地球規模課題への国際協力評価2019-2020
国際テロ対策

2020年1月30日

⇒ 関連記事一覧

地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

05.jpg

【2019年 評価】:C(変わらない)

 2018年現在、全世界でのテロの件数は9,607件、死者数は22,987人を超え、1万件前後で高止まりしているのが現状。テロリストの「主体」という視点で見ると、現在の大きなテロを起こす主体は組織に属さず一人で長い期間準備をして大事件を起こす初犯の「ローンウルフ」が大半。インターネットやSNSを使い、多数の見ず知らずの人と情報交換や交流ができるため、過激化するのを防ぐための有力な対抗策は現時点では存在しない。さらに安保理決議などによって国際社会全体でテロ組織に対する資産凍結などの資金対策、テロリスト等の犯罪者情報の提供・交換、主入国管理体制の強化などの対策は行われてきており、テロ対策はある程度進展しているものの、まだ十分とはいえない。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 ISILの解体後、イスラム過激派は各国、地域に分散してテロの端緒が把握しにくくなっている。現在のテロ対策は、手法や武器を規制する対処療法に移ってきている。各国の捜査機関や諜報機関の間でテロリストの情報は共有されていたものの、一般人の中からもそうしたテロ行為を行う人たちが出る危険性がこれまで以上に高くなってきている。個人情報や自由を制限し、監視をどこまで行うか、という問題について議論し、社会としての合意を行う段階にきていると考えるが、そうした議論は先送りされており、2020年に踏み込んだ取り組みがなされることは期待できない。

2019年の評価

 2018年現在、全世界でのテロの件数は9,607件、死者数は22,987人を超えている。17年に比べると発生件数(10,980件)、死者数(26,568人)と共に減少しているものの、1万件前後で高止まりしているのが現状である。一方、この内訳を地域別でみてみると、2003年以降、イラクやアフガニスタンなど中東でのテロリズムが大多数を占めていたものの、近年ではナイジェリアなどアフリカ、さらにフィリピンやマレーシア、インドネシアなどの東南アジアでも件数は増えており、18年は死傷者については中東及び北アフリカで前年比59%減少したが、南アジアでは43%増加している。

 一方、テロリストの「主体」という視点で見ると、イスラム国(ISIL)解体後、イスラム過激派のテロは半数ほどで、残りは、左翼的なテロ組、分離独立を求めるテロ、あるいは排外主義や移民反対などのテロが挙げられる。ただ、ISILに参加していた過激派が地下にもぐり、全世界に散らばったことでテロの端緒を把握することはこれまで以上に難しくなっている。

 特に、大きなテロを起こす主体は「ローンウルフ」、つまり、組織に属さず一人で長い期間準備をして大事件を起こす初犯の人が大半となっている。インターネットやSNSによって、多数の見ず知らずの人と情報交換や交流ができる世界では、人が過激化するのをどう防ぐかとうのは難しく、有力な対抗策は現時点では存在しない。

 こうしたテロに対して、アメリカ同時多発テロの際に決議した安保理決議第1373を始めとして、直近では19年3月にテロ資金対策のための安保理決議第2462など、国際社会全体でテロ組織に対する資産凍結などの資金対策、テロリスト等の犯罪者情報の提供・交換、主入国管理体制の強化などの対策は行われてきた。しかし、こうした取り組みは、各国での対応能力に準ずるバラツキがある。また、前述したとおりテロ思想を持つ人間を把握しずらくなっている現状では、テロ対策はある程度進展しているものの、まだ十分とはいえない。

2020年 進展に対する期待

 ISILの解体後、イスラム過激派は各国、地域に分散してテロの端緒が把握しにくくなっている。その理由として、インターネットによって見ず知らずの人が情報交換し、繋がることができる環境が容易になったこと、細菌兵器や爆発物などの作り方はインターネットに溢れ、その材料もホームセンターなどで購入できるものが多く、十分な取り締まりができずに放置されている現状がある。その結果、捜査機関がテロリストを把握しきれておらず、全体像が見えないのが現状である。

 現在のテロ対策は、武器や手段を規制する方向に転換して色々な条約、爆弾テロ防止条約や、人質をとることを禁止するなど、手法や武器を規制する対処療法に移ってきている。

 また、各国の捜査機関や諜報機関の間でテロリストの情報は共有されていたものの、一般人の中からもそうしたテロ行為を行う人たちが出る危険性がこれまで以上に高くなってきている。そうした中では、個人情報の問題と、民主主義における個人の自由の制限という問題を整理する必要があるが、治安維持として自由や個人情報の制約がどこまで可能なのか、といった線引きが曖昧なままになっている。個人情報や自由を制限し、監視をどこまで行うか、という問題について議論し、社会としての合意を行う段階にきていると考えるが、そうした議論は先送りされており、2020年に踏み込んだ取り組みがなされることは期待できない。

 日本においては今夏のオリンピック開催にともない、イスラム過激派等に対する情報収集、分析を各国の情報機関とも連携しながら行っており、主入国管理・税制体制の強化、空港での監視カメラによる警備システムの導入等の対策は進んでいる。しかし、テロを事前に察知したり、テロ思想を醸成することを防ぐというのは難しいのが現状であり、テロに対する有効な防止策はないのが現状である。