北東アジアの平和を脅かす10のリスク2022日米中韓4カ国の外交・安全保障の専門家201氏が採点

2022年2月22日

北東アジアの平和を脅かす10のリスク
Top 10 Risks Threaten a Peace in Northeast Asia 2022


第1位   5.79点
米中対立の深刻化

01.png2021年から22年にかけて、依然として米中間では対立が続いた。米国は⽶・英・豪による新たな安全保障パートナーシップであるAUKUSの創設や北京冬季五輪の外交的ボイコット、さらには台湾への参加を呼びかけた「⺠主主義サミット」を開催するなど中国への対抗姿勢を強めたが、こうした動きに対し中国も反発を強めてさらに対立は深まったといえる。

米国内では、民主・共和両党の分断が著しいが、対中関係を「戦略的競争」と位置付ける点では一致している。支持率低迷にあえぐバイデン⼤統領が、秋の中間選挙を意識してより一層の強硬論を打ち出して⽀持回復をはかる可能性はある。

⼀⽅の中国も秋に共産党⼤会を開催し、ここで習近平体制が3期目に入る予定である。その政治盤⽯にするためにも習⽒は少なくとも国内から弱腰と批判されるような対米姿勢は取らないであろう。

米国のバイデン大統領と中国の習近平主席は、2021年11月にオンラインで会談し、中国内の人権問題と台湾海峡の安定について、中国を牽制しつつ、米中の対立による不測の紛争を招かないための「ガードレール」を設置するための対話を行った。また、温暖化対策などでは協調の動きも見られ対立一辺倒ではない。そもそも、米中が全面的な軍事衝突するような事態になる可能性は限りなくゼロに近いが、対立自体は続く、あるいはさらに深まる可能性は高く、2022年も米中対立が北東アジアの平和にとってのリスクであり続けることはほぼ確実である。


第2位   5.35点
北朝鮮が核保有国として存在すること

02.png国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議の履行状況を調べる専門家パネルは、北朝鮮が2021年も「核や弾道ミサイルの基盤となる設備を維持開発し、材料や技術、ノウハウを海外に求め続けている」と指摘する年次報告書をまとめた。報告書は「核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射は報告されていないが、核分裂物質の生産能力を進展させ続けている」と分析。ミサイル実験は「著しい加速」を見せており、その能力向上を強調している。実際、北朝鮮は2022年に入ってからの1カ月間だけで7回というかつてないペースでミサイルの発射を繰り返し、中距離弾道ミサイルもおよそ4年ぶりに発射している。

さらに1月19日の朝鮮労働党中央委員会の政治局会議では、米国との「信頼醸成措置」を全面的に見直し、「暫定中止したすべての活動」の再稼働検討を指示した。2018年4月から凍結していた核実験とICBM試射の再開を示唆したものとみられる。

しかし、バイデン政権は核問題に関しては、ロシアとの新START延長交渉や、イランの包括的共同作業計画(JCPOA)を優先されると見られ、対北朝鮮にどこまで本腰を入れて取り組むかは不透明である。さらに言えば、この問題の解決には日米韓の連携が不可欠である中、そのうちの日韓間に関係改善の兆しは見られない。

国連の安全保障理事会も、中国に反対により非難決議どころか声明すら出せていない。さらに、1月17日には中国と北朝鮮を結ぶ貨物列車による物資の輸送が再開されたことも確認されている。

こうしたことから2022年も核廃棄には向かわず、北東アジアは北朝鮮による核の脅威と共存せざるを得ない状況である。


第3位   5.22点
デジタル分野における米国と中国の覇権争い

03.png半導体をはじめとするハイテク産業をめぐる競争は、すでに米中対立の焦点となっている。これまで米国は多くの技術領域で圧倒的な優位を保ってきたが、現在は中国が優位に立つ分野も多い。中国が2021年3月に発表した第 14 次五か年計画において 、AIや量子情報をはじめとする7 分野に注力し、さらなる技術革新を推し進める姿勢を強調する中で、バイデン政権はトランプ政権と同様にデジタル・先端技術開発分野で中国をライバル国と位置づけている。今後、AIや量子情報技術といった新領域にも競争が拡大していく中では米中のデジタル覇権争いの出口は見えない。さらにいえば、これらの技術がどのような形で安全保障に寄与するかまだ明確ではない点も懸念材料である。

また、21年1月に米議会で成立した国防授権法では、半導体、次世代通信技術の支援強化が定められ、4月の施政方針演説ではバイデン大統領が中国との競争に打ち勝つことを強調した。6月には連邦通信委員会(FCC)が、米国内からの中国製通信機器の排除に向けて手続きを開始した。

米国の求めに応じてすでに日英豪などが中国製品の排除に動いている一方で、中国はデジタルシルクロード構想を推し進めている。「一帯一路」の一環として、中国主導のもと沿線国を中心とする海外諸国のデジタル化を推進する同構想は、中国のデジタル製品・サービスの輸出を促進するとともに、次世代デジタル技術における国際標準化の主導権を確保することを目的としている。

このような状況の中、米中それぞれの基盤技術を中心にそれらに依拠する技術・システムが別々に進化していくことも予想され、ハイテク分野でのこうしたデカップリングは、経済全体のデカップリングをより深刻なものにしていくリスクもある。


第4位   5.01点
台湾海峡での偶発的事故の発生

04.png中国が「⼀つの中国」原則の貫徹を国家的使命とし、平和統一を基本としながら軍事的統⼀の可能性も否定していない中、台湾海峡では連日のように中国の戦闘機が台湾の防空識別圏に入るなど、緊張が続いている。
中台の軍事バランスは陸海空軍いずれにおいても圧倒的に中国優位の情勢であるが、こうした中で近年、台湾周辺での⼈⺠解放軍の活動が活発化し、人民解放軍による台湾防空識別圏への侵⼊は2020年には延べ約380機であったものが2021年には延べ950機へと3倍近く増えた。

一方の台湾も潜⽔艦増設計画をはじめとして防衛⼒を強化している。さらに⽶国や⽶国の同盟国も中国をけん制する⾏動を強めている。昨年10⽉に蔡英⽂総統は⽶軍が台湾において台湾軍の訓練を⾏っていることを明らかにした。また、近年台湾海峡では⽶海軍はほぼ毎⽉ミサイル駆逐艦を通過させているが、昨年9⽉にはイギリス、10⽉にはフランスとカナダがそれぞれ艦船を通過させた。

軍事海洋協議協定(MMCA)に基づく協議など米中両軍間でのコミュニケーションチャネルが十分に機能せず、両国間の外交的信頼関係も損なわれている中では、偶発的事故の発生の可能性は十分にあるといえる状況である。また、全面的な軍事衝突までは起こらないとしても、中国が離島を占拠することなど小規模な軍事衝突はあり得るといえる。


第5位   4.99点
中国の軍事力のさらなる増大

05.png中国の2021年の国防費予算は前年比6.8%増の1兆3553億元(約22兆6000億円)となった。米国に次ぐ世界第2位の巨額予算であり、日本の防衛費の約4倍にのぼる。

中国は核弾頭の数を公表していないが、米国防省が21年に公表した中国の軍事・安全保障分野の動向に関する年次報告書によると、中国は「27年までに核弾頭700発、30 年までに少なくとも 1000 発の保有が可能となる公算」とするなど予想を上回るペースで核戦力の増強を進めている。また、迎撃不可能とも言われる核弾頭搭載可能な極超音速滑空兵器の開発では米国よりも先行していると見られる。

一方で、米トランプ前政権が模索していたような、新戦略兵器削減条約(新START)を発展させ、中国を大国間の核軍備管理の枠組みに取り込む試みは進んでいない。

さらに、量子技術や無人機、人工知能(AI)など先端技術の開発進展も著しく、習近平国家主席が4年前に掲げた、今世紀半ばまでに人民解放軍を「世界一流の軍隊」にするとの目標に着実に近づいているといえる。

中国の軍事能力の透明性向上が図られないことは周辺国の不信の連鎖を生み、軍拡競争の激化を招きかねず、北東アジアの平和に対しても深刻な影響を及ぼす懸念があるといえる。


第6位   4.95点
経済の安全保障化とサプライチェーン分断の動き

06.pngコロナ禍のマスク不足や医療用ガウン供給の遅れといった事態は、サプライチェーンを特定の国や地域に依存することは場合によっては国民の生命・生活を脅かすリスクにもなり得ることを露呈した。また、AI や量子など安全保障にも影響し得る技術革新が進展する中、機微技術の流出防止や輸出管理強化等が重要な課題となっている。先端技術の軍事転用を促す「軍民融合」を掲げる中国への警戒が背景にある。

こうした中で、世界では経済安全保障への関心が現在急速に高まり、各国が対応を進めている。日本政府も、戦略的に重要な産業や技術を守り、供給網やインフラの脆弱性を解消するため、①先端的な技術の育成・支援②特許の公開制限③サプライチェーンの強化④基幹インフラの安全確保といった4分野の対策を柱とする経済安全保障推進法案を2022年の通常国会に提出する方針である。

しかし、経済安保を名目に、法規制で必要以上に民間の経済活動を縛ったり、非効率な産業保護政策など過剰な国家介入が広がりかねない点には懸念が残る。

また経済安保は、安全保障上の理由によりこれまで自由貿易原則や資本の自由移動によって最適化されてきたサプライチェーンなどに制限をかけていくことになるが、これはルールに基づく自由な国際秩序という観点からも矛盾が生じたり、経済のデカップリングを深刻化させ、ひいては大国間対立を加速させかねないリスクがあるといえる。


第7位   4.93点
南シナ海における領土・領海をめぐる対立

07.png南シナ海では、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)構成国が領有権や管轄権をめぐって争いを繰り広げている。南シナ海の全域に主権が及ぶとする中国の主張を、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所が全面的に退けてから5年が過ぎたが、判決を無視した中国はその後も軍事拠点化を進めたり軍事演習を重ねたりして実効支配を固めようとしてきた。こうした流れは2021年も変わっていない。

対するASEAN各国も拠点化や軍事演習など対応を進めている。例えば、インドネシアは8月に米軍との合同離島防衛演習を実施している。また、中国が行っている漁民の武装化をベトナムも進めているなど、各国の活動が活発化する中で、偶発的事故の発生するリスクが高まっている状況である。

中国とASEANの間における南シナ海における紛争防止に向けた「行動規範(COC)」も、中国の李克強首相は21年末までの妥結を目指す考えを示していたが、結局年内の妥結には至らなかった。

一方、域外国の活動も活発化している。米国は依然として南シナ海における「航行の自由」作戦を繰り返しているが、英仏なども艦艇を派遣して関与を強めている。さらに9月に創設された豪英米による安全保障パートナーシップ(AUKUS)も南シナ海を見据えている。各国の軍が同じ海域で軍事演習を実施する回数も増えるなど活動が活発化する中ではやはり偶発的な衝突が起きる可能性は否定できず、危機管理を要する局面に入ってきたといえる。


第8位   4.82点
台湾有事の可能性

08.png2021年4月の日米首脳会談や、6月のG7では台湾海峡の平和と安定が強調された。当然中国の反発は大きいが、かといって台湾への武⼒侵攻は国際社会からさらなる非難を受け、中国の経済成⻑を⼤きく阻害するなど失うものは多い。何より米国を相手とする戦争になりかねず、現状では中国が台湾に大規模な軍事侵攻を実施する可能性はきわめて低い。もっとも、仮に台湾が独立に向けた動きを先鋭化させたような場合には中国も軍事侵攻に踏み切る可能性は高い。

一方の⽶国はトランプ政権、バイデン政権ともに台湾への武器売却を実行したり、インド太平洋戦略やQUAD(⽇⽶豪印)、AUKUS(豪英米)を通じて対中抑⽌⼒を強化しようとしてきた。そして2月11日に正式発表した「インド太平洋戦略」では多くの箇所で台湾に言及。「台湾関係法」及び「台湾への六つの保証」の下での米国の約束を改めて表明するとともに、米国は地域内外のパートナーと連携して台湾海峡の平和と安定を維持し、台湾の自己防衛能力を支えると強調した。

そして、仮に米国が軍事介⼊した場合、在日米軍が出撃するだけでなく、日本に後方支援や米軍との共同行動を要請する可能性が高い。そもそも、台湾は与那国島から111キロという至近であり、日本が巻き込まれることは必然である。

中国は共産党大会、米国は中間選挙を控えるためにどちらも2022年に大きな動きに出ることは難しく、台湾有事が勃発する可能性は限りなく低いとはいえる。ただ、まったくリスクがないとはいえず、それが顕在化した場合に北東アジアのみならず、世界全体の平和に及ぼすダメージは計り知れないものになる。

第9位   4.75点
サイバー攻撃の日常化

09.pngサイバー攻撃は2020年には世界各地で5000億件以上も発生しており、増加の一途を辿っている。その多くは犯罪集団や個人によるものであるが、国家が攻撃主体となっていると見られるものもあり、日本政府は21年に打ち出したサイバーセキュリティに関する戦略で、中国、北朝鮮、ロシアを初めて名指しで脅威と認定した。

20年には河野防衛相(当時)が、他国からのサイバー攻撃に自衛隊が反撃する可能性のある事例として、国内の電力会社のネットワークや航空管制システムが乗っ取られるなどした結果(1)原子力発電所のメルトダウン(2)航空機の墜落(3)人口密集地の上流のダム放水が起きるケースを挙げたが、現状のサイバー攻撃はこうした武力攻撃には及ばない程度のものである。

しかし、国民情報データや機密情報、知的財産の窃取、選挙干渉、重要インフラへの軽微な妨害など武力攻撃とは言えなくとも、市民生活の安全を脅かしかねないサイバー攻撃は多い。例えば、5月にはランサムウェアを利用したサイバー攻撃によって、米国最大の石油パイプライン企業が操業停止に陥り、市民生活に影響が出ている。

また、国連安全保障理事会で対北朝鮮制裁の履行状況を調べる専門家パネルがまとめた最終報告書案によると、北朝鮮はサイバー攻撃によって暗号資産の奪取を進め、不法に得た資金によって核・ミサイル開発を継続している実態が明らかになるなど、間接的に安全保障上の脅威を増大させるケースも見られる。

今後、さらにサイバー攻撃の主体の多様化や攻撃手法の高度化が進み、それに伴いサイバーセキュリティの領域も拡大していくと見られる。一方で、国際的なルールやコンセンサスづくりも進んでいない。また、日本に関して言えばサイバー防衛体制がいまだ脆弱であるという課題もある。こうしたことから2022年もサイバー攻撃が北東アジアの平和に対する障害となり得る可能性は低いとは言えない状況である。

第10位   4.74点
インド太平洋におけるQUAD (日米豪印)やAUKUS(米英豪)と中国との対立

10.png日米豪印 4カ国の協力の枠組みである QUAD は、2021年3月にはオンラインで、9月には初の対面での首脳会議を開催し、共同声明を発出した。日米豪印の間ではこれまでも質の高いインフラ、海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、人道支援・災害救援をはじめとして様々な分野で実践的な協力が行われてきた。一連の会議でもワクチン、重要・新興技術、気候変動などに関する作業部会の立ち上げが合意されたように、幅広い分野での連携を志向するものであり、軍事に特化した協力枠組みではない。

しかし、それでも中国はQUADに対し「中国の脅威を煽るもの」として強く反発している。日米豪印4カ国が参加する軍事演習の機会も増加しており、今後安全保障協力の色彩を強めていくことで中国との対立が深まるリスクはある。

一方、9月創設の豪英米3カ国によるAUKUSは、明確に軍事・安保分野での連携を軸に据えている。AUKUSの枠組みではまず、米英の支援によって豪州が2040年代にかけて原子力潜水艦8隻を建造することを目指すとしているが、原潜技術という機微技術を厳しく管理している米国による支援はきわめて異例である。インド太平洋地域で米国がカバーし切れない海域を豪州に担わせ、対中抑止力を強化することが念頭にあると見られる。当然、AUKUSにも中国は激しく反発しており、この対立が平和に及ぼす影響も懸念される。

もっとも、核兵器への転用が容易な核燃料が非核兵器保有国豪州に移転し、核兵器不拡散条約(NPT)体制に悪影響を与えることを懸念しているのはニュージーランドなど周辺諸国も同様である。韓国、イラン、ブラジルなど原潜保有を目指す国にとって悪しき前例となりかねず、世界の核不拡散体制の観点からもリスクをはらんでいるといえる。


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