EUの経済危機の本質と日本の財政問題(※11月4日収録)

2011年11月15日

2011年11月4日(金)収録
出演者:
加藤隆俊氏(国際金融情報センター理事長、前IMF副専務理事)
平野英治氏(トヨタファイナンシャルサービス取締役、元日銀理事)
内田和人氏(三菱東京UFJ銀行執行役員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第3部:ユーロ危機の先に日本の財政危機が見える

工藤:最後のセッションなので、本音ベースで色々と聞いていきたいのですが、今までの話を聞いて、少しわからなくなってきたことは、ギリシャが短期的に今の枠組みを受け入れて、当面の危機を回避する。その後、ギリシャが立ち直るためには、どういうことがギリシャに求められているのでしょうか。それは、以前、アジア通貨危機があった時に、韓国がかなり大変な手術をしました。それとどう違うのか、という事を説明してほしいのですが、加藤さんいかがでしょうか。

加藤:ギリシャが求められていることは、とにかく単年度財政赤字の対GDP比が2桁に上がっているわけですから、これをもう少し切り詰めなければいけないということで、公務員の数を減らし、給与を抑え、年金をカットする。

工藤:つまり、公共サービスをかなり低下させなければいけないということですね。

加藤:そうです。それに、国有財産を切り売りするという事と共に、銀行部門も整理し、資本も入れなければいけない。

工藤:かなりの大手術ですね。

加藤:そうですね。だからこそ、ギリシャ国民があれだけデモをやっているということでしょうし、IMFが資金を出すにあたっては、かなりの外科手術を求めることになります。


ギリシャを「韓国」と比べると

工藤:韓国の場合はIMFも入ったと思うのですが、ギリシャに関してはそれを管理して、遂行するということは、どういう枠組みでできるようになるのでしょうか。それが、国民に理解されるのか、という問題もあります。

加藤:ギリシャの場合は、ともかく財政赤字の程度が韓国と比べものにならないぐらい大きいですから、正常に持っていくために必要とされる外科手術の程度が大きい。そうなってくると、さらに景気が落ち込んで、税収も上がらないという悪循環に陥っているように感じます。韓国との違いはやはり、為替が使えないということが非常に大きな違いのように感じます。

工藤:そうすると、国民がある程度覚悟して、次の自分達の国の未来に対して本気でやらないと、ただデモをやるだけではダメだという状況ですよね。平野さんどうでしょうか。

平野:加藤さんがおっしゃったことと同じ事なのですが、ギリシャにはまだユーロがあるのです。ですから、ユーロがある限り、ユーロの購買力は保証されていて、ユーロで支援を受けるわけだから、韓国と比べると、ギリシャの危機感というのは小さい。相当なことをやらなければいけない、ということでデモが激しくなっていますけれども、ある意味で、韓国の方が危機感はあったのではないか、という感じがします。というのは、韓国は外資が急速に流出して、国の資金繰りが持たなくなってしまった。

工藤:流動性が失われたということですね。


ギリシャ国民は危機感を共有していないのでは

平野:それでIMFが入ってきて、もの凄く厳しい財政再建案で、徹底した構造改革を韓国に強いたわけです。韓国は真面目ですから、それを受け入れたわけです。受け入れたけれども、二度とこういうことはやってはいけない、という思いから、一念発起して競争力をつけるべく頑張って、もの凄くウォン安のフォローの風はあったけれども、サムスンとか現代とか売るものがあったことも事実です。ただ、彼等自身が深く反省して、国民的にこういうことは二度と起こしてはいけないという議論が盛り上がった、ということがあったと思います。

ギリシャについては、本来、構造改革をして競争力を回復しなければ、この国は破綻するといった危機感が、本当に共有されているかどうかというと、実はそうではないような気がします。まだまだ甘えがあるような感じがする。それが、ああいうデモにつながっているという面もあるのではないか。ただ、さっき、内田さんがギリシャ国民の70%がユーロ離脱を望まないと言っていることには、希望が持てるかなという気がします。ただ、そもそも働かなければ、我々の生活水準は維持できないという当たり前のことを、どの程度分かっているかというと、必ずしも多くの国民が納得しているとは思わない。それが、国際公約をしても、執行のところでひっかかってしまう大きな問題だな、と思います。ですから、少し内田さんと違うかもしれないのですが、ギリシャの場合は、やはり大手術が必要なのではないでしょうか。今の包括支援策の前提となっているリストラ案も相当な外科手術を伴うものです。でも、そのぐらいはやらないと、為替という手段が使えない以上、どうにもならない。


国家が破綻する、とはどういうことか

工藤:内田さん、、国家が破綻する、デフォルトするというのとはどういうことなのでしょうか。つまり、今回も可能性があるわけですよね。

内田:定義づければ、国家の支払い、つまり国債の支払いが不能になる、というのがデフォルトです。

工藤:そうなると、どうなるのでしょうか、その国は。

内田:次に日本の話になってくると思うのですが、例えば、日本の場合、国家が支払い不能になる前に、増税をするとか、あるいは年金の支給年齢を引き上げるとか、色々な手段があり、対応することが可能です。ですから、より正確に言うと、対外的な支払いが不可能になる、ということが現実的だと思います。要するに、ギリシャにしてもそうですが、過去に債務危機に陥ってデフォルトになった国には2つの要件があって、対外債務国と経常収支赤字国なのですね。なので、この2つの条件が揃って、かつ国債が支払い不能になると言った場合には、そこに対して、債権を持っている海外の投資家、こちらの投資家が、50%ぐらいの損失を負担して、IMFが厳しいコンデンショナリティと言う条件を課して、経済構造改革をやって立て直させる、というのが通常のパターンだと思います。

工藤:それが、50%というのは、さっきの枠組み案と同じですね。


外国からの借金も国債発行もできなくなり、税収も減る

平野:だから、50%というのは破綻ではないと言っているけれども、常識的に言えば、破綻なのです。しかし、これを破綻と認定すると、技術的な話になりますけれど、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)だとか、そういう色々な市場に大きな影響が出てしまうので、自発的な債権放棄ならば破綻と認定することはやめましょう、ということで擬制しているというだけの話なのです。問題は、外から見たらそうなのですが、ギリシャ国民に何が起こるのかというと、対外的には信用を失ってしまったわけなので、借金はできないわけです。だから、国際的な市場からは閉め出されます。ギリシャはもう破綻ということになりますと、対外的な借金はできない。では、国内で国債を発行できますかと言っても、返してくれるかどうかわかりませんから、極端に言えば国内での発行もままならない。そうすると、政府が何の借金もできないとなると、入ってくる金の範囲内でしか払えなくなる、という話になってきます。

元々ギリシャというのは税金を払う人が少ないのですが、更に税金を払うということはないと思うので、更に税金が少なくなる。そうなると、元手がないわけですから、払えるものも払えなくなってしまうということで、結果として国家破綻、財政破綻ということになり、そうなると、今、包括支援策の前提となっているリストラ案よりも、はるかに厳しい生活を国民は強いられるだろうと思います。それは、ユーロ離脱ということになるかもしれない。だから、他への影響もさることながら、ギリシャの国民生活も相当厳しいものになる。

アルゼンチンは破綻しましたが、今のアルゼンチンの経済は安定しています。これはなぜかというと、1つは通貨安という手段が使えたということです。昔は、1ドルに対してアルゼンチンペソは1対1でした。今は、1ドルに対して、4分の1ペソになって、ものす凄く輸出競争力が付いてしまった。加えて、アルゼンチンはアメリカ、ブラジルに次ぐ世界第3位の穀物輸出国で、中国に対する穀物の輸出が劇的に伸びました。つまり、通貨安で価格的にもよくなり、量的にも伸びた、ということがアルゼンチンの経済を何とか潤して、経済安定化の方向に向かったということです。アルゼンチンは通貨安という手段を使えたということと、穀物という輸出するものを持っていたという、ある種の幸運に恵まれたということです。


加藤:要するに、外からの支援を受けられなくなりますから、本当に縮小清算になるか、アルゼンチンのように資源国として輸出ができる。それから、世界的なブランドを持っていて、どんどん輸出が伸びるということでもないと、非常に難しい。国民は、耐乏生活を長い期間強いられるということになりがちですね。

工藤:IMFというのは、何をする係になるのでしょうか。

加藤:IMFは欧州委員会、それから欧州中央銀行(ECB)と共に、ギリシャの経済再建策をきちんとつくって、それが機能するまでの間、資金的に支援をするという役割ですね。

工藤:それを強引に迫ったり、監視したりするのは欧州の方になるのですか。
加藤:トロイカと言いますか、3つの機関で行うことになると思います。


日本の財政破綻の可能性

工藤:今までの話を聞いていると、やはり国民がきちんとそういう状況を考えながら、デモだけでは済まされない、自分達の未来に対して考えなければならない局面になってくる。ということになると、日本はどうなのか。この番組の前に,言論NPOでは有識者のアンケートをやってみたのですが、驚いたことに、日本の財政破綻をするのかという質問に対して、日本の財政破綻の可能性を指摘する声が半数を上回りました。このままいくと、間違い無く財政破綻は訪れる、と。でも、それを変える力が、日本の政治にあるかとか、そこまで国民が覚悟を固めているのかとか、結構、今の話に近いようなことを日本の将来に対して指摘する人が多いのです。日本の問題を世界の現象と置き換えた場合に、日本に何が問われているのか、ということをお聞きしたのですが、平野さん、どうでしょうか。

平野:財政破綻の定義にもよりますが、日本の政府が内外で発行する国債の元利払いができないという事態は、色々な理由がありますが、考えにくいと思います。ただ、問題は、財政再建ができるのかということに置き換えると、ハードルは非常に高いし、やらなければいけないのですが、そう簡単ではない、というのが私の結論です。政治のことが色々と言われていますけど、やはり、基本的に国を動かしていくのは国民の意識ですよね。このアンケートを見ていると、起こると思うという人が4割近くいるというのは衝撃の数字なのですが、

工藤:警告的な意味がありますよね。


日本は財政再建策を実行しなければ、国債暴落、大円安のリスク

平野:ありますね。でも、普通の人は、あまりそういうことを考えていないのではないかと思います。年金は何だかんだ言ってももらえるし、国債買っていれば安全だしという風な人が圧倒的にまだ多いのではないかと思うので、日本の財政が危機的な状況になるという認識が共有されていない、共有されていないところで政治がどこまで何ができるのか、非常に難しいと思います。これは、ある意味で、日本の財政事情を詳らかに説明すると同時に、非常に粘り強い努力が求められていると思います。

それで、あり得るべき事態として何が起こるのかというと、今のところ、財政赤字については、国債を発行して、その国債の97%、96%ぐらいが国内で消化されている。内田さんのところの銀行も、日本銀行も大量に国債を買っているわけです。こういう状態がいつまで続くのか、これは貯蓄の中から買うわけですから、問題はあるわけです。今の日本の貯蓄率の動向だとかを見ると、こんな状態では、いずれ国債を国内で消化できないから、海外の方々にも国債を買って頂かないと財政は回らないという事態に多分なるでしょう。その時が大きな境目で、海外の投資家は日本の投資家と比べれば、はるかに日本を厳しく見ます。だから、そう簡単に国債を売れませんね、と。あるいは、一旦買ったとしても、何か起こると、すぐ国債を売られてしまうというようなことになります。そうすると、その部分で市場のプレッシャーが日本、及び日本政府にかかってくることになる。その段階で日本に何ができるのかということなのですね。それは当たり前で、信頼される財政再建策をつくって、それを着実に実行していくという意思と能力を示さないと、そういう事態は収まらない。それがいつくるかは、私には分かりませんけれど、そんな遠い将来ではなく、数年以内にそういう事態がくるのではないか。それに対して、日本が手を打てなければどういうことになるかというと、国債価格の暴落と大円安というとんでもない事態になるリスクは残るな、と思います。

加藤:今回のギリシャなり、イタリアの経験からすると、大丈夫と思われていたところも、ある時点から急な坂道を転げ落ちるような事態が、どんどん加速度的に悪化していきますから、日本もギリシャなり、イタリアのことを他山の石と考え、やはり相当、前広に手を打っていかないと、ある時点から制御不可能なことになりかねない、そういうリスクを、今回の事件から十分に学ぶべきじゃないかと思います。

工藤:加藤さんがIMFから帰られたときにお会いしたら、もう議論の段階ではなく、アクションの段階だとおっしゃっていましたよね。

加藤:そう思います。

工藤:内田さんはどうですか。まさに、国債を担当しているポジションにいらっしゃるのですが。


ここ3、4年ぐらいの間に財政構造改革のメドを

内田:その点については、あまりお話しできないのですが、私も、おふたりがおっしゃったように、時間的な問題という点では、差し迫った状態にあると思います。もう1つ重要なことは、今は経常黒字なので、そういった危機が封印されていたり、あるいはそういう危機を感じないような形での政策が採られている。しかし、これから高齢化国家になる、あるいは産業の空洞化という形の中で、経常収支の黒字がどんどん減っていく。それが減ったときに、財政のリスクというものが顕在化するのです。この時には、もちろん国債の問題と同時に、為替が円安になる、この2つが同時に来るわけです。その時に、インフレになるわけです。インフレになった時に、高齢化国家になっていると、年金生活の方々が非常に苦しむことになりますので、時間的な問題としても、ここ3、4年ぐらいで、財政構造改革に目処をつけて、将来的に10年、20年のある程度のプロアクティブな、要するに、予測を取り入れた形で、日本経済の姿を示していかないと、10年後にはインフレで高齢化という極めて危険な状態に進んでいくというリスクが高いと思います。

工藤:海外の投資家は日本をどう見ているのでしょうか。

内田:格付け会社が4つのオプションを見ていますね。その内の1つが、日本はまだ、消費税の増税とか、社会構造改革など財政の改善オプションを持っているということ。2つ目は、国債の利払いが低い、3番目は経常収支が黒字だと。4番目はホームバイアスと言って、日本の国債の95%は国内で投資化されているということで、日本の国債については、短期的な危機はないと見ています。ところが、2番目から4番目は、さっきも申しましたけど、経済の構造転換によって、いずれ変わってくる可能性がある。1番目の財政改善オプションを投資家とか世界の格付け会社は本当に注視して、ここがかなり弱いとか、遅れるということになると、2番目から4番目の条件が変わった時に、大幅なアクション、非常に厳しい評価といいますか、動きをしてくる可能性があるので、そこも注視していかなければいけないと思います。

工藤:加藤さん、日本みたいに巨大な国が財政破綻となった場合に、どうなるのですか。日本がちゃんとやらなければいけないのですが、誰が、どういう形で立て直すのですかね。

加藤:やはり、日本が自分達で支えていくということが一番基本になると思います。それから、日本の国債価格が暴落した時には、日本の問題のみにとどまらず、他の国の国債価格が暴落するというリスクがあるということを、IMFは言っていますし、全く同感ですね。

工藤:なるほど。すると、僕たちはそろそろ覚悟を固めて、日本のためのことを考えないといけないな、という段階に来たということですね。今日の話を踏まえて、今回のEUの危機をベースにして一言ずつ何かありますか。内田さんからお願いします。

内田:ユーロの制度欠陥というのが今日の議論であげられましたが、日本の色々な課題と類似している部分もありますので、やはり、一つひとつ構造改革を進めて、財政の再建に向けて動いていくということを、私を含めて、国民一人ひとりがしっかりと信念を持って、やっていく必要があるということですね。

工藤:今、twitterで、「日本がこのEUの危機に対して何ができるのか」という質問がきているのですが、平野さんどうですか。

平野:EUだけの問題ではなくて、世界全体の問題ですから、その世界の協調行動に対してはきちんとした役割を果たすということと、日本の貢献は日本自身の国を守っていくということが最大の貢献なのですね。その1つは財政なのです。だから、危機が表面化してからでは遅いので、表面化する前にきちんと手を打つということに尽きる。これは、政治的には非常に矛盾した話で、危機が表面化していないと危機感は共有されないから、政治的には非常に難しいのだけれども、そこを乗り越えて行くのが政治ではないか、という風に思います。

工藤:野田さんはG20で消費税を上げると話をしていますよね。

平野:それは、そういう方向に向けた1つの意思表示であるという風に考えたいですね。消費税だけの問題ではありません。消費税が10%で足りるかどうかという問題もあります。だけど、そういう方向に向けて努力を重ねていくことは大事だと思います。

工藤:加藤さん、最後に一言。

加藤:日本が足下の景気を支えていくということが、世界経済から見て必要なことの1番目ですし、2番目はやはり、ユーロ圏に対して注文をしながら、ユーロ圏が進歩すれば、それに応じてESFS債の買い増しとか、そういったチャンネルを通じて支援をしていくということは可能だと思います。是々非々で臨むということではないでしょうか。

工藤:ということで、時間になりました。今日は、EUの危機の問題、その構造、という問題だけではなくて、僕たち日本がこの問題を考えて、自国の未来につなげられるかということまで話が発展しました。皆さん、今日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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