日中友好に向けた先人たちの努力を無駄にしないためにも、政府と民間の両輪による関係改善に向けた動きが重要に ~全体会議開幕式 報告~

2021年10月25日

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 「第17回東京―北京フォーラム」(言論NPO、中国国際出版集団共催)は10月25日、昨年に引き続いて東京と北京の会場をオンラインで結び、2日間の日程で開幕しました。


日中関係の方向性が見えにくい今だからこそ、この対話で有識者がバランスの取れた見方を提示すべき

c0.png 初日全体会議に先立って行われた開幕式では、まず中国側主催者を代表して杜占元・中国外文局局長が登壇。10月8日に行われた岸田文雄首相と習近平国家主席と電話会談では、共通の諸課題について協力していくとともに、建設的かつ安定的な日中関係を共に構築していくことで一致したことを紹介し、これは今回の本フォーラムのメインテーマである「不安定化する世界での日中関係と国際協調の修復」にも合致するものだと指摘。こうした首脳間の合意を前進させるような議論を展開させていくべきだと語るとともに、来年の日中国交正常化50周年に向けて、各分野で専門家同士が交流し、協力の土台づくりを進めていくことに期待を寄せました。

akashi.png 日本側主催者を代表した挨拶に立った明石康・元国連事務次長は、日中両国には「両国間の問題についても、またアジア太平洋地域全体における幅広い多国間の問題についても、互いに胸襟を開いて知識をアップデートし、認識を深め合う」義務があると切り出しましたが、「第17回日中共同世論調査」結果を紐解きながら、「両国民がこれからどのような方向に進めばよいのか、現状はどのように改善できるかなどについて互いの認識は十分なのだろうか」と現状を憂慮。こうした状況の中での有識者の果たすべき役割としては、専門的・知的な視点で認識の誤りを正したり、バランスの取れた見方を提示することであるとし、「今回の対話はまさにそのためのものだ」と強調しました。


世界第2位、第3位の経済大国であり、東アジアの「和」の精神を共有する日中両国がなすべきことは多い

c4.png 続く基調講演では、まず中国側から徐麟・中国中央宣伝部副部長、国務院新聞弁公室主任が登壇。現下の世界は、100年に一度ともいうべき大変革期にあり、不安定性・不確実性にある中で、パンデミックがそれに追い打ちをかけていると切り出しましたが、そうした中でも世界やアジアの経済的な相互依存性は依然として高く、平和や協力発展こそが人類の目指すべきテーマであることには何ら変わりはないと指摘。

 こうした中で日中両国間の課題として徐麟氏は、「歴史を鏡としてこそ新たな未来が作れる」とし、歴史認識問題に言及しましたが、同時に「不幸な歴史だけではなく、この50年の交流の歴史も顧みるべき」と主張。互恵と協力の歴史を再確認すべきと語りました。

 さらに徐麟氏は、今回のテーマである国際協調の修復のための前提として、ゼロサム的・冷戦思考的にならないことが必要であり、デカップリングを加速させるような制裁の応酬のようなことは厳に慎むべきだと強調。それが多国間主義再興への第一歩だとしつつ、特に、世界第2位、第3位の経済大国であり、東アジアの「和」の精神を共有する日中両国がなすべきことは多いとしました。

 最後に徐麟氏は、両国の有識者が知恵を出し合う今回のフォーラムにおける各分科会の議論に大きな期待を寄せつつ、講演を締めくくりました。


日中両国で合致している平和、安定、発展といった基本的な価値の実現に向け、共通認識の形成を進めると同時に、相手国が抱く懸念を和らげる行動をとることが重要

fukuda.png 続いて、日本側の基調講演として、本フォーラムの日本側最高顧問を務める福田康夫・元首相が登壇。福田氏はまず、世界の中心が大西洋から東アジアにシフトすると同時に、世界の課題がまさにこの地域でぶつかり合っていると指摘。そうである以上はこれまで欧米の先進国がつくり上げてきた秩序にフリーライドするわけにはいかず、日中両国は自分たち自身が解決に乗り出さなければならないと語りました。

 さらに福田氏は、世界には資本主義、自由主義経済の行き詰まりと格差の拡大、気候変動、エネルギー問題、パンデミックなど課題が山積みであるとし、そうした意味でも国際協調は不可欠であるとし、中でも気候変動は喫緊の課題であると警鐘を鳴らしました。
 
 もっとも、気候変動問題は特に国際協調が不可欠であるにもかかわらず、現状それがうまく機能しておらず、「これでは他国が取り組むのなら自国は何もしなくてもよい、というような正直者が馬鹿を見るようなモラルハザードが起きかねない」と現状を強く懸念。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というドイツの名宰相であるオットー・ビスマルクの格言に言及しながら、目先のことに囚われず、人類史的な視点に立ちながら国際協調を進めていくべきと主張。さらに、米中対立もいつまでも続くわけではないとしつつ、両国の相対的な力の低下などからリーダーシップは期待できないとし、やはり国際協調の回復は急務であるとも語りました。

 最後に福田氏は、これからの日中両国がなすべきことについて言及。2008年、自身が首相在任中に発出した「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」では、日中両国が、アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致したと振り返りつつ、先日の岸田・習電話会談でも平和、安定、発展といった基本的な価値については完全に一致していると指摘。その実現に向けた協力のためにも対話と交流の再開・強化、共通認識の形成を早期に進めることと同時に、相手国が抱く懸念を和らげるような行動を取ることを提言しました。

 さらに福田氏は、今回の世論調査結果が良くないこととともに、国交正常化50周年に向けた機運が日本国内で高まっていないことに懸念を示しつつ、こうした状況だからこそ、50年前の平和友好の原則が忘れられないような対話が必要だと呼びかけました。


新時代の日中関係構築に向けた知恵を出し合うような議論に期待

c1.png 中国側政府挨拶では、王毅・国務委員、外交部長はまず、50年前の初心を忘れず、次の50年に向けたビジョンを描くためには、相互信頼に基づく政治的信頼関係の回復が急務であると切り出しました。そしてそのためには、対立がエスカレートしないために事態を管理することが重要であると指摘。そこでは歴史問題で一線を越えたり、台湾など中国にとってデリケートな問題で「内政干渉や拡大解釈をすべきではない」と日本側に忠告しました。

 王毅氏は一方で、民間交流を進めることやデジタル技術、気候変動、貿易などといった諸課題においてよりグレードの高い協力を進めるべきとし、本フォーラムでも新時代の日中関係構築に向けた知恵を出し合うような議論が展開されることに強い期待を寄せました。


関係改善のためには政府だけでなく、民間の役割も重要

j1.png 茂木敏充・外務大臣からの日本側政府挨拶は、遠藤和也・アジア大洋州局審議官が代読。中国が日本にとって14年連続で最大の貿易相手国となったことや、先日の日中首脳電話会談でも両国共通課題での協力推進や建設的・安定的な関係構築で一致していることなどを踏まえつつ、対中関係改善は急務であると指摘。

 一方で、先般の日中共同世論調査結果では、依然として相互の国民感情が悪い現状に懸念を示しつつ、50年に渡る先人たちの日中友好に向けた努力を無駄にしないためにも、日本政府としても力を引き続き関係改善に努力していくと表明。同時に、国民間の対話も重要であるとし、本フォーラムの議論にも大きな期待を寄せました。


 その後、「不安定化する世界での日中関係と国際協調の修復」をテーマにパネルディスカッションが行われました。