米中対立下でも、日中両国民の多数は日中協力を求めている ~世論調査セッション報告~

2021年10月25日

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 10月25日に開幕した「第17回東京-北京フォーラム」は、午前の全体会議に続いて「世論調査セッション」が開催されました。


日中世論調査結果を掘り下げるための初のセッション

 「東京―北京フォーラム」では、毎年、日中両国で世論調査を行っていますが、例年、共同調査結果では、日本や中国の相手国に対する好感度が「悪くなった」、「良くなった」という点が大きく取り上げられます。しかし、その他の注目する項目も含め、世論調査結果の全体像を理解し、分析してもらいたい、という思いから、今回、初めて世論調査を議論する単独セッションの場を設けました。

 このセッションの司会は、日本側は言論NPO代表の工藤泰志が、中国側は中国外文局副局長の高岸明氏が務めました。

s1.png 中国側の金莹氏(中国社会科学院日本研究所研究員)は今年の調査は、①中日双方の情報獲得ルート、②現在の中日関係を両国民はどう評価しているか、その経年変化、③歴史問題、安保問題、将来の経済貿易関係、民間交流など70以上の時代の流れに密接に沿うような包括的設問になっている、と評価。

 しかし、その調査結果でメディアが注目するのは非常に表面的なことばかりであり、民心が示している真の意味をそこから読みとらなければいけない、と語りました。加えて、タイムラグの問題を指摘。訪中した日本人の大多数は、ほぼ10年前の話。一方、訪日する中国人はこの2~5年の間のこと。2000年の交流がある隣国ながら、このソーシャルディスタンスは余りにもかけ離れていると嘆きました。


中国の対日意識が悪化したことについて、大きな驚きはない

kudo.png 工藤から、コロナ禍で人の移動がなくなったことにより直接的交流も途絶え、日中政府間では両国関係で話し合いもない中、中国の対日世論が8年ぶりに悪化した点に触れ、その背景には何があるのか、東京大学大学院総合文化研究科の川島真教授に問いかけました。

kawashima.png 川島氏は、この間、中国では安全保障問題に加えて、福島第一原子力発電所事故の汚染水問題、台湾へのコロナワクチン援助に関連してネガティブキャンペーンを張ったことに着目。さらにインバウンドの大幅減少などにより、日中の言論空間はナショナリズム化し、良いニュースは殆どない状況では、中国の対日世論が悪化したことに、驚きはないとの見方を示しました。さらに、歴史問題があるから対日の印象が悪化するのか、対日印象が悪化するから歴史問題が出てくるのか、その従属関係のあり方についても指摘しました。


日中間の大きな差異の存在が、世論調査結果に表れている!?

s2.png 中国側の袁岳氏(零点有数デジタル科技集団董事長)は、中日間のアンバランスを指摘します。中国への日本人留学生は、日本への中国人留学生の5分の1か、6分の1であり、2019年の中国から日本への観光客は959万人にもかかわらず、日本から中国へはわずか10万人。直接接触することでインターネットから情報を得ているのは中国人である、と語ります。

 さらに袁氏は、2020年9月から2021年8月まで中国の既存メディアは、日本について4万4000余りのニュースを報道した一方、日本では中国について1万5030余りのニュースを報道にとどまり、両国では相手国の報道量も倍以上の差があると語り、この大きな差異の存在が、様々な形で世論調査の結果に表れているのかもしれない、との見方を示しました。


米中対立下でも、日中両国民の多数は日中協力を求めている

bando.png 毎日新聞の坂東賢治専門編集委員は、世論調査とマスコミの役割について語りました。日本のマスコミに対する信頼感がないことに対して、いろいろ反省する点もあるとしながらも、日本に多様な意見、いろんな意見が存在しているのはマスコミの健全なあり方だと思う、と語りました。さらに、日本人の9割、中国人の6割が相手国に「良くない」印象を持っているからといって、そう単純な話ではない、と指摘する坂東氏は、日本人の55%は、日米同盟下にありながらも米中、どちらにもつくわけではない、と回答していることに注目しする必要がある、と冷静に世論調査を読んでいました。一方で、米中対立を巡り、中国側が経済貿易関係において日本を軽視し始めているのではないか、と中国側の態度の変化を疑問視する見方を示しました。

 最後に工藤は、今回の調査結果で最大の特徴は、米中対立がありながら日中では対立より協力を求めている国民が多数であるということであり、そうした声を踏まえて、相手国への認識が悪くなっているからこそ、日中の有識者の間で対話をして、協力していく必要性を力強く訴え、セッションは終了しました。