パネルディスカッション「世界の未来に問われる我々の責任」 報告

2023年3月24日

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 基調講演に引き続き、パネルディスカッション「世界の未来に問われる我々の責任」が行われました。メアリー・ロビンソン氏、ウィリアム・ヘイグ氏、イグナシウス・ジョナン氏が基調講演に引き続いて参加。さらに、米国対外貿易評議会会長で元WTO次長のルーファス・イェルサ氏と、ラスムセン・グローバルCEOで元NATO政策企画局長のファブリス・ポティエ氏が加わり、5名によって議論が展開されました。司会は、カナダ国際ガバナンス・イノベーションセンター(CIGI) 特別フェローのロヒントン・メドゥーラ氏が務めました。

 基調講演を受けてメドゥーラ氏は、「多様な意見の中にも共通項があると感じた。では、今後のリーダーシップはどうあるべきか」と問いかけました。

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リーダーがポピュリズム的な決定をしなくても済むように、市民の役割が重要

 ロビンソン氏は、自身が注力している気候変動問題の視点から、「危機は科学的に明白なのに米国や最近のドイツなど化石燃料脱却に後ろ向きな国がいる」と非難しつつ、「リーダーがポピュリズム的な決定をしなくても済むような状況を作らなければならない」と主張。そのためには、市民社会の中で市民自身が理性的で責任感のある議論を展開するなどして、政府に良い影響を及ぼすようにリードすべきとし、実際COPの舞台では民間発の活動は活発で、しかもグローバルサウスの国々の果たした役割が大きいと解説。そして、この市民の役割という意味でも「東京会議2023」に集ったシンクタンクの役割はますます重要になってくると期待を寄せました。


米国の衰退は錯覚。米国の国際秩序への関与を促し続けることが必要

 ヘイグ氏も同様の視点から、「責任は皆にあるのだ」としつつ、「アイデアは一人の市民だけでも出せる」と語りました。

 もっとも、ヘイグ氏は超大国米国のリーダーシップはやはり依然として重要であり、「米国が衰退しているというのは錯覚だ」と指摘。英国は米国が国際秩序に関わるように背中を押し続けてきたと解説しつつ、こうした姿勢も忘れてはならないと語りました。


異なる陣営間でも一致した取り組みをすべき

 ジョナン氏も、気候変動の視点から発言。先端的な技術を有している国がリーダーシップを発揮すべきだとしましたが、例えば、再生可能エネルギーの発電量は世界でも中国が突出していると指摘。先進国の中で化石燃料回帰が進む中、「空調の効いた快適な部屋で議論しているだけでいいのか」と苦言を呈しつつ、異なる陣営間でも一致した取り組みをすべきと語りました。

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核問題では、中ロだけに責任があるのではなく、西側の腰の引けた対応にも問題がある。また、グローバルサウスも主体的な姿勢に転換すべき

 ポティエ氏は、まず主要先進国のリーダーシップ欠如に対しては、核不拡散・核軍縮問題を例として、「核の恫喝をしているロシア、核軍縮に後ろ向きな中国のせいだけではない。西側のリーダーも腰が引け、沈黙している」と批判。一方で、グローバルサウスに対しても「何でも欧米や旧宗主国のせいにしていればいいもう時代は終わった」と主体的な姿勢への転換を求めました。


ひとつのルールの下で共存することは難しい。それでも共存を目指して、米国はリーダーシップを発揮し、他の民主主義国もそれを後押しすべき

 長く世界の通商を見つめ続けてきたイェルサ氏は、旧GATT体制下では、先進民主主義国の間でも激しい対立があり、「各国が自分に有利な抜け穴を探していた」と回顧。冷戦後の世界は同じシステム・同じルールで統合されてきたと思われていたが、実際にはそうではなかったとし、ひとつのルールの下で共存することの難しさを説きました。

 しかしイェルサ氏は同時に、「だからといって民主主義や国際法を投げ捨てるべきではない」とも主張。現下の課題を米中間の緊張をどう管理するかであるとしつつ、「異なる陣営との共存をどう実現するか。むしろ米国がリーダーシップを発揮すべき」とし、他の民主主義諸国にもそうした方向での後押しを求めました。


批判は多くとも国連は代替のない組織。もっとも、パンデミックに関してはより首脳レベルのアプローチが必要

 続いて、国際的な課題解決にあたってのガバナンスについて議論が及ぶと、ロビンソン氏は、英国の元首相ウィンストン・チャーチルの名言「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」をもじって、「国連は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」と発言。批判は多くとも国連は代替のない組織であるとの認識を示しました。もっとも、改革は必要であり、例えばパンデミックの問題については、単なる保健の問題にとどまらず、経済政策なども密接に絡んでくるために「WHOを超えた問題」と指摘しつつ、「首脳レベルのアプローチが必要」とも語りました。ロビンソン氏は他にも、SDGsを例としながら、「政府レベルでより取り組みを始めれば、民間はついてくる」などとし、政治のリーダーシップの重要性を強調しました。


まずは民主主義陣営側で先行してルールを決めれば、中ロも無視はできなくなる

 ポティエ氏は、民主主義陣営のリーダーシップが求められる領域として、「宇宙」を提示。「宇宙空間が人工衛星で大渋滞するなどアクターが増えているのにルールがない。しかし、国連で議論しても中ロは反対するだろう」としましたが、「ならば民主主義諸国で先行してルールを決めてしまうべき。一定の形が出来てしまえば中ロも無視できなくなるだろう」と提言しました。


新たに組織をつくるよりもまずは対話によって正しいアイデアを出すことが大事

 ヘイグ氏も、AIや宇宙など新領域のガバナンスについて、いずれも喫緊の課題であるにもかかわらず、「グローバルな条約による規律がない」と現状を憂慮。こうした中では、主要国がプランを出し、議論をリードしながら合意を目指すべきと主張しました。

 一方でヘイグ氏は、パンデミックに関してはロビンソン氏らが取り組む "Global Health Threats Council"のような新しい組織設立も有効としつつ、AIや宇宙といった新領域については「既存の国際機関のような対立による機能不全を繰り返すだけではないか」と予測。新組織よりも「まずは対話によって正しいアイデアを出すことが大事だ」と語りました

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国連など組織の改革にあたっては、グローバル化が進んでいる若い世代の声を聴くべき

 ジョナン氏も、自国インドネシアが議長国を務めた昨年のG20バリ・サミットについて、「各国の国益同士が衝突していた」と振り返りながら、「まず共通利益は何かを確認すべき」と提言。さらに、「形骸化している国際機関は多く、若い世代のニーズに合致していない」としつつ、「グローバル化は若い世代の方が進んでいる。国連など組織の改革をする場合には彼らの声を聴くべきだ」と語りました。


人類は何度も混沌を克服してきた。克服のためには希望と勇気を持ち続けることが大事であり、市民社会の役割も重要になってくる

 会場からの質疑応答を経て最後にメドゥーラ氏は、「ずばりお聞きしたい。皆さんは世界の未来に楽観的か、それとも悲観的か」と問いかけると、各氏からは「楽観している」との回答が相次ぎました。

 イェルサ氏は、「より良い世界実現に向けて、戦後78年かけて積み上げてきたものを誰も失いたくはないはずだ」と指摘。

 ロビンソン氏は自身が議長を務める"The Elders"を創設したネルソン・マンデラ氏が折に触れて口にしていた「常に希望を持て」や、英国の政治家ベンジャミン・ディズレーリの「我々は常に希望の囚人である」といった言葉を引用しながら未来に向けて希望を持ち続けることの重要性を説きました。

 ヘイグ氏は、「短期的には悲観しているが、長期的には楽観している」と回答。その理由としては、「歴史を振り返れば、混沌とその克服の繰り返しであったが、今は混沌の時期というだけだ。そして人類は何度も混沌を乗り越えてきた」としました。

 ジョナン氏は、自国の平均年齢約29歳という若さを紹介しながら、「若い世代の方が普遍的な価値を有している。彼らが主役になれば大丈夫だ」と改めて若い世代の役割を強調。

 ポティエ氏は、「我々は、我々の価値の強さに自信を持つべき」とした上で、「分断した世界の中では弱さこそが危険だ。リーダーは倫理的な勇気を持つべきだ」と主張。同時に、その勇気を支えるためには「市民社会の厚みが必要」と指摘し、ロビンソン氏と同様に市民の役割の重要性を説きました。

 議論を終えてメドゥーラ氏は、「希望の見えた議論だった」と総括し、パネルディスカッションを締めくくりました。