分科会報告 : 【 中日の経済交流と利益互恵 】

2007年8月29日

p_070829_17.jpg【報告者】
安斎隆 (株式会社セブン銀行代表取締役社長、元日本銀行理事)
あんざい・たかし

1941年生まれ。63年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。74年香港駐在、85年新潟支店長、89年電算情報局長、92年経営管理局長、94年考査局長を経て、同年日本銀行理事就任。98年日本銀行理事を退任、同年日本長期信用銀行(現・新生銀行)頭取就任。2000年同行頭取を退任後、同年イトーヨーカ堂顧問に就任。01年株式会社アイワイバンク銀行(現株式会社セブン銀行)代表取締役に就任。

【 中日の経済交流と利益互恵 】

 それでは報告します。最初に、両国経済の現状と展望について報告がされました。日本から小林陽太郎氏、中国から周其仁氏(北京大学の先生)、その後各パネラーから問題提起、提言がありました。聴衆からも質問が出され、大変活発な意見交換が行われました。

 基本認識としては、日本も世界第2位、中国は昨年経済世界第3位の経済大国になりました。両国の経済規模を考えると、単に日中だけでなく、アジア・世界に対し大きな影響を与えています。従って、双方にとってwin-winの経済関係を構築し、持続的安定的な経済発展を、両国だけでなく、世界あるいはアジアの為に、それを続けなければいけません。

 既にこういう互恵関係については、200年前にアダム=スミスが「分業が進めば進むほど、経済は発展する」「平和であればあるほど、経済は発展する」と述べています。日中関係はまさに、こういう関係を進めてきていると言えるでしょう。分業が進むほど、両国の補完関係は促進されてきました。一方の発展がもう一方の発展につながる、つまり日本の発展は中国の発展であり、中国の発展は日本の発展であります。

 しかし、両国ともに課題やリスクを抱えてもいます。一方のリスクが顕現化すると、他方にマイナスとなって出てきます。無駄に相手をねたみの視点で見るのではなく、両国ともお互いの為にリスクを顕現化させないようにするにはどうすればいいのかを考えなければなりません。

 経済の現状については、中国は高度成長にあり、インフレ圧力が高まりつつあるように見えます。貿易黒字も続いており、外貨購入によって人民元が放出されています。消費者物価は、食料品を中心に上昇しています。株価高騰は一服しましたが、不動産価格が上昇・加速し、将来の不良債権増加につながらないか心配です。

 長期的問題としては省エネ、環境保護の問題が挙げられます。松本先生がおっしゃったように、特に空気、水、地質、緑をどのように保護していくか。これはこれから取り組まざるを得ない問題です。こういった問題に取り組めば、コストアップや国際競争力の低下につながりますが、成長とどうバランスさせていくかが重要です。むしろ、このようなコストは長期的安定的成長を持続させるためにどうしても受け入れなければならないと認識していく必要があります。これは、日本も経験してきた問題です。日本の経験を是非、中国側に伝えていきたいです。日本はこの方面で最先端技術を苦しみの中から身につけています。これを中国に提供し、中国の環境問題の深刻化を防止すべきだと思います。小林陽太郎氏から、これから安価にそれを提供する方法を考えるべきという提案もありました。

 所得格差の問題もあります。中国では都市部中心に地方との格差が拡大しています。財政負担を回避するためには地方経済の活性化が必要です。三農問題に関しては悲観論もあり、人を移動するか、経済を地方に持っていくしかないという選択だという厳しい議論もされました。日本は地方への補助金や交付金、公共事業を移転する方法を採用しましたが、これは未だに国債の大量発行など日本経済に大きな負担となっています。この問題の解決は中国が選択することですが、このような日本の経験も伝えたいです。

 少子高齢化については。日本が今苦しんでいる問題ですが、中国でも将来起こるでしょう。

 外資による直接投資について。中国は国内事業向けの輸入代替というよりは、輸出のための生産ネットワークの創出を逆に実現しました。こういう状況下では、様々な部品、中間財のコストを自由にすることで発展し、企業の成長力を維持することができます。

 日本経済の現状課題については、基本的に良好であるといえます。日本は成長率こそ中国より低いですが、アメリカ・中国に支えられています。

 ただ、日本は人口問題を構造的に抱えています。既に高齢化によって労働人口が減少しており、外国人労働力の活用が必須ですが、どうするかという方向性は定まっていません。

 人材誘致についても非常に厳しい課題です。人口が減少しているので、外国からの観光客や労働者をどう受け入れるかが課題です。これについて、銀行も、簡単にお金が引き出せるようになっているなど、努力しています。たとえば、中銀銀連カードがあれば、セブン銀行で簡単にお金が引き出せます。

 食糧問題について、日本は60%を輸入に依存しています。これを引き上げるのは不可能で、政策的にもナンセンスです。結局、輸入先の多様化によってリスクを分散するしかありません。

 農業問題について、日本にもいまだにあります。なかなか合理的な政策は出てきません。日本では、農地が不足しているというより、耕す人がいません。農村人口の高齢化により、10年後にはかなり厳しくなるでしょう。

 アジアゲートウェイという政府が議論していることについても説明がありました。これは、日本の成長戦略の中心にアジアを据え、アジアとともに成長していこうという発想です。前回フォーラムで当時自民党幹事長の中川秀直氏が提唱しました。この発想に基づき、中国との間でも、韓国との間でも航路が拡大される予定です。

 FTAについては、分業体制であり、税金や規制が撤廃されればどんどん拡がります。中国も日本もそれぞれ問題を抱えています。両国とも全く世界に遅れていることが指摘されました。局面解決には、政治の決断が求められます。FTAは結局、既存のプレイヤーにマイナスとして働くので、日本にとっては農村、中国にとっては農村問題を抱えつつ国営企業の改革なしには前進することは難しいでしょう。中国側パネリストから厳しい意見も出されました。日本の農業ではGDP上プラスが出ますけど、農業のGDP比率は低く、補助金を除くとマイナスになってしまいます。農業従事者がこのままいくと、あと数年後にはほとんどいなくなってしまいます。そのことがわかっていても、政治的な決断は難しいのが現状です。

 まとめますと、日中の相互発展のために、互恵関係を構築すべきということで全員一致しました。勿論、それぞれ解決すべき課題やリスクは多く存在します。高度成長する中国の場合、その解決にあたっては日本の経験を活かせる部分が多いでしょう。特に、バブル崩壊や環境公害といった失敗からの脱却経験は、大いに中国に役立ててもらえるのではないでしょうか。これらの問題を解決するためのコストは、長期的な成長を続けるためのコストです。問題解決を遅らせれば遅らせるほど、コストがかかります。これも我々が経験したことです。できるだけ早く、我々の経験を皆さんに役立ててほしいと思います。そのための具体的なアクションが必要です。

 以上です。


担当:尾藤、小川
編集:渡辺