分科会 【 中日の相互理解とメディアの役割 】 レポート

2007年8月28日

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中国側司会:
    劉北憲 (中国新聞社副社長・総編集長、「中国新聞週刊」社長)
パネリスト:
    胡俊凱 (「瞭望」週刊社副総編集長、「環球」雑誌社執行総編集長)
    朱英璜(元チャイナデイリー総編集長)
    黄星原 (外交学会秘書長)
    王 敏 (日本法政大学教授)
    範士明 (北京大学国際関係学院副教授・博士)
    陳彤(新浪ネット執行副総裁・編集長)
    呉 垠 (零点研究コンサルティンググループ副総裁兼研究総監督)
日本側司会:
    今井義典 (日本放送協会解説主幹)
パネリスト:
    会田弘継 (共同通信社編集委員 論説委員)
    浅海伸夫 (読売新聞東京本社 論説副委員長)
    木村伊量 (前朝日新聞ヨーロッパ総局長)
    工藤泰志 (認定NPO法人 言論NPO代表)
    山田孝男 (毎日新聞東京本社編集局総務)

 このメディア分科会は、中国側は中国新聞社副社長で総編集長の劉北憲氏、日本側はNHK解説主幹の今井義典氏の司会で始まりました。冒頭で、言論NPOの代表工藤から、今回の日中同時世論調査の結果の簡単な報告が行われ、両国民とも自国のニュースメディアから情報を得ていることや、この一年で相手への印象はやや改善したことなどが確認されました。その後、分科会ではそれに基づいた形で、主として、メディアをめぐる現実的な課題や、両国関係の改善に向けてメディアが果たすべき役割などについて、様々な議論がなされました。

 まず、パネリスト陣からのコメントおよび問題提起がありました。日本側からは、共同通信の会田弘継氏や、朝日新聞の木村伊量氏が、相手国に対するイメージや、その改善にメディアが果たす役割の重要性や、日本では人々が多様なメディア・意見をアラカルトに選んでいる状況を指摘しました。その上で、メディアや意見が多様化した今日、それらを公的にはどう伝えるべきかとの問題提起がされました。また、瀋陽領事館の事件をめぐる報道過熱に対し、毎日新聞の山田孝男氏は、政治の振幅の大きさにより相互の悪感情が増幅することを防ぐために、ジャーナリズムの自覚を促すべきだと述べました。
 
 中国側パネリストからは高岸明氏が、メディアは相互理解のツールではあっても、客観的ではなかった可能性に触れ、その原因として、急速に発展する中国と日本の間の認識ギャップや、日本側の過度の商業新聞化を指摘し、双方が問題を相手や第三者の立場から見るべきと述べました。またメディアが客観化し、社会的責任を負っていくには、双方の親近感が重要との意見も出されました。この点では王敏氏から、共同で勉強する機会の設置・メディアの学び合いの継続など、具体的なアクションも提案されました。


 後半では、前半のパネリストらの発言を受けて、会場からの質問を含め個別の論点につき、活発な議論が展開されました。

 まず今井氏は「相互の違いを認識し、受け入れる」ことの重要性を確認し、さらに代表工藤が「メディアは世論の誘導をしているわけではなく、現実をきちんと報道していないことが問題だ」と述べ、日本人の多くがこの一年で日中関係が改善したと考えているにも関わらず、中国の印象は変化していない点を指摘しました。

 これに対しては、中国のメディアは伝統的に報道を通して世論に影響を与えたいと考えているとの見方や、最近の食品の安全性をめぐる日本側の報道は 1つの側面に偏った過熱報道であるとの批判が出され、中国はまだ日本とどう付き合っていくべきか模索しているのだとの意見も出されました。

 日本国憲法をめぐる相互の間での認識の落差や、日本の軍国主義を危惧する中国側の見方についても、活発な議論が行われました。

 反日デモについては、日本で中国政府が黙認したとの表現があったことについて、木村氏は、政治的な状況に基づく相対的な価値判断に立ってトップニュースとなったものにすぎないと答えました。中国側からは、客観的で読者自らに判断させるような報道を望みたいとの意見が出ました。また、歴史問題についても、両国のメディアの相互理解と、メディア自らの価値観の多様化によって、メディアはその社会的責任を果たしていくべきだとの意見が中国側から出ました。
 

 最後に、これらの個別の議論を踏まえた上で、将来のメディアのあり方についての議論がなされました。中国側からは、中国の発展ばかりでなく、その内面世界の変化も報道すべきであるとの意見や、「すべての立場を全く同じにするのは不可能だが、現段階より発展させなければならないのは確か」といった意見が出ました。

 日本側からは、代表工藤がメディアのやり方に対する世論による監視のためのインターネットシステムの導入を検討していることを発表し、このフォーラムの継続のため徹底的にあきらめず頑張りたいと述べました。それを受けて今井氏は、メディアの基本的な役割は、不都合な真実を読者に提供し、消費者や一般市民の立場に立つことにあるとの自覚を持つべきだという原則を確認しました。