2015年の日本に何が問われているのか

2015年2月10日

2015年2月10日(火)
出演者:
明石康(国際文化会館理事長)
川口順子(明治大学国際総合研究所特任教授)
宮本雄二(宮本アジア研究所代表)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

工藤泰志工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。2015年の議論を今日から始めます。まず、最初に「2015年、日本の社会、そして私たちに何が問われているのか」と題して議論していきたいと思います。

 それでは、ゲストの紹介です。まず、宮本アジア研究所代表で、中国大使も務められた宮本雄二さんです。続いて、明治大学国際総合研究所特任教授で、外務大臣も務められた川口順子さんです。それから、国際文化会館理事長の明石康さんには別途インタビューをしてきましたので、動画でご参加いただきます。

 さて、私たちは、この議論に先立って、正月に言論NPOに登録している有識者の皆さんにアンケートを取りました。

 アンケートでは、今年がどのような年になるのか、「日本の将来に影響を与える、決定的な1年になる」のか、「決定的とまではいわないが、日本の将来に影響を与える重要な1年になる」のか。それとも、「日本の将来にとっては単なる通過点に過ぎず、これまでと変わらない1年」なのか、ということを毎年聞いています。今年は、「日本の将来に影響を与える、決定的な1年になる」という回答が24.0%で、昨年よりも少し増えました。「決定的とまではいわないが、日本の将来に影響を与える重要な1年になる」という回答は62.0%ですから、合わせると86.0%の方が、今年は日本にとって重要な一年になるだろう、との回答でした。皆さんはどのようにお考えですか。


2015年は日本にとって非常に重要な1年になる

宮本雄二氏宮本:重要な年になると思いますが、重要というのはこの1年に限った話ではないと思います。それというのも、取り組むべき課題はずっと継続中のものだからです。すなわち、世界も日本も大きく変化しているのですが、そのプロセスの中でどのようにその変化に対応していくのか、ということを各国が思いあぐねている。行動には出ているのだけれど、成功するかどうかは分からない。そういう大きな構造の変化の中にある。とりわけ、日本は20数年と長きにわたり、経済が低迷し悪戦苦闘してきたわけですが、それがアベノミクスによって曙光が射してきた。「うまくいってほしい」と2年間やってきましたが、「これで本当に大丈夫なのか」という声も出始めている。経済も含めた日本社会全体が、大きな変化の中にあるけれど、それに対して我々は回答をきちんと見出すことができていない。そういうことで、確かに難しい課題ではあるのですが、その悪戦苦闘の中で迎える一年になると思います。

川口順子氏川口:今年は日本の将来に影響を与える決定的な1年になると思っています。まさに、日本にとっての正念場です。今年上手くやることができるかどうかで日本の将来が相当程度決まってくると思います。どのよう点についてかというと、やはり、アベノミクス、特に、第三の矢の成長戦略がうまくいくのか。これは世界中が関心を持って見ています。日本に改革ができるかどうか、このアベノミクスの第三の矢を成果のあるものにできるかどうか、ということで示されるわけです。

 そういう意味で、もっと幅広い層の日本人が「今年は正念場なのだ」ということを自覚した上で、「では、今年を乗り切るために自分には何ができるか」ということを一人ひとりが考えるべきだと思います。政治家は当然、そうすべきですが、政治家でなくても、一人ひとりの国民に至るまでが、今年日本を良くするために必要な行動ができなかったら、その結果として日本は一流のリーダーシップを持った国ではなく、ずるずると世界の二番手グループに落ちていってしまう、という危機感を持つべきです。これは、他国が日本に対する畏怖や畏敬を持たなくなる、ということにもつながるわけですから、安全保障という観点から考えても大きなマイナスです。もちろん、財政再建にも大きなマイナスになりますので、非常に大事な1年になると思っています。

工藤:今のお話は非常に重要ですね。多くの人に考えて欲しい論点だと思います。本当に正念場だと私も思っています。では、どういうことが我々に問われていると思いますか。

宮本:川口さんのおっしゃった通りです。私も色々なところで、今年、日本国身民全員が参加する「カイゼン運動」をやるべきだ、ということを提唱しています。それは身の回りのやるべきこと、改めるべきことをみんなで見つけて行動に移していく、ということです。私は、日本の強みは国民の水準が高いということだと思います。これは最大の資源ではないかと思いますので、その国民が参加してくれれば日本の社会が変わっていく可能性はどんどん大きくなっていくと思います。

 ただ、やはり重要なのは経済です。人類の歴史を振り返ってみても、やはり経済がしっかりしていないと何もできない。ということで、何が何でも経済を強くしなければいけない。すなわち、潜在成長率を高めることが日本の最大の目標になる。そのためにもアベノミクスには是非とも成功してもらわなければならない。そのためには、痛みの伴う改革を進めていく、ということが必要不可欠です。時間的な余裕もないと思っています。


信頼感に基づいた未来を築けるかどうかの節目の年

明石康氏明石:私は、2015年が日本にとってそして安倍政権にとって、それからアジア、世界にとっても決定的に重要な年になると思います。アベノミクスに関して、第3の矢の成否が問われる年になるだとう思っています。つまり構造改革が本当に行われるのか、日本にとっての一種のアキレス腱であった農業の改革ができるのか、またTPPを合意できるかということも問われている。弥縫的な改革ではなく、ますますグローバル化する世界の競争に日本経済が耐えられるか、そして互角に戦って競争力のある国として生き残れるのか、ということが問われていると思います。

 また、安倍さんは昨年末、政権の支持が得られるということで、必ずしもしなくてもよい総選挙に打って出ました。その結果、決定的な勝利を得、公明党も自民党の友党として成果を上げ、安倍さんは一種の信任状というかマンデート(委任)を得たわけです。これから、のびのびとアベノミクスや彼らしい外交を展開できるようになった。安倍政権にとっても正念場だと思います。

 しかし、そうしたことよりも重要なのは、戦後70年、私は敗戦後70年だと思っていますが、そうしたことを忘れてはいけないと思っています。日本はほとんど経験したことのない敗北を喫し、国民は負担と混乱のふちに突き落とされました。その中から一歩一歩駆け上がって、世界が驚くような発展と平和国家の建設に一応成功したと思います。そして安倍さんは国内改革と同時に、活性化した日本を世界に示すと発言し、日本のプレゼンスを世界中に印象付けようと既に50数カ国を訪れ、私もその中の1カ国のスリランカに同行しました。彼が本当に一瞬の時間も惜しんで大統領やその他スリランカの人たちと語り合い、日本という国はこういうイメージで政策を動かそうとしている、こういう形でスリランカと付き合おうとしているのだということを、より鮮明な形で伝えているのをこの目で見ました。そうした日本のプレゼンスを安倍さんは話すだけではなく、どのようにして血と肉を与えていくかが問われる年だと思います。

 また、戦後50年の時点で村山談話が出され、その2年前には韓国との関係で慰安婦問題に光をあてた河野談話が出されました。その他にも60年時点の小泉談話があります。世界中が見つめているのは、安倍さん、そして70年という時点で日本が何を考えているのか、ということだと思います。ますます激しい偏狭なナショナリズムに立ち戻ってしまうのか、それとも、アジア各国、特に中国や韓国、それから東南アジア諸国との真の意味での友好に基づき、またアメリカとは単に集団的自衛権で規定される法律的な関係ではなく、肉と血の入った同盟を築けるのかを見ていると思います。そうした意味で、特に戦前の日本の在り方、日本が犯したいろいろなミス、外国に対する様々な負い目のある問題、そういうものに潔く対処して、まさに信頼感に基づいた未来を築けるかどうか、その節目になる年だと思っています。


「公の意識」を持った国民の意見が反映されるデモクラシーの実現を

工藤:アンケートでは、2015年がどのような年になるのか、その理由も書いていただいています。やはり、アベノミクスが正念場だ、という声が結構見られます。ただ、よく考えてみれば、安倍さんが経営者のところに行って「賃金を上げてくれ」と言うことは本来おかしい。安倍さんが努力するだけではなく、本当は企業側が色々なチャレンジをして、利益を拡大していくべきです。そういう動きが色々な分野で起こってこないと本当の意味での成長はできない。政府ができることは環境づくりに過ぎないわけです。その環境づくりがきちんとできているか、ということに関してはきちんと論評する必要があるのですが、本当の意味で潜在成長率を上げるためにはみんなでそのための努力をしなければならないと思います。

 一方で、デモクラシーの問題も出てきています。川口さんはどう思われますか。

川口:戦後70年間を振り返ってみると、先ほど宮本さんもおっしゃった、日本人のレベルの高さが大いにプラスに作用して、非常に良くやってきたと思います。まず、経済成長、それから、民主化。さらに、自国のことだけを考えるのではなく、アジア全体、世界全体のことを考えて、色々なことをやってきたわけです。戦後70年に日本が自ら反省すべきことは、過去のことを含めてたくさんありますが、民主主義を確かに自分のものにした、ということについては世界に誇れる実績があるし、その点について、世界の他の国々に、日本の経験をシェアしていく、ということが大事だと思っています。

 その戦後の「新しい日本」について、例えば、オーストラリアや東南アジアの国々など、それを理解してくれている国もありますが、他方でそう考えない、あるいはそう考えられない国民を抱えている国もあるわけです。そこでは理解を得るために、まだまだ日本の努力が必要になってくる。ですから、今年「戦後が終わる」ということにはならず、続いていく。だけど、徐々に日本のプラスの部分というのが、世界の皆さんの頭の中に入っていく、ということになるように、時間をかけて丁寧にやっていく必要があると思います。

工藤:日本はデモクラシーの国ですが、このデモクラシーというのは不断に機能させるための努力を続けていないと、鈍ってしまうというか、うまく機能しない状況になってしまうと思います。では、この1年におけるデモクラシーに関する課題、アジェンダというのはどのようなものだとお考えですか。

宮本:アメリカのある論文を読んで強く感じたのは、「公の意識」の重要性です。各界の指導者、労働組合のトップや企業のトップが公の意識を持ち、そういう人たちがアメリカを指導していた時代には、色々なものの調和がうまくいっていた。ところが、1980年代頃から利益の主張を互いにぶつけ合い、議論を戦わせることによって、自然と最適な利益の調和が図られてくる、という考え方に変わった。そうすると、資源を持っている人たちが勝つようになった。経営者側が勝ち、労働者側が負けたわけです。この公の意識が私は非常に大事だと思っています。デモクラシーは進めていかなければなりませんが、それは国民一人ひとりが公の意識を持った上で、そうした国民の意見が反映されたデモクラシーであってほしいと思います。要するに、参加する一人ひとりが、自分の利益だけを追及するのではなく、全体のことを考えながら決めていく、ということが必要なのではないかと思います。

川口:私もまったく同感です。震災時、日本人に世界が感心、感嘆、感動したように、日本人は、地域全体のことを考えてみんなが動く土壌を持っていると思います。そこが救いだと思います。それから、工藤さんもおっしゃった、民主主義を育んでいく、ブラッシュアップしていく必要がある、ということも同感です。言うべきことをきちんと言っていく。その言うべきことというのは、宮本さんがおっしゃったように、自分の利益ではなく、全体にとって何が良いのか、ということを考えながら発言していく。それこそが民主主義の基本だと思います。

 ただ、民主主義には「強さ」も求められます。フランスのテロ事件の時に、群衆が外に出て、みんなデモをやっていました。大群衆が集まっているわけですから、例えば、テロリストグループがそこに爆弾を投げ込むとか色々なことが起こり得るわけです。しかし、それでもあれだけの群衆が集まってきた。それから、アフガニスタンやイラクでも、危険なところなのに選挙の一票を投ずるために、みんな投票所に足を運ぶわけです。そういった強さが民主主義を支える基盤なのだと思います。ところが、この間のテロ事件の時、遠い異国の話ということで距離感があるのは確かですが、どれくらいの日本人が街頭で反テロのデモをしたのでしょうか。日頃から意識しなくてもよいのですが、いざというときには、声に出して意見を強く言う、ということの重要性を今年は再認識することが大事なのではないかと考えています。



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