「米中対立の行方」第二弾 今年60周年の日米同盟の今日的意味

2020年10月01日

 言論NPOは、特別企画「米中対立の今後を考える」の第二弾で、今年60周年を迎える日米同盟にどのような役割を求められているかを考えました。

 議論には、香田洋二・元自衛艦隊司令官、元海将、武田康裕・防衛大学校国際関係学科教授、佐竹知彦・防衛研究所政策研究部防衛政策研究室主任研究官の3氏が参加しました。司会は言論NPO代表の工藤泰志です。


駐留経費は単なる上積ではなく、日本の防衛に役立つ使い方を

 まず現状の日米同盟について、60年前の締結当時は、アメリカのパックスアメリカーナという覇権システムを支えるハブ・アンド・スポークの一つであったものの、中国が台頭し、韓国やフィリピンなどの他国の同盟が弱体化する中で、地理的にもホットスポットに一番近い同盟国である、ということで双方ともに重要性が高まってきているとの認識で3氏は一致しました。

 日米同盟の重要度が高まる中、間もなく始まる5年に1度の在日米軍の駐留経費の見直し交渉について、香田氏と武田氏は、日本国民の税金を使う以上、目に見える格好で日本の安全、あるいは日本の防衛に役立つということが明確になり、かつ日本の有権者が納得する形でなければ予算措置は難しいとし、単に駐留経費を上積みするのではなく、日本の防衛に直接役立つ形で資金を有効に使うべきうだと、語りました。


kudo.png 次に、工藤は米中対立がイデオロギー的な色彩を強める中で、仮に米中間で偶発的な衝突が起こった場合、日本はどこまでアメリカと行動を共にするのか、と問いました。


中国には、日米一体の総合力と抑止力の強化、西側の全体での力の均衡


 
 これに対し、香田氏は、「中国は自分に都合のいいようにしか解釈しないし、国と国との約束すら守らない国だということを、共通認識として持つべきだ」と厳しい見方を示し、だからこそ、経済からハイテク、軍事力、理念も含めた様々な力が日米にあることを中国に対し見せつけ、中国をコントロールするための総合力を使う体制を作る必要性に言及しました。

 武田氏は、中国の尖閣や南シナ海での行動は、明らかに力による意図的な拡張だと指摘し、日本がそうした拡張を防ぐために抑止の方に力を注ぐことは合理的であり、そのシグナルを中国がキャッチすることで、紛争を起こさない方向に行くだろうと強調しました。

 一方、佐竹氏は、日本は価値や安全保障の部分で西側にコミットしているものの、中国という巨大な隣国があり、完全に西側の対中政策において全て歩調を合わせるのは不可能だと語り、日米同盟をしっかりと維持しつつ、米中間のバランスをいかに取っていくのか、という役割を見出すことができる、との見方を示しました。さらに、アメリカだけではなく、インドやオーストラリア、それからヨーロッパの国々とも連携して全体的な力の均衡を維持しながら、いかに中国に向かっていくかということが、今後の日本の戦略の基本的な姿だ、と語りました。


将来的には日米だけでなく、価値を共有する国との連携が大事

 今後の日米同盟について香田氏は、今までの「盾と矛」を前提としてきた日米同盟は今後維持できなくなる可能性を指摘し、日本とアメリカの安全保障政策を1つの方向に収斂させていくための研究を、今すぐにでも開始すべきだと強調しました。そうした研究をすることで、自由と民主主義を共通の価値観とする日本とアメリカが、しっかりとした体制を作り、中国が冒険主義を取るということに対しては、毅然とした態度を取るという信号を送ることにつながる、との見方を示しました。

 佐竹氏は、地域の有志国家が連携して、アメリカの地域におけるプレゼンスを補完する、あるいは一部代替するという協力が、これからどんどん主流になってくる、と指摘した上で、そうした流れに日本が乗り遅れる可能性もあり、香田氏と同様に、すぐに研究を始め準備を整えるべきだと語りました。さらに佐竹氏は、集団的自衛権が制限されている現状では、地域の集団防衛体制に参加することは難しく、将来的には憲法の改正も視野に入れる必要性もあると、さらに踏み込みました。

 武田氏は、IMFの購買力平価等の数字を挙げた上で、日米を併せても中国に及ばない時代が来る可能性を指摘。そうした状況下で日本の役割として、日米の協力を固めるということだけではなくて、現状を守るということに賛同し、価値を共有してくれる欧州や豪州、インド、ASEANをどうやって組み込んでいくかということが大事だと強調。

 これに対して香田氏も賛同し、日本はアメリカに対して同盟の価値を見直させ、忍耐力をもって同盟国を束ねていくように進言していく一方で、同盟の外にある民主主義や自由を尊重するASEAN諸国などの友好国とアメリカの懸け橋となり、一緒の輪になるように持っていくような、両方向外交が必要だとの見方を示しました。

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