安倍政権3年実績評価 専門家コメント【外交・安保】

2015年12月28日

私も評価に協力しました

川島真
東京大学大学院
総合文化研究科 准教授

細谷雄一
慶應義塾大学
法学部 教授

渡部恒雄
東京財団
ディレクター(政策研究)
上席研究員
神谷万丈
防衛大学校
総合安全保障研究科 教授

総論


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
川島真氏
3.5
総理が多くの国を訪問され、信頼関係を回復できた国も少なくない。
2015年には懸念された歴史の問題も総じて適切に処理しているように思える。
だが、期待された対外広報はまだまだ不十分だし、南シナ海問題などのアジアの諸問題でも、日本のイニシアティブはより発揮されて良いだろう。たとえば、南シナ海問題では環境問題として中国の行為を取り上げ欧州などの先進国の関心を集めるといった工夫、日本が国際法の解釈や共通認識形成によりイニシアティブを発揮することが期待される。
また、日本外交の弱点とされる分野の補強も急務だ。国連など世界的な場で日本が批判されがちな人権問題などでの改善と対外的な説明が求められるだろう。
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国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、地域や国際社会の平和と安定に一層貢献する。【出典:2014年衆院選マニフェスト】
「積極的平和主義」を掲げ、世界の平和と安定に貢献する【出典】2014年1月24日施政方針演説(マニフェストには記載なし)


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
「国際協調主義に基づく積極的平和主義」については、海外への外遊の多さや、関係各国との首脳会談での合意事項、国際会議への安倍首相の参加など、戦後の首相の中でも最も活発に外交に取り組んでいると言うことが出来る。
渡部恒雄氏
ODAチャーターを見直し、新しい開発援助大綱を策定し、東南アジア諸国の能力構築支援を内容を国家安全保障戦略に入れたことは評価できる。ASEAN首脳との外交で内容を合意したことも良い。
神谷万丈氏
日米新ガイドラインの改定、新安保法制の策定など、積極的平和主義を実践するために必要な制度的枠組みを整えたことは高く評価できる。また、地球儀を俯瞰する外交で積極的平和主義に基づく日本の外交方針への国際的支持をとりつけてきたこともよい。積極的平和主義の実践には、財政状況が厳しい中でもそのために必要な投資を行うことが不可欠だが、安倍政権は、国際平和への日本の軍事的貢献の拡大に必要な防衛費を政権発足以来増額しており、2016年度予算案では非軍事的貢献の拡大につながるODAを17年ぶり増額する決定も行った。今後、整備された枠組みに基づく実行がどこまでなされるかが課題であり、期待を込めて見守りたい。
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日米同盟の絆を強化し、中国、韓国、ロシアとの関係を改善する【出典】2013年参院選マニフェスト
【出典:2014年衆院選マニフェスト】


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
基本的な方向性は間違っていない。ロシアとはウクライナ情勢に伴って関係強化が難しいが、韓国とも関係強化が依然として難しい。日中関係の改善や、日中韓三国首脳会談の開催など、成果が見られる。
渡部恒雄氏
日米ガイドラインの改定とそれを裏打ちする平和・安保法制の制定は順調。今後は日米で具体的な内容を協議していく必要がある。同時に、歴史認識で自重して中韓との関係を改善方向にしたのも評価。
神谷万丈氏
日米同盟の強化に関しては5をつけてよい。日米が、中国の自己主張の強まりを前にルールを基盤とした既存の国際秩序の維持と強化のために手を携え、力による現状変更のいかなる試みにも反対する姿勢を明確に打ち出し、それを実践するための基礎としての日米ガイドラインを改定したことは高く評価できる。中韓との関係についても、28日に予定されている岸田外相訪韓の結果をみないと何とも言えないところがあるが、ここにきてさまざまな前向きな動きを起こすことに成功しているのは評価できる。ロシアとの関係が停滞気味なのは、ウクライナ/クリミアなどでのロシアの行動に原因があるので、安倍政権を責めるのはフェアではない。
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ASEAN諸国やインド、オーストラリア等と安全保障やエネルギー政策での協力を推進【出典】2013年Jファイル
【出典:2014年J-ファイル】


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
安倍政権の外交で、最も成果の大きな領域といえる。価値を共有する民主主義諸国、とりわけASEAN諸国、インド、オーストラリアとの協力は、かつてないほど強化されつつある。
渡部恒雄氏
ASEAN諸国およびオーストラリアとの積極対話は評価できる。今後の実行が課題。
神谷万丈氏
安倍政権は、日本とこれら諸国との関係を強化するために、積極的な外交を行ってきた。これら諸国はしたたかであり、万事が日本の望む方向に動いているわけではないが、首相の行動力がもたらしてきた成果は評価されるべきであろう。
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「国家安全保障会議」を設置し、国家の情報収集・分析能力の強化及び情報保全・公開に関する法整備による体制強化【出典】2013年参院選マニフェスト(特定秘密保護法はマニフェストに記載なし)
【2014年はマニフェスト、J-ファイル共に記載なし】


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
NSCを効果的に活用して、迅速な情報収集や、官邸機能の強化に基づいた司令塔機能による統合的な政策運営が見られる。安保法制についても、NSSで準備、起草することができた。
渡部恒雄氏
設置は評価できるが、今後、安倍政権を超えて、それが機能するかどうかは、安倍政権だけでなく、日本全体の課題となる。
神谷万丈氏
国家安全保障会議を実際に設置し、活用を始めたのは画期的だった。それが日本の外交・安全保障政策の質の改善に実際にどの程度の効果を及ぼすのかについては、まだこれからの実践をみなければならないが、これまでの3年間の評価としては、会議を設置することに成功しただけで高評価に十分値する。
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いかなる事態に対しても国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備する。【出典:2014年衆院選マニフェスト】
集団的自衛権の行使を可能とし、「国家安全保障基本法」を制定する【出典】2012年衆院選マニフェスト


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
安保関連法案の起草と採択は、大きな進歩である。安倍政権の最大の成果の一つとなるであろう。
渡部恒雄氏
安保法制の中で、実際のグレーゾーンに対応するためには、まだまだ不備は多い。特に防衛省と警察庁という難しい調整があり、これは、ポスト安倍政権の課題となろう。
神谷万丈氏
新安保法制の細部には注文がないわけではないが、ともかくも、歴代政権ができなかったことをなしとげたことを高く評価したい。ただし、国民への説明がうまくいっていないことは残念である。
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新たな「防衛大綱・中期防」を踏まえて自衛隊の人員・装備を強化する。【出典:2014年衆院選マニフェスト】
防衛大綱、中期防を見直し、自衛隊の人員、装備、予算を拡充する【出典】2012年衆院選マニフェスト


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
2013年の防衛大綱と中期防を踏まえて、10年ぶりに安倍政権で防衛費の増額と、人員・装備の充実が進められている。不安定化する地域情勢を考えると、必要で適切な措置といえる。
渡部恒雄氏
防衛予算の制約の中での限界は明らか。その中ではうまくやっているほうだとは思う。
神谷万丈氏
厳しい財政状況の中で、防衛予算の増額傾向を維持したことは、自衛隊の人員・装備を強化するための大前提であり、評価したい。実際に必要な人員や装備がどこまで整備されるかについては、今後の取り組みを見守りたい。
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尖閣諸島周辺海域での外国公船への対応、遠方離島周辺海域での外国漁船の不法行為に対する監視・取締体制の強化等、海上保安庁・水産庁の体制を強化するとともに、国境画定の起点等遠隔離島における活動拠点の整備等を推進する。【出典:2014年衆院選マニフェスト】
尖閣諸島の実効支配を強化し、離島を守り振興する法律や領海警備を強化する法律を制定する【出典】2012年衆院選マニフェスト


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
防衛省/自衛隊と国交省/海保との連携と協力は、十分に進んでいるとはいえない。NSSは防衛省と外務省の協力が主となっており、今後の課題と言える。
渡部恒雄氏
ある程度の予算措置と方向性は出していてこれは評価できる。予算面での制約はある程度は仕方がないが、その中ではよくやっているほうだと思う。
神谷万丈氏
中国の海洋進出と、尖閣諸島周辺等での不法行為の増加に対処するために、尖閣諸島周辺の領海警備専従体制の整備が進められていることや、最近決定された2015年度補正予算案で巡視船艇10隻や航空機2機の建造費が前倒しで計上されたことなど、具体的な行動がみられることを評価したい。
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拉致問題に進展がない限り、更なる制裁緩和や支援は一切行わず、制裁強化を含めた断固たる対応をとり、被害者全員の早期帰国を実現する。【出典:2014年衆院選マニフェスト】
「対話と圧力」で拉致問題の完全解決と核、ミサイル問題の早期解決に全力を傾注し、関係諸国と一致で取り組む【出典】2012年衆院選マニフェスト、2013年参院選マニフェスト


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
拉致問題への取り組みは、適切な対応をしているとは言え、現実状況から進展が難しい状態です。
渡部恒雄氏
これは相手が北朝鮮のため、難しい課題であるが、断固とした態度はとっている。むしろ、目標達成のための柔軟性を示せるかが課題だろう。現時点ではそのような機会はやってきていないが・・・
神谷万丈氏
「拉致問題に進展がない限り、更なる制裁緩和や支援は一切行わず、制裁強化を含めた断固たる対応をと」るという姿勢は明確に示されている。いったんは北朝鮮との対話重視に動いたが、北が拉致問題についての調査結果を出そうとしないのをみて再び圧力重視に動いたのは適切だった。ただ、「被害者全員の早期帰国」が実現するかどうかは北朝鮮次第であり、日本にできることは少ないのが現実ではないか。
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日米安保体制の抑止力を維持しつつ、沖縄等の基地負担軽減を実現するため、「日米合意」に基づく普天間飛行場の名護市辺野古への移設を推進し、在日米軍再編を着実に進める。【出典:2014年衆院選マニフェスト】
在日米軍再編の中で抑止力の維持と、沖縄などの地元負担を軽減する【出典】2012年衆院選マニフェスト


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
普天間基地の移設問題については、完全な硬直状態と行き詰まりを迎えている。軽率な代替案を論じるべきではないが、柔軟な再交渉も検討するべきである。
渡部恒雄氏
沖縄に翁長政権を作ってしまったことが、事態を難しくしている。これは政治的な失敗といえる。今後、どのように事態を収束するかどうかが試されている。
神谷万丈氏
決定済みの方針を実行しようとしなかったこれまでの政権とは異なり、実行する勇気を示してきたことは評価できる。
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国際テロ対策を強化する。【出典:2014年J-ファイル】


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
着実な取り組みをしているが、パリの事例に見られるような事態を想定したより抜本的な取り組みが必要であろう。
渡部恒雄氏
-
判断不能
神谷万丈氏
最近決まった2015年度補正予算案でテロ対策や来年5月の伊勢志摩サミットへの対策に約140億円を計上し、「国際テロ情報収集ユニット」を予定よりも前倒しで発足させるなど、この分野でも政権の行動力が発揮されている。ただし、国際テロ情報収集ユニットは数十人規模と小さいことからもわかるように、日本のテロ対策は他の先進国と比べてまだ万全とは言えない。

地球規模の諸課題への取組みを強化する。【出典:2014年J-ファイル】


点数
5点満点

評価理由に関するコメント
細谷雄一氏
パリ協定合意は大きな視点だが、温室効果削減のための具体的な措置について、さらなる検討が必要となるであろう。
渡部恒雄氏
-
判断不能
神谷万丈氏
安倍政権は、積極的平和主義の旗印の下で、日本が地球規模の諸課題への取り組みも強化していくことをうたってきた。その実践についても、この12月に東京で開かれた国際会議「新たな開発目標の時代とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ:強靭で持続可能な保健システムの構築を目指して」(国際社会の新しい開発目標「持続可能な開発アジェンダ2030」が採択されてから初めての保健分野での大規模な国際会議)を日本政府が積極的に支援したこと、会議で安倍首相が演説を行い、来年の伊勢志摩サミットで保健を優先課題としてとり上げ、この分野で日本が主導的な役割を果たしていく意思を表明するとともに、日本が「人間の安全保障」考えの下で保健を含む世界規模の課題の解決により重要な役割を果たすことが積極的平和主義の実践になると強調したことなど、前向きな姿勢が打ち出されるようになっている。この分野で政権がさらなる行動力とリーダーシップを発揮することを期待したい。





評価コメントは以下の基準で執筆いただきました

・この3年間で未だに着手しておらず、もしくは断念した計画であるが、国民にその事実や理由を説明している(但し、国民に説明していなければ-1点)
1点
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
(但し、国民に説明していなければ-1点)
2点

・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
・着手して動いたがうまくいかず、目標を修正し、実現に向かって努力している、かつ、国民に修正した事実や理由が説明された(但し、国民に説明していなければ-1点)

3点
・着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できるもの
4点
・この3年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
5点

新しい課題について

3点

新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの
(目標も政策体系が全くないものは-1点)
(現在の課題として適切でなく、政策を打ち出した理由を説明していない-2点)