「米中対立の行方」第一弾 深刻化する米中対立の構造を考える

2020年9月30日

日本が主導して西側の対中大戦略をまとめる時期

 9月8日、言論NPOは、米中対立に関する議論の皮切りとして、「深刻化する米中対立の行方」をテーマとした議論を開始しました。

 第一回目の議論には、内閣官房副長官補と国家安全保障局次長を務め、安倍政権の外交政策を長く支えた兼原信克氏(同志社大学特別客員教授)と、川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)が参加。さらに、今回初めての試みとして若手研究者から青山学院大学総合研究所助手で、「アジア平和会議」実行委員も務める山﨑周氏も加えた三氏が参加しました。司会は、言論NPO代表の工藤泰志です。


 議論ではまず、中国が2016年から18年にかけてアメリカへの対抗軸を明確にしていったプロセスがつぶさに語られるとともに、アメリカがそうした中国の変貌に気づいたのは日本から10年遅れであったとの指摘がありました。さらに、対立が関税という通商問題にとどまらず、テクノロジーやイデオロギーなど中国にとっては譲れない領域まで拡大している厳しい現状や、台湾が焦点になりつつあることなどが明らかにされました。

 今後の対立の行方については、国際社会の原点がリーダーシップをめぐる争いである以上、米中の争いは厳しい展開になるとの見方が相次ぎました。


先進国モデルも安泰でない、結束してルールベース秩序を守り抜く努力を

 中国の国内統治に議論が移ると、川島氏はアメリカから体制転換への圧力を受ける中でも、居民委員会など末端レベルの統治システムは行き届いていることが新型コロナへの対応で明らかとなったことを理由に共産党の弱体化は起きにくいとの見方を示しました。

 香港問題に関しては、習近平体制下で国家安全が経済発展よりも優先されるようになり、安全上の「穴」となった香港を塞ぐ必要が出てきたこと、本土の国民への統制を強める中、香港市民だけが自由を享受することは国内統治の不安定要因となることなどの背景が、明らかにされました。

 続いて、中国の南シナ海などの近海への進出が議論となり、兼原氏と川島氏は、海から蹂躙された歴史を持つ中国は、海を取ることこそが最大の防衛戦略である、と中国の海に対する執着の背景を読み解きました。そして、その中でも台湾の奪取は中国にとっての国是であり、"中国版レコンキスタ"(国土回復運動)の最終章であるため、この台湾問題が地域最大の課題になっていくとの見方で三氏は一致しました。

 また、世界秩序の行方については、既存の先進国モデルも決して安泰ではないとの見方が提示されると同時に、その崩壊を防ぐためには、ルールベースの秩序を強固なものにするための空間をつくり、中国の相対的な力の低下まで時間を稼ぎながら 先進国モデルを守り抜くことの必要性も指摘されました。


「対立」ではなく、力の立場からの世界的視野での新しい「関与政策」

 米中対立がさらに深まる中で、新政権が発足する日本に問われていることについては、経済面でも軍事面でも日本単独で中国に対抗することが不可能になった以上、まずアメリカのコミットメントを確保すること、同時に、西側全体で中国に向かい合うための大戦略を策定することの必要性を指摘する声があり、3氏ともにそれを日本が主導すべきとの意見でした。その中では、それこそが、中国との『対決』ではなく、力の立場からの世界的な視野での『関与』政策との説得力を持つ意見が出され、また、「インド太平洋」を中国も無視できなくなった現状を踏まえ、これをベースにした対中外交を構築することの有効との見方もありました。

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