言論NPOと東アジア研究院は
「第5回日韓共同世論調査」の結果を公表しました

2017年7月21日

相手国の印象について日本世論では悪化した一方、韓国世論は改善の兆しも
北朝鮮の脅威、米新政権方針など懸念は共有しながらも、
日韓両国、北東アジアの将来については協力の将来像を描けず


 非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2017年7月29日に開催する「第5回日韓未来対話」に先立ち、「第5回日韓共同世論調査」の結果を公表いたしました。この調査は、言論NPOと韓国の東アジア研究院(East Asia Institute, EAI)が2013年から5年継続して毎年共同で実施しているもので、今年は6月中旬から約1ヵ月かけて実施しました。

 報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひご報道いただきたく、お願い申し上げます。

 日本人の韓国に対する印象は前年に比べ再び悪化に転じたが(44.6%→48.6%)、韓国人の日本に対する印象は昨年に引き続き僅かながら改善が見られる(21.3%→26.8%)。本調査を開始した2013年からの5年間の経年変化のデータで見ると、相手国に対する印象が日本世論は悪化したままの状況が続いているが、韓国世論は徐々に改善している。

 日韓が直面している最大の脅威である、北朝鮮の核問題について、両国民とも約7割が北朝鮮の核開発問題の解決は困難と考えている。また、北朝鮮に対する軍事攻撃の可能性については、日本人では「起こる」が4割を超えているが、韓国人では「起こらない」が4割を超え、「起こる」よりも多い。一方で、韓国人で自国の核武装に「賛成」する人は7割近くにまで増加している(59%→67.2%)。

 こうした状況の中で、共に協力すべき日韓の二国間関係の現状については、両国ともに厳しいという見方が多いが、今後の日韓関係については、日本側ではこの厳しい状況のまま「変わらない」、という見方が多いものの、韓国側では「良くなっていく」という見方が増加している。日韓関係の重要性については、韓国人の9割が「重要」と考えている。日本人でも6割が日韓関係を「重要」と考えているが、その割合は5年前からは減少している(2013年73.6%→2017年64.3%)。

 北東アジアの安全保障情勢が厳しくなる中、両国の同盟国である米国に誕生したトランプ新政権の行動については、「支持しない」という声が約7割である。特に、韓国では、「米韓同盟」に影響を及ぼすと考えている人が7割を超えている。


 この調査結果を踏まえ、言論NPOとEAIは共同で「第5回日韓未来対話」を7月29日(土)に国連大学で開催し、両国の有識者が、両国が新政権下での日韓関係、北東アジアや世界の課題に対してどのような役割を担っていくべきなのか、どのような将来像をお互いに描けるのかなど、公開の場で議論を行います。

 調査結果は、言論NPOウェブサイトで、7月21日(金)16時以降公開いたします。また、「第5回日韓未来対話」の概要・お申込みについては、こちらをご覧ください。

「本件に関してのお問い合わせ先
電話:03-3527-3972 FAX:03-6810-8729
担当:言論NPO事務局 宮浦・西村




相手国に対する印象、日韓関係の評価

韓国人の日本に対する印象は改善―直接交流の増加が背景か

・日本人の韓国に対する印象は前年に比べ再び悪化に転じたが(「良くない印象」 44.6%→48.6%)、韓国人の日本に対する印象は昨年に引き続き微増ながら改善が見られる(「良い印象」 21.3%→26.8%)。調査開始時2013年からの5年間の経年変化で比較すると、相手国に対する印象について日本世論は悪化した状況が続いているが、韓国世論は徐々に改善傾向にある。
・また、「歴史問題」と「領土をめぐる対立」が両国民の相手国の印象に悪影響を及ぼしている。一方、「良い印象」の理由では、日本人は韓国の現代文化を、韓国人は日本人の国民性を挙げる人がそれぞれ最も多い。韓国世論については、日本への渡航経験ありと回答している層については、半数に近い国民 が「良い印象」を持っている結果が出ており、直接交流の拡大が印象の改善につながっていることが見られる。日韓両国民の7割近くが国民感情の現状を「望ましくない状況であり、心配している」、「問題であり、改善する必要がある」と認識し、そう判断する人は昨年より増加している。
・日韓関係については、前年と変わらず約6割の両国民が「悪い 」と考えている。また、今後の日韓関係を尋ねた設問では、約5割の両国民が「わからない」と回答しており、将来の二国間関係の姿を描けないでいる一方で、韓国民には日韓関係は「良くなっていく」という前向きな見方が増えている。
・相手国の重要性について、韓国人の9割が「重要である」 と回答したが、一方で日本人で韓国が「重要である」と答えた人は前年と変わらず6割しか存在せず、2割が「わからない」と回答している。


両国民で日韓慰安婦合意への否定的な見方が高まる

・日韓慰安婦合意について、日本人は「評価する」が昨年同様4割を超えているが、昨年からは減少した。韓国人はこの合意を「評価しない」人が、昨年から18ポイント増加して半数を超えている。また、日本人の5割、韓国人の7割が、日韓合意によっても慰安婦問題は「解決していない」と考えている。
・加えて、日本人の半数は、韓国人の中でこの日韓合意に不満を持つ人が多いことを、「理解できない」としており、日韓合意の履行を韓国に求めている。韓国側の意見を取り入れて、合意内容を修正すべきと考えている人は1割に満たない。


文在寅新大統領の印象-日本世論はまだ評価できず

 今年誕生した、韓国の文在寅新大統領の印象について、日本世論のほとんどは評価できないという意見が多い。(「どちらともいえない」31.9%、「わからない」27.6%)一方で、韓国国民は、昨年と変わらず約8割が安倍首相に対して「どちらかといえば悪い印象」・「悪い印象」を持っている。


北朝鮮の脅威、北東アジアの将来、核武装の賛否

北朝鮮の核問題-両国民7割が「解決困難」と回答、「さらに緊張が高まる」との見方も増加

・日本と韓国の両国民とも約7割が北朝鮮の核開発問題の解決は難しいと考えている。日韓両国で、10年後の朝鮮半島は「北朝鮮の動向によって緊張が更に高まる」ことを予想する見方が増加している。
ただ、韓国には、北朝鮮の核問題が「10年後には解決すると思う」と期待する人が、約2割存在する。


韓国民4割―軍事行動は「起こらない」

・軍事行動については、日本人の4割が「起こる」と考えているに対し、韓国では4割を超える人が、
軍事行動は「起こらない」とみている。北朝鮮の核開発を止めるための有効な方法としては、日本人は「中国の積極的な役割」と「米朝の直接対話」を挙げているが、韓国人は「六者会合などの外交努力」と「制裁強化」を選ぶ人が多い。軍事行動を有効だと考える人は、両国民ともに1割に満たない。

「良くない印象」「どちらかと言えば良くない印象」の合計
「良い印象」「どちらかと言えば良い印象」の合計
「良い印象」「どちらかと言えば良い印象」の合計
「悪い」「どちらかと言えば悪い」の合計
「どちらかと言えば重要」も含める


日本の核武装-両国民7割が反対

・両国民の7割を超す人が、日本の核武装に「反対」している。ただ、昨年と比べるとわずかだが、「賛成」が日韓両国で増加している。韓国が核武装することに対しては、日本人は8割近くが「反対」しているが、韓国では7割近くが「賛成」しており、「賛成」する人は昨年よりも増加している。


トランプ大統領・新政権下の対米関係への認識

日韓両国民の多数が同盟国である米トランプ大統領を支持せず

・日本人の6割超、韓国人の7割超が、自由貿易や多国間主義に対して後ろ向きなトランプ大統領の言動を支持していない。また、トランプ政権の行動が北東アジアに及ぼす影響に関して、両国民ともに「北朝鮮の核開発問題などの安全保障問題」を懸念している。


トランプ政権の二国間同盟への影響-日韓の認識で大きな差が

・対米同盟関係について、「日米、米韓などの同盟問題」について懸念しているのは、韓国では7割と多いが、日本では3割程度と認識の差が見られる。トランプ政権が懐疑的な姿勢を見せる世界の課題に関する多国間協力の重要性については、両国民ともに8割前後が「大切だと思う」と回答しており、この点では認識は一致している。


「第5回日韓共同世論調査」概要

 日本側調査は、全国の18歳以上の男女を対象に6月17日から7月2日まで、訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1,000です。回答者の最終学歴は小・中学校卒が8.3%、高校卒が46.5%、短大・高専卒が19.1%、大学卒が22.2%、大学院卒が1.8%でした。これに対して、韓国側の世論調査は、全国の19歳以上の男女を対象に、6月11日から6月29日の間で実施され、有効回収標本は1,003で、調査員による対面式聴取法によって行われました。


言論NPOが進める「言論外交」とは

 北東アジア地域では、大国間のパワーバランスが変化する中で実際に紛争の危険性が生じ、本来それを解決すべき政府間外交が、各国世論のナショナリズムの影響を受け機能しない状況が続いています。言論NPOでは、「この状況を誰が解決するのか」という問題意識から、北東アジアの平和的な秩序形成に向け、有識者による公開型の議論を発信し、世論を改善させることで政府間外交の環境を作り出す「言論外交」のアプローチを提唱・実践しています。
 2005年に言論NPOが北京で設立した「東京-北京フォーラム」は、政府外交が停止した際にも一度も途絶えることなく毎年開催され、日中間の最も信頼できる民間対話のチャネルとして定着しています。第9回フォーラム(2013年)では、尖閣問題で両国関係が最悪の状況に陥る中、両国の民間レベルで「不戦の誓い」に合意し、両国と世界に発信しました。加えて、2013年からは韓国との間で「日韓未来対話」を、2015年からは米国を交えた「日米中韓シンクタンク対話」を開催し、対話の枠組みを北東アジア全体に広げています。  
 これらの対話の模様や、対話に先立って実施される世論調査の結果は、域内各国や世界の多くのメディアやシンクタンクで引用され、各国世論に強い影響力を与えています。


「日韓未来対話」「日韓共同世論調査」とは

 「日韓未来対話」は、言論NPOと東アジア研究院(EAI)が2013年に創設した、日韓間で唯一の課題解決型・公開型の民間対話です。日韓関係は、両国世論のナショナリズムの高まりや相互認識の不足を背景に停滞しており、北東アジアの平和環境構築の障害になっています。この対話は、世論調査で国民の認識の動向を絶えず把握しながらオープンな議論を行い、その成果を発信することで世論を動かし、政府間外交の環境を作り出すことを目的としています。
 一昨年は、日韓国交正常化50周年の節目を前日に控えて東京で「第3回日韓未来対話」を開催し、「日韓関係はなぜ重要なのか」を中心に議論を行いました。歴史問題をめぐる相互の主張が目立った過去2回とは異なり、両国に共通する未来の課題に協力して取り組むべきだという指摘が相次ぎ、未来志向の日韓関係を目指す議論の先駆けとなりました。


【言論NPOとは】

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして12年間継続しています。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信しています。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。

【東アジア研究院(EAI, East Asia Institute)】

 東アジア研究院は、地域が抱える問題について政策提言を行うことを目的に、独立シンクタンクとして創設しました。研究者セミナー、フォーラム、教育プログラム、そして多様な出版物を通じて影響力のある成果を生み出しています。東アジア研究院の調査活動は、外交安全保障プログラム、ガバナンス研究プログラムの二本柱から成り、これらのプログラムが5つの研究センターよって行われています。また、研究タスクフォースを用いて、喫緊した重要な問題にも取り組んでいます。卓越した研究者と政策立案者が協働し、東アジア研究院は革新的で政策論議を反映した研究成果を想像する中心に立っています。韓国で卓越した研究所の一つとして、米国、中国、台湾、その他多くの国々との共同研究を通じ、北東アジアにおける知識ネットワークを創造しています。