安倍政権の実績評価11分野の平均点は2.4点(昨年2.7点)に下落~全体的には総じて高い点数を維持しているも、各分野は下落傾向にある~

2017年10月13日

 非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、衆議院選挙まで10日を切った10月13日、安倍政権の4年9カ月の実績評価結果を公表しました。こうした実績評価は、言論NPOが2004年より一貫して、選挙の際に独立・中立の立場で実施し、有権者に判断材料を提供するために公表しているものです。

 報道関係者の皆様には、こうした取り組みをぜひご取材・ご報道いただきたく、お願い申し上げます。なお、分野別の評価結果については、次ページ以降、ならびに言論NPOホームページをご参照ください(ホームページでは13日深夜に公開予定)。また、代表・工藤への個別取材も随時お受けしております。

【安倍政権実績評価結果の推移】(全11分野の平均)

安倍政権 4年9ヵ月
安倍政権 4年
安倍政権 3年
安倍政権 2年
安倍政権 1年
2.4下
2.7点
2.7点
2.5点
2.7点
 安倍政権が発足から4年9カ月の実績評価、11分野の平均点は5点満点で2.4点となり、昨年末の4年評価の2.7点に比べて0.3点下がりました。昨年より評価が下がったのは、財政分野(0.7点)政治・行政・公務員制度改革(0.4点)を始め7分野に及びました。

 今回、点数が下がった大きな要因として、安倍首相が2020年の基礎的財政収支(PB)黒字化目標達成を断念したこと、PB黒字化自体は堅持したものの具体的な目標時期や達成方法など展望を示せなかったことが挙げられます。また、第二次安倍政権が当初から掲げていたアベノミクスの数値目標については、4年9カ月経過した現在でも達成の目途が見えない状況は評価を下げました。

 さらに、これまで高得点で推移していた外交・安全保障の分野について、トランプ米大統領の登場やイギリスのEU離脱などを受けて世界が混乱する中、安倍首相が既存の世界秩序を守るためにリーダーシップを発揮していることは評価しつつも、南スーダンにおける国連PKO活動からの撤退、日報隠蔽など自衛隊のガバナンスの問題などから評価は下がりました。

 今回の評価を歴代政権と比べると、4年9カ月たった今も高い水準で推移しています。

言論NPOの評価について

 言論NPOの実績評価は、選挙の際に独立・中立の立場で実施し、有権者に判断材料を提供するために行っています。2004年より継続して行っており、今回の評価は11回目となります。今回の評価は、2012年・2014年の衆議院選挙、2016年の参議院選挙、その他、安倍首相の施政方針・所信表明演説をベースに安倍政権が重要視している公約内容を選定し、専門家の座談会、ヒアリング、アンケートなどを通じて評価作業に参加し、それらを総合して評価を行いました。
 近日中に、300人を超える専門家が判断する安倍政権の通信簿を公表する予定です。


「安倍政権5年の通信簿」各分野の評価結果はこちら

経済再生
・安倍政権成立後4年9カ月が経過したが、現時点で各種数値目標は達成できておらず、今後も達成が非常に難しい状況。
・「新3本の矢」の目標や働き方改革に乗り出したことは、日本が直面する課題を認識していると評価できるが、そうした目標や改革が達成できるかは現時点で判断できない。
政策評価数11(評価全文)

2.6下
4年評価:2.7点
3年評価:2.8点
2年評価:2.8点
1年評価:3.2点

財政
・内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」でも、既に基礎的財政収支(PB)目標は達成不可能な状況だった。さらに、消費税の10%への引き上げ時の使途変更により、2020年のPB黒字化目標の達成を断念した。
・基礎的財政収支の黒字化を財政健全化目標として堅持することは表明したが、その目標時期やどのような方法で行うかは示されず、低評価となる。
政策評価数2(評価全文)
2.0下
4年評価:2.7点
3年評価:2.25点
2年評価:2.0点
1年評価:2.7点
社会保障
・社会保障を「全世代型」に転換したことは評価できる。ただ、「全世代」に対応していくための財源をどう確保するのか、さらに、2025年頃に社会保障給付費が急拡大する中、その負担を誰が担うのか、そうした展望は全く示されていない。
・2017年で国民年金保険料、厚生年金保険料率の引き上げが完了した。一方、今年度もマクロ経済スライドは発動されなかった(2015年度のみ発動)。法改正で2016年12月に「賃金・物価スライド」の見直し等、マクロ経済スライドの強化を行ったことは一歩前進と言えるが、年金財政の持続可能性を高めるためには、デフレ下でもマクロ経済スライドを実施する必要がある状況であり、今回の見直しは一定の評価ができるものの、さらなる改善の余地がある。
・国民健康保険の運営主体が市町村から都道府県に移管されることは評価できる。しかし、保険料の格差やマクロ的な保険財政がどのように改善されるのかは現段階では判断できない。
政策評価数6(評価全文)
2.3下
4年評価:2.4点
3年評価:2.25点
2年評価:2.0点
1年評価:2.3点
外交・安保
トランプ米大統領の登場やイギリスのEU離脱などを受けて世界が混乱する中、安倍首相は既存の世界秩序を守るためにリーダーシップを発揮していると評価できる。また、北朝鮮の核・ミサイル実験や中国の台頭により北東アジアが不安定化する中、強固な日米関係を構築できていることや、国連制裁決議に基づき、北朝鮮に対して国際的な圧力強化に貢献していることは評価できる。
しかし、南スーダンにおける国連PKO活動からは撤退。国会論戦では、日報隠ぺいなど自衛隊のガバナンスの問題についての議論が主となり、国際平和協力のあり方についての議論は深まらず、安倍政権が掲げる積極的平和主義の核心も依然として明らかになっていない。
政策評価数8(評価全文)
3.3下
4年評価:3.4点
3年評価:3.6点
2年評価:3.2点
1年評価:3.1点
エネルギー・環境
・2015年の「長期エネルギー需給見通し」で定めた2030年の電源構成のベストミックスは、原発の新増設や廃炉年限の延長なくしては達成不可能な目標であり、現時点の再稼働のではその達成は非常に困難である。しかし、「エネルギー基本計画」の改定に向けた議論では、経産省はベストミックスの見直しをしない方針を示しただけで、何の対策も打ち出していないし、説明もしていない。
・温暖化対策に関しては、閣議決定した2050年の温室効果ガス80%削減と2030年のベストミックスを両立させるためには、電源のゼロエミッションを実現するなど、様々な技術革新が必要だが、ウエイトが高い火力発電での二酸化炭素貯留への動きが見えず、炭素税も政府で調整がついていない。パリ協定には参加したが、現状ではその実施に、積極的に貢献できる方向が見えない。
政策評価数4(評価全文)
2.3下
4年評価:2.5点
3年評価:2.2点
2年評価:2.0点
1年評価:2.6点
地方再生
・「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において地方に若い世代の雇用創出、東京圏から地方への転入超過などの目標が示され、自治体による総合戦略も策定されたが、現時点では目標達成は非常に困難と言わざるを得ない。
・企業版ふるさと納税や地方創生推進交付金などの仕組みはできたが、各自治体のこれからの取り組みによるところが大きく、現時点では判断できない。
政策評価数2(評価全文)
2.5
4年評価:2.5点
3年評価:2.4点
2年評価:2.0点
1年評価:2.2点
復興・防災
・復興予算の確保は図られ、住まいなどの再建は進んでいるが、産業復興は途上。
・避難指示解除は順次なされているが、生活基盤の整備はまだまだ不十分。一方で、帰還困難区域への復興拠点整備については、2020年後の計画が含まれているが、復興期間や予算との整合性が取れておらず実現できるかは判断できない。
・福島第一原発の廃炉については、工程がさらに延期され、今後の費用負担も拡大する可能性が高く、当初の想定を上回っている。こうした遅れや負担増について、政府は十分な説明をしてない)
政策評価数5(評価全文)
2.4 同じ
4年評価:2.4点
3年評価:2.3点
2年評価:2.8点
1年評価:3.3点
教育
・10回目を迎えた学力テストでは、上位県と下位県の差が縮まりつつある。一方で知識応用力に課題が見られるという傾向は例年通りであり、「指導改善」という目標は十分に達成されていない。道徳教育の教科化は進捗しているが、そもそも道徳教育の目標が明らかではない。
・高大接続システム改革は、新テストの実施方針が固まるなど進捗しているが、これによって子どもたちに「学力の3要素」が本当に身に付くかは現段階では判断できない。
・18歳人口の減少が2018年から本格化する中で、定員割れや質の高い教育サービスが提供できない大学もあるが、戦略的な大学改革は始まったばかりで、円滑な撤退などの制度枠組みもできていない。大学教育への機会均等や就学支援は供給改革とのセットで行うべきものだが、そうした全体像が描かれていない。
政策評価数4(評価全文)
2.8
4年評価:2.8点
3年評価:2.8
2年評価:2.9点
1年評価:3.0点
農林水産
・「農林水産物・食品の輸出を2019年1兆円」目標について、年々伸び率は鈍化しているものの、様々な取り組みを行っている。ただし、現時点で目標達成の判断は難しい。
・2018年度産を目途に減反は廃止されることになっているが、飼料米の補助金増額による転作、都道府県から市町村、市町村から農家への数量目標の配分の仕組みに言及されていない。政府は改めて「減反」の定義を国民に説明する必要がある
・土地改良法の改正など、農地バンクを利用しやすい仕組みは整えつつあるが、農地バンクを利用すること自体が、目的化しており、現状のままでは当初の目標は達成困難である。
・各農協が行う改革を後押しするという姿勢は評価できるが、そもそも、日本の農業政策全体の絵姿の中での農協改革というものが打ち出されていない。
政策評価数4(評価全文)
2.3下
4年評価:2.4点
3年評価:2.6点
2年評価:3.2点
1年評価:3.3点
政治・行政・ 公務員 制度改革
・選挙制度改革では、衆院選挙区で「一票の格差」是正のための措置を取ったが、抜本改革は2022年以降であり、現段階で「よりよい選挙制度改革」が実現するかどうかは判断できない。
・公務員制度に関しては、2014年の内閣人事局の設置により改革は実現したかに思えた。しかし、今年に入り文科省で組織的な天下りが発覚。さらに加計学園事件や森友学園事件をめぐって、官僚人事に関する権限が官邸に集中する内閣人事局の構造が、いわゆる「忖度」に結びついたのではないか、との疑惑が浮上したが、それに対する政府の説明は十分ではない。こうした状況では、内閣人事局そのものに対する信頼も揺らぎかねない状況となっており、これまでの公務員制度改革が果たして適正なものであったのかも判断できない。
・行政改革については、「真の行政改革」が何を意味するのか、曖昧なままであるが、それに対する説明は何らなされていない。
政策評価数3(評価全文)
2.3下
4年評価:2.7点
3年評価:2.7点
2年評価:3.0点
1年評価:2.7点
憲法改正
・5月に安倍首相が「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と表明したことを受け、自民党憲法改正推進本部では、「9条への自衛隊の明記」、「教育の無償化・充実強化」、「緊急事態対応」、「参議院の合区解消」の4項目について検討が行われてきた。しかし、衆院解散を受けて党内の議論は止まり、現段階では今後どのような工程で憲法改正に進むのかは見えない状況である。また、他党との間で「連携を図り」ながら議論を進めているわけではないし、「国民の合意形成」に努めているわけでもない。こうした点は説明責任上減点要素となる。
政策評価数1(評価全文)
2.0
4年評価:2.0点
3年評価:2.0点
2年評価:2.0点
1年評価:2.0点


【言論NPOの実績評価基準】

言論NPOは、下記の評価基準で定期的に政権の実績を評価しています。

・すでに断念したが、国民に理由を説明している
1点
・目標達成は困難な状況
2点
・目標を達成できるか現時点では判断できない
3点
・実現はしていないが、目標達成の方向
4点
・4年間で実現した
5点

※ただし、国民への説明がなされていない場合は-1点となる

新しい課題について

3点

新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目的や目標、政策手段が整理されているもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの
(目標も政策体系が全くないものは-1点)
(現在の課題として適切でなく、政策を打ち出した理由を説明していない-2点)


今回の評価・議論活動にご協力いただいた皆さま(一部抜粋)

網谷龍介(津田塾大学学芸学部教授)、内山融(東京大学大学院総合文化研究科教授)、
小黒一正(法政大学経済学部教授)、加藤出(東短リサーチ代表取締役社長、チーフエコノミスト)、
加藤久和(明治大学政治経済学部教授)、亀井善太郎(立教大学大学院特任教授、PHP総研主席研究員)、
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)、鈴木準(大和総研政策調査部長)
竹中治堅(政策研究大学院大学教授)、田中弥生(大学改革支援・学位授与機構特任教授)
土居丈朗(慶応大学経済学部教授)、早川英男(富士通総研エグゼクティブ・フェロー)、
宮本雄二(宮本アジア研究所代表)、湯元健治(日本総合研究所副理事長)

言論NPOについて

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして12年間継続しています。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信しています。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。