中東情勢は今後の世界の火種になるのか

2016年1月26日

2016年1月26日(火)
出演者:
村上拓哉(中東調査会研究員)
坂梨祥(日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究主幹)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
 

 1月26日の言論スタジオでは、世界の平和秩序をめぐる議論の第一弾として、「中東情勢は今後の世界の火種になるのか」と題し、村上拓哉氏(中東調査会研究員)と坂梨祥氏(日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究主幹)をお招きして議論を行いました。

 議論では、サウジアラビアとイランの国交断絶の背景に、昨年のイラン核合意を契機とした中東地域の秩序構造の変化があるという認識で一致。また、アメリカの力が後退しているという認識の広がりが、シリア内戦の収束やISの掃討に向け、優先して対処すべき脅威について関係国間の合意形成を難しくしていることも指摘されました。


 前半ではまず、今年1月3日に発表されたサウジアラビアとイランの国交断絶について話し合われました。坂梨氏は、今回の事態の背景について、両国の関係が2003年のイラク戦争以降様々な要因で悪化していたことがイラン国内の反サウジ感情を刺激し、サウジ大使館の襲撃につながったことを指摘。また、その影響として、両国が関与している地域紛争の解決が難しくなる可能性に言及しました。一方、村上氏は、両国間の対立により、既に実質的な対話が途絶えていたことや、マルチの場における両国間の交流は依然として行われていることに触れ、国交断絶の影響は限定的だという見方を示しました。

 続いて、情勢の背後にある地域の秩序構造について、坂梨氏は、1979年のイラン革命でイランが反米国家になって以降、サウジがアメリカとともにイランを封じ込め、地域の安定を守るという枠組みが続いてきたことを説明。その上で、昨年のイラン核合意をきっかけとしてその構造に変化が生じ、アメリカが、地域大国であるイランを地域秩序の安定化に活用する方向に傾いているのではないかと述べました。村上氏は、核合意によってイランが国際社会に復帰し、影響力が増大することや、アメリカとイランを中心とした地域の問題解決の枠組みが生まれる可能性が出てきていることに、サウジが警戒感を持っていると指摘。イランの側に傾いている力の均衡に関し、サウジがどのような姿勢を示すかが中東地域の安定化の鍵だ、と語りました。

 後半では、シリア紛争の問題を中心に議論を展開しました。村上氏は、問題の解決が進まない最大の理由は、「解決」とは何か、という合意が関係国間に存在していないことだと強調。具体的な焦点として、村上氏は、シリアの国家統治機能を回復するという点は合意されているものの、新しいシリア政府を誰が担うのかについて、各勢力間の対立が存在すると指摘しました。また、紛争が長期化している要因について、坂梨氏は、アサド政権と同盟を結んでいるイランの弱体化を狙いとして反アサド勢力を支援しているサウジの行動など、周辺国の様々な思惑が絡んでいることを挙げました。

 次に、シリアでも活動しているイスラム国(IS)の問題について坂梨氏は、イラクでISを掃討しても地続きのシリアに移動してしまうことに加え、サウジやトルコなど反アサド勢力を支援する地域大国が、脅威の優先順位をISよりもアサド政権やイランに置いており、アサド政権と戦っているISの存在をある程度は許容する時期があったことを指摘。合意形成を難しくしている一因として、オバマ政権の中東政策に力強さがなく、アメリカの力が後退しているという認識が中東地域内で広まっていることを挙げました。

 最後に、中東問題が日本にとって持つ意味について坂梨氏は、資源の供給地である中東の安定は、日本の生活の安定にも直結しており、日本としても何らかの関与が必要だと強調。村上氏は、イラン、サウジ双方との良好な関係を活かして対立の鎮静化を呼びかけることや、統治能力が低下した脆弱国家への支援といった協力のあり方を提案しました。

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