続いて、第2セッション「中国の台湾の平和的統一政策をどう考えるのか」が行われました。台湾海峡で緊張が高まる中、日本政府は1972年の日中国交正常化以降、一貫して「一つの中国」原則を理解、尊重し、台湾の独立も支持しておらず、平和的な対応を求めています。このセッションでは、中国は台湾の平和的な統一をどのように進めようとしているのか、中国側の説明を聞きながら議論が展開されました。司会は、上海国際問題研究院朝鮮問題専門家の?克瑜氏が務めました。
中国は少しずつアプローチを重ねながら平和統一を目指しているが、懸念要素は頼清徳
まず、中国側から上海市台湾研究所所長の倪永傑氏が問題提起に登壇。中国の統一に向けた政策について語りました。まず、中国の台湾をめぐる基本方針は、一国二制度、両岸関係の平和的発展、台湾独立と外部勢力の干渉に断固反対の三点であるとした上で、統一に向けた戦略的なパワーは有しているものの、「毎年、段階に応じて少しずつアプローチしている」として方法は至って穏当であることを強調。「(中台)両岸は一つの家族」などのスローガンのもとでコミュニケーションを図りつつ、融和的態度に終始していると語りました。
また、福建省アモイ市と台湾の金門島の間では、橋梁や水道といったインフラ建設、金融・貿易、エネルギーをはじめとして数多くの両岸協力プロジェクトの好例があることを紹介。これを中国が平和統一に本気であることの証左であるとしました。
倪永傑氏は、中国は今後も台湾とは協力と友好を深め、たとえ挑発があったとしてもスマートに対応しつつ、早期の統一を目指すとしましたが、いくつかの懸念要素もあるとし、特に日米の干渉に対しては「統一は中国の国内問題だ。実現すればむしろ地域の平和に資する」などと苦言を呈しました。しかし、最も強い口調で批判したのは、次期総統選に与党民進党の公認候補として出馬する頼清徳副総統に対してであり、「蔡英文総統にはまだ打算的なところがあるが、頼清徳氏はとんでもない独立主義者だ。彼をコントロールする必要がある」などと痛罵しました。
最も重視すべきは台湾の人々の意思。大半は現状維持を望んでおり、一握りの独立派を過度に強調すべきではない
続いて、日本側から元自衛艦隊司令官の香田洋二氏が問題提起を行いました。まず前提として、中国による台湾の統一は、それが平和的なものであったとしても「天与のものではない」と切り出した香田氏は、いくら伝統的に「台湾は中国の核心的利益である」と主張したとしても、それはあくまでは中国の論理に過ぎず、「国際的に認められたものではない」と指摘。その上で、統一に際して最も重視されなければならないことは「台湾の人たちの意思だ」とし、これを無視した統一を認めることはできないと断じました。
香田氏は台湾に対する評価として、アジアにおける「民主主義の優等生」であり、天然資源は乏しいものの高度な技術を持つ「第一級の経済国家」であると表現。また、地政学的に見ると、台湾はここを起点として東に日本列島、南から西にフィリピン、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、カンボジア、ベトナムと続く列島線の「錨」であり、「これにより東シナ海と南シナ海は半閉鎖海を構成している」と指摘。このような経済上も安全保障上も要衝と言える台湾をめぐる問題は、中国の主張するように「国内問題」(領土問題)ではなく、「東シナ海から南シナ海に関連するすべての国の国益と生存にかかわる国際問題なのだ」と香田氏は主張しました。
香田氏は続けて、「台湾の圧倒的大多数の人たちは、現状の『自律性を維持した台湾』を支持しているのであって、中国と事を構えてまで独立の意図を持つ人々は一握りだ」とした上で、「しかし中国は、台湾で独立の動きが強まっているというバーチャルな幻想を作り上げて、過度に心配をしているふりをしている」などと指摘。仮想の独立派をでっち上げることによって、統一を正当化するための口実にしようとしているのではないか、との見方を示しました。
最後に香田氏は、「台湾の人たちの意図を無視した、どのような統一活動も容認できない」と改めて強調。日米に加え豪、ニュージーランド、EU等の民主主義国は基本的に同じ立場だとしました。その他のアジア諸国については、積極的関与を拒否することもあり得るとしつつ、「それをもって中国の立場に対する積極的支持と見做すべきではない」などと釘を刺し、「台湾の人々の意思を尊重した中台対話が第一歩だ」と問題提起を締めくくりました。
現状改変から明確な独立志向へと変わる与党民進党。社会主義現代化強国と中華民族の偉大な復興の実現のために中国は妥協しない
中国側二人目の問題提起者である上海国際問題研究院台港澳研究所所長の邵育群氏は、米国が中国を「国際秩序の再構築を目指す意志と力を持つ唯一の競争相手」と位置付ける中で、台湾への関与も強めてきたとした上で、台湾政治の動向について発言。蔡英文総統については「現状維持ではなく、現状改変を目指している」と分析。コロナ禍以降も中台交流を止めるなど「脱中国」を推し進めているとその根拠を示すとともに、頼清徳副総統に対しては「明確な独立志向を持っている」と警戒感を露にしました。
邵育群氏は、現在から今世紀中葉までに、社会主義現代化強国を全面的に完成させ、中華民族の偉大な復興を全面的に推し進めることは、全党・全国人民の中心的な任務だとした上で、そのためには台湾統一は不可欠であるとし、ここで中国は決して妥協しないと強調。一方で、台湾人が中国で定住したり、ビジネスを行う際には充実したサポートを提供しているとも語り、両岸関係の平和的発展を目指していることも併せて強調しました。
邵育群氏は最後に、ペロシ下院議長(当時)の訪台後に中国が周辺海域で軍事演習を繰り返したことについて言及。危機を煽りかねないとの批判に対して、「むしろリスクを低下させた。頼清徳氏の訪米に際して米国は慎重な態度を取った」などとし、米国の姿勢を変化させたことを成果であるとしました。同時に、「今は米国よりも日本の方が台湾有事を警戒しているのではないか」と批判しました。