290人の有識者は、リベラル秩序と民主主義の行方をどう見ているのか
~「東京会議」事前有識者アンケート調査結果~

2018年3月07日

調査の概要

1.png


「国際秩序の不安定化が今後も続く」、「政権の安定化も見えない」など今後を懸念する見方が突出している

 まず、この1年のトランプ大統領の行動をどう見るかを尋ねたところ、「トランプ大統領のアメリカ一国主義の意識は変わっておらず、多国間主義に基づく国際協力に対する意欲もないため、国際秩序の不安定化は今後も続くだろう」(57.2%)、「政権内での路線対立や高官の衝突などにより未だに執行ラインが十分整っていない。選挙時の疑惑に対する特別検察官の動きもあり、今後、政権が本当に安定するかどうか、先が見えない状況である」(53.4%)という今後を懸念する2つの見方が並んでいる。

 「実際の行動はTPPやパリ協定からの離脱などに限られ、公約は現実的な対応に修正を迫られて大騒ぎするほどではなかった」という杞憂に終わったとの見方は10.7%と1割程度にすぎない。

【この1年のトランプ大統領の行動をどう見るか】

2.png


6割近い有識者は、リベラル秩序混乱の結末を見通すことができていない

 リベラルな秩序が混乱する現在の状況に対し、「現状の仕組みとは異なる新しいルールや秩序に向けた変化であるが、その結末はまだ見通せない」との見方が57.6%と6割近くあり、日本の有識者は現状を楽観視していない。

 「いずれは現状の規範やルールをもとにそれを改善し、乗り越えられる」と楽観視する見方は21%と2割程度である。

【リベラル秩序混乱の結末はどうなるのか】

3.png


有識者は、「ポピュリズムや権威主義的傾向の高まり」と「世界のリーダー不在」を特に懸念している

 世界情勢が不安定化する中、日本の有識者が最も懸念していることは、「米国や欧州などの先進民主主義で、民主主義への信頼が揺らぎ、ポピュリズムや権威主義的な傾向が高まっていること」(50.3%)である。次いで、「多くの国が内向き志向となり、世界の課題にリーダーシップを持って取り組む国が次第に少なくなり始めたこと」(43.8%)となっている。

【世界情勢が不安定化する中、懸念材料は何か】

4.png


国際協調は維持されるとの見方が1年前から大幅に減少

 次に、これから世界のリベラルな国際システムや国際秩序はどのようになっていくのか、その予測について尋ねた。

 その結果、「世界的な秩序の牽引国がない、いわゆる『G0』状態になり、不安定化が深まる」という見方が24.1%(昨年22.8%)で最も多く、これに「戦後、米国などがリーダーシップを取り形成されてきた多国間主義の協力の枠組みが崩れ、保護主義や二国間主義が力を強めていく」が19.7%(昨年16%)で続いている。

 一方、「トランプ米大統領も軌道修正を迫られ、多国間主義に基づく国際協調はかろうじて維持される」は7.9%と1割に満たなかった。1年前の調査時(22.1%)から14ポイント減少しており、有識者は既存のシステム・秩序はその変容を余儀なくされていると見ている。

【国際システムや秩序の行方】

5.png


グローバリゼーションと国家、民主主義は同時に実現するのか

 世界の自由と民主主義が後退している背景にグローバリゼーション、国家、民主主義がぶつかり始めているトリレンマの状況があると言われているが、こうした状況を改善するために、この3つの中から何を優先すべきかを尋ねた。

 これに対し、「グローバリゼーションと民主主義を優先する」(32.1%、昨年26%)と、「3つともなんとかうまくバランスをとって進めていく」(31.4%、昨年28.1%)が並んでいる。

 「民主主義と国家を優先する」は15.5%(昨年21%)だった。

【トリレンマの状況の中、優先すべきものは何か】

16.png


7割の有識者が、グローバリゼーションには修正が必要と考えている

 貧富の差の拡大など、グローバリゼーションの行き過ぎに起因する様々な問題が指摘されている中、グローバリゼーションの今後については、「グローバリゼーション自体が様々な問題を抱えており反対する」は4.5%にすぎないが、「世界の経済発展にとって共通利益であり推進すべき」と現状を追認する見方も12.1%にとどまっている。

 何らかの手当てや修正が必要と考えている有識者は7割を超えており、「その利益が国内に還元されるような調整や、様々な改革を行うべき」が40.7%、「貧富の差の拡大や国内産業へ大きな影響をもたらすため、ある程度規制をすべき」が33.4%となっている。

【グローバリゼーションの今後】

7.png


6割以上の有識者が自由貿易体制の未来を見通せていない

 自由貿易体制の今後については、「自由な開放的な経済は今後も続くと思うが、中国の動きも活発化しており、そのルールを誰が主導するかは、まだ見通せない状況」が65.2%で突出し、「21世紀型の質の高いルールに基づいた自由貿易の大きな流れは止めることは難しい」の23.4%を大きく上回っている。

 ただ、「米国の米国第一主義に多くの国が同調し、保護主義に次第に傾いていくと思う」という悲観的な見方は4.8%にすぎない。

【自由貿易体制の今後】

8.png


6割の有識者が民主主義を機能させるために不断の努力が必要と考えている

 現在の世界の民主主義の状況について尋ねると、「民主主義はそもそも完成した仕組みではなく、民主主義を機能させるためには改善を続ける努力が必要である」との回答が61%で突出している。

【世界の民主主義の現状】

9.png


知識層やメディアに対する役割に懐疑的な見方が多数

 先進国に見られるポピュリズムの動きには、知識層やメディアに対する強い批判や反発があるため、現状の知識層やメディアに課題解決の役割を期待できるかを尋ねた。
その結果、「期待できない」(26.6%、昨年23.8%)と、「初めから期待していない」(7.9%、昨年10.7%)という否定的な見方の合計(34.5%)が、「期待できる」の25.2%(昨年24.6%)を上回っている。

 ただ、「どちらともいえない」と判断しかねている見方も38.3%(昨年39.5%)ある。

【知識層やメディアに期待できるか】

10.png


有識者は、個人の尊厳に関する価値を優先的に守らなければいけないと考えている

 国際政治が不安定化する中、日本の有識者は「基本的人権」(51%)、「民主主義」(44.8%)、「法の支配」(37.9%)など個人の尊厳に密接に関連する価値を優先的に守らなければいけないと考えている。

 これに対し、「開かれた経済」は19%、「多国間主義」は12.4%、「自由貿易」は5.5%だった。

【優先的に守らなければならないものは何か】

111.png


民主主義の危機を克服するために、市民、有権者側の姿勢を問う傾向が強まっている

 民主主義の危機を克服し、強く機能させるために、「課題に向かい合わない政治や商業主義に走るメディアに対する市民や有権者自身の眼力やリテラシーを上げていくこと」(61.4%、昨年56.2%)、「市民が、現状の課題に真剣に向かい合い、主権者としての姿勢を回復させること」(61%、昨年62.6%)が必要であると考える有識者はそれぞれ6割を超えている。

 一方、「言論に携わる人たちが、率先して課題解決に向かい合い、健全な世論形成のための努力を行うこと」(49.3%、昨年60.1%)、「知識層が課題解決に立ち向かい、その信頼を回復すること」(33.1%、昨年43.4%)など知識層の役割に期待する意見は減少しており、市民、有権者側の姿勢を問う傾向が強まっている。

【民主主義の危機を乗り越えるために何が必要か】

112.png


有識者は「世界秩序」と「民主主義の未来」を議論すべきと考えている

 有識者が優先的に議論すべきと考えている世界課題のテーマは、「世界秩序の今後」(42.4%)と「民主主義の未来」(41.7%)である。

【今後議論すべき世界課題】

13.png


関連記事