【論文】雇用の創出と日本の体質改革

2003年11月07日

shimada_h020425.jpg島田晴雄 (内閣府特命顧問、慶應義塾大学経済学部教授)  
しまだ・はるお

1965 年慶應義塾大学経済学部卒業。70 年慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。74 年ウィスコンシン大学博士課程修了。慶應義塾大学経済学部にて助手、助教授を経て、82 年より教授。2000 年より東京大学先端科学技術研究センター客員教授兼任。01 年9月からは内閣府特命顧問として、小泉政権の政策を補佐。専門は労働経済学、経済政策。主な著書は「明るい構造改革...こうすれば仕事も生活もよくなる」。

概要

民間から政府に入った慶応大学教授の島田晴雄氏が小泉総理に提案した「530万人雇用創出計画」は、実際に動き出すまでに2年もかかった。「安心ハウス」や「子育てセンター」などのアイデアを提唱し、実際に政府の中で日本の体質改革に向けた挑戦を続けてきた同氏が、雇用問題の背景にある日本経済の大転換にも触れつつ、日本の政策決定メカニズムの問題の本質や、小泉改革のなかでの雇用計画の達成度を自己評価する。

要約

小泉政権に入って「530万人雇用創出計画」などを提唱した私の経験は、日本の政策決定メカニズムの問題点や課題を考える上で参考になるだろう。まず、小泉内閣に対する評価については、小泉総理は戦後の日本のあり方を今大きく変えようと強い決意で臨んでおり、その焦点は公共部門の改革であり、小さい政府の実現である。北朝鮮問題も含め、歴代総理ができなかったことをしており、限られた権限の中で最大限の問題提起をしてとにかく頑張っていることを評価したい。私は「自分なら出来るか」という評価基準で考えており、私にはとても出来ないことをしている総理への評価は高くなる。雇用創出計画については、雇用とは生産活動の派生需要であり経済そのものだという認識が必要だ。日本経済は今、戦後50年の大成功モデルが歴史的役割を終えて大転換を迎えており、次の21世紀型の繁栄モデルを描き出さなければ自己収縮して自滅してしまうだろう。そこにはケインズ政策は一切効かず、新しい経済構造や産業群を生み、成熟国として高齢化しつつある国民の最終需要が主導する国に転換するしかない。その中で新たに530万人の雇用を作り出すことは日本の死活問題だ。その具体策を色々と提唱したが、例えば、供給者側でなく生活者を原点とした「安心ハウス」(補助金がなく経営形態は自由で、年金程度のお金で入れる)は、今や次々と手を挙げるところが出てきているが、これは従来の老人福祉行政の壁を突破したものだった。企業の施設を活用するネットワーク型の「子育てセンター」の創出には、戦後にできた古い法律の壁を破る必要があった。どの政策も実現に非常に時間がかかったが、総理が動けば役所は直ちに動くのであり、私なりの工夫で霞ヶ関の協力体制を樹立できた。雇用イコール経済であり、国民が幸せになるサービスを提供する生活産業の創出という「明るい構造改革」に向けて、日本の体質改革をしていくことが、日本を花開かせることになるだろう。


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民間から政府に入った慶応大学教授の島田晴雄氏が小泉総理に提案した「530万人雇用創出計画」は、実際に動き出すまでに2年もかかった。「安心ハウス」や「子育てセンター」などのアイデアを提唱し、実際に政府の中で日本の体質改革に向けた挑戦を続けてきた同氏が、雇用問題の...