次の選挙で問われるエネルギー政策とは

2012年11月20日

2012年11月19日(月)収録
出演者:
工藤拓毅 氏(日本エネルギー経済研究所研究理事)
藤波匠 氏(日本総合研究所調査部主任研究員)
藤野純一 氏(国立環境研究所主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第3部:原発をどう考えるか

工藤:いまのお三方のお話は、みんなわかりやすかったです。ただ、安全性の問題に対してまだ不信感がある、それに対する国民的なコンセンサスを作らないといけない、ということもその通りだと思うのですが・・・ということは工藤さん、それをできなかったらと、できたで、この回答は違うものになるということを仰っているんですか。

工藤(拓):たぶん、そういったような安全技術、それの管理、これは日本だけの議論だけではないと思います。IAEA(国際原子力機関)などの国際的な英知を集めて、この原子力技術というものを世界的にどういうふうにハンドルしていきますか、というのは基本的にやらなければいけないことだと思うのですよね。それと、日本国内の制度的な問題。両方合わせて、両輪で回していかざるをえない。だから、そういった観点を含めて、仮に世界的な世論が「これはやばい、難しい」となれば、そういう方向に切っていくでしょうし。今回の事故を踏まえて、その検証をちゃんとやっていきましょうという、日本の国内の議論を含めて国際的に働きかけをしていくということは悪いことではないと思います。

工藤:藤野さんの今の話は、つまり安全性の問題に関して、「こういう形だったらリスクを最小にできる」とか「コントロールできる」という見通しが全くないわけじゃないですか。将来、何かが国際的にもできるのであればという話なのですが、藤野さんは非常に難しいという判断をされているのですか。

藤野:必ずリスクはありますので、どこまで許容するかは国民的プロセスで納得できるかということと、ドイツはこれを倫理の問題ととらえていて、そういった原子力という技術の性質についても考えている。ただ単に技術の安全性というだけではない、というのが、原子力を含む、あと核をどう利用するかということにもつながっていきますので、その観点も含めておかないと。ただ技術的なバリアが解決されたから無条件でいいよ、という話にはなりえないんじゃないかな、というのが、安全性の基準を決める上での難しさの根底にあるのかな、と。


政党・政治家は2030年へのビジョンを示せ

工藤:なるほどね。基本的に藤野さんもフェードアウトしていくような形の中で、代替エネルギーをどうしていくかとかいろんなことを考えていく段階なんじゃないかと。藤波さんは、まだそこまで判断する材料がそろっていないということですよね、どちら側も。

藤波:そうですね。マニフェストに示すべきだと。

工藤:そこを政府もきちんとしていかないと、そこまでにない段階でやりようがない話ということは、判断できない段階だと。藤波さんは基本的にそれに近い。でも後者でいったのは、それだけじゃない。安定供給する上での経済に対する問題とか、周辺諸国へも対応するとすれば技術力水準を維持しなければいけない。という話になれば、なるべく維持してもいいという判断だ、と受け止めたのですが、それでよろしいですかね。

藤波:先ほど言った維持というもの、技術の能力をどうやって維持するかというのは、例えばそもそも2030年以降にある程度フェードアウトしたとしても、最終的な高レベルの最終処分を考えたときに、やはり長年月にわたって、原子力管理ということはやっていかなければいかないのは厳然たる事実。廃炉をしたとしても当然技術が必要だという話になる。だから、発電という技術と、それを最終的にバックエンドのところでしっかりやるという技術とひっくるめて、原子力関連技術を、日本はしっかりどこを押さえていくのかということは見ていかなければいけないということです。ただ、そこのところの日本としての方向性というものを、日本国内だけでは当然決められないですよね、という話で、先程の海外も含めて・・・

工藤:別の話で、安全性のところは今、原子力規制委員会ができて、そこで基本的にやられるということでよろしいですか。

藤波:いろんな基準の枠内で作って、順次評価していきましょうという形。

工藤:そこに関して全然だめだという認識を持っているのでしょうか、それとも見守ろうということなのですか。

藤波:先ほど申し上げた通り、原子力技術専門家ではないので、そこのところでいろいろプロセスが進んで、専門家もしくは政策家の方々の、また藤野さんがおっしゃったようなステークホルダーの方、いろんな意見が入るでしょう。そこのところで前に進めるかどうかというのが、年明け以降問われるということになるでしょうね。その際に、政治判断がどのような形でかかわっていくか。

工藤:わかりました。次の選挙、それが今回の会議の目的だったのですが、政党なり政治家は、このエネルギー問題、原子力、それから今日は環境の話ができなかったのですが、何を国民に説明しなきゃいけないのか、有権者は何を考えなきゃいけないのか、ということが非常に重要なのですね。たぶんそれは非常に難しいんですよ。で、ちょっと聞いてみたのですが、一番多かったのが「原子力を廃止する場合の代替エネルギーによる安定供給の方法」というのと「原子力発電そのものに対する是非」を説明すべきだ、それがだいたい2割ずつなのですね。つまり原子力発電そのものに対して政党・政治家はどう思いますか、その場合に、廃止する場合は、連動しているわけですが、代替エネルギーを含めたエネルギーの安定供給はどういう風に考えていますか、というのが一つの裏表で出てきている。それから、「原子力発電を残す場合のリスクをどう管理するか」とか、「安全性に配慮した運営方法」とか、これがたぶん原子力を残す場合に説明しなきゃいけない話だと思うんですね。で、原子力を廃止する場合は「経済成長」とか、「コスト負担」に対してきちんと説明してほしいと言っているので、これはたぶん、是非をベースにしながら、その場合はエネルギーの安定供給の仕方、なくす場合は経済成長の負担、やる場合はリスク管理の問題とか、こういうことをパッケージで説明しないとダメだということがアンケート結果であるのですが、どうですか。

藤野:全くその通りだと思います。さすがだなと思います。政治家・政党が示すべきはやはりビジョンだと思いますので、2030年に向けた方向性、やはり原子力に対する考え方はそれぞれの政党で明らかにすべきだと思います。続けるならどういう条件で続けるとか、フェードアウトならばどういうふうな対策を打っていくとか、そちらのビジョンなくしてただ原子力の是非だけを問うていても、我々は継続した生活ができません。一方で、我々の生活をどうやって作っていくのかについても、原子力以外の選択肢によって地域がどのように作り替えられていくのか、そこらへんのビジョンというものについて、それぞれの政治家・政党が語ってほしい。そのためには、我々も研究者なのでずっとシナリオ作りとか携わっていますし、やはりある程度のコンテンツが必要ですからそういったコンテンツをどのように吸い上げていくか、あとは会議の設計というか、今後決めたうえで国民の意見をどう吸い上げていくかというようなプロセスについてもぜひ語っていただきたいと思います。

工藤:なるほど、それを決定するまでのプロセス、あと民意の吸収の仕方。藤波さんどうですか。


脱原発 再稼動 どちらにも大きなハードルが

藤波:私も近いですね。原発をゼロにする、積極的に利用する。日本はどちらの選択もとりうるという話をしました。ただ、それぞれのシナリオでやはりそれぞれ異なったハードルがあるんだ、と。そのハードルが、例えば原発をなくすということなら、代替エネルギーをどれだけ安定供給できるかとか、かなりリンクしたものですので、やはり一体的に今回のマニフェストには、「原発をゼロにします」とか「長期にわたって活用していきます」というだけではなくて、どういう手法によってそれを達成していくのか、まで示していただきたい。

工藤:工藤さんどうでしょうか。

工藤(拓):私は、やはり時間軸でとらえたいですね。まずひとつは短期的な観点、現状認識をどのように置くのか、今の夏冬の供給力に対するリスク、いろいろな意味での火力を含めた燃料のコストの上昇、これは間違いなく起こると思います。そういうものに対してどう評価していくか、そういったものを最終的にこのようなシナリオで解消していけるんだという政策的な展望が、2030年以降の展望とつないで、先々の特に2030年以降の姿だけで有権者が考えるのは結構難しいと思うのですね。でも、実際に足元で起こっている現象、リスクだけは、これに対して、コストをいくら負担しても我々は再稼働を行った方がいいのではないか、ということなのか、いや、やはりこういったものを解消していくために安全性を前提として再稼働を進めていくべきなのではないか、というような、短期・中期的な具体的なアクション、そしてそれを長期に結び付けていく、これがないとなかなかわからない。

工藤:今おっしゃったようなどちらの立場をとるにしても、それを可能にするような話を説明してほしい。ただ知りたいのは、原子力ゼロにするというアプローチは物理的に可能なのですか。廃炉とか、再処理とか、いろんな問題がつながってますよね。これはどうなんでしょうか。

藤野:技術的ポテンシャルで言いますと、われわれ6月の時点で原子力0%ケースでも成立するシナリオはお示ししました。

工藤:そうですか。物理的に可能なわけですね。

藤野:技術的には。

工藤:アメリカが、プルトニウムの問題、再処理の問題に関して、どうするんだという話がありましたよね。この問題についてはどうなっていくんですか。

工藤(拓):これは国際的に見て管理の状況をどうするか、それに関連して最終処分、再処理の話もかすかに残っているのですが、いずれにせよ、バックエンドの話というのは世界的な宿題になっているのは間違いないです。だから、日本国内もありますけど、世界的な宿題であるという視点を持たないと大変難しい。

工藤:ということは、今回の選挙は、どちらのポジションを取るにしても、それを可能だとする政策の体系を示さないと、国民は判断できないという話ですよね。それをちゃんと持っているかどうかでまず有権者は判断せざるをえないですよね。それの検証はなかなか難しいので。

工藤(拓):物理的な実現可能性と、その方向に行った時に何が起こるんですか、エネルギーの価格がどのくらい上がるんですか、産業界は本当に国内で生産していけるんでしょうか、とか、そういったような意見が出ているのですね。それに対する一つの解をそれぞれの考え方としてだしてもらわないと。

工藤:そうですよね。逆に言えば、エネルギーの安定供給はある程度必要ですからちゃんと維持しなきゃいけないけども、経済成長に対する問題ということも、どちらにしてもそれに対してこうだということを言わなきゃいけないわけですよね。実を言うと、今回の問題は、いっぱいコメントが来ているのですよ。1000件くらい。たぶんそれくらい反応を呼んでいるんだということも分かるのですが、これはもうちょっと何回かやらなきゃいけないかなと思っております。やはり納得しないで選挙をするのは非常によくないし、本来は政党なり政治家がそれに対して説明しなきゃいけないので、当然私たちはそれを政党側に求めますけれども、一方でここでも議論していかなきゃいけないかと思っています。これで今日は締めますけど、継続的な議論へのご参加をよろしくお願いします。
 ということで今日は、皆さんどうもありがとうございました。

   


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議論に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

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