
まず、3氏は現在の世界情勢について、これまで米国が作り上げてきた平和や繁栄という秩序が終焉しつつあるとの認識や、米国の中国に対する姿勢は本気との見方を共有しましたが、国際協調に背を向ける米国が民主主義国に結束を呼び掛けることの説得力はない、との厳しい声もありました。
そうした中で、米中対立を新冷戦というよりも、これを米中の覇権争いと見て、「覇権主義は結果的にうまくいかない」こと、そして「安定と平和こそが繁栄の基礎であって国益なのだ」ということを基軸として、日本は中国に正面から向かい合って言うべきことは言う、ことが必要だということ、さらに戦後から今まで続いている吉田路線を超える戦略を作っていくことの必要性などが指摘されました。
パックスアメリカーナ、西洋近代の終焉
まず、代表の工藤が、米国と中国の対立が深刻化する中で、新型コロナウイルスのような国境を越えた脅威に対し、世界の国際協調でリーダーシップを取る国もない中で、米中対立が世界の秩序を不安定化させているなどの現状を指摘し、まず世界の現状についての認識について問いかけました
山口氏は、戦後、米国が主導して平和と繁栄の秩序を作って来たものの、そうした秩序がほぼ成り立たなくなりつつあり、米国による平和と繁栄の秩序という、いわゆるパックスアメリカーナが終わりつつあるとの認識を示しました。古川氏は、山口氏との同様の見方をしつつ、グローバル資本主義の限界、格差と貧困、地球環境問題など、あらゆる問題の根本として、「西洋近代の行き詰まりを迎えている」との見解を示しました。そして、こうした混乱期では協調して地球的課題に立ち向かう必要があるのに、ポピュリズムが台頭するなどの要因でその連携が整わず、むしろさらなる混乱に向かっている、と語りました。
中山氏は、米英VS中露という大国同士の2対2の対立軸があって、そこへ新たな技術力が、陸・海・空の伝統的な戦闘領域に、宇宙・サイバー・電磁波領域という3つの領域を重ねてきて、争いを複雑化させている、と現状を説明しました。
次に工藤は、米国では元々中国とは「戦略的競争」関係である、という議論があったものの、今ではむしろ、安全保障関係者からは、中国は敵である、との非常に厳しい見方が出ていること、さらにポンペオ国務長官が、民主主義国が連携して中国と戦わざるを得ないと訴えていることを指摘し、これまで米国が、対中国で取り組んできた「関与政策」の失敗というものを、どう考えればいいのか。さらに、ポンペオ発言の背景について問いかけました。
共産党80年説によれば、中国が民主化する可能性はまだ存在する?
山口氏はこれまで米国は、ロシアが出て来た時は日露戦争で片付け、日本が出て来た時には、直接対決で片付けたように、「出てくる新興国を叩く」という米国の癖が存在するとした上で、今回の米中対立もそうした延長線にあり「米国は本気だ」との見方を示しました。その上で、仮に中国が共産党体制をやめたとしても、覇権戦争が続く可能性を指摘し、日本を含めた世界各国は、米中対立への認識をかなり厳しく見ておいた方が良いのではないか、と語りました。
これに対して工藤から、「関与政策」は失敗で、中国は何も変わらなかったのではなく、むしろ中国経済を世界に取り込むことで中国は変わったが、その結果、中国があまりにも経済的にも技術的にも強硬な強大な力を持つようになり、米国はそれを容認できなくなった、ということではないか、とさらに問いかけました。
山口氏は、民主主義の国同士は戦争をしないということに、アメリカは強い確信を持っているために、中国を民主化させたかった。そこで、中国を経済発展させれば、そうなるだろうというのが「関与政策」だったが、今のところ、そうはなっていないと説明。さらに共産党80年説との見方を示し、「ソ連の場合には、1912年から1991年の80年で終わっている。中華人民共和国が出来たのが1949年だとしたら2029年となり、ひょっとしたら中国は、内政的にキツイ状態にあるのかもしれない。だから民主化政策、関与政策をまだこの時点で失敗したと決めつけるのは、本当はまだ早いかもしれない」と語りました。
国際協調に背を向ける米国が、
対中国で民主主義国の結束を呼びかけても指導力の低下を印象付けるだけ
中山氏は、「中国は真摯に米国と向き合うべきで、外相の王毅さんも、話し合いのテーブルは空いている、話し合いはいつでもやる、と言っていますから、とにかく早く現状を悔い改め、信頼醸成にもう一度、取り組んでもらいたい」と、強く要求しました。
そのためには、中国・武漢からあっという間に世界中に広まった新型コロナウイルスがどのように広がったのか、ということを中国はきちんと世界に説明する責任があるにもかかわらず、そうした説明をしないがために世界中で信頼を失いつつあると説明。中国が、信頼を取り戻したいのであればWHOにもっと協力をし、世界に対して分かりやすい説明というのを、信頼醸成のために行うべきではないか、と訴えました。
ポンぺオ国務長官の発言そのものに疑問を持つのは、古川氏です。米中間の対立はイデオロギー対立というよりは、国益と国益がぶつかり合う覇権争いが本質であり、新冷戦と捉えてしまうと、どっちの陣営につくのかという、出口にない議論になると指摘。そうした中で、パリ協定やイランの核合意から離脱し、国際協調に背を向けて、逆の方向に行こうとしている米国が、ここに来て急に、民主主義国家に対して結束しようと呼びかけるということの説得力のなさというものを感じていると語りました。
さらに古川氏は、今回の一連の発言というのは、焦りに突き動かされた本音と指摘し、ポンペオ発言も、共和党内においても、更に政権内においても統一した見解とはされておらず、国際世論がどこまでそれを真に受けて、賛同するか、非常に懐疑的であり、却って米国の指導力の低下を印象付けるのではないか、と手厳しい感想を述べるのでした。
この意見に山口氏も、「日本は米国に同調し過ぎかねない。どちらかと言うと全面的に同調するのではなくて、かなり冷静に見た方がいい」と同意しました。
「中国の夢」への想いが、強迫観念に
続いて工藤が、強権的な動きに出ているように見える中国自身の行動についてどう見ているのか、問いかけました。
中山氏は、中国の行動は世界的な大きな秩序や覇権に対して、気が付かないうちに攻めの動きになっていると語りました。その上で、日本は地政学上、米中対立という渦の中から逃げられず、安全保障上のリスクは常に伴ってくるため、現在の憲法の範囲内で米国と連携しながら、中国や北朝鮮、ロシアに対する備えをしておくこと、さらに、米英と中露が対峙する中で、日本がどちらに同調するかは明々白々の事実だということをしっかりと示し、相手に隙を見せる動きをしてはいけない、との持論を展開しました。
これに対して、「米国が焦りを感じているように、中国もまた焦りを感じていて、覇権主義・膨張主義にのめり込んでいっているように見える」と言うのは古川氏です。「内政の矛盾の捌け口として、という意見もあるようですが、かつて清は白人の帝国主義によっていいようにされたわけで、その後、中国はいわゆる『中国の夢』ということで何とかここで勢力を拡大しないといけないという、強迫観念の中に陥っているのではないか」と話します。
米中間のコミュニケーションギャップを埋めるという日本の役割
「中国は、新しい大国関係を築こうとしているのだろうが、安全保障も含め、何を考えているのか、私たちには分かっていない」と話す山口氏は、米国が、戦前の日本に対する理解が非常に少なく戦争になったように、今、日本と中国、米国と中国は相当、対話が欠けおり、コミュニケーションギャップが見られると指摘。中国は何を考えているのか、もっと対話を重ねて議論する必要があり、そのためには、外交官同士が相手の考え方をよく理解した上で、誤解がないようにして、戦争を防いでいくことの重要性を説明すると同時に、日本の戦略として、「中国が民主主義的な考えを理解するように、民主化支援的な"繋ぎ"をやっていく。それは米国の出来ないことで、日本の出来ることではないか」と、元外交官としての経験から語りました。
さらに山口氏は、日本の外交基軸として、日本が米国の波動に飲み込まれることなく、米中間を繋ぎ、平和を作っていくという動きを鮮明化し、戦後から今まで続いている吉田路線を超える戦略を新しい世代が作っていかなければならない、との決意を語りました。
この言葉を引き継ぐように古川氏は、「日本が自主路線をやるにあたって大事なのは、世界はこうあってほしい、日本はこうやりたいという外交の基軸に、確固たるものがなければいけない」と説明。その基軸として、日本が近代外交の150年の間に軍事力を持ち、「覇道」を行った結果滅びた戦前の歴史と、その後、「王道」で繁栄を実現した戦後の歴史を指摘し、150年の間に、正反対の二つの経験をした日本だからこそ、「覇権主義は結果的にうまくいかない」こと、そして「安定と平和こそが繁栄の基礎であって国益なのだ」ということを背骨にして中国と相対していくべきだ、と政治家としての決意を口にしました。
協調が求められる地球規模課題を前に、お互いの"正義"を収めるには
最後に工藤から、米中対立の結果、どちらにつくのか、ということではなく、地域において共存の仕組みを作っていくために、日本はどのような立ち位置でいくのか、そして、今後、中国にどのように対峙していくのか、3氏に問いました。
山口氏は、日本と米国も戦争をしたにもかかわらず、民主主義の共有ができたことで、経済・文化・社会関係で非常に密接な関係を作ることができたと説明。そうしたように、国と国を繋いでいくことが重要であり、北東アジア、特に環日本海でそれができるように、日本は不可能を可能に変えていく努力が必要だと訴えました。
中山氏は、中国との対話は必要だが、その大前提は約束を反故にしない、きちんと言ったことは守ってもらうことだと強調します。2047年までは維持するとした香港での一国二制度への弾圧や、不明瞭な予算、例えば軍事費の増大や、隣国に対して不信感を抱かせるような軍事的な行動が目立つことなどを指摘し、そのために中国は世界の信頼を失っている、その中で自分の行動が正しいと主張しても、理解を得られるわけがない、と話します。
その上で、中国の正義とは何か、米国の正義とは何か、日本の正義とは何か、お互いが冷静に話し合える場が必要であり、人の嫌がることはやらない、人に不信感を抱かれることは李下に冠を正さず、間違ったことがあったら説明をして謝るということをお互いにやっていくことが重要だと語りました。
古川氏は、中国の脅威に対して過剰に反応して、日米同盟で封じこめなければいけない、ということではなく、中国に対して、王道による徳治によって支えられるのではないか、という東洋の共通の価値観というものを腹に置きながら正面から向かい合って、「覇権主義はうまくいかない」という、言うべきことを直接言うことが重要だ、と語りました。
今回の議論を受けて工藤は、中国と率直に言い合える場として、言論NPOが15年にわたって行ってきた「東京-北京フォーラム」という民間対話の場でも、コロナ後や米中対立の世界で目指すべき秩序について正面から話し合うと同時に、緊張が深まる北東アジアにおいて多国間のルールをもとに平和を作り出すための議論も中国と行いたいと、11月に開催の同フォーラムへの決意を口にして議論を締めくくりました。
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座談会「日本は中国とどう付き合うか」
座談会開催日:2020年8月6日出演者:中山泰秀(自民党外交部会長、衆議院議員、元外務副大臣)
古川禎久(衆議院議員、元財務副大臣)
山口壯(衆議院議員、元外務副大臣)
司会者:工藤泰志(言論NPO代表)