北東アジアの紛争を回避し、ルールに基づく平和づくりの舞台に ー「第3回アジア平和位会議」開幕式報告

2022年2月22日

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 日米中韓4カ国の安全保障、外交の専門家ら約40人による多国間対話「第3回アジア平和会議」(言論NPO主催、工藤泰志代表)が2月22日開幕しました。「北東アジアにおける紛争回避と台湾問題への対応」をメインテーマとし、23日までの2日間の日程で、コロナ禍のためオンラインで4カ国を結んで活発な討議が繰り広げられました。

 さらに22日の特別セッションでは、日米中韓の専門家201人にアンケートを実施した「2022年度版北東アジアの安全保障リスク」の集計結果を踏まえて、パネルディスカッションが行われました。


政府の一歩先を行き、北東アジアの紛争を回避し、ルールに基づいた平和を作る舞台を作ることこそ民間の役割

udo5.png 開会の挨拶に立った工藤は冒頭、緊迫するウクライナ情勢に関して「今非常に深刻な世界の危機に直面している。日々展開する局面で紛争を回避するための大詰めの努力が今も行われている」と言及した上で、予断を許さない北東アジア情勢についても「私たちはウクライナでの紛争の回避を願っているが、それと同じことが北東アジアで起こらないとは言い切れない。緊迫する地政学的な対立があり、危機が高まっている状況下で、私たちは外交の可能性を信じて、地域のリスクを管理し、紛争を回避したいと」と強調しました。

 続けて工藤は、「平和はただ願うだけでは実現できない。そのための努力が必要であり、私たちの取り組みもその努力の一つだ。政府だけでなく、市民の側も問われており、むしろ私たち民間側の役割はそれ以上に大きい」と指摘。「政府ではできないことでも一歩先を進んで、解決のための舞台を作り上げる役割が私たちにある」と述べ、開催の意義を説明しました。

 さらに「世界の米中対立の深刻さが北東アジアの状況にも及んでいる。朝鮮半島、東シナ海、台湾というホットスポットを抱えながらも、この地域全体的に協議する枠組みが存在していない」と指摘。だからこそ、「私たちは民間として、その一歩を踏み出そう考えて、対話の舞台に4カ国の専門家が歴史的作業を始めている。その目的はたった一つ、北東アジアの紛争を回避して、ルールに基づいた平和をつくることです。こうした動きを民間で取り組もうということです。米中間の対立もあり、地域紛争の危険性はより深刻化を増している中、私たちは作業を急がなければならない」とかたり、今回の会議にかける意気込みを語り、挨拶を締めくくりました。

 その後、各国から専門家が一人ずつ、長年培った知見と現在の国際情勢を踏まえて「問題提起」を発表しました。


「安全保障のジレンマ」こそ最大の脅威

ダニエル・ラッセル3.png 冒頭、米国のダニエル・ラッセル元国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「嵐を呼ぶ暗雲として現れているのは『安全保障のジレンマ』だ。米中は意図せずに、そういった状況にはまってしまっている。関係性がセクターごとの競争から一層悪化し、全面的な対立に進んでおり、互いに疑いの目で見て、敵対的な感情を持っている」と現状を分析しました。

 さらに「いずれも現状を維持し、既存の権益を守ろうとしている。しかし相手はそれを不当だと考え、破壊しようとしている。そして、相手の軍事的な能力・行動に警戒感を持ち、力の優越性を示さなければならないと考えている。両国関係がネガティブなスパイラルに陥っており、双方が自国のための安全保障のためにとる行動が結果として、より危機の状況に押しやっている」と指摘しました。具体的には「米日韓の民主的な体制が、中国共産党への脅威と見なされるようになっている一方で、中国の『一帯一路』構想は、米日韓においては国際的な秩序を乱す脅威と見なされている」と明言。そうした状況が「政治的エリートをはじめ、国民の姿勢にも影響を与えており、今回の言論NPOのアンケート調査などに現れている」と述べました。

 さらにラッセル氏は「人と人との交流、文化的なつながりの観点では相手に関してポジティブな見方ができるし、緊張が高まった時にセーフティーネットとして機能している。しかし、国民の間で冷めてしまうと、政治の側でやれることも限られ、世論が緊張を加速させてしまう状況が生じてしまう。この『安全保障のジレンマ』が最も大きな脅威ではないか」と懸念を示しました。

 加えて具体的な事例として、①信頼の欠如、②対話の欠如、③ポピュリスト主導の政治的圧力と愛国心の高まり、④中国と西欧民主主義国の国際的な不調和を挙げ、こうした「危機的因子」によって、「両国が意図していないにもかかわらず、一触即発の状態から紛争につながってしまう恐れがある」と指摘しました。特に「台湾を巡る紛争の危険性を高める」と同時に、「パンデミックやデジタル社会などへの対応にも不適合な状況が生じる」との見解を示しました。そのためにも「米中の戦略的な対立と『安全保障のジレンマ』にフォーカスして、各国の参加者が最大限に耳を傾けて、障害を取り除くための協力をすべきです」と呼び掛けました。


北東アジアの安全保障を確立するためにも、米中が関与する包摂的なアレンジメントが必要に

賈慶国2.png 続いて、中国の賈慶国・政治協商会議常務委員(北京大学国際関係学院前院長)は、このアジア平和会議について「北東アジアのさまざまな課題に取り組める非常に重要なメカニズムだ」との認識を示した上で、「地域の安全保障環境は恐らく冷戦後、最悪の状況にあり、中米関係はさらに劣化している。台湾海峡の紛争、北朝鮮のミサイル実験、南シナ海の領土問題も沈静化しておらず、ハイテク分野のデカップリングも加速している状況にあり、今回のアンケート調査もそうした問題を反映している」と指摘しました。

 北東アジア地域の安全保障に対応するために必要な観点についても「まずは中米関係の劣化を止めて、良好な方向へ転換する必要があるが、多くの人々は『中米関係を改善させることはできない』と言うだろう。しかし、そうした状況は複雑な現実を必ずしも反映していない」との自説を展開しました。

 具体的には「リチャード・ニクソン大統領が1972年2月に初めて訪中した際、当時、中国は国際的なシステムから除外されていたため、共通の利害はほとんどなかった。中国は革命的な国で、既存のシステムを転覆しようとする存在だったが、今日の中国はこのシステムに多くの利益をもたらすようになり、米国同様にステークホルダーになった。結果的に両国とも、世界が安定して繁栄することが利害にかなうようになった」と歴史的な経過を説明。その上で、現状の問題を打開するためには「バイデン米政権による対中政策はうまく機能しておらず、敵視は世界の利益にかなわない。経済発展や環境保護、反汚職、貧困削減、対テロ政策など中国が成果を出しているポジティブな面を見るべきだが、そのことは主要メディアではなかなか報じられない。まずはそのことを認めるべきだ」と不満を述べました。

 賈慶国氏はさらに、新興勢力の台頭に伴う既存勢力との戦争不可避の状態を指す「トゥキュディデスの罠」を引き合いに出して「中米関係におけるイデオロギーや価値観の違いは、国内向けや同盟国の政治状況のために役立つかもしれないが、中国との平和的共存をより難しくしてしまう。双方が妥協することで初めて共存が可能になるし、両国が直面する多くの課題に対応できるようになる。そのことが繁栄をもたらし、国際的な課題にも取り組んでいくことが可能になる」との見解を示しました。その上で、この地域の安全保障を確立するためにも、米中が関与する包摂的なアレンジメントの必要性を強調しました。


現状維持の価値を認めるだけではなく、各国が共通の課題に対して取り組む努力をすることが重要

安豪栄1.png 韓国の安豪栄・元駐米韓国大使は北東アジアの安全保障について非常に緊張感が高まっており、米中関係においても難しい局面にあるとの認識を示しました。具体的には、昨年末に出席した米バージニア州ミドルバーグで開かれた国際会議において、「第二次大戦後に訪れた冷戦下での平和と繁栄、安定を、我々は勝ち取る」というフランクリン・ルーズベルト大統領の炉辺談話を巡る状況分析を事例に挙げながら、現状は「新冷戦」下にあるという仮説を提起しました。続けて、この30年、北東アジア、台湾海峡、南シナ海の事態は非常におかしな方向に動いており、朝鮮半島においても「冷戦後、南北朝鮮のトップの交流、基本合意も成され、朝鮮半島の非核化も合意するなど希望があったが、1993年3月に北朝鮮がNPT体制から脱退し、努力が水泡に帰した。その後30年間近く北朝鮮は誤った方向へ進み、韓国をはじめ、地域に脅威を与えている」と振り返りました。

 その上で安豪栄氏は「緊張が破壊されるところまで事態が動かなかったことはラッキーだったが、運に任せるわけにはいかない。今後我々はどういう役割を果たすべきか」と問題提起。自身としては「現状維持は良くない」と強調し、「特定のアクターが侵略や威圧的な手段で変えようとすると、戦争につながるし、大きな人的コストにつながる。現状維持の価値を認めるだけではなく、各国が共同で何ができるかを努力することが必要だ。北東アジアに限らず、気候変動やパンデミック、海洋・航海の維持などグローバルに直面する共通課題に対応すべきだ」と強調しました。

 さらに北朝鮮の核ミサイル問題についても「我々は共にできることはいろいろある。北東アジアの主要アクターが結束して共通の問題に取り組むことによって前進することが可能になる。言論NPOの工藤代表が『こうした問題に取り組むメカニズムがない』と指摘されたが、まさに地域全体で安保や経済などを取り組む『CSCA: Council for Security Cooperation in Asia(アジア安保協議)』のプロセスを真剣に検討すべき時機ではないか」と訴えました。


安全保障や外交の分野で問題を解決するためには、最低限の「信頼」が必要
その「信頼」を醸成するためにも対話が重要

宮本.png 最後に発言した元在中国日本大使の宮本雄二・宮本アジア研究所代表は、緊迫したウクライナ情勢に言及して「欧米では軍事と外交が一体化している。外交的な目的を達成する手段として、軍事を最大限に使っている。必要であれば、最後は軍事で解決しようというロシアのプーチン大統領の意図が見えている」と述べ、冷徹な国際情勢を分析しました。翻って北東アジアにおいても「究極的には、ウクライナのような事態があり得ることは頭の片隅に置く必要がある。米中関係の悪化が北東アジアの安全保障問題をここまで緊迫させた最大の要因だ」との懸念を示しました。

 具体的な対応策を検討するにあたって宮本氏は、ラッセル氏が指摘した「安全保障のジレンマ」に陥る状況下では、「信頼(confidence & trust)関係をいかに回復させることが重要であって、信頼の有無で物事を解決する難しさが桁違いに違ってくる。信頼関係を改善しないと、前進できない」と指摘した上で、国連憲章が定めた「全ての国際紛争の平和的手段による解決」、「国際関係における武力・威嚇、武力行使を慎むこと」に言及して「これが国際関係の根本ルールだ」と改めて強調。「そうしたルールが今、北東アジアにおいて危殆に瀕している現状をしっかり認識しなければならない」と呼び掛けました。

 軍事安全保障分野においても宮本氏は、何らかの合意を達成するためには、必要最小限の「戦略的信頼(strategic confidence)」が必要であり、冷戦時代、米ソ両国は軍備管理交渉を通じて、この信頼関係を作り上げ、核抑止戦略が有効に機能したと指摘。「現在、中国と米国、中国と他の関係諸国の間には、この戦略的信頼は存在していない。外交問題を解決するためには、必要最小限の『外交的信頼(diplomatic trust)』がなければできない」と語りました。その上で、「こうした『信頼』を回復していくために、間違いなく『対話』が重要になる。対話することによって、信頼関係を少しでも回復することが必要だ」と強調しました。

 宮本氏はさらに米中の参加者に対しても「大国と呼ばれる国は、それ以外の国が言うことに耳を傾けない。米中はこの陥穽に陥っているのではないか」と敢えて「苦言」を呈しました。加えて「相手をどうしたら理解させることができるか」とも語り、外交的なアプローチにおける対話とロジックの重要性を重ねて訴えました。同時に「指導者や有識者の間で、二国間関係にとどまらない大きな共通戦略(図柄)を共有することも大切になってきた」と述べて、引き続いて行われる特別セッションにおける議論に期待感を示しました。