世界の自由と民主主義を守り日本が役割を果たすため、「東京会議」をさらに大きな動きに / 工藤泰志(日本/言論NPO代表)

2020年3月10日

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 今回の「東京会議2020」は、開催にあたってかなりの困難に直面しました。急速に進むコロナウイルスの感染拡大の影響が、我々の会議のメンバーである世界のシンクタンクにも様々な形で及んでいたからです。ただ私たちは、こういうときだからこそ対話を実施しよう、と決断しました。つまり、世界で起きている様々な問題をきちんと考え、世の中に発信することが私たちシンクタンクの使命だ、と考えたのです。


コロナウイルスの感染拡大が
  「自由秩序のもとでの多国間協力」の必要性を浮き彫りにした



 このため、今回の「東京会議」の冒頭では、世界のシンクタンク間の対話としては初めて、コロナウイルスの問題を世界はどう考えればいいか、ということを議論しました。我々は当面、感染拡大を何としても阻止しなければいけないと考えていますが、コロナウイルスの問題を通して明らかになったのは、ヒト・モノ・カネの動きが、国境を越えて瞬時に影響し合う世界の現状です。つまり、国境を越えた困難に世界が対処するためには、世界の国同士が協力しなければいけないということです。ただ、協力すべき世界の国々の間には、考え方や政治体制の違いがあり、対立が広がっている。これが、我々が今、直面している大きなテーマなのです。

 今回の「東京会議2020」で我々が掲げたテーマは、「米中対立の出口と目指すべき国際秩序の姿」でした。その答えはまさに、コロナウイルスの問題がその重要性を浮き彫りにした「世界的な課題に対する多国間協力」なのです。技術覇権争いや経済的な対立が、世界の秩序を不安定なものにする状況においても、我々は絶対に、世界を分断させてはいけない。そのために、主要国が協調してリベラル秩序を守ろうと、10カ国のシンクタンクで合意したのです。

 フランスを代表する知性と言われ、ミッテラン政権以降の外交政策に深く携わっているヴェドリーヌ元外相は、わざわざ今回の会議のためだけに、日帰りで日本を訪れていただきました。彼に「どうして日本に来たのか」と聞くと、「この『東京会議』で取り上げているテーマは、今、まさに世界が考えなければいけないものだ。それは、我々民主主義国がどのような立ち位置をとって、世界の困難に協力して立ち向かうのか、ということ。私もこの議論に加わりたいと思った」と答えてくれました。

 今回、私たちが「東京会議」で、リベラルな秩序を守り抜こうと、合意したことは、不安定化する、世界の中で非常に大きな成果なのです。


「自由」と「民主主義」を守るため
  世界10カ国のシンクタンクが力を合わせることで一致した「未来宣言」



 「東京会議」では、アメリカの外交問題評議会やイギリスの王立国際問題研究所(チャタムハウス)、ドイツの国際安全保障研究所(SWP)などG7各国に、インド、ブラジルなど新興国を加えた、世界を代表する10カ国のシンクタンクのトップが毎年東京に集まり、国際秩序の将来を議論し、世界にメッセージを発信します。

 よく「この会議は何なのだ」と質問を受けることがありますが、私は「これは民間の外交だ」と答えています。もちろん、シンクタンクが、外交を行うことはありませんが、しかし、私たちはそれくらいの覚悟で、立ち位置を定めて協力し合わないといけない。そうした問題意識をもって、東京に集まることを決めたわけです。

 今回採択した「未来宣言」の作成にあたっては、ベテランの外交官に取りまとめをお願いしましたが、文面の一つ一つにもかなり議論があり、「これは政府外交と同じだ」と言われまたことがあります。「シンクタンクは議論をするだけだと思っていたが、一つの文書をつくり上げ、世界に呼びかける。まさに外交と同じではないか。こんな動きが日本にあることに驚いた」というわけです。

 しかし、こうした宣言づくりは、簡単にできたわけではありません。私が「東京会議」を立ち上げたのは2017年です。当初、この会議で声明文を出すことに、参加者からはいろいろな意見がありました。「シンクタンクはあくまで議論や分析が仕事だ」「シンクタンクが政治的なポジションをとってはならない」という反対もあります。

 議論は真剣に行われ、私たちの議論はルーツにまで遡りました。私は問うたのです。

 「我々シンクタンクは何のために誕生したのか」と。外交問題評議会やチャタムハウスという世界を代表するシンクタンクは第一次世界大戦後、パリ講和会議に参加した学者を中心につくられました。この時に、ウィルソン米大統領は平和の共同体、国際連盟の設立を提案しました。また、ドイツやイタリアのトップシンクタンクも、ファシズムに対する強い反省から生まれています。そして、私たち言論NPOは、戦中から戦後を代表する言論人、石橋湛山の遺志を継ぎ、日本の自由と民主主義を守るために、課題解決の意思を持つ言論人たちが当事者として議論を開始しよう、という目的で誕生しました。

 つまり、多くのシンクタンクのルーツは、平和と自由、そして民主主義にあるのです。そのために、政府や特定の利害から独立し、世界や自国の課題に向かい合い、その中でシンクタンク同士が協力する。今がその時期なのではないかと。

 皆の声がより力のこもった、ものとなりました。そして、議長声明に各シンクタンクの代表が個人として協力する、という形で、話がまとまったのです。

 10カ国のシンクタンクが声明に合意し、世界に発表するなどということは、日本でも戦後初めてのことだし、世界でも稀な動きです。

 我々がなぜ、そうした動きに踏み込まなければいけなくなったのか。

 なぜなら、我々が大事にしている自由や民主主義が、大きな困難に直面しているからです。自由や民主主義の価値を守るために、シンクタンクが力を合わせようというのが、この「東京会議」、そして今回の「未来宣言」の意味なのです。


「東京会議」は、世界のシンクタンクが自らの立ち位置を再確認する場に



 今回の「未来宣言」では、民主主義国が協調してリベラル秩序を守り抜こうという提案を、今年のG7議長国であるアメリカのニコラス・ヒル駐日首席公使代理に手渡しました。ヒル氏はその場で、未来宣言をホワイトハウスにも伝える、と言ってくれました。

 我々は今のアメリカがダメだと言っているのではなく、アメリカも巻き込んで世界の自由と民主主義を守る大きな流れをつくらなければいけない、と考えています。こうした動きが、10カ国のシンクタンク間で、しかも東京を舞台に行われているということの意味を、ぜひ皆さんに考えていただきたいのです。

 日本は世界の課題に対してなかなか発言も貢献もしない、と言われています。しかし、我々は世界の知性を東京に集め、その議論を世界に発信しています。私たちは、世界の大きな課題に日本がリーダーシップを発揮しなければいけないと、本気で思っているのです。

 世界がここまで不安定化し、世界経済の分断すら懸念されていますが、私はそうした世界の分断を望みません。そして、日本が決して譲れない立ち位置もまた、世界が多国間で協力し合い、ルールベースの自由な世界秩序を守ることなのです。

 そのために日本が積極的に発言し、行動することが大事です。私たちは今回も無事に、それを実践できたことを、本当にうれしく思っています。日本政府も同じ立ち位置で努力していますが、民間でも同じように動き、政府間外交が動く環境を強いものにしていく。その役割を果たせたのではないかと思います。

 私の友人であるチャタムハウスのニブレット所長や、SWPのペルテス会長、外交問題評議会のリンゼイ副会長も動画で語っていますが、彼らは、「この東京会議は、我々が自由と民主主義という立ち位置を再確認するために非常に重要な会議だ」と述べています。

 世界のシンクタンクはそれぞれ多くの国際会議を行っていますが、自由と民主主義を守るという明確な目的を掲げて、そのための議論を行っている国際会議は世界でこの「東京会議」しかありません。世界のシンクタンクがそのために集まり、立ち位置を確認し、世界に貢献する覚悟を固める。こうした場は日本のとっても財産だと思います。

 私は、この動きをこれからも発展させたいと思っていますし、こうした動きが日本に無いといけない、と思っています。それによって、世界の多くの人に、日本が世界の平和や自由、民主主義に強い思いを持って取り組んでいる、と理解してもらえるのです。


新領域でのルール形成に取り組むなど、
「未来宣言」の具体化を進め、「東京会議」の役割をさらに大きく発展させたい



 今回の「未来宣言」では、世界の自由な市場を守るためには、中国も世界との「相互主義」を認めなくてはならない、と書き込みました。しかし、それは中国を排除することではなく、リベラル秩序を守り発展させることが目的です。世界には、デジタル分野など、ルールが経済の実態に追いついていない領域がたくさんあります。そのルール形成についても、中国と一緒に考える、ことは大事です。

 そうした点で世界のシンクタンクが足並みを揃えたという点でも、「未来宣言」は重要だったと思います。この宣言は、具体化しなければいけない。来年からの「東京会議」の役割はさらに大きなものになりますが、我々は何としても、その責任を果たしたいと思っています。


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 言論NPOは「東京会議2020」最終日の3月1日、世界10カ国の有力シンクタンクの合意で採択した「未来宣言」を、G7議長国のアメリカ政府に提出するとともに世界に発信しました。

 この宣言は、自由な国際秩序を守るために、主要国が協調して世界のシステムの安定や地球規模課題での協力で強いリーダーシップを取ること、中国は世界との相互主義を受け入れると同時に、10カ国は中国に国内経済改革を迫る必要があること、そして、自由な国際秩序を守るためにも、民主主義国はそれぞれの国自体の民主主義を強くするための努力を始めること、などを10カ国で合意し、その覚悟を示したものです。

 世界で進むコロナウイルスの感染拡大が、自由な国際秩序のもとで多国間が協力することの必要性を改めて浮き彫りにする中、世界のシンクタンクトップらは、感染拡大に伴う様々なリスクを取って、この会議のためだけに東京に集まり、危機に直面する世界の自由や民主主義を守る決意を、世界に伝えたのです。

 言論NPOでは、彼らの決意を、日本の多くの方々にも共有したいと考えています。
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