地球規模課題への国際協力評価2019-2020
国際経済システムの 管理

2020年1月30日

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地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 国際経済システムの管理においていは、グローバリゼーションに伴う格差の拡大が続き、各国が保護主義的な傾向を強める中、世界と国内の政策調整を行いながら持続可能で、均衡ある、かつ、包摂的な成長をどのように続けていけるかがポイントとなる。
 まず、国内外の経済・所得格差の解決という点で見れば、2019年6月の大阪G20の首脳声明で、GAFAに代表される世界的な巨大IT企業の課税逃れを防ぐため、デジタル課税を国際ルールとして20年末までに合意できるデジタル経済上の課題に対する解決策を作ることで一致したことは一歩前進と言えるが、各国間で意見の相違が見られることから、20年末までに最終合意に至るか現時点で判断できない。
 次に、貿易におけるルールベースの世界秩序をどのように考えていくべきか、という課題については、G20の首脳声明でWTOの改革を支持する方針は盛り込まれたものの、米中の構造的な対立や米国を始めとする先進国の中でも自国第一主義的な考え方が顕著になってきており、WTOの改革の実現性は見通せない。
 さらに、経済システムにおいて課題となるのは、通貨問題である。G20を前後して、Facebookのリブラの創設構想が公表された。世界中で利便性が高いという付加価値を武器に、リブラが送金・決済手段として急速に普及することになれば、国際課税を巡る問題やマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の問題が懸念される。将来的に、リブラが送金・決済以外の金融分野に進出することになれば、各国の金融政策や国際的な通貨システムを脅かす可能性も考えられる。
 G20では主要な中央銀行がマネー・ローンダリングへの対応が不十分との理由などで封じ込めの動きで歩調がそろったことは評価できるが、中国がデジタル人民元の発効を示唆しており、今後、デジタル的な通貨への対応も含めて課題となるが、現時点では後手に回っていると言わざるをえず、全体的に後退と判断した。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 IMFのシナリオでは経済成長は2019年をボトムに2020年は回復してくると予想されている。20年は米国大統領選挙の年であり、トランプ大統領が米中貿易紛争に深入りはしない可能性が高い。そうであるなら、国際経済システムの分野での協力は表面的には一部進展すると考えられる。ただし、米中の構造的な問題に変化はないためWTOやG20などの国際い秩序を維持するための仕組みは形骸化が進むと考えられ、その状況が改善する可能性は、ほとんどみられない。
 また、現状のブレトンウッズ体制を始めとする国際経済システムを維持していくためには、中国を高いレベルのルールベースの国際的な自由秩序にどのようにエンゲージしていくかということが大きな課題となる。しかし、G20ではこうしたテーマで議論ができないため、G7において各国が意思統一する必要があると考えるが、日米と欧の間でも中国に対する見解には開きがあり、どこまで同じ方向で足並みを揃えられるかは現時点では見通せず、20年の展望についても19年と変わらないと判断した。

2019年の評価

 「2019-2020国際経済システム管理」は一部後退との評価となった。評価の理由は以下の通りである。まとめればG20大阪では一定の既存の国際協調に対する合意は得られたものの、米中貿易紛争により合意形成に構造的な問題が表面化したからである。


 評価の軸としては、G7、G20、ブレトンウッズ体制を中心とした既存の国際協調体制(国際経済システム)が直面している中長期的かつ構造的な問題に対して、グローバルな共通の利益を目指した解決の方向に着実に向かっているかである。

 その構造的な課題として、第一に、行き過ぎたグローバリゼーションの弊害である国内外の経済・所得格差の課題が挙げられる。2019年の課題への対応の一つとして、G20大阪において、国際課税を巡る問題への国際協調が多少進んだことは評価できる。G20は、米国のGAFAに代表される世界的な巨大IT企業の課税逃れを防ぐための、いわゆるデジタル課税といった国際ルールの策定を進めることで一致した。共同声明では、経済のデジタル化で生じる国際課税逃れ等の問題を解決するために取りまとめられた、OECD / G 20 の「BEPS包摂的枠組み」(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting) の作業計画を承認するとした。この国際課税を巡る問題については、依然として各国間で意見の相違が見られることから、最終合意に至るまでに難航も予想される。しかし、今回の共同声明に「BEPS包摂的枠組み」の承認を明記したことで、国際課税の国際ルール策定に向けて、小さな一歩だが、前に進むことができたと言える。さらに高齢化社会における金融包摂の強化という課題に関しては、G20の共同声明では、金融リテラシーの強化や高齢者保護といった課題を取りまとめた「高齢化と金融包摂のためのG 20 福岡ポリシー・プライオリティ」を承認し、金融包摂を強化するとし、一定の進展を見たと言えよう。

 第二に、リベラルなグローバルガバナンスを脅かす、米中対立によって綻びが広がっている自由貿易主義に基づくルールを死守できるかという課題への対応である。G20大阪では、最も注目された貿易問題に関して、首脳声明で「自由、公正、無差別で透明性があり予測可能な安定した貿易及び投資環境を実現」するとし、世界貿易機関(WTO)の改革を支持する方針も盛り込んだ維持という一定の成果は挙げたことは評価できる。しかし、グローバルガバナンスのG20の合意形成が難しくなってきている。米中の構造的な対立が背景にある。「一国主義vs 多国間主義」いわゆる" 米国vs G6+中国" と「既存の国際秩序vs 新秩序の希求」という" G7vs 中国" の対立構造が見える。加えて、今回のG 20 大阪サミットに合わせて、福岡で2019 年6月8~9日に開催されたG 20 福岡財務大臣・中央銀行総裁会議(以下、G 20 福岡)の共同声明(コミュニケ)では、世界経済の下振れリスクについて言及した上で、貿易問題や地政学的リスクへの対処を継続し、「更なる行動をとる用意がある」と明記した。各国の金融当局が国際金融分野における協調姿勢をあらためて強調したという点は評価したい。

 第三に、大国の覇権主義が台頭する中、新たな国際経済システムを形作る動きが活発化していることに対応できるかという課題である。米国のトランプ大統領の自国第一主義が蔓延り、各国が金融政策、為替政策、通商政策(さらには安全保障、技術移転等)を結び付けた議論への対応を強いられている。その一方、中国では、現状の国際経済システムのままでは、自国の政策だけでは解決できない政策的課題が増えている。このため一帯一路の中でのAIIBの役割拡大、さらには中国人民銀行のデジタル通貨構想という既存の国際経済システムに対抗するような動きがでてきている。

 民間からはFacebookのリブラの創設構想が公表された。世界中で利便性が高いという付加価値を武器に、リブラが送金・決済手段として急速に普及することになれば、G 20 福岡の議論でも取り上げられた、国際課税を巡る問題やマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の問題が懸念される。将来的に、リブラが送金・決済以外の金融分野に進出することになれば、各国の金融政策や国際的な通貨システムを脅かす可能性も考えられる。G20でも主要な中央銀行がマネー・ローンダリングへの対応が不十分との理由などで封じ込めの動きで歩調がそろったことは評価できよう。

 G 20 福岡では、マネー・ローンダリング(資金洗浄)およびテロ資金供与の問題が懸念されている暗号資産(仮想通貨)サービス提供業者に対する、FATF(Financial Action Task Force、 金融活動作業部会)の勧告等を支持する姿勢が示された。具体的には、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与を防ぐために、暗号資産サービス提供業者に登録制や免許制を導入するといった方針等である。マネー・ローンダリング(資金洗浄)およびテロ資金供与の問題への体制強化という意味では大いに評価できよう。