G7伊勢志摩首脳会談の評価とは

2016年5月28日

財政出動の必要性を議長国として日本が表明できた点は評価できる

内田和人(三菱東京UFJ銀行常務執行役員)

 財政出動に向けて、安倍総理が中心となって、具体的なコミットメントを各首脳に対して共有できたということはよかったと思う。私は従前から金融政策については限界であって、財政出動というか、マクロ政策でいうと財政面での政策対応が必要であると言ってきたので、そういう意味では、今回の合意は、議長国としてそうしたメッセージを強く出せたのではないかと思う。

 ただ、その前提条件として、リーマン危機のようなリスクがあるという点については、各国間で共有できなかった。むしろ、世界の経済情勢の中では、長期的な低成長懸念、長期的なデフレ懸念を「セキュラー・スタグネーション」というが、そうした状況が新興国の経済減速によって起きている。そうした状況を乗り越え、成長に向けてどのような政策を打たなければいけないのか、という方向に展開できるかが鍵となる。

 また、財政出動も単にバラマキして公共事業をやるだけではなくて、成長に繋がる投資や高齢化社会に向けた次世代の投資など、そうしたことを促すような財政出動ということであれば、各国の共感を得られたのではないか。

 結論としては、財政出動の必要性を日本が議長国として表明したことは非常に評価できるが、今の経済の環境認識がリーマン危機と同様のリスクか、という点で共感を得られなかったし、長期経済停滞論から脱却するため、成長力を上げるための投資を促すような財政面での支援という形にする方がよかったのではないかと考える。

 今回の合意では、残念ながら財政出動については各国の事情に合わせて対応することになった。前述のように成長に向けた財政面、加えて経済の構造改革の支援ということは必要である、ということが一致できればよかったが、イギリスのキャメロン首相やドイツのメルケル首相など、財政に関しては慎重な意見もあったために合意はできなかった。そのため、成長力の底上げという経済に対する対外的なメッセージとしては、今回のサミットの合意では弱かったと思う。

 一方、日本経済に関しては、消費税の引き上げについては見送りがほぼ確実になってきた。後は、5兆円規模の補正予算が投資を促すような政策パッケージになっているかどうか、ということが注目される。その点がうまく打ち出されれば、今、経済の下振れ懸念がある日本経済については、2016年の後半にかけて景気の浮揚、回復・改善が期待できるのではないか。

⇒ 工藤泰志(言論NPO代表)
⇒ 内田和人(三菱東京UFJ銀行常務執行役員)
⇒ 佐久間浩司(国際通貨研究所経済調査部兼開発経済調査部長)
⇒ 早川英男(富士通総研エグゼクティブ・フェロー)

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