2012年総選挙 マニフェスト評価 総論

2012年12月09日

言論NPOマニフェスト評価:総論

 2012年12月16日投開票の第46回衆議院選挙には12の政党が立候補者を届け出ている。
 この中で言論NPOが評価の対象に選んだのは、民主党、自由民主党、公明党、日本未来の党、日本維新の会、みんなの党、国民新党、日本共産党、新党大地、社会民主党、新党日本の12党の政権公約である。
 ただ今回、私たちはこの12党の政権公約をそのまま評価するのではなく、各党の政権公約の作り方自体を6つの点から吟味し、政党が今回の選挙で本気で国民に向かい合い、国民との約束として公約を提起しているのか、その基礎評価を行うことにした。

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なぜ「マニフェスト評価」に「基礎評価」を導入したのか

 マニフェストは、政治が国民に向かい合うための道具であり、約束が基本である。政党の自己主張や思いつきのような意見を公約とすることを有権者はこれ以上許すべきではないと、私たちは考えた。
 選挙とは有権者が自分たちの代表となる政党や政治家を選ぶことであり、その際に政党のマニフェストを判断して有権者は投票し、次の選挙ではその実績に対する評価を投票という形で行うことになる。こうした民主主義のサイクルが回ることが、私たちが希望していることである。
 評価基準に基づいて曖昧な公約を評価すると、点数が付けられず極めて低い点数になってしまう。むしろ民主政治を機能させるためには、そうした党の公約を評価することはできないと宣言すべきと判断した。
 そのため、今回、簡単な審査を行い、各党の公約の「マニフェスト度」を測るための基礎評価を導入することにした。
 その審査は極めて単純なものである。詳しくは別図のコラムを参考にしていただきたいが、「公約集の書き方」と、「公約の書き方」の二つを簡単にチェックすることで、政党が国民に本気で向かい合っているのか、つまり"マニフェスト度"を判定するものである。
 まず「公約集の書き方」だが、その表紙に「マニフェスト」あるいは「国民との約束」と書いてあるのか、さらに電話帳のような公約集ではなく取り組む政策が絞り込まれているのか、その内容は日本が直面する課題に見合っているのか、など5つの基礎的なチェック項目で判断している。
 その5項目のチェックは点数化され、その半分を上回ることがここでは求められる。しかし、それだけで「公約」が約束として認められるのではない。「公約の書き方」も当然問われることになる。その公約が有権者から見て測定可能なものか、である。
 政党が掲げる公約が国民の約束となるためには、後からその「公約」が実行できたのか、も有権者が判定できるものでなくてはならない。そのためには「公約の書き方」に一定の基準が必要となる。私たちがここで求めるのは、その「公約」を実現するための財源や数値目標や達成期限の明記である。
 私たちは、最低でもこの財源や数値目標や達成期限の一つでも書き込まれている「公約」が全「公約」数の一割以上になっていないと、国民との約束、つまり、マニフェストとは言えない、と考えた。この一割という水準自体大甘であるが、そこまで条件を緩めないとクリアできる政党は姿を消してしまうほど、今回の公約は約束として形骸化しているのである。
 そして、私たちは、この「公約集」と「公約」の二つの書き方で基準を乗り越えた政党を国民にある程度は本気で向かい合う姿勢がある政党と判断させていただき、マニフェスト評価のプロセスを進めることにしたのである。


マニフェスト評価を行ったのは民主、自民党などの5党

 私たちは当初、すべての政党は簡単にこれらの基準をクリアできるものと考えていた。しかし、それをクリアできたのは、民主党、自民党、公明党、日本未来の党のわずか4党しかなく、しかも下図のようにギリギリの合格である。
 今回、私たちがマニフェストの評価を公表するのはこの4党と日本維新の会の5党である。日本維新の会の公約はこの基礎評価をクリアできず、国民との約束とはいえないものではあるが、党首の個性などで高い支持率を得ていたことから、有権者の参考として評価を行うことにした。
 次の図は、12党の"マニフェスト度"を測る基礎評価の結果を示している。
 「公約集の書き方」では、民主党、自民党、日本未来の党、公明党、みんなの党、新党改革が5つの基準をクリアしたが、みんなの党と新党改革は「公約の書き方」で10%以上の基準をクリアできず、外れた。
 その結果、この基礎評価をクリアしたのは、民主党、自民党、日本未来の党、公明党の4党となったのである。

12党の「基礎評価」結果

日本の政党は国民に本気で向かい合っているか
 
 政党
公約集から見る
"本気度"
公約集の中味から見る
"本気度"


公約自体の"本気度"
※数値目標、達成時期、財源を明記した公約の割合※1
約束度
※2
ガバナンス度 ※3
絞り込み度 ※4
課題への誠実度※5
正直度
※6
 民主党
11 12.3%
 自由民主党
11
11.0%
 公明党
22.6%
 日本未来の党
10.8%
 日本維新の会
10.4%
 日本共産党
20.9%
 みんなの党
9.0%
 社会民主党
7.9%
 新党大地
15.8%
10
 国民新党
11.9%
11
 新党改革
2.9%
12
 新党日本
0.0%


※1.公約自体の本気度(%):各政党のマニフェストの公約のうち、数値目標または達成時期、財源のうち一つでも明記されている公約の数をマニフェストの全ての公約の数で除したもの。
※2.約束度:マニフェストの表紙に、「マニフェスト」あるいは「国民との約束」と書かれているものは3点、そうではなく単なる「約束」と書かれているものは1点、約束に関する表現がないものは0点。
※3.ガバナンス度:マニフェストに党首1人の顔が掲載されていれば3点、そうでなければ0点。
※4.絞り込み度:重点項目について、0~5個が2点、6~10個が1点、11個以上が0点。
※5.課題への誠実度:言論NPOの有識者アンケートから抽出した6つの課題(財政再建、経済の成長戦略、社会保障制度改革、エネルギー政策、外交・安全保障、民主主義の制度改革)に関してマニフェストで積極的に取り組む姿勢がどの程度見られるかによって0~2点を配点。
※6.正直度:消費税引き上げに関する記載があれば2点、消費税の記載がなく、それに相当する負担を公約として記載していれば1点、負担に関する記載がない場合は0点。

ここで5つの各基準について説明する。

表紙(裏表紙)から見る"本気度"

 【約束度】
 まず、「表紙(裏表紙)から見る"本気度"」の「約束度」については、表紙(或いは裏表紙)に「マニフェスト」や「国民への約束」と表記をしているものを3点とした。マニフェストは国民に向かい合う政治を作り出すための道具であり、この点を各政党が理解しているかどうかを判定した。それは、政党というものは、日本が抱える課題の解決のために、「何を実現するのか」を有権者に対して説明する必要があるからである。単にアジェンダを表記したり、自党の主張を述べているだけの政党のマニフェストは国民に向かい合っていないという判断で1点或いは0点となった。

 【ガバナンス度】
 次に、「ガバナンス度」については、マニフェストに党首の写真があるかと点を評価した。(ある場合は3点、ない場合は0点)。党首の顔写真があるかどうかは、政党が党首を中心に動いているかどうかを示している。衆議院議員総選挙時のマニフェストはある意味では自党の党首を首相にするための公約である。マニフェストに党首の写真を掲載していない場合、党内でガバナンスが働いていなかったり、党が1つにまとまっていないことを意味する。
先の民主党政権は党内が政策を軸にまとまっていない選挙互助会に過ぎず、よって党首が3年間で3回も交代し、離党者が相次ぐ事態となったため、マニフェストで掲げた政策のほとんどが実現しなかったのである。

中味から見る"本気度"

 【絞り込み度】
 加えて、「中味から見る"本気度"」については、各党のマニフェストの内容から簡単に政党の「本気度」を判断することができる。
  まず、「絞り込み度」であるが、電話帳のようにただ政策を列挙しているのではなく、政党のマニフェストが日本の主要課題に政策を絞り込んで本気で実現しようとしている姿勢を判断した。ここでは、書かれている政策が1~5個の場合は2点、6~10個の場合は1点、11個以上の場合は0点とした。

 【課題への誠実度】
  そして、その絞り込んでいる政策が日本の主な政策課題に見合っているのかを判断したのが次の「課題への誠実度」である。日本が抱える主な課題というのは、経済成長、財政再建、原発の是非を含めたエネルギー政策、社会保障、国会改革や民主主義のあり方、そして外交・安全保障の6つの分野であり、これは言論NPOが9月に行った有識者アンケートでもこれら6つが上位に挙げられている。各政党がマニフェストに打ち出している政策がこれら6つの課題に応えるものなのか判断した。

 【正直度】
 最後は「正直度」である。これは構造改革、消費税の引き上げや社会保障制度の見直しなど各政党が国民へ負担を問うことから逃げていないかどうかを判断した。有権者に対し、負担になる政策、又は痛みの伴うものをマニフェストに書いている、もしくは書こうとしている姿勢を判断するものだが、結果としてどの政党も負担を問うことを避けており、ここでは2点満点の政党はなかった。


言論NPOのマニフェスト評価結果について

 言論NPOのマニフェスト評価は上記のように、民主党と自民党、公明党、日本未来の党、そして参考の日本維新の会を加え、5党で行っている。これらの点は100点満点で示され、11の政策分野を言論NPOが定める形式要件と実施要件の二つの評価基準、8つの評価項目で評価を行い、総合点は11の分野の平均点で示している。 (評価基準に関しては、2ページを参照)。

 この形式要件は公約のチェック可能度を測るものである。公約が約束として機能するためには、有権者がその実行を測定できるものでなくてはならず、そのためには明確な目標設定や達成の期限、財源、目標達成までの工程や政策手段が描かれる必要がある。

 さらに、それらの公約は日本が直面する課題の解決案になっていなくてはならず、約束として掲げた課題やその課題の解決策の妥当性やそれを実行するためのガバナンスが問われることになる。それが実質要件による評価である。

 私たちは、この5党の公約をこの評価基準に基づいて、①経済政策、②社会保障、③財政再建、④原発・エネルギー、⑤外交・安全保障、⑥市民社会、⑦震災復興、⑧教育、⑨農業、⑩地方、⑪一票の格差などの政治改革の11分野で評価を行った。

 評価作業には、すでに公表している評価委員を中心した専門家、約20人が参加した。

主要5政党のマニフェスト評価結果(総合点)
民主党のマニフェスト評価 総論 自民党のマニフェスト評価 総論 公明党のマニフェスト評価 総論 日本未来の党のマニフェスト評価 総論 日本維新の会のマニフェスト評価 総論
総合点 総合点 総合点 総合点 総合点
32/100 39/100 28/100 7/100 16/100
形式要件 実質要件 形式要件 実質要件 形式要件 実質要件 形式要件 実質要件 形式要件 実質要件
16/40 16/60 16/40 23/60 14/40 14/60 5/40 2/60 7/40 9/60


※民主党、自民党、公明党、日本未来の党の4党は、言論NPOの実施した基礎評価の結果に基づくもので ある。
※基礎評価とは、5つの指標(約束度、ガバナンス度、絞り込み度、課題への誠実度、正直度)の総合点と 公約の測定可能性に基づき、11党全てを対象にマニフェストが国民との約束になっているかを検証したも のである。
※基礎評価の結果、日本維新の会はマニフェスト評価の対象から外れたが、近年の注目度を考慮して、今 回特別に評価の対象とした。
※総合点とは、各党の11の政策分野を対象としたフェスト評価結果に基づき算出した、形式要件と実質要件の平均点の総和である(小数点は四捨五入)。また、総合点は100点満点、形式要件、実質要件へのそれぞれの配点は、40点、60点となっている。別途、「主要5政党の分野別マニフェスト評価」を参照。



 評価の結果はかなり厳しいものである。11分野の平均点は5党全てが100点満点で40点を下回り、一般でいわれる合格点とは程遠い結果となった。自民党は39点と最も高く、民主党の32点、公明党の28点と続いた。日本未来の党は7点、日本維新の会は16点に過ぎなかった。

 これらの5党の11分野の政策別の評価結果(100点満点)は次図で全て公開させていただいた。

 この11の政策分野ごとの評価では、かなり甘い判断となるが、ギリギリ合格ラインに達していると判断出来るのは、自民党の経済政策の50点、自民党の震災復興の59点の二つのみである。それ以外の大部分の評価は30点台と20点台、さらに一点台に評価が並んでいる。一点台が多いのは未来の党と日本維新の会で、特に未来の党は3分野がゼロ点だった。

 5党の評価を11の政策分野ごとに見ると、5党の平均点が相対的に高かったのは100点満点で「地方分権」の33.2点と「経済政策」の29.6点、「原発・エネルギー」の28.8点だが、いずれも30点台前後に過ぎない。逆に政策別で各党の評価が最も低いのは「一票の格差など政治改革」などの16.6点、「市民社会」が16点であり、二つの分野がわずか十点台の評価である。

 特に今回の総選挙は「一票の格差」の違憲状況下で行われているが、それに対してどのように抜本的に対応するかを公約に掲げた政党は一つもない。


マニフェスト評価結果の3つの特徴について

 今回の総選挙でのマニフェストの評価結果の特徴は以下の3点に要約される。

 第一に政党の公約は国民との約束としての判定できる形式的要件を満たしておらず、またこうした形骸化は今回、民主党政権時と比べかなり悪化しており、それが評価の点数を低めている、ことである。

 この5党の公約集で提起された公約数は685あり、うち財源や達成期限、数値目標の一つでも書かれているものは88(12.8%)しかない。このため、形式要件での評価は低くなり、5党平均ではわずか11.8点(40点満点)に過ぎない。これを前回の民主党政権時と比較するために、自民党と民主党の合計の平均点で見ると、40点満点で09年の総選挙は30点、10年の参議院選時は20点となっており、今回は16.3点とさらに悪化している。

 第二に民主、自民、公明と比べて、新党の公約の評価はかなり低く、国民との約束という視点以前に政策としての完成度は低く、また日本の政策課題に幅広く答えているわけではない。

 また、選挙公示直前に党が立ち上がったり、合併したという事情も反映し、代表と党内の意見が政策をめぐって対立するなど、党内で選挙公約の内容が合意を得ているとは見られず、党内のガバナンス面の欠如から評価を大きく下げる結果になっている。

 日本未来の党と日本維新の会の評価はこうしたガバナンスの問題も影響し、かなり低いものとなっている。この二つの新党と民主、自民、公明の既存の3党を分けると、形式評価では民主、自民、公明の3党平均が15.5点に対して、新党の2党はわずか6.2点、また実質評価では3党が17.8点に対して、新党2党は5.8点と大きく評価で差がついている。

 第三の特徴は、各党の公約は日本が抱える課題に向かっているが、その答えを十分に提起できていないことだ。各党の実績評価の点数が低いのはそのためである。

 言論NPOは先日公表した民主党政権の実績評価で、課題に向かい合わないマニフェストは必ず失敗する、という見解を公表している。つまり、政治家は課題から逃げられないということである。

 私たちが、9月に実施した2000人の有識者を対象に行った選挙の争点に関するアンケート結果では、日本が直面する課題は、原発・エネルギー、社会保障、財政再建、経済成長、外交安全保障、一票の格差などの政治改革の6つだという方が最も多かった。

 5党の公約も大部分がこれらの課題に公約が集中しており、課題の領域に政策が集まり始めたのは評価できるが、どの党も基本的にはその中で解決すべき課題とその解決の方向が不鮮明や抽象的で高得点を得るには至っていない。

 この実質評価で最も高いのは自民党が11分野平均で23点で、民主党の16.4点、公明党の14点を大きく上回っている。11の政策分野を個別にみると、自民党の経済政策と外交安全保障、震災復興は60点満点のうち、30点以上の評価を得ており、課題認識や解決の方向が妥当であると判断した。ただ、他の4党は、11の政策分野の実質評価でこの30点に届いている党はなかった。

 私たちのマニフェスト評価では各分野で、評価の視点を公開している。この評価の視点は課題解決の立場から政治側が国民に説明しなくてはならない、と私たちが判断する問題を提起している。実質評価が低いのはその提起ができていないからである。

 政党の行動は課題に向かっており、課題解決を目指すその姿勢で差が開き始めている。ただ、今回のマニフェストの評価を見る限り、有権者の代表として政党が課題解決で競争し合うという段階に至っていない。

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