今、日本の政治には何が問われているのか
-言論NPOアンケート調査結果を、メディア界はどう見たか

2008年9月01日

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 今回の会議は、「第4回 東京‐北京フォーラム」の実行委員会メンバーでもある会田弘継氏、浅海伸夫氏、木村伊量氏、山田孝男氏の計4名のメディア関係者と、言論NPO代表の工藤泰志が参加して行われました。

【1】 日本の政治には課題解決への意志がないのか
【2】 ポピュリズムや政治家の資質の問題は本質的な論点なのか
【3】 重要なのは国民に質の高い政策メニューを問う力


第3話:重要なのは国民に質の高い政策メニューを問う力


工藤: 官僚と話していると、先日の公務員制度改革はやはり決定的に大きい。省庁に対する忠誠も崩れつつある。政治主導の方向に改革は進んでいますが、全体として見ると「政治のほうは大丈夫なのか」という感じがします。

浅海: 最近いろいろな新聞社が年金改革案を出していますが、それはもともと政治がやるべきことです。政治がしっかりして国会の場で各政党からアイディアが出てくるのが普通なのですが、今はメディアがやらざるをえない。基礎年金財源の税方式、保険方式の話にしても、新聞社間で論じ合っているだけでは始まりません。政治の側からそういうものがマニフェストとして出てきて、国民に選択肢を提供するというのが本来のあり方です。

木村: 政治はレストランのメニューのようなものです。ご自慢のメニューを示し、それを料理に仕上げるシェフの政治家がいて、多彩なメニューから一品を選ぶ舌の肥えた国民がいる。メニューづくりと料理の下ごしらえに専門のアドバイスをするのが官僚、といった構図でしょうか。

工藤: 政治主導が進んだ今、周辺のメディアも含めて、そのメニューの質が問われているということなのだと思います。そうしなければ、きちんとした議論がつくれません。

山田: 「政治家の資質」を問う声が大きいのは当然でしょうが、時代が人を呼ぶということもあると思います。60年前は、国敗れて吉田茂が出た。幕末は西郷、大久保、伊藤などですね。本当に窮すれば、大きな人物が出てくるのではないか。だったら、それまで黙って待っていればいいかというと、そういうわけにもいかない。言論NPOのような機関が前へ出て懸命に警鐘を鳴らす。それが大事だということではないでしょうか。

工藤: 確かに、幕末で尊皇攘夷を掲げていた西郷隆盛が討幕後、開国に動いたように、権力を取るための手段と政策とは違うのだということはわかります。ただ、時代が変わってここまで情報が公開されるようになったときに、小沢さんの動きはやはり、権力を取るためのショーのように見えてしまいますが...。

浅海: 小沢さんの場合は確かに、自民党を出て新進党、自由党をつくっていたときの政策と、今の政策とが全然違います。

木村: 昨年11月の自民、民主の大連立の動きを、マニフェストへの背信行為と見るかどうかでしょう。参議院選挙で示された民意への裏切り行為だという声もありましたが、政治のダイナミズムとしてはありうる話でした。1960年代半ばの西ドイツの社民党とキリスト教民主・社会同盟との大連立を想起させますが、社民党がその後、政権政党として脱皮したのも、大連立で実務能力を磨いた経験があったからこそです。政局が動く中で大胆な政策調整の機運が生まれ、リアリスティックな政策になってくるということもありうることです。

確かにマニフェストは大事だと思いますが、一方でマニフェストの通りに政治を行う、お客様が言った通りのメニューを出すことだけが政治の役目とは言い切れない部分がある。熟練のシェフによる「シェフのおまかせ料理」を客(有権者)に提供し、客が食べてみて「こんなもの二度と食べたくない」と思えば、そのレストランに愛想を尽かせばいい。つまり、次の国政選挙で落とせばいい。やや乱暴ですが、政治にはそうしたダイナミズムもあっていのではという気もしています。

工藤: アンケートに答えている民主党に批判的な層は、「とにかくばら撒けばいい」という、国民が馬鹿にされているような感じが嫌なのだと思います。先ほどのゴールの攻め方を示すということと、どう合わせて考えていけばいいのでしょうか。

浅海: そこが難しい点です。消費税率の引き上げの話にしても、自民党内議論すっかり後退してしまい、民主党も上げないほうが選挙で有利だと思っている。しかし、財政的にそれではもちません。

木村: いわゆる後期高齢者医療の問題も、確かに問題は多々あるが、ではいったん元に戻したとして、さて、その後どうするのかという話でしょう。

浅海: 世論としては、消費税引き上げの賛否は50:50くらいでしょう。応分の負担を求めることこそ「政治が責任を果たすこと」だと言う政治家はいるし、それに賛同する自民党議員は少なくない。民主党の中にもそういう意見がある。選挙に勝つためというのもわからないわけでもありませんが、それによって政策が余りにねじ曲げられてしまうのはどうかと思います。

山田: 税金の無駄使いの問題と政策の問題とを、どうやって全体の中で位置づけるかという関係性が大事だと思うんです。役所の無駄使いに不満を持つ人を説得し、納得させる論理、説明のしかたが重要です。「無駄遣いの問題はこう始末をつけましょう、その上で、政策はこうしましょう」と相互関係を明快に整理する必要がある。無駄遣いに対する批判がいつまでも止まず、政策選択へ議論が進められないというのでは困ります。問題をよく整理して、誰にでもわかる言葉で説明できるようにしなければならない。無駄使いがどこまで解明され、ケジメがついたかという納得感の共有が必要だと思います。

工藤: オバマ候補はある意味、正直で上手ですね。「一緒にやろう」、「これはできるがこれは難しい」など、そのほうが好感が持てます。

木村: 大事なのはやはり、そういうコミュニケーション能力でしょう。

工藤: コミュニケーション能力がないというよりも、有権者と対話しようとしていないのではないでしょうか。

木村: わかる人だけわかってくれればいい、というのではダメです。政治とは説得の技術です。

工藤: やはり、先にも述べたように、政策形成マーケットに入っている人たちと、一般の有権者とが分裂している状況というのは、本質的な問題ではないでしょうか。そこをつなげる努力をしなければなりません。

浅海: ですから、党首討論を嫌がるというのはどうなのかと思います。

木村: 失礼ながら、福田さんと小沢さんはどちらもディベート社会に向かない二人のようですね。

山田: 世界的に見るとブレアがナンバー1ですか?まあ、うまくしゃべれるほうが珍しいんでしょうが。

木村: 小沢氏の背後に、彼とはまったく価値観の合わない人たちが集まっている、ということが、そもそも民主党をわかりにくくしているのではないでしょうか。

山田: あの孤独感は並大抵じゃないですね。後から振り返った時に、日本政治史上、どういう総括になるのか。存在感は非常に大きいけれども、民主党という組織にしっかりと根を下ろしているという感じがない。非常に矛盾したリーダーだと思います。

工藤: もし、小沢さんが政権を取れば、さきほどのデザインの話のようなことをきちんとできるのかが問われてくることになると思います。

本日はどうもありがとうございました。

p2007j_aida_s.jpg会田 弘継
共同通信社編集委員 論説委員


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浅海 伸夫
読売新聞東京本社論説副委員長


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木村 伊量
前朝日新聞ヨーロッパ総局長


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山田 孝男
毎日新聞政治部専門編集委員


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工藤 泰志
認定NPO法人 言論NPO代表


 6月24日に行われた「第4回 東京‐北京フォーラム・メディア分科会」の企画・運営委員会の内容を全3話で公開します。(当日のレポートはこちら

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