東日本大震災における寄付金の偏在について

2011年11月23日

2011年11月14日(月)収録
出演者:
阿部陽一郎氏(中央共同募金会広報企画副部長)
田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)
山岡義典氏(日本NPOセンター代表理事)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第3部:市民社会が大きく根付く転機になるか

工藤:今、本質的な議論になりかけたのですが、この問題でもアンケートをやってみたので、少し紹介してみたいと思います。「寄付者が寄付を受けた人から、このように使いましたという明確な反応があり、役立ててもらえたという実感が伝わると、良いと思います。寄付者が寄付を受けてどこにどのように使われたか分からない、いつになっても自分たちの寄付が寄付者に渡らないし、被災者が困っている状況が長く続くと、不信感が出て、寄付をしてもどう使われるのかわからないという気持ちになる」という意見でした。つまり、寄付者からみると、被災地のために使ってほしいわけです。それが、ちゃんと使われたかどうかわからないけど、仲間内だけでやるみたいな話でもいいのですが、その場合は、何のためにやっているか、ということが、ちゃんと寄付者には説明されなければいけませんよね。

田中:そうですね。個別の攻撃をするわけではないのですが、ジャパン・プラットフォームって、名前が分かりやすいのですよ。私の友達も、随分寄付をしているのですが、元々この仕組みが、メンバーとして登録している団体に対して分配をするという団体でしたから、それに則って40億円以上を20団体で分配したのですが、多分、寄付をした人は知らないと思います。

工藤:確かに、ジャパン・プラットフォーム、日本財団、中央募金会とか、日本を代表しているようなところに集まるというのは、その実績があるからだとは思うのですが、誰が、本当に、被災地のために何をするか、ということがなかなか見えない状況にあるのかな、と。今回、初めての先例かもしれませんが、そういう段階において、今の偏在という問題が生じてきているような気がするのですが、その辺りはどうなのでしょうか。阿部さん、いかがでしょうか。


助成金に寄付者のメッセージを添える

阿部:先程の山岡さんの話ではないのですが、私たちも、最初に申し上げた通り、NPOサポート募金ということで、被災地で活動しているボランティアの皆さんとか、NPOの皆さんのための活動のための支援金の募集を初めて行いました。それから、助成をするというのも初めてなのですね。本当にこれは大変なことだな、と実感しています。先週、第4回目の助成を決定して、今、ホームページに掲載していますが、8カ月間で4回の助成というのは、2カ月に1回助成を決めていっているのですね。やはり、一番気をつけているのは、皆さんに情報をどれだけガラス張りにしてお届けできるか、ということですから、配分委員会でどのような議論があったのかということを公表しています。それから、当然、どの団体に幾らの助成額で、その団体はどこで活動しているのか、本部はどこなのか、という情報も全て公表しています。

もう1つ気をつけていることは、教えてもらいながら実践していることですが、助成先の団体に色々なお知らせをしていきますが、その時に寄付者の思いも感じていただきたいなということで、寄付者からのメッセージも付けて助成先に一緒に届けるわけです。ですから、中間組織の機能としては、単に助成を決めるだけではなく、寄付者の皆さん、被災地の皆さん、それから活動する団体の間に、何とか循環をつくっていければなと思っています。

工藤:山岡さん、3つの団体に90%ぐらいの支援金が集まっているという現状がありますよね。山岡さんのところは7番目で1.3億円位なのですが、さきほど、本当にきめ細かく見て助成していくのは、1億円ぐらいが限界だとおっしゃっていましたよね。でも、3団体に90%ぐらい突出して集まるというこの構造をどう思いますか。


寄付が集まるのはいい、ただ配り方に問題あり

山岡:義援金に比べたら、150億円と言っても、10分の1以下の額でしょ。だから、その中で偏在しても、みんなが100億円位集めてもいいわけで、集まってはいけないということではないと思います。おそらく、ジャパン・プラットフォームも、こんなに集まるとは思っていなかったと思います。わかりやすかったから、企業からの寄付が多く集まった、たまたま集まってしまったわけです。集まったらいけないというと、寄付文化は育たない。僕は集めるところは大いに集めて、今度何かあった時は、うちも100億円ぐらい集めるぞということでいい。集めたからいけなかった、ということではないと思います。ただ、配り方の訓練がされていませんから、その問題は重要だと思います。

工藤:多分、私が言っている意見は、1人、2人ではなくて、ほとんどの人がそういう指摘をしています。先のアンケートでも、「寄付金が集まらなかった団体は、寄付をする側が信頼するに足る団体かどうかの判断ができないことが大きなネックになったのではないでしょうか。日ごろの活動や活動報告を通じて胡散臭い団体でないと認識してもらう努力が必要だと思います」という意見もありました。

山岡:そこは難しくて、何をもっていいことかというのは難しいですよね。僕らも助成はしたいのですが、ここはアカウンタビリティがあって、本当に報告書を書いてくれるかな、と。応募書類も書けないぐらいの団体は沢山あるわけです。だけど、そこはお金が必要なのですね。だから、本当は、アカウンタビリティを厳しく問うとなると、一定の団体に限られてしまう。そこまでアカウンタビリティが問われると、こんな100億、200億円のお金は使い切れません。

工藤:今の話は凄く本質的な話なのですが、その話にしてしまうと、NPOそのものの話になってしまうので、まず話を分けてみますと、お金をもらった団体のアカウンタビリティというのは、これまでを評価して、適切だと判断していますか。

山岡:僕らは助成を決定したというアカウンタビリティは出せるわけです。大体、半年か1年経って報告書が送られてくるわけです。本当に助成をもらった団体が何をしたか、というのは半年後か1年後と、活動期間が終わらないとわからないわけです。だから、我々がどこに助成をしたか、ということははっきり出しています。その団体が、どういう団体で、どういうプロジェクトに出したのか、ということは、ジャパン・プラットフォームにしてもはっきりしていると思います。ただ、出した先がきちんと使ったどうか、ということは、まだ報告をもらっていないから、今後の話になります。

工藤:今の話について、田中さんどうでしょうか。


寄付を受けたら、1週間後には返事を出す

田中:今、仲介の話をされたのですが、私は、難民を助ける会の監事をやっているのですが、ここも10億円単位で寄付を集めましたが、ここは、寄付を頂いてから1週間でお返事を書く。そして、毎月、1枚でも短くてもいいから、何にいくら使いましたという報告書を必ず出すことを鉄則にしています。それは、私たちというか、メンバーの中では、寄付をいただいたのだから、それが当然というか、義務だと思っています。

工藤:それは、今回の為だけではなくて、日常的にやっていたわけでしょ。

田中:ですから、そういうことが組織の中でルール化されていますから、今回も大変な額が集まっていますが、そこはボランティアが総動員で手紙を書き、送るということを必ずやっています。

工藤:そういう形でみなさんのところもやっているのですか。
山岡:私どもは月例報告ということで、毎月出しています。
工藤:共同募金会のほうはどうですか。


共同募金会は5名以上のグループを対象に助成

阿部:私ども、Facebookでも公式のページをつくりましたし、通常のホームページにも掲載しています。また、寄付者の方からのメッセージは極力載せたいなと思っています。今のアカウンタビリティの話なのですが、例えば、山岡さんのところの日本NPOセンターですと、NPO法人や中間支援系、任意団体も含めてだと思います。私どもは、5名以上のグループからが対象で、過去のレスキュー、要するに緊急救援の活動であっても、遡って応募ができるようにしています。ですから、本当に会則も今はない、というグループがあったりするわけです。でも、そこには会則をちゃんとつくってください、とかいうことの相談にも応じながら、やらせてもらっています。ですから、少し入門的なところもあります。どうしてかというと、今回、ボランティアが行くところと、あまり行かないところというのが地域によってはっきりしていて、なるべくボランティアに行っていただきたいということで、5名以上を対象にしています。

これから、市民社会とかを考えていったときに、少しずつ、助成金を受けるときに、どんな作業が必要なのかとか、組織としては何を考えていかなければいけないのか、ということも合わせて、活動を支援する側は考えていく必要があるのかな、ということを模索しながらやっています。

工藤:今の話も重要なのですが、その前に山岡さんが言っていた話が気になりました。お金を出したくても、まともにやれる団体というのはまだまだ限られている。さっきの話でも、報告書を出すのは当たり前だと思うけど、出せるのかなというところにお金を出して、逆に大丈夫かなと思いませんか。

山岡:赤い羽根の方がもっと苦労していると思います。5人でつくった任意団体に助成して、本当に1年後に報告書がくるかどうかというのは、実際問題としてはありますよね。

阿部:信じています。
工藤:1年後にいなくなってしまうかもしれませんよね。

山岡:現地に行けば、やってみて、うまくいかなかった活動は山のようにあるわけです。だから、アカウンタビリティをあまり厳しく言ったら、大きい団体しか使いこなせないと思います。

工藤:この状況をどう考えればいいのでしょうか。NPOで言うと、4万団体以上あるのですが。


仲介団体は助成先を育てていく必要がある

田中:山岡さん、阿部さんだけではなく、私も、仲介だとか助成をやろうとしている団体の悩み、つまり、助成をしたくても、いい助成先がみつからないという話は、何度か聞いています。これは震災に始まっているという面はありますが、それ以前から日本の市民社会組織の課題があると思っています。それは、寄付を集めるということに対して、あまりにも慣れていない。今年の3月に、内閣府から出たNPOの調査では、7割が寄付金は0円だと計上しています。やはり、寄付を集めるとなると、今言ったように、寄付者に対して説明をしなければいけなくて、自ずとアカウンタビリティについて自分で考えなければいけないということになります。結局、寄付を通して、寄付者と対話をし、自分達の能力を上げていくという、鍛えられるところが、この十何年弱かった側面があると思います。ですから、私は仲介や助成の機能を育てていくと同時に、助成金や寄付金に耐えられるNPO、あるいはそういった団体が増えるよう、助成先を一緒に育てていかないと、いけないのではないかと思います。

工藤:今の話も凄く重要です。つまり、山岡さんのところは、きちんときめ細かなところまで判断していくと、1億円ぐらいが組織として限界だということですね。すると、阿部さんのところは30億円ぐらいやっているわけですから、かなり大変ですよね。確かに、寄付を使って地域の課題にちゃんと対応してやっていく動きを促進する可能性はあるのですが、うまくいかない場合もありますよね。そういう場合、寄付者と助成先の人たちを鍛えるということを、どういう風につなげていくことになるのでしょうか。


現地の被災者が望んでいる活動か、否か

阿部:短期と中長期に分かれていまして、1ヵ月未満の活動は、終わった活動のみ応募を受け付けています。ですから、必ずやっている活動なのです。ですから、そこからは、初めから活動報告のようなスタイルで応募書類がくるのです。これからやる活動に関しても、中長期で応援しています。ですから、今の話だと、これからの活動を含めてなのですが、多分、一番のポイントは、自分達が活動したいという思いと、現地の被災された皆さんその活動を望んでいるのか、このギャップがあるのか、ないのか。もしギャップがあるとしたら、どのように埋めるのか。ここが助成する側としては、一番難しいですね。

工藤:また本質的な話が出てきました。上から目線ではないのですが、こちらの視点ではなくて、被災地に本当に必要なものでないといけませんよね。

山岡:僕らは、現地NPOに限っているからいいのだけど、外から入ってくる例で言えばそうですね。7、8割は外からの団体ですからね。外からの場合は、本人はいいと思ってやっているのだけど、本当にうまくいくのかな、というのはあるかもしれません。だけど、それを全部切っていては何も起こりませんから、やってみたらいいのではないの、ということは沢山あると思うので、その塩梅をどうするかですね。

工藤:しかし、難しいですよね。寄付者は何かをしたいと思って、金持ちではない人も出しているわけですから、その寄付者の思いに応えなければいけない。つまり、大金持ちが、「あなた、これやってみなさい」というのとは違いますよね。だから、その問題をどうやって折り合いをつけていくか。

阿部:ですから、地元のみなさんが、これからグループを作り、地元の中で、地元の皆さんに対して活動をしていくのを、どうやって応援できるか、というところかなと思っています。


寄付の文化は日本に根付くか

工藤:アンケートの最後の設問で、これを機会に寄付文化が日本でも根付いていくのかということで質問してみました。やはり、意見が分かれました。サンプル数が少ないということもありますが、「根付いていく」という人が30%で、「根付かない」という人も同じぐらいです。やはり、寄付におけるルールやアカウンタビリティ、信頼性など色々な問題に関して、まだまだ疑心暗鬼な人が多い、と。同時に、社会でもう少しNPOなどの団体も知られていかないといけない。全然、姿が見えない状況で、何かの時に急にしっかりとした団体を見つけると言っても大変ですよね。その辺りはどうでしょうか。

田中:おっしゃる通りで、私は、日本の非営利セクターというのは、ある意味、非常に恵まれていると思います。制度環境についても、今回の改正で税額控除が入ったり、あるいは、公的な形で研修の機会が沢山あったと思います。ある種、外堀は埋められてきたのですが、今度は、自分達で自分達を磨き上げて、外に発信や説明をするという力を、自分達の活動の中から身に付けていかないとダメだろうと思います。

工藤:そういうNPOが出てこなければダメですよね。それで、僕らはエクセレントなNPOになるための評価基準を公表しているのですが、それを田中さん簡単に説明してくれますか。。

田中:ここにいらっしゃる山岡先生にもご参加いただきましたし、言論NPOの皆さんにも色々とご参加いただきながら、実践者と研究者で3年間かけて、優れた活動とは何なのか、信頼できる団体とは何なのか、ということを議論しまして、名前はちょっと恥ずかしいのですが、エクセレントをめざす団体になろうということで、33の基準を作っています。これも1つの見えるための仕組み、あるいは信頼を得るための1つの内発的な試みではないかなと思います。

工藤:確かに、今回はあまり批判ばかりしてもよくないと思っています。ただ、ここまで多くの皆さんの善意の寄付が集まって、その中で市民社会が大きくなる1つの転機になるような段階にきているわけです。これを機会に、寄付の問題についても考えていくことは必要だと思っています。

最後に、皆さんから一言いただいて、終わりにしたいと思います。山岡さんどうでしょうか。

山岡:やはり、時間の偏在が大きいのですよ。瞬間的に集まったものを直ぐに使わないといけない、とすると、みんなもの凄く雑な使い方になってしまう。僕らは企業からも色々な寄付をもらうのですが、1年でもらっても、これはとにかく5年間で使わせてください、と。あるいは、5年間に分けてくださいと言っています。これからは、一定程度、持続して必要になってくるわけです。だから、義捐金には、瞬間的に集まったお金を、瞬間的に使わなければいけないというところはあるのですが、支援金については、僕は必要に応じて使わせてください、と。その時間の偏在をならす文化を創っておかないといけないと思います。

阿部:さっきも申し上げたのですが、寄付者の皆さん、被災地の皆さん、それから活動団体をどうやってお伝えできるか。伝わるようにできるのか、ということが助成金を扱う仲介組織には求められていると思いますので、そこはがんばっていきたいな、と思います。


寄付は寄付者にとっては活動への参加である

田中:確かに、寄付は活動資金なのですが、寄付をする側にとっては参加なのですね。これは市民参加のとても重要な回路だということを申し上げたいと思います。

工藤:そろそろ時間になりました。今日は、義援金、支援金についてきちんと議論したいということで、ご参加いただきました。ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

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