐賀県知事に当選。日本で初めてマニフェストを掲げて選挙を戦った政治家の一人であり、当時全国で最も若くして知事となった。07年に再選を果たし、現在2期目。全国知事会政権公約評価特別委員長。「がんばらんば さが!」をキーワードに、「くらしの豊かさを実感できる佐賀県」の実現を目指して県政に取り組む。

071113_kudo.jpg工藤泰志(言論NPO代表)
くどう・やすし

1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。