「第3回 北京-東京フォーラム」 全日程終了 / 2日目の全体会合の模様

2007年8月29日

8月28日、第3回北京-東京フォーラムは第二日目に入り、午前中に全体会合。基調講演と前日の分科会報告が行われ、最後に共同声明が発表されて、フォーラムの全日程が終了。

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 今回の北京でのフォーラムも2日目に入り、29日の午前中に、全体会合が行われました。この日の全体会合では、国分良成氏(慶應義塾大学法学部教授)の司会の下に、まず、前日の全体会合に引き続いて日中両国から4名の論者の方々が基調講演を行い、その後、前日の各分科会のそれぞれについての報告がなされ、最後に、共同声明の発表が行われ、今年のフォーラムが締めくくられました。

 基調講演を行ったのは、日本側からは、中谷元(衆議院議員、元防衛庁長官)、松本健一(評論家、麗澤大学国際経済学部教授)の各氏、中国側からは、王英凡(全国人民代表大会外事委員会副主任)、劉北憲(中国新聞社副社長・総編集長、「中国新聞週刊」社長)の各氏でした。

 分科会の報告は、それぞれの分科会について日本側と中国側の司会者のうち一方が合意の上で、各分科会の議論内容やそこで到達された共通認識などを、報告者の判断も交えながら報告するものです。


 冒頭にまず、陳呉蘇氏(中国対外友好協会会長)から挨拶がありました。同氏は、10年間の継続が約されているこのフォーラムについて、開拓して局面を打破する最初の3年の次は安定的発展の3年に入り、3つ目の3年に入る7年目には創設者が満足できる収穫の段階に入ると確信しているとしました。そして、安倍総理のメッセージを歓迎しつつ、単に「戦略的互恵関係」に合意するだけで相手をライバル視しているのであっては現実にそれは進展しないとして、東アジアに二つの大国が並立するという世界史初の状況の中で、両国が真の相互信頼関係を樹立することの重要性を強調しました。

基調講演

 中谷元氏: 言論の自由こそが人類の知恵であり、ここで率直な忌憚のない意見を表明するとして、中国の軍事・安全保障の不透明性を強く指摘しまた。例えば、上海協力機構の軍事演習の趣旨の不明確さ、②日本の3倍にのぼる軍事費の不透明性、③衛星撃破に係るアカウンタビリティーの欠如などです。そして、将来は東アジアでNATOのような集団的安全保障機構の創設を考えており、対話と言論での問題解決図ろうとする中で、真の大国とは自らの進路を国際社会に示せる国であり、中国が「王道」を歩むなら、態度で示すべきであると強調しました。

王英凡氏

 安倍総理が「戦略的互恵関係」で合意を形成したことは、将来振り返ってみても、その歴史的意義は極めて大きく、新しい時代の日中両国に与えられた、厳かな責任を痛感するとしました。しかし、確かにそうした関係に向けて一定の基盤はあるものの、それはまだ脆弱で、双方に不信感が残っており、そうした複雑な状況をどう乗り越えるかが課題であるとし、世論や民意に重要な影響を与えるメディアには「戦略的互恵関係」を促す一定の役割があるとしました。そして、このフォーラムがそうした関係を作る優れた人材をひきつけるフォーラムになることを期待するとしました。

松本健一氏

 北京オリンピックを前にした中国は、ちょうど、東京オリンピック当時の1964年の日本と同じ状況にあるとして、同氏が1980年のソウルオリンピック時から論じてきた「1964年社会転換説」に基づき、このときの日本との比較から中国への示唆となる点を示しました。中国の街の風景などもこのところ大きく変化していますが、東京オリンピックのあとの東京の風景の変容は社会の変容でもあり、それは、欧米と並んだとの意識への変化、アジアからヨーロッパへの移行、農村社会から工業社会への転換などでもありましたが、同時に、「努力」、「一生懸命」から、「人それぞれそれなりに楽しめ」への人間の意識の変化でもあったことなどを指摘しました。

劉北憲氏

 日中両国のメディアに問われる役割として、①報道以外に両国交流の上で大きな役割を果たすこと、②相手国の世論のスペースに入り込むこと、③両国相互の基本的な認識不足があり、偏った報道を控えるべきことを挙げました。また、中国で世論調査ができると知って驚いた旨の発言が、昨年、このフォーラムの主催者からなされたことは、中国にとって笑い話ではなく、悲しむべきことであるとも述べました。そして、両国メディアのアクションによって、中日関係をともに作っていきたいとしました。

分科会報告

「中日の相互理解とメディアの役割」分科会
報告者:今井義典氏(日本放送協会解説主幹)

 この分科会では、冒頭に、今回の日中同時世論調査、意識調査のデータが題材として言論NPOの代表工藤から提示されました。それに基づいて議論を行うことが予め合意されていました。前半では、日中相互に対する好感度の回復とメディアの役割について論じられました。相手国に対するイメージが重要であり、その改善にメディアは大きな役割を与えることが合意されました。争点は、中国側が、政策変化を正しく伝えるべきであるとしたのに対し、日本側が、多様なメディアが多様な見方を伝えることが重要とした点にありました。日本側からは、政治が動けばメティアが動き、世論が動くとともに、世論が動けばメディアが動き、政治が動くとの指摘がありました。

 後半は、食品安全問題や、今回の世論調査でも中国人の多くが日本を軍国主義の国と見ている問題など、個別問題が論じられました。そこでは、ジャーナリスト交流など、様々な提案も出ました。私の実感として、今回の討議では日本文化論など色々な論点も出され、今後、幅の広い議論が広がるきっかけを見出すことができました。相互の違いを確認し、それを尊重すること、共通点を見出し、それを発展させていくことの重要性が合意されました。客観的で公正な報道と、消費者や市民の立場に立った報道の重要性も合意されました。

「アジアの安全保障と中日の役割」分科会
報告者:呉寄南氏(上海国際問題研究所学術委員会主任)

 全体的に参加者は率直で熱烈な議論を行いました。日本側からは、中国の軍事の透明性に関する様々な疑問や質問がぶつけられ、中国側からは、透明性は確保されていること、対外侵略をする意図がないことなどの説明が行われました。東アジアの安全保障体制のメカニズムについても、議論が行われ、それは経済FTAと比べても、欧州の安全保障体制に比べても遅れていること、アメリカを排除できるものではないこと、また、この地域は様々な矛盾やリスクを抱えていることなどが指摘されました。北朝鮮に係る六者協議のスキームを北東アジアフォーラムへと発展させるとの提案もなされました。日米同盟と台湾問題についても、様々な論点が討議されました。両国は、冷戦思考を放棄すること、両国の国防専門家の交流を深めること、両国間の衝突を起こすような要素を排除すべきことなどで合意がみられました。

「中日の経済交流と利益互恵」分科会
報告者:安斎隆氏(セブン銀行代表取締役社長)

 最初に、両国経済の現状と展望について報告がされました。その後、各パネラーから問題提起、提言があり、また聴衆からも質問が出され、大変活発な意見交換が行われました。

 基本認識としては、日本も世界第2位、中国は昨年経済世界第3位の経済大国になりました。両国の経済規模を考えると、単に日中だけでなく、アジア・世界に対し大きな影響を与えました。従って、双方にとってwin-winの経済関係を構築し、持続的安定的な経済発展を、両国だけでなく、世界あるいはアジアの為に、それを続けなければならないことが全会一致で確認されました。

 経済の現状については、中国は高度成長にあり、インフレ圧力が高まりつつあるように見えます。消費者物価は、食料品を中心に上昇しており、株価高騰は一服したが、不動産価格が上昇・加速し、将来の不良債権増加につながらないか心配です。

 長期的問題としては省エネ、環境保護の問題が挙げられる。こういった問題に取り組めば、コストアップや国際競争力の低下につながるが、成長とどうバランスさせていくかが重要だが、このようなコストは長期的安定的成長を持続させるためにどうしても受け入れなければならないと認識していく必要があります。日本はこの方面で身につけた最先端技術を中国に提供し、中国の環境問題の深刻化を防止すべきです。小林陽太郎氏から、これから安価にそれを提供する方法を考えるべきという提案もありました。

 中国の所得格差については、地方経済の活性化が必要だが、この問題は、人を移動するか、経済を地方に持っていくしかないという選択だという厳しい議論もされました。

 食糧問題について、日本は60%を輸入に依存しているが、輸入先の多様化によってリスクを分散するしかありません。農業問題について、日本では、農村人口の高齢化により、10年後にはかなり厳しくなるでしょう。アジアゲートウェイという政府が議論していることについても説明がありました。これは、日本の成長戦略の中心にアジアを据え、アジアとともに成長していこうという発想である。この発想に基づき、中国との間でも、韓国との間でも航路が拡大される予定です。

 FTAについては、分業体制であり、税金や規制が撤廃されればどんどん拡がります。中国も日本もそれぞれ問題を抱えているが、解決には、政治的決断が必要であることが指摘されました。

「中日の金融システムと通貨政策」分科会
 報告者:小島明(日本経済研究センター会長、日本経済新聞社顧問)

 金融分科会では、アジア地域全体、とりわけ日中で金融問題においてどういう協力ができるか話し合われました。

 まず、前金融庁長官の五味氏から日本のバブル崩壊について紹介がなされました。その中で、日本のバブル崩壊後の価値の喪失は甚大であったが、現在の中国の経済状況が日本のバブル当時と似てきたことが指摘されました。そして、経済困難に対する処理の宝庫である日本から中国はぜひ大いに学び、経済の調整期を見越して準備すべきであることが述べられました。
 
 為替問題については、中国の外貨準備高は世界でも突出している点、金利水準が実体経済を反映していない点が指摘された。マクロコントロールするには為替調整を行わなければならず、柔軟に為替政策を行うべきであるとされました。

 後半はアジア共通通貨についての議論が行われました。特に、日本と中国がイニシアチブをとって共通通貨を作っていくという議論がありましたが、一方で一部の方から日中間の信頼関係が薄い、特に日本側が中国側を信頼していないという発言もありました。

 しかし今フォーラムも3回目を迎え、益々議論の深みを増しており、相互信頼関係は確実に生まれています。

「地球温暖化と水問題」分科会報告
報告者:福川伸次(財団法人機械産業記念事業財団会長、元通商産業事務次官)

 環境分科会ではまず、戦略的互恵関係の必要性を確認しました。日本側からは安倍総理の発言を基に「Cool Earth 50」の説明や京都議定書の認識の確認等が行われました。中国側からは気候変動、環境変化、水問題などの現状や具体的な政策に対する説明・紹介が行われました。また、中国が発展途上国であることについての発言もありました。全体としては、共通認識が深まり、環境問題の具体的な対策においても共通認識が生まれました。

 個別的な話題については、まず、地球温暖化をどのように解決するかという問題に関しては、「市場のグリーン化」一般レベルでの意識改革、新エネルギー、技術開発、循環利用が必要だという話になりました。
 
 次に、環境をビジネスとして発展させていくという話にも及びました。そのためには、知的財産の保護やコストの健全化などフレームワークの整備が必要だとの指摘がありました。

 金融面での政策の必要性についても議論がなされました。環境税などの早急な対策が公民の環境問題における整合性のある連携システムの構築につながるという意見が出されました。

 また、水問題も重要であり、地球温暖化と水問題における科学的関係性は示せませんが、切り離して考えるべきではなく、関連国が努力していく必要があるとの理解が一致しました。

 最後に、日中関係において環境協力には長い歴史があり、今後も長く続けていく必要があるという点で一致しました。オリンピックに関しては、光化学スモッグなど日本の経験が活かせるとの指摘があり、日中環境保護センターの活用や日本の愛知万博における徹底したごみの分別収集を行ってはどうかという提案が日本側から出されました。中国と日本の協力をひとつのモデルとしたいという意見もありました。

 第一回アジア・太平洋水サミットでは中国首脳の参加を期待しています。

「中日関係とアジアの未来」 分科会
 報告者:周牧之(東京経済大学教授、マサチューセッツ工科大学客員教授)

 世界の政治経済の中心はアジアに移りつつある。この分科会ではアジアの世紀について語られた。特徴をまとめると以下の3点です。

 1つ目は、アジア域内の分業協力体制は広範に進化し、強化されつつあることが指摘されたことがあります。域内貿易比率は数年前の34%から 2005年の55%になり、中国はアメリカを抜いて日本の最大の貿易パートナーになりました。アジアは今、大分業・大協力、相互依存関係にあり、中国を世界の工場と呼ぶメディアがありますが、緊密協力にあるアジアこそ世界の工場だと思います。

 2つ目に、世界のマルチ、バイの関係構築は始まったばかりであるから、国民感情に係わる問題が多いことが指摘されたことがあります。アジアの協力メカニズムは、今のアジアの現状に対応していません。

 3つ目に、北京大学で開催し、中国の将来を担う中国の大学生と分科会を行ったことに意味がありました。
 
 議論の中身としては、前半は、各パネリストから、EUと比べたアジアの地域統合のスピード不足、各国の認識不足、中日関係の'アジアの未来'を決定する要因としての中日の責任の重さ排他的なナショナリズムに対する懸念、また、日本の戦後民主国家としての発展、中日関係に対する努力についても言及されました。
 
 後半では、200人を超える大学生との交流が行われ、パネリストへ鋭い質問が出されました。日本の政治家に対し、中日関係に一番影響を与え得るのは、歴史問題なのか体制の違いなのかといった問題や、中国に対しては日本の常任理事国入りをなぜ支援しないのかという問題などがあった。また、日本に対しては日本について各政党の対中政策に食い違いがあるとすれば何かという質問もありました。

 これらの質問に対し、パネリストからの返答がありました。一部の質問を巡っては双方の意見の対立も見られましたが、このような議論は中国学生諸君に現場で中国・日本のオピニオンリーダー、政府関係者、政治家の考えを知る機会を与えたのみならず、逆に中国・日本のオピニオンリーダー、政府関係者、政治家が中国学生諸君の考えを理解する機会となり、大変有意義でした。

 総じて、「バイタリティ」と「開放性」が、今回のフォーラム、中国、そしてアジアの代表的特長となったと報告者は感じました。

共同声明発表 工藤泰志(言論NPO代表)

 最後に、言論NPO代表工藤泰志より、共同声明が発表されました。
その中では、両国の国民の相互理解もまだ十分とは言い難いが、両国間の扉を開けるために直接的な大きな役割を果たしたのが「北京―東京フォーラム」であり、公共外交の重要さを強調しました。

 そして、議論の舞台をさらに重層的、多面的な関係へと発展させる必要があること、そして、この議論の舞台を、公共外交の場として日中間にしっかりと定着させるとともに、次の3年間では、年に一度で終える会合ではなく、継続的に、日中やアジアの課題を議論し、これを世界に発信する場として発展させていくことを、日中共催者の間で合意したことを報告しました。

今回の北京でのフォーラムも2日目に入り、29日の午前中に、全体会合が行われました。この日の全体会合では、国分良成氏(慶應義塾大学法学部教授)の司会の下に、まず、前日の全体会合に引き続いて日中両国から4名の論者の方々が基調講演を行い、その後、前日の各分科会のそれぞれについての報告がなされ、最後に、共同声明の発表が行われ、今年のフォーラムが締めくくられました。