分科会 【 中日の経済交流と利益互恵 】 レポート

2007年8月28日

p_070828_b3_04.jpg
写真をみる
議事録をよむ(会員限定ページ)

※会員制度についてはこちらをご覧ください。

中国側司会:
    周其仁 (北京大学中国経済研究センター教授)
パネリスト:
    張維迎 (北京大学光華管理学院院長・教授)
    胡春力 (国家発展改革委員会、産業経済・技術経済所所長)
    何 力 (元「経済観察報」社社長)
    王 爍 (雑誌「財経」執行編集長)
日本側司会:
    安斎隆 (株式会社セブン銀行代表取締役社長、元日本銀行理事)
パネリスト:
    小林陽太郎 (新日中友好21世紀委員会日本側座長 元経済同友会代表幹事
             富士ゼロックス株式会社 相談役最高顧問)
    下村満子 (ジャーナリスト、前経済同友会副代表幹事)
    深川由起子 (早稲田大学政治経済学部教授)
    木村福成 (慶應義塾大学経済学部教授)
    進和久 (株式会社ANA総合研究所顧問)


 最初に、小林氏より、日中の経済における互恵関係について、以下のような問題提起が行われました。「現在の日本経済は中長期的に見て安定的な成長を見せているが、実際はアメリカ、中国経済に支えられている面が強い。企業は設備投資に意欲的であるが家計についてはかげりがみえる。自民党の参議院選での敗北に見られるように、都市と地方の経済格差が大きな問題となっている。最大の課題は人口問題。労働人口の量的減少とともに質的低下も見られる。日本の教育が創造力強化に資するとは思えないが、解決の具体的方向が見えない。また、アジアとの関係については、まず中国の調和ある発展を実現することが最大の課題。環境分野における技術協力等、日本として協力できることが何かを考えていくべきである。もう1つは官民の役割分担をどうするかという問題である。現在の中国において、過去の日本の政・官・財の協力モデルをあてはめることができるのではないか。」

 次に周氏より、中国経済の過熱問題につき、経済の産出だけでなくそのための投入にも注目すべきであると指摘があり、中国国内における消費者物価指数の上昇に対する警戒が示されました。また、中国の高成長の原因として、安価な労働力、改革開放による経済効率の上昇、中国国民の素質の変化が指摘されました。同時に、中国が改革開放をより進めていく中で、土地問題、環境問題、資源の集中問題等における改革が必要であるとしました。これらの問題について、日本の経験を参考にしたいとの発言でした。
 
 深川氏より、アジアゲートウェイ構想についての紹介がありました。それは、日本がアジアと一体化する中で成長を実現しようとする考え方であり、医療、金融、航空サービス等の分野で規制をなくすことや、文化等の情報発信をより積極的に行うことなども含まれています。


 その後、中国側パネリストより、近年の中国の労働コストの上昇、株価の上昇、地価高騰、環境エネルギー問題に対する懸念が示され、バブル経済を始めとする日本の経験が参考となるのではないかとの意見が多く出されました。また、日中はアジア経済の発展に対する責任を果たすべきであり、FTAの推進により日中の補完関係を促進することができるという意見も出ました。

 これに対し、下村氏より、日本と中国の相違点として人口が指摘され、中国は良い面、悪い面を含め自国の世界全体に対するインパクトの大きさをより自覚すべきとの意見が出されました。また、日中はお互い影響しながら共に進歩していく「共進」の姿勢が必要であるとし、日本の役割として、平和の構築、アジア地域の繁栄があり、ソフトパワーが重要な手段であるとしました。

 また木村氏は、日本と中国の相違点として、中国が外に開かれた直接投資を積極的に受け入れてきたことを挙げました。現在、かつての1企業が上下流を全て担うという形態から、得意分野に集中し、あとは他企業にアウトソーシングするというビジネスモデルへの転換が行われています。東南アジアでは生産過程の分業が細かく行われていますが、これには各過程のコーディネーションコストが低くてはならず、輸送・ロジスティック産業の発達が非常に重要です。中国の産業が沿海部から内陸部に移動しない理由として、ロジスティック問題もあります。都市部の地価高騰や、労働コスト上昇は、地方への分散へのインセンティブとなり、地方の経済成長を実現するには、この分散する力を捕まえることが必要です。これらの点を木村氏は指摘しました。


 後半の冒頭、進氏より東京とアジアの各都市を最短距離で結ぶことが経済の発展に資するとの意見が出されました。進氏は、島国の日本にとっては最短航空路線は非常に重要であり、航空協定の見直しにより、航空サービスの自由化が必要であるとしました。
 
 安斎氏からは、中国経済について、所得の再配分、社会保障の拡大、三農問題解決による財政負担というリスクが指摘され、これに対し日本の直接投資による中国経済の安定が必要であるとし、日中の補完関係は実現可能だとの指摘がなされました。

 中国側パネリストより、日・中・韓を含めた自由貿易圏の実現、FTA推進への必要性が強調され、先日の安倍総理のインド訪問に言及した上で、日中の全面的FTA実現の可否につき日本側パネリストの考えが求められました。また、日本の大手企業が海外に本社を移転する可能性についても日本側の意見が求められました。

 それに対し、小林氏は、日本の法人税は国際基準より高いため本社を海外に移転すべきとの意見もあるものの、大手企業の中で日本以外に本社を置くケースは圧倒的に少ないとしつつも、今後可能性は否定できないとしました。また、資源問題については、日中間で資源確保のための具体的プロジェクトを進めることが必要だとの意見が出されました。FTAについては、大企業が肯定的、中小企業が慎重というのが一般論だが、農業問題についても、日本の農業従事者の意識は少しずつ変化しつつあり、日本が取り残されるという懸念の後押しにより、その方向には進んでいるとしました。

 中国の国有企業の改革の必要性についての日本側からの指摘に対しては、周氏は、国有企業の問題は既得利益の問題であり、この問題を克服しつつFTAを推進する必要があるとしました。

 木村氏は、現在の国際的な趨勢として、WTOに代わり、FTAがネットワーク化してきており、特にASEANと韓国は主要貿易相手国と全てFTA を締結する政策を採用していることを指摘し、日本と中国の遅れを批判しました。日本は農業を開放し、アメリカ、EU、中国とFTA交渉を開始すべきとし、また、中国-ASEAN間FTA交渉についてもそのプロセスの遅さ、例外品目の多さを厳しく指摘しました。

 食料自給率の問題について、一部の日本側パネリストより、食料自給率の低下により非常時の食料確保が困難になることへの懸念が示されましたが、木村氏は様々な国との多面的外交により解決できると主張しました。中国側パネリストより、食料の武器化という観点は理解しがたいが、食料自給率については中国国内に同様の懸念があると発言がありました。

 金融については、安斎氏より、アジア通貨危機の反省を踏まえ、日中間の通貨政策に関する信頼関係を築くべきとの発言がありました。

 人材交流については、日本側パネリストは、概ね日本は海外よりも積極的に人材、特に技術者を受け入れるべきであり、そのためには外国人が働きやすい環境を整備すべきだとしました。

 張氏からは、中国の輸出が多いのは内需が低いためであり、また中国のGDPは実際より低く計算されており統計データも疑わしいとの発言がありました。

 最後にバブル経済について、周氏はバブル経済の原因として通貨政策と土地問題を挙げました。人民元と米ドルの為替レートは現在の中国の経済成長を正しく反映しておらず、多くの中国国民は早急な人民元の切り上げに否定的であり、また、中国では農民の土地は市場に出すことができないので、それにより土地の供給が人為的に制限され、価格の高騰につながるとしました。