「今回の選挙で問われる日本の課題とは」自由民主党編

2016年6月27日



第一話:今回の選挙で自民党が訴える日本の課題とは

160621_kudo.jpg工藤:言論NPOの工藤です。私たちは、この参議院選挙を日本の将来を決める選挙だと考えています。有権者は、日本の将来について、政治が何を言っているのかきちんと見定める重要な機会だと思っています。

 今日は、自民党政務調査会長代理の新藤義孝さんに来ていただきました。自民党が今回提起している政策、公約について、自民党が何を実現したいのか、その目的を明らかにした上で説明していただき、質問したいと思います。新藤さん、よろしくお願いします。

政策目的を明らかにした上で、KPIに基づいて政策評価を行うことが重要

160621_shindo.jpg新藤:今日は、いろいろなお話をさせていただきますが、この言論NPOが素晴らしい存在であると改めて認識した次第です。工藤代表は、言論NPOは、我が国における政策評価をしっかりと位置付けたい、それから民間から行政、政府側のチェックをしていく、こういう観点で活動しているとお話しされました。もとより私は全く同じ思いです。自分たちのやっていることが一体全体、何のために、何の目的があって、そのための目標をどう持つか、それをどのように実現していくのか。私は、平成24年12月に総務大臣に就任し、一番初めにやったことが、総務省の仕事のミッション、ビジョン、アプローチを持たせることでした。自分たちの役所の使命、仕事で実現すべき目標は何か、それをどのように実現するか、手法を取りまとめてみようということをやりました。

 何よりも大切なことは、私たちの国の政策体系は、全てがそれぞれの各省庁に分かれ、予算の款項目節で分類されているということです。これは必要であり合理的なことなのですが、政策目的がどこに見えるのかということになります。例えば「安全をつくる」といえば、消防庁と道路と病院の整備率が関連して安全がつくられるわけですが、役所の中ではバラバラです。この国の安全を高めていくという目的があったならば、それに関連して各省の政策を連携させなければいけません。それに必要なのが政策評価であると私は言い続けています。物事を、数字や制度や所管とは別に、何のために行うのかという目的を作り、そのための手段を明確化する。それに基づいて、どの程度進捗したか。これが今、安倍内閣が大々的に取り入れているKPI(重要業績評価指数)であり、PDCAを回す上で大前提なのがKPIの設定なのです。

 私が会長代理を務める自民党政務調査会には審議会、政審というのがあります。各部会が作ってきた、また政府がやろうとしている提案は、政審を通らないと意思決定機関である総務会に行きません。全ての法律や予算が私どものところに入ってくることになりますが、今、自民党政審の合言葉は「この仕事のKPIは何ですか」です。このKPI設定ができないものは差し戻しになり、4回ほどやりました。徹底的に、私たちは何のためにこの国を、どうやって動かしていこうとしているのかを見ることが極めて重要になっていると思います。その意味で、言論NPOの皆さんがそれぞれの専門的な立場から政党の公約をチェックしてくれることは本望だと思います。今日は自由民主党がどのような公約を掲げ、何を目指しているかお話しさせていただきますが、その根っこは、この国の体質改善、構造改革です。その必要性を私たちは強く感じでいます。

選挙の争点はアベノミクス、増税再延期、安倍政権継続の3点

 安倍内閣のミッションはきわめて明快です。「日本を取り戻す」。3年半前に安倍総理が掲げられた「日本を取り戻す」というミッションは、力強い経済と、それに伴う果実を優しい社会を作るために使う。働く人、困っている人、弱っている人、子どもたち、お年寄りに成長を分配していく。このことがミッションでありビジョンです。それに伴って、規制緩和をやったり、ICTを入れてみたり、様々な新しい取り組みをやりながら、地方を創生し、国土強靱化を行い、安全と安心を作り、成長と分配の好循環を実現する。さらには、経済成長と財政再建を両立させる。我々のこの根本の政策は1センチも変えていません。そして、それは道半ばであり、その時に大切な国政選挙が行われる。今回の私たちの公約には「この道を。力強く、前へ。」という思いが込められています。いままで歩んできたこの道を力強く、さらに前に進ませて下さい、これが私たちの願いであります。

 私は、今回の選挙の大きなポイントは3点だと思います。まずは、アベノミクスの是非です。アベノミクスの成果を訴えますが、これはまだ道半ばなのです。もし、うまくいかないのであれば、ダメなことであれば早く改めるが、良い方向性がみえているのであれば、結果が出るまで徹底的に追求していく。私たちは、このアベノミクスを強力に前に進め、新しいステージを作っていかなくてはいけない。そのために国民に信を問いたいと思います。

 それからもう1つは、国民生活に大きな影響を及ぼす消費税の税率変更の延期です。我々とすれば、消費税の引き上げは財政再建のためにも必ずやらなければいけないと考えています。しかし、耐えうる状況を作らないままに国民生活に負担をかけて財政再建をしても意味がない。経済状況を最後の最後まで総理が厳しく見ながら、最終的に延期することを決断しました。10%に引き上げる2019年10月までにさらに経済を成長させ、持続可能性を高めて、この消費税の税率変更に耐えられる経済を作っていこう、その判断についての是非を求めるということが2つ目です。

 最後に、安倍政権が成立して3年半が経ちますが、完全ではありませんし、全ての方に満足をいただいているわけではありません。しかし、少なくとも、あらゆる指標が上向き、かつてなかなか手の付けられなかった岩盤規制も含めて様々な改革を進めてきました。今回の選挙で、安定した新しい日本を作るための政権を引き続き運営していいのか、という根本部分を国民に問わなければいけないと思っています。この3点を問うのが今回の大きな争点だと思っています。



アベノミクスの成果を持続可能にし、成長と分配の好循環を実現したい

 まず、アベノミクスの成果ですが、少なくとも強い経済を作る大前提としての国民総所得(GNI)は36兆円増加しました。リーマンショックで失ったのが50兆円といわれていますので、今年度中に国民が失った所得は取り戻す大きな流れの中で動いています。就業者数も安倍政権に変わってから、110万人増加しています、有効求人倍率が24年ぶりの高水準で、全地域で1倍を超え、1993年に統計が始まって以来のことです。若者の就職率も大学生、高校生とも97%を超えて過去最高です。給与についても、皆さんに満足いただいているわけではありませんが、3年連続で2%水準の賃上げを行い今世紀に入って最高の水準を記録しています。

160621_03.jpg 企業収益も過去最高、大企業のみならず、中小企業ともに過去最高です。結果、経済が伸びていく中で、当然のように政府の運営資金となる税収が膨らみ、国・地方合わせて21兆円の増加。最も落ち込んだ前政権の時の税収が38兆円でしたが、今年の税収見込みは57兆円。バブル期、1990年の最高税収、60兆円に迫る勢いで経済が回復している。アベノミクスの成果が出ている中で確実に上昇しています。ただ、経済は完全な持続可能で、自律したものになっていない。政府の財政支出、様々な金融緩和を含める政策によって、カンフル剤を打ち込みながら無理に持ち上げているところがないとは言い切れません。これを着実に自律、持続可能にするための政策を進めていく。そのキーワードは、経済の好循環。消費と投資と業績の連関を良いものを作っていく、成長を分配として回していく、こうした好循環を実現させたいと思います。

 消費税については、G7伊勢志摩サミットの議論を受け、安倍総理が6月1日に10%への引き上げについて2年半の延期を表明しました。これは、消費の伸び悩みに対して賃金を上げていく、可処分所得を増加させる中で、税負担に耐え得る社会を作らなければいけない。それには猶予が必要であるという判断、です。それから世界の経済が通常の景気循環とは違う動き、不穏な要素があるという状況。これについてはG7サミットにおいても各国首脳との議論がありました。これを受けて、日本が世界経済のけん引役となり得るためにも、消費の停滞を招かないようにしなければならない。

 これに伴って社会保障の充実をどう実施し、財源を確保するか、これについても国民に説明していかなければなりません。そのために、選挙が終わり、私たちがさらに政権を維持することができれば、秋には総合的かつ大胆な経済対策を打っていく、さらに成長を加速させるための対策を打つことも既に表明させていただいております。

 我々は経済の成長、名目3%、実質2%成長、GDP600兆円の達成を標榜しています。一億総活躍社会を実現するために閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」。この中にある通り、まず「経済のパイ」を拡大します。第一の矢は、希望を生み出す強い経済、2020年ごろにはGDP600兆円を目指すと謳っています。もともと財政と金融と成長戦略の三本だった矢を一本に絞って、あらゆる政策を総動員していくということです。

 第一の矢、経済政策は目標年次を、平成28年度から6年間、33年度の間に実行するプランです。第二の矢、第三の矢については、平成28年度から37年度までの10年間という期限を切ってその中で実施したいということです。これは「骨太の方針」を6月2日に議決定し、明確にした上で、今回の公約を出させていただいているということです。



高齢者が増えても成長し、自律する経済の仕組みを作っていく

 公約を具体的に説明すると、まずゼロ金利政策を活用しながら、超低金利活用型財政投融資を具体化していきたいと考えています。その中の目玉としては、リニア中央新幹線の大阪開業の前倒し、整備新幹線の建設促進により、全国を一つの経済圏に統合する地方創生回廊、こういったものを打ち出しています。また、奨学金制度の拡充、保育所や介護施設の整備促進、開かずの踏切対策など5年間で官民合わせて30兆円を、十分な政策効果が実現できる規模を維持したいと考えております。

 また、第4次産業革命と呼んでいますが、IoT、ビッグデータ、AI、サイバーセキュリティに対する統合的な研究開発、実証、それから、ナノテクノロジー、材料科学技術分野などの開発をさらに重点、強化して、新たな成長市場の創出、生産性革命を目指してきたいと思います。また、雇用の安定と働き方の改革も進めて参ります。最低賃金の1000円への引き上げの実現を目指すとともに、同一労働同一賃金の実現などにより、非正規の方の処遇を改善する。長時間労働の是正、高齢者の雇用促進にも取り組んでいきます。

 このイノベーションによる生産性向上と働き方改革により、潜在成長率を引き上げ、国民の新たな需要を掘り起こす。さらには、国民の社会生活上の課題は、そのまま世界の課題にも当てはまっていきます。イノベーションによって新しい技術やサービスが実現する。社会的課題を解決する新たな手法が実現する。そして、それを海外に展開して、私たち日本の技術や経済は世界に貢献しようではないかと考えております。

 一方で、国家的課題である少子高齢化を、市場の縮小を、海外の需要を取り込むことによって市場拡大、それが経済の底堅さにつながっていくということもやっていきたいと思います。そのために海外の投資を呼び込む規制改革、行政の手続の簡素化も既に断行しております。我々は思い切ったことをやっていこうとしており、その効果は、まだ国民の前に現れていませんが、やがて、その姿が現れることになると思います。我々は、日本を世界で一番企業が活動しやすい国にするというミッションを掲げて、この分野をやらせていただいております。

 あわせて、この国の潜在的な成長分野として、観光戦略を重視しています。もともと800万人程度だった外国人観光客が今や2,000万人を超えました。外国人観光客による旅行者消費は、2012年に1兆円だったのが、わずか2年ほどで3.5兆円になりました。これを2020年には、4,000万人に倍増し、旅行者消費も8兆円を目指しています。これは日本の外交上の成果とも関連しています。日本の世界に対する信用や信頼を増やしていくこと、日本のイニシアチブが大きくなることによって、日本への関心がさらに高まっていく、そして、日本にもっと観光客が来やすい状況をつくること。それは地方創生とも完全に連携しています。

 今、クルーズ船がブームで日本に来ているのですけが、実は、1度に2隻の大型クルーズ船が停泊できる埠頭がありません。埠頭の整備も地方創生、国土強靱化とも繋がりますが、観光戦略が連携することで国家戦略になっていくと思いますが、これにも対応して参ります。それから、免税店の拡大、ビザの取得要件も含めて、様々なことを進めていきたいと思います。

160621_05.jpg あわせて、農業を強いものにするため、「農業の産業化」を実現しようと考えています。ICTの活用した流通の改革によって、わが国の優れた農産品により海外でも市場を作る実験も始めています。こういったことも含めて国内の農業を強化することはそのまま地方創生に繋がります。地方創生によって、人口の地方から都市への移動が抑制されて自律経済が回復すれば、少子化対策にも繋がっていくだろうと考えております。

 環境やエネルギー技術、高速道路、新幹線なども含めた高速交通体系などわが国の優れた技術の海外展開も進めていきます。エネルギー基本計画を踏まえた省エネ、再生可能エネルギーを最大限導入し、火力発電の高効率化によって、原発依存度を低減させていく。経済成長とCO2排出抑制をいかに両立させるか。バランスの取れたエネルギーミックスもやっていかなければならない。原子力は安全性の確保を前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源と位置付けることを既に定めています。何よりも安全性を最優先することと、原子力規制委員会によって世界最高レベルの新規制基準に適合すると認められた場合は、立地自治体関係者との理解と協力を得つつ、原発の再稼働も考えていきます。

 まだまだ細かく言えばきりがありませんが、いずれにしても、着実な実施が重要です。言ったことは実行する。それによって新しい経済の仕組みを作り、既存の仕組みからあるタイミングで、新しい、人が少なくなっても、働く人が少なくなっても、高齢者が増えても、成長し、自律していくようなこの国の経済を作る。デフレ脱却は至上命題でありますけれども、こうした取り組みに中で実現させていきたいと思っております。



増税延期に伴い、社会保障の優先順位を明確にしていきたい

 社会保障の財源につきまして、消費税引き上げを延期することに対して社会保障の充実をどうするのかということが大きな議論になると思います。これは、給付と負担のバランスを考えれば、10%引き上げを延期する以上、引き上げた場合と同じことが全てできるとは限りません、しかし我々は、最大限努力していくということで、優先順位をつけ、やるべきことを明確にしていきたいと思っています。まずは保育の受け皿の50万人確保、これは平成29年末までで、待機児童ゼロのスケジュールは変えません。介護離職ゼロに向けた介護の受け皿50万人分の整備、これもスケジュール通りやりたいと思っています。保育士や介護職員等の処遇改善、その他の一億総活躍関係の政策、これは実行します。

 どうも誤解されている人がいて、保育士や介護職員の処遇改善等につきましては、消費税増税するしないにかかわらず実現することになっていた計画です。それが今回の延期に伴って影響するのではないかと誤解している人や政党があるので、よくご理解いただきたいと思います。消費税の税率引き上げまでの間、経済成長しながら、我々の努力による果実が生まれて参ります。それから社会保障の効率化を進めるということ、これは既に失業者が減ることによって平成21年度から26年度までで失業給付が0.8兆円減少しています。失業給付が減って、雇用保険の積立が4年分、6兆円積み上がっています。失業補償の効率化を進めながら、財源を確保することもできると思います。生活保護も減少しています。そういう自然増、我々の様々な努力、政策の成果をミックスさせながら、税率を引き上げるまでの社会保障充実は最大限の努力をしていきたいと考えています。

160621_01.jpg

少子化対策の前提は、自立した地域をつくり都市への流出を止めること

 加えて、私たちが最もやらなければいけないのは少子化対策、人口減少対策です。これは複合的な解決策が必要だと思いますが、その大前提にあるのは、地方がさびれ、地方から大都市への人口流出が止まらない、ということです。マクロ経済がいくら大きくなっても、1つひとつの地域に、自分たちが住んでいる地域でその恩恵を実感できなければ、人はみな経済の活性化している大都市に移っていってしまいます。私たちがやろうとしている地方創生は、地域の自立、地域の活性化、地域の新しい産業の樹立、地域における教育や医療、福祉の提供、さらには防災対策。それらをすべて加味した中で、それぞれの街に住み、生活していける地域経済をつくることです。

 私は総務省にいて、総務大臣、地域活性化担当大臣とともに、地方分権改革担当と国家戦略特区担当の内閣府特命担当大臣を務めました。国家戦略特区は、新しく法律、コンセプトから全て私たちで作りましたが、地方自治と国の施策を連携させようとしてできたのが地方創生です。私は、アベノミクスを推進する中で、自分たちの街でどう実現できるのかをテーマにすべきだと思います。そして地域の活性化のなかで有効なのは、ICTによるイノベーションなのです。すばらしい地域の仕事は海外展開もできるのでは、ということを考えました。今後も地方創生を徹底して追求していく。地方創生はあらゆる政策の受け皿になっていくものだと考えています。同じように防災対策があります。それぞれの地域が安心して住める地域、便利であり、安全が確保されている地方を作ることも、定住の一環として重要になってくると思います。その意味で国土強靭化とあいまった政策をやっていこうということです。

 今度の選挙の公約パンフレットでは、そのなかに、「GDP600兆円の実現を目指します」、「1億とおりの耀き方を支援します」、「地方創生の実現を目指します」、「災害に強い国づくり」と掲げており、こういう中で、日本を力強く前に進めていきたいと考えています。

1 2