「2007年 日中共同世論調査」 【 中国編・文章版 】

2007年8月19日

2007年 中日関係世論調査報告書
北京大学国際関係学院 李玉  範士明 (2007年8月5日)


一、調査の由来、目的とサンプル調査の概況

1.調査の由来、目的とアンケートプラン

 2004年の秋、日本の言論NPO、中国日報社と北京大学は協議により、「北京-東京」フォーラムの一環として、毎年一回の「中日関係世論調査」を共催することを合意した。これにより、中国日報社と北京大学国際関係学院は2005年5~6月に都市住民調査と学生調査からなる、第1回対日中国世論調査を実施した。アンケートには6都市の住民1938名と5校の大学生1148名に答えてもらった。また2006年5~6月には2回目の調査を実施し、5都市の住民1613名と5校の大学生1140名に協力をお願いした。今年の調査はこれに続く第3回目の活動となる。

 過去2回と同様、今回の調査の目的は、できるだけ全面的に、客観的に中国国民の日本に対する全体的イメージ、及び中日関係の現状とその行方に対する基本的な見方を明らかにし、中国国民の、中日関係の問題と日本の認識に対する思考パターン、その変化の傾向を解明し、的確に深い学術研究を展開することである。そして1つの側面から中日関係の動きを観察し、中日関係の健全な発展を推し進めるため、その政策に参考となる資料を提供することである。

 今回の調査において、中日双方は初めて基本的に同じアンケート用紙を使用した。アンケート用紙の内容は主催の三機関により何度も討論され、社会調査の専門家にも意見を伺った上作成したものである。アンケートの設問には、できるだけ過去の調査との関連性、目下特に話題となっている問題と中立的言葉遣いという3つの要素を配慮した。中国側の都市住民調査は零点調査公司に実施を委託し、学生調査は5大学の学生組織に実施をお願いした。調査データは専門家によりSPSSソフトウェアを使用して処理を行った。

2.調査サンプルの概要

 2007年の都市住民対日世論調査において、有効回収数は1609人、5都市で大体平均的に分布しており、その内訳は北京344人、上海310 人、西安 313人、成都319人、瀋陽323人となっている。調査対象は主に20~60歳の男女で、その内男性は796人で全体の49.5%を占め、女性は813 人で50.5%となっている。学歴から見ると、約90%が中卒以上(中卒を含む)、大卒以下(大卒を含まず)の文化程度で、収入から見れば、個人の月収は 3000元以下、主に1000~2000元となっている。党派では共産党員約9%、民主諸党派1%、一般大衆は81%を占める。職業分布から見ると、その分布は、高級管理職、自由業から肉体労働者、退職者、一次帰休者や失業者にいたるまで広範囲にわたる。その職業上位5位は各種企業や事業体の普通肉体労働者(22.7%)、退職者(12%)、自己雇用者(11.9%)、普通事務員(11.5%)、個人経営者(11.4%)とサービス業従業者(10.5%)となっている。以上の要素から見て、今回の調査対象は主に都市の中下階層の市民で、年齢、職業、地域の分布は比較的広範で、中国の一般市民にとってかなりの代表性を持っているといえる。

 2007年の学生調査については、有効サンプル数は1099件、その内訳は、大学生が55.3%、大学院生が44.7%を占め、男子学生は62.3%、女子学生は37.7%となっている。また学科別に見ると、人文学科20%、理学・工学・農学・医学37.7%、社会科学42.2%(19.7%の国際関係専攻の学生を含む)で、北京大学、清華大学、中国人民大学がそれぞれ約27%占め、外交学院と国際関係学院はそれぞれ約9%を占めている。共産党員は 38.7%。調査対象は学年、専門、性別、経歴などにわたり中国青年学生の代表性を備えているといえる。


二、調査の主な結果

1.日本や中日関係に対する全体的な印象

 過去の調査と同様、今回の調査の中では、(1)日本に対する全体的な印象。(2)「中国」と聞いて思い浮かべるもの。(3)中日関係の現状をどう思うか。(4)中日関係の将来性をどう思うか。という4つの基本的な問題を用いて調査対象の日本や中日関係に対する普遍的な考え(general impression)を検証した。

 今回の学生調査では、日本に対する印象が「良い」または「やや良い」との回答がそれぞれ4.2%、30.9%を占め,合わせて35.1%となった。 1年前と比較して、好感度が大幅に上昇していることが明らかになった。市民調査においても、日本の印象が「良い」、「やや良い」と答えた人が24.4%を占め、「普通」と答えた人は36.9%となっている。印象が「あまり良くない」と「とても悪い」のは36.5%。過去の2年間と比較して、やはり日本の好感度は明らかに上昇している。

 「日本と聞いて真っ先に連想するのは何ですか?」との問いには、過去と比較して、微妙な変化が生じている。2005年と2006年、首位に並んだ答えはすべて「南京大虐殺」。 2007年、学生調査の中で上位5位に並んだのは、桜(49.6%)、南京大虐殺(40.7%)、靖国神社(35.6%)、中国を侵略した旧日本軍(30.8%)、電器製品(26.9%)である。それに対して市民が思い浮かべたのは、電器製品(51.8%)、南京大虐殺(45.3%)、桜(44.1%)、富士山(26.4%)と中国を侵略した旧日本軍(20.4%)である。文化、経済のキーワードが初めて歴史のキーワードに取って代わった。

 中日関係の現状については、学生調査では中日関係が「とても良い」あるいは「やや良い」と考える人はそれぞれ0.4%、7.7%で、両者を合わせると8.1%となり、05年と06年に比べて少なからず上昇している。また、「あまり良くない」或いは「とても悪い」と答えたのは、それぞれ38.6%、 5.5%となっており、06年、05年に比べ明らかに減少している。市民の中で現在の中日関係を「良い」または「やや良い」と答えたのは24.9%、「あまり良くない」または「とても悪い」と答えたのは24.7%で、それぞれその前の1年間に比べて14.5%上昇、16.5%下降している。その他の44.6%の民衆は「普通」と判断している。それに相応して、58.9%の中国市民と49.6%の学生は過去1年の中日関係がある程度好転していると考え、変化していないと判断する市民と学生がそれぞれ33.8%、24.5%を占めている。

 注目に値するのは、73.1%の市民と65.4%の学生は中日関係の未来に対して慎重で、楽観的な態度を持ち、悲観的な態度はそれぞれ17.1%、10.6%となっている。前の2年間と比較して、明らかな変化がおきている。

2.中日関係において注目される問題を、どう捉えているか

 中日関係の全体的な印象は明らかに好転しているものの、具体的な問題についての態度は、依然として変わることがない。

 青年学生の場合、歴史問題(86.1%)、領土紛争(72.5%)と国民感情(31.9%)が依然として上位3位に並び、現在の中日関係の発展を妨げる主な障害となっている。その内、歴史問題と領土紛争については、その他の問題を大きく上回り、学生の関心を集めている。市民も前の2年間と同様、引き続き歴史問題(74.6%)と領土紛争(44.6%)、経済摩擦(31.6%)を主な問題の上位3位に挙げている。その他、日本の軍事大国化(市民 31.1%、学生30.8%)等が、比較的多く問題として取り上げられた。

 歴史問題の内、学生は教科書問題(55.6%)、過去の歴史への反省態度(49.7%)、靖国神社参拝(49.7%)、及び南京大虐殺問題(48.5%)等を上位に挙げている。市民は南京大虐殺(66.7%)を最も多く挙げ、続いて靖国神社参拝(49.1%)、教科書問題(48.8%)や反省が足りず誠意がない(41.6%)等を問題としている。52.1%の市民と34.0%の学生は「関係発展に伴い、中日間の歴史問題も解決される」と考える一方、「歴史問題の解決なくして関係発展なし」またはきっぱりと、「歴史問題は解決できない」と考える市民、学生はそれぞれ42.9%と60.1%に昇っている。どのように歴史問題を解決するかに至っては、依然として共通認識が欠けている。


 経済方面では以前と同様、両国の経済関係は「良好な互恵の経済協力関係」と考える回答者(学生55.3%、市民40.4%)が、はるかに競争関係と考える人(学生19.6%、市民19.1%)を上回っている。日本の経済と国際地位についての評価は、29.2%の市民は「危機を脱し、世界の経済大国としての役割を長く果たし続けていく」と考える傾向にあり、一方28.4%は「日本経済の回復の展望は不透明、経済的影響力は下降していく」と考えている。学生では「日本は経済大国としての影響力を保持する」と「国際地位は下降していく」との回答がそれぞれ28.6%、25.7%を占める。44.5%の人は「わからない」と答えた。回答者の日本経済に対する見通しは、未知の要素が多くあるため、不明確である。

 政治と安全について、日米同盟関係の存在意義について、圧倒的多数の学生(71.8%)と市民(60.8%)は「中国の台頭防止、台湾問題への干渉」と考え、前の2年間に引き続き、中国で広く認識される日米同盟に対する懸念を反映している。学生が軍事的脅威を感じる国は日本が76.4%と最も回答が多く、米国、インド、ロシアがそれぞれ69.8%、51.9%、20.8%で第2、3、4位に並ぶ。市民は米国(55.6%)と日本(41.2%)が最も軍事的脅威と認識する一方、その他の国はすべて10%を上回っていない。日本を脅威と感じる理由は、「日本には侵略戦争を起こした歴史があり、今もなお軍国主義の復活を望む人がいる」(市民61.8%、学生68.0%)、「日本の軍事力はすでに強力」(学生38.6%、市民40.3%)、「日本が軍事力を強め、軍事大国になろうとしている」(市民32.1%、学生52.8%)、「日本は米国の戦略に追随する」(市民39.4%、学生34.3%)等が挙げられている。

 日本が国連安保理の常任理事国入りを積極的に目指していることについて、中国は「支持」や「条件付で支持」と考える学生がそれぞれ1.4%、 23.6%である。それに対して、反対すべきと答えたのは69.6%。市民は中国政府は「支持するべき」(11.1%)あるいは「条件付で支持すべき」(32.7%)と考える人が、合わせて43.8%占めているが、反対するべきと考える人は35.8%である。圧倒的多数の中国民衆は、日本が国際社会でもっと大きな役割を果たそうとする場合、まず「近隣国の更なる理解、支持を取り付ける」(市民40.8%、学生65.3%)べきで、その次に「平和国家としての貢献」(市民 37.7%、学生39.3%)をすべきと考えている。

 首脳会談と民間交流について、学生達の多くは積極的な態度を持っている。71.8%の学生は「安倍首相と温家宝首相の相互訪問を知っている」と述べ、77.9%は首脳会談が両国関係の改善を促すことについて「期待できる」あるいは「どちらかといえば期待できる」と考えている。また76.2%は民間交流を「重要」、「まあ重要」と認識している。77.8%の学生は日本を訪問したいと述べ、その主な目的は「観光に行きたい」(72.4%)や「日本人との交流を深めたい」(33.9%)等を挙げている。市民の方面では、両首脳の相互訪問の事実をいずれも知っていると答えたのは39.9%で、首脳会談の効果にある程度期待できると答えた人が63.8%となっている。「日本のやり方、考え方」および「中国の民族主義と反日感情の高まり」が民間交流の主な障害になっていると学生、市民は考えている。

 今年の調査の内、49.2%の学生と54.2%の市民は、ここ数年中国民族主義の感情が強まったと考える一方、44.7%の学生と39.4%の市民はあまり変化はないと回答した。中国政府が唱える対外政策の原則中、「相互尊重、内政不干渉」との主張は最多の支持(学生35.4%、市民44.2%)を得ている。

3.日本についての理解

 調査対象の日本についての理解度を分析することは、中日関係の調査結果において、彼らを理解することに役立った。2007年の学生調査では、「ナショナリズムの台頭」(66.2%)が日本が現在直面する最も深刻な問題と見なされ、高齢化(46.6%)、不景気、構造改革の困難(40.1%)が2、 3位に並び、「アジア外交の立て直し」は過去2年の第1位から第4位まで下がった。市民は「高齢化」と日本の「アジア外交の立て直し」(34.6%と 23.1%)を主な問題としている。しかし主導的な日本の政治思潮について、民族主義、軍国主義、大国主義などは依然として上位に並び、平和主義、自由主義、国際協調主義など、日本でよく使われている語彙は中国ではあまり認められていない。民衆の間で最も知られている日本の指導者は、小泉純一郎(学生91.8%、市民72.3%)、安倍晋三(学生79.3%、市民33.2%)、田中角栄(学生60.2%、市民21.9%)の順となっている。市民と学生が最も知っている日本近代の歴史事件は、「満州事変(柳条湖事変)や中日戦争」、「米の長崎、広島への原爆投下」となっている。

 アンケートに答えた人の内、 95.9%の学生と98.8%の市民は日本に行ったことがなく、62.1%の学生と92.4%の市民は日本人と交流したことがない。但し、学生の 35.0%はおしゃべりをする日本人のクラスメートがあり、日本の知人との密接な交流がある学生や市民の割合は低い。中国のニュースメディアは、依然として日本と中日関係を理解する主なメディア(学生90.2%、市民87.8%)で、その次に中国の書籍(教科書を含む)(学生55.6%、市民 40.6%)、中国の映画やドラマ(学生36.6%、市民37.2%)と続いている。利用するメディアは、学生は主にインターネット(64.5%)で、市民はテレビ(84.9%)を最も多く利用している。


結  論

1.日本や中日関係に対する全体的な印象は明らかに改善しているものの、具体的な問題における見方にはあまり変化がない。

(1)プラス面の変化

 学生では、日本への印象が「とても良い」と「やや良い」と答えた人は前年度に比べて27.3ポイント増加(35.1%:7.8%)した。また、市民では、日本への印象が「とても良い」と「やや良い」と答えた人が前年度に比べて9.9ポイント(24.4%:14.5%)増加した。「普通」と答えた人は8.7%増加し、「あまり良くない」や「良くない」との回答は20.4%減少した。21.5%の学生と50.5%の市民はこの過去の一年に日本に対する印象が良くなったと考えている。

 中日関係の現状について、「とても良い」や「やや良い」との回答はあわせて学生で8.1%となり、2006年の2.9%と2005年の1.5%と比べて、前向きな見方が増加した。「あまり良くない」と「とても悪い」との回答は合わせて44.1%となり、2006年の70%、2005年の77.8% と比べて明らかに減少した。49.6% の学生と 58.9%の市民が、過去の一年間で中日関係はある程度好転していると回答している。

 中日関係の将来性についても、過去の全体的に悲観的な見方から楽観的な見方に転換した。65.4%の学生と73.1%の市民は今後の中日関係を「楽観的」や「やや楽観的」と考えている。2005年と2006年には、70%以上の学生が悲観的な考えを持っていた。また、2006年には両国関係の将来に対して楽観視していた市民は41.4%しかいなかった。

(2)連続性と安定性

 しかしながら、多くの具体的問題について、民衆の見解には明らかな変化はみられない。例えば、中日関係における主な障害、歴史問題解決の認知、中日の経済関係、日米同盟、中日のアジア地区における協力、首脳外交と民間交流などの問題について、調査結果は三回ともあまり変化しておらず、相対的な安定性や連続性を持っている。

 例えば、歴史問題や領土問題は三回の調査共に、両国関係における課題の上位2位に挙げられ、経済摩擦、日本の軍事大国化及び国民感情は学生、市民共に重要視している。

 総じていえば、調査結果は、両国関係の雰囲気のプラス傾向を反映する一方、中日両国は両国が直面している問題においては大きな進展を得ていないこともまた反映している。

2.肯定的な経済関係に対する見方に対して、否定的な政治や安全問題に対する見方。

 中日が協力して地域発展の促進をすること(学生60.1%,市民65.2%)や各々の経済や社会の発展(学生62.4%、市民57.3%)は多数の学生と市民に支持されている。首脳会談において両国の経済関係強化に努めることを期待している学生と市民も多い(学生41.6%、市民31.7%)。多くの学生(55.7%)は両国の経済関係をお互いに発展するための道具と見なしているが、ただし、日本を中国にとって一番の軍事的脅威国と感じていることを考えると、日本が自らを平和国家と定めている位置づけからは遠いと言えよう。中国国民は日本の軍事大国化と日米同盟での役割に対しては留保的態度を持っている。資源・エネルギーの課題は経済協力と領土問題に関係している。資源問題では「争いがあった場合、まずは自分の権益や国益を確保すべき」を支持する学生(38.5%)は「対話で協力すべき」との主張(26.0%)を上回る。アンケート結果は、中日関係の「政冷経熱」状態をある程度反映していると言えよう。

3.事件及びメディアの報道と大衆の見方との関連性

 2007年の調査によって、日本に対する全体イメージに変化が見られたのは下記の3つの要素が関係すると思われる。

 (1)事件によるリード。 2004~2005年は、中日関係にとってマイナスとなる事件が起こった。これによって2005年春の調査においては、日本に対する印象がどん底にまで落ちた。2006~2007年は、中日関係にとって大きな痛手となる事件は起こっていない一方、プラス面の事柄(両首脳の訪問)が広く知れ渡ったことによって、一部の調査結果にプラスに作用する一因となった。

 (2) メディアによるリード。三年間の調査によって、ニュースメディアは日本や中日関係に関する問題の重要な情報源であることが分かった。特に安倍首相の訪中と温首相の訪日前後における中国メディアの報道は、プラス面の報道が増加し、マイナス面の報道が減少した。

 (3) 政府によるリード。過去の二年間に、両国政府は両国関係の冷え込んだ空気の改善に努めた。両国関係において意見の食い違いがある問題に対して、積極的あるいは自制的な態度をとることは大衆の全体的な印象を変化させる、もう一つの要因となった。


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