日欧韓サイバー会議 報告

2019年12月23日

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 12月9日、東京都内の国際文化会館で、言論NPOは、EUのシンクタンクである欧州安全保障研究所(ISS)との共催で「日欧韓サイバー会議」を開催しました。本会議には、日本とEU諸国、韓国のサイバーセキュリティやサイバーガバナンスの専門家ら約40名が参加し、「サイバー空間での責任」をテーマに欧州と東アジアの視点から議論を行いました。


パトリック.png まず、主催者を代表して、欧州安全保障研究所のブリュッセル・エグゼクティブ・オフィサーのパトリック・ポーラック氏が開会の挨拶を行いました。ポーラック氏は、「サイバー空間における責任ある行動についての議論は、主に国連のプロセスを通したグローバルな枠組みで進められている一方で、地域的な視点からの議論は少ない」とこの会議の趣旨を説明。とりわけ、サイバー空間で日増しに存在感を増していく中国の動向は、日本や韓国はもちろん、欧州にとっても関心を払わざるを得ないところであるとし、充実した議論の展開に期待を寄せました。

工藤代表.png 続いて、主催者挨拶に立った言論NPO代表の工藤泰志は、ラスムセン元デンマーク首相(前NATO事務総長)ら、世界で民主主義の修復に取り組む論者を招いた言論NPO創立18周年フォーラム「世界の自由秩序と民主主義の再建に問われた私たちの責任」の議論を振り返りながら、サイバーガバナンスをはじめ様々な国際課題で日本とEUが協力することの重要性について強調しました。加えて、言論NPOが過去15年間、政府間外交が停止しているときでも中国と韓国との民間対話を継続的に実施し、北東アジア地域に平和秩序をつくり出すための様々な試みについて紹介しながら、「しかし、この地域のサイバー空間の現状を考えてみると、ガバナンスはおろか相互信頼の基礎すら存在していない状況だ」と指摘し、今日の会議の開催意義を強調しました。


 続いて、EUと日本から政府関係者が挨拶に登壇し、それぞれの現状や今後の方向性について説明しました。

FLOR大使.png まずEUを代表して、駐日欧州連合大使のパトリシア・フロア氏が挨拶。デジタル技術の発展やサイバー空間の拡大によって人々の生活や社会は豊かになり、またイノベーションなど多くのチャンスも生まれたとしつつ、しかし、現状のセイバー空間にはあまりにも脆弱性が高く、国家安全保障を含め悪意ある国家・非国家アクターが悪用するリスクが高まっている点について懸念を表明。またEUの取り組みとしては、日本などの有志国と連携しながら、自由や人権、法の支配に配慮したグローバル、オープンかつ安全なサイバー空間の構築を目指していると説明しました。


中山議員.png 次に日本側を代表して挨拶した、元外務副大臣で自民党外交部会長を務める中山泰秀衆議院議員は、サイバー空間では米国を中心とした西側諸国と、中国やロシアとの間に冷戦期以来の対立が生じていると同時に、新たな戦闘領域と化してきていると指摘。また、テロリズムがSNSなどインターネットを通じてその勢力を拡大させたり、重要インフラを攻撃してくる現状も併せて指摘し、五輪や万博などのビッグイベントの開催を控え国際的な注目を集める日本としては対策が急務であるとしました。同時に中山氏は、インターネットに関する知識が乏しい議員が多いなど、いまだ危機意識が乏しい日本の現状に警鐘を鳴らしつつ、意識改革も喫緊の課題であると語りました。


 その後、参加者による討論に入りました。「サイバー空間における責任ある国家の行動」や「紛争の原因と無責任な行動」をテーマとした午前中のセッションでは、中国やロシア、北朝鮮といった国々の動向をどう分析するか、そしてそれに対して有志国、さらには民間は何をすべきか、といった議論が展開されました。


 午後からは、「中国とデジタルインフラの安全」、「中国とグローバル・サイバー・ガバナンス」など中国をテーマとしたセッションが行われました。ここでは、サイバー空間で急速に存在感を増し、デジタル覇権を目指す中国の能力と意図をどのように読み解くか、日欧韓はその中国にどのように対抗、あるいは共存を図っていくか、などといった論点から、中国製通信機器に情報を抜き取る「バックドア(裏口)」が設けられているとの問題についての事例研究に至るまで様々な議論が交わされました。

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議論を終えて最後に、欧州安全保障研究所(ISS)のポーラック氏は「非常に豊かな議論ができた」と手応えを口にし、こうした有志国による対話を今後も継続していくことへの意欲を示し、早朝から9時間にも及ぶ長丁場の会議を締めくくりました。