今、日本の政治には何が問われているのか
-言論NPOアンケート調査結果を、メディア界はどう見たか

2008年9月01日

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 今回の会議は、「第4回 東京‐北京フォーラム」の実行委員会メンバーでもある会田弘継氏、浅海伸夫氏、木村伊量氏、山田孝男氏の計4名のメディア関係者と、言論NPO代表の工藤泰志が参加して行われました。

【1】 日本の政治には課題解決への意志がないのか
【2】 ポピュリズムや政治家の資質の問題は本質的な論点なのか
【3】 重要なのは国民に質の高い政策メニューを問う力

第1話:本の政治には課題解決への意志がないのか


工藤: 言論NPOでは、今の政治をどう見ているかということについて、約200人の有識者に緊急にアンケートを取りました。そこからどういうことが分かったかについて、最初に、簡単に紹介したいと思います。

まず、「今の日本の政治は課題解決の責任を果たしているか」という質問をしたところ、94%の人が「果たしていない」と答えています。その理由としては、政治家の資質を問う声がやはり多い。次に、「今の政治はポピュリズムか」という質問には、良いか悪いかは別として、「ポピュリズムだ」と答えた人が8割9割います。そう答えた理由として多かったのは、「政治家が国民負担の問題に触れようとしないから」や「政治がメディアの報道に振り回されているから」などでした。

また、「今の日本の政治に必要なことは何か」を聞いたところ、政権交代や総選挙を望む声が多いと予想していたのですが、一番多かったのが「政治家全体の資質が高まること」でした。その次が総選挙で、あとは「きちんとしたマニフェストを出せ」といった、政策に関わるものが多くなっています。では、政策については「何がアジェンダなのか」という問に対しては、年金、社会保障、医療が多い状況です。

今の政治状況については、「有権者に責任があるのか」ということを聞いたところ、89%の人が「責任がある」と答えています。そして、有権者には何が求められているのかという点については、「税金の使われ方に関心を持つべき」や「マニフェストに基づいて政治を監視すべき」が多く、「メディア報道を鵜呑みにしない」という意見も結構ありました。マニフェスト政治について聞いた問では、「マニフェストは従来の選挙公約と変わらない」という回答が最多で、約束を軸にした政治には至っていないという声が多いことがわかりました。マニフェスト政治は「定着している」とか、逆に「一時的ブームで終わった」というのは少なかった。

加えて、ロンドン『エコノミスト』誌やゴールドマン・サックスなどが言う「日本は世界から孤立している、今後二等国になる」という見解について問うてみました。「まったくその通りだ」という意見と「その通りだが外国から言われたくない」を合わせると44%ある。日本には「まだ可能性がある」を選んだ人は39%です。

政権交代や民主党の政策への賛否についても聞きましたが、面白いのは、民主党の政策を支持しつつ政権交代を求めるという人はあまりいないということです。「何でもいいから政権交代が必要」という人が民主党に賛成したり、政権交代の可能性に言及したりしている。45%の方々が、民主党の政策に対して「財源の裏づけがなく無責任だ」と言っていますが、それよりも「今の政策はだめだけれども政権を取れば変わるだろうから」という声が多い。政権交代の可能性を示唆する人や民主党を支持する人の半数近くがそう考えている。ですから、民主党を応援している人の雰囲気は、「今はどうしようもないけど、とにかく政権交代すれば変わるんじゃないか」という希望だけで成り立っているようです。

この調査には、対象が有識者、それも200人というサンプル数という偏りもあったかも知れませんが、これを広く、有権者、国民に問う議論に展開していきたいと思っています。

本日は、こうした議論づくりにご協力いただく立場で、この結果についてどう見ているかということをうかがいたいと思います。

木村: このアンケート結果には特に違和感はありません。しかし、どうして日本人は今の政治に憤激しないのか。公憤がない。「しょうがない」という一種のあきらめ、シラケなのか。これだけの人が政治は責任を果たしていないと言っているのに、日本のこの落ち着きはやや異常な感じがします。

工藤: 政策マーケットに関係している人たちはこういう認識ですが、一般国民との間にギャップがあるのかも知れません。

今回のアンケート結果で特に重要だと思うのは、政治が課題解決に応えないままずっと来ているということだと思います。一部では、「政治の失敗で日本は世界から孤立してもうだめなんじゃないか」という意見もあります。イエスパー・コール氏も「なぜ日本がG7にいるのかわからない」と言っていました。彼は、『エコノミスト』の「JAPAIN」の報道があったときに、日本の政治家が誰も反応しないのはなぜなのかと言っていた。つまり、政治家には課題解決をする意志がないのではないか。

会田: 私は、アジアのリーダーたちを中心に今の日本はどうかということを聞き回っていますが、日本に対する期待はまだまだ大きいような気がします。確かに日本人自身が自信喪失しているし、外国もそういう意識で見ている。少子化で人口が減れば大きな経済成長も望めないし、(慶応大学の)添谷さんの言うような「ミドルパワー」のような道を行くのではないかと考えているのではないかと思っていましたが、日本への期待はまだある。リ・クワン・ユーさん(元シンガポール首相)も「日本は物事を変えるのがあまり上手ではない国だ」と言いつつも、それでも「明治維新や戦後のような、大胆な力をまだどこかに持っているはずだ」と言っていました。彼は特に、人口問題への対応に際して、日本が移民にどう対応するかに期待しているようでした。

ただ、『フォーリン・ポリシー』の「世界の100人の論客」の記事で、中国の若い論客が4、5人入っていたにもかかわらず、日本人がひとりもいなかったというのは、少しさびしい気がします。80年代、90年代なら何人かいたでしょう。

木村: 私は「二等国」とか、「キラリと光る小さな日本」という表現は昔からあまり好きではありません。中国やインドがグローバルパワーとして台頭する一方で、日本は高齢化とともに産業人口が減り、ある部分は外国人労働者に頼らざるをえなくなるでしょう。伝統的な社会構造の変化がおき、単一民族的な価値観が揺さぶられているときに、何を日本の食いぶちにしていくのか。「国力」の指標を、これまでとは違う角度から検証し、再構成する必要があると感じます。スコットランドで活躍するサッカーの中村俊輔選手ではありませんが、世代にかかわらず、果敢に国際社会での他流試合に挑む「個人の突破力」をもっと磨くことに、日本は力を注ぐべきです。日本の社会や企業にはまだまだ潜在的な可能性、塑性を持った人材や技術があり、決して悲観的になる必要はないと思います。いまさら、手垢のついた表現で「大国になれ」と言っても説得力はない。ただ、なお第二の経済大国として日本は世界に応分の責任を負っています。長期的には超大国アメリカの退潮や、世界の多極化が予想されるなかで、日本はアメリカとは一味違った角度から、明確な理念とビジネスプランを持って世界に関与していく責務がある。「もう二等国でいいや」などと楽隠居を決め込む内向き志向は相当危ういのではないか、という気がしています。

山田: 「日本は世界から孤立してくか」についてですが、「二等国」の定義は何でしょうか。GDP基準の、無限の経済成長を達成できるシステムを持った国が一等国だということを前提にしているのだとすれば、納得がいきません。いまは、ある国が「いい国」なり「悪い国」であると判定する物差しが大きく変わろうとしている時代だと思います。「日本の政治は失敗している」と言われれば、「まあ、そうだな」と思ってしまいますが、「では、どの国が成功しているのか」と反問すれば、なかなか複雑です。失敗を重ねて行き着くところまで行けば、「窮すれば通ず」という展開になるのではないか。今後、日本にどんな人材が出てくるかということに関しては、私は比較的、楽観しています。

工藤: 『エコノミスト』が書いていたのは、日銀総裁人事の話をみても、日本の政治がいろいろなことを決定できなくなっているということでしょう。イエスパー・コール氏が言っていたのは、とにかく「日本には人がいない」ということです。投資すれば何かのリターンが望めるような国ではなくなってきている。魅力がなければ人は離れていく。

会田: 日本に限ったことではなく、ポスト・アメリカの議論もかなり盛んになっています。この調査そのものも、ネイションステイト(国民国家)単位で物事を見ているというきらいがありますが、世界で今働いているパワーは以前と違います。それが(米外交問題評議会会長の)リチャード・ハースの言っている「ノン・ポラリティ」、つまりこれからは無極世界に入るということです。今働いている力は、これまでの国家単位ではなく、EUのような地域組織であったり多国籍企業だったりNGOだったり。20世紀末頃から世界を形成する力が多様化しており、国家の力も今までどおりでは計れない。ですから、国家単位の議論をしてもあまり意味がないのではないでしょうか。その中で政治が持つ意味とは何かということをもう一度考えなければいけない気がします。

当たり前のことですが、かつてのようなスーパーパワーは存在しなくなり、多極化して新しい力が出てきて、それぞれが栄えて、それぞれの理想を実現しているのはいいことではないか。私が話を聞いている中にも「日本にはすばらしい価値があって、それは今後世界の中で生きていくはずだ」と考えている人が多いわけですから、単なるGDPや軍事力だけではない力とは何なのか、それが政治の中でどう生かされるのかということを考えなければなりません。数字だけで見るなということですね。

p2007j_aida_s.jpg会田 弘継
共同通信社編集委員 論説委員


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浅海 伸夫
読売新聞東京本社論説副委員長


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木村 伊量
前朝日新聞ヨーロッパ総局長


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山田 孝男
毎日新聞政治部専門編集委員


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工藤 泰志
認定NPO法人 言論NPO代表
 6月24日に行われた「第4回 東京‐北京フォーラム・メディア分科会」の企画・運営委員会の内容を全3話で公開します。(当日のレポートはこちら

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【2】 ポピュリズムや政治家の資質の問題は本質的な論点なのか
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