「日韓共同世論調査」を韓国側の視点で読み解く

2013年5月09日

 工藤:先ほど、共同の記者会見が終わりました。この調査は、韓国側は東アジア研究院(EAI)が行いましたが、研究員の鄭源七さんに残ってもらいましたので、今回の共同世論調査に対しての韓国の認識について、私がどうしても聞きたいことを伺って、それを皆さんにも聞いていただこうと思っています。


 まず、一つ目は韓国の日本に対する印象なり、日韓関係の状況に対する認識が非常に悪化しているということです。さっきの記者会見でも鄭さんは、この10年間でも非常に深刻な事態だとおっしゃっていましたが、このように韓国国民の認識を大きく悪化させた一番大きな要因というのをどのように考えていますか。


日本との発展を妨げる3つの要因

鄭:まず、最初に先程お答えいたしました内容について訂正をしたいと思います。先程、最も今の状況が悪化していると申し上げましたが、それについては客観的な証拠があるわけではありません。ただ、去年までの日本に対する韓国人が持っている好感度点数という調査を行いましたが、この調査と比較して、2012年の調査結果がこれまでの調査の中で最も否定的であったという内容です。特に今年の状況を考えた際に、2012年の結果と比較してみてよくなるであろうといった状況証拠がありませんので、今後も悪くなるであろうといった予測に基づいた発言です。

 ですので、韓国人が日本人に対して、否定的な認識が高まっているということは、日本との関係発展を妨げる要因が何であろうか、という設問の結果から予測して考えることができるのではないかと思います。

 私はこの妨げる要因の3つを挙げさせていただきたいと思います。まず1点目が独島問題です。2点目が過去の歴史認識問題。最後の3点目が、日本の政治家の韓国に関する発言。この3つの要素があると考えています。

工藤:今の話はよく分かったのですが、ちょっと分からないのは、例えば歴史認識の問題については、確かに日本の政治家の発言などがあって、それに対して韓国の国民が「これは問題だ」と思うのは分かります。ただ、竹島・独島の問題は日本側から見れば、韓国が基本的に実効支配しているので、韓国側がそれを大きな障害として提起するということをなかなか理解できないという人が日本の社会にもいると思います。これはどのように理解すればいいですか。


 韓国の言う「協議」とは、竹島・独島問題についてこれ以上言及しないこと

鄭:まず、一国の歴史認識問題は、共通している記憶、共通認識を共有することが、歴史認識問題の基本的な背景になると考えています。ご存知のように、過去、韓国は日本からの植民地支配を経験しておりますので、独島についてもすでに韓国が実効支配をしているのに、なぜあえて日本が問題提起をするのか、といった日本の問題提起そのものに対する懸念の声があるからであろうと思います。

工藤:今回の調査では、両国の首脳会談が必要であり、その際には、この島の問題、それから歴史認識問題を議論のテーマに挙げるべきだという声が韓国の国民に多くありました。この協議に韓国の国民は何を期待するのでしょうか。それは、この世論調査からでも抽出できるものなのでしょうか。

鄭:まず私の考えを申し上げますと、ここで言う協議というのは、日本がこれ以上、竹島問題について発言をしないという結果を導き出すためのものであると認識しています。

 この問題につきましては、日韓関係の発展を妨げる要因として働いているという点は韓国国民も共通して認識しています。

 ですので、今後の首脳会談の場においては、この独島問題について、追加的な言及がなされないといったことを期待する、という気持ちがおそらく反映されているのではないかと思います。


領土紛争の「解決」には、状況の理解以上に、解決を望んでいる韓国人がいるのでは?

工藤:しかし、この調査の別の項目を見ると、韓国国民の8割もがこの島についての紛争を認めたうえで、ではこれをどう解決するか、という設問の中で多様な見方が見られます。例えば、軍事的な力の行使が2割くらいあって、実効支配を強めるというのが3割くらいありました。一方で平和的に解決を目指したいというのと、日本が国際司法裁判所に提訴する場合にはそれに同意したらどうか、という声も合わせると4割ある。

 つまり、解決という概念に対して、「韓国の主張をもっと認めてくれ」という、今言われた方法以外にも、領土紛争の実質的な解決を求める見方があるように判断できます。

鄭:私からお答えできる範囲では2点あります。まず1点目ですが、日本の主張に対して不当であり、軍事的な対応も辞さないという回答が20.4%でした。この20.4%につきましては、現在の日韓関係を考慮した際に、非常に相対的に高い割合であると理解するのが適切であると私は考えます。

 なぜならば、韓国の国民の8割は、現在、日韓関係が悪化しているにもかかわらず、軍事的な対応以外の方策も考慮すべきである、というふうに答えた点を考えるべきだと思います。

 また、この設問については、韓国の国民は様々な対応策を提示された中から選んだわけですが、私はこれが持っている意味というのは、日韓関係の発展を望んでいる韓国国民が非常に多いということであると考えています。

 なぜならば、日韓関係の改善、発展のためには、この竹島・独島問題が継続的に浮上してくるのが適切ではない、と考えている国民が多いということを裏付けているからです。この今回の調査結果に基づいた私のお答えは以上の通りです。

工藤:私がこの質問にこだわる理由は、この韓国との間の島の問題に関して、日本側が緊急の問題として何かアクションをしたと思っている日本人はほとんどいない、からです。日本側は逆に韓国の前の大統領が島に行って、非常に日本を刺激したと。つまり、日本側は静かにしていた状況だったのですね。なので、この問題が日韓の間でなぜこんな大きなアジェンダに浮上しているのか、少し驚きもあるのです。ひょっとしたらそれはメディア報道の問題なのか。その背景を少し解説していただけませんか。


竹島・独島問題は日韓関係を考える上で象徴的な問題

鄭:まず、これには韓国国民のほとんど相当数が、独島は韓国の領土であるにもかかわらず、韓国の大統領が訪問した際になぜ他国の国民が問題提起をしてくるのか、疑問を持っているということについてまず理解する必要があると思います。

 また、先程も申し上げたように、韓国は日本の植民地だったという過去がありますし、戦後も日本の経験というか、日本が起こした太平洋戦争が二度と再現しないように日本は自ら平和憲法を制定した、ということを理解はしています。しかしながら、この憲法改正の動きが出ていますし、自衛隊の海外への派兵問題も活発化しているのではないか、ということを韓国の国民が懸念しているということも事実です。

 こういったことを背景として、竹島・独島問題というのは、日韓関係を考える際に、韓国の人が真っ先に連想する一つの象徴的なシンボリックな問題になっていると思います。

工藤:次が最後の質問です。先程の記者会見でも説明したのですが、両国の国民に基礎的な理解が非常に足りない。こういう近隣の国でありながら、基礎理解があまりにも不足していることに、僕たちはびっくりしています。この問題は何とか解決していかなければならない。その象徴として日本の国のことを「軍国主義」と考える韓国人が半数を超えている。日本人も、韓国の国は「民族主義」と多くの人が思っている。多分お互いの国民は「全然違うよ」、と言えるようなことを世論調査では答えてしまう。この状況はなんなのか、ということです。本当に日本が軍国主義であると思っているという方が韓国の中にいるのでしょうか。


「軍国主義」との回答は、そちらに向かってはいけないとのメッセージ

鄭:まず、最近の日韓関係が非常に否定的であるために、相対的に日本に対する「軍国主義」へのイメージの割合が高くなったと考えます。また、もう一つの要因は、最近、日本の中で出ている平和憲法改正への動きと、これに対する韓国国民の懸念があると思います。私は韓国や日本がお互いに対して、共通の価値観である、民主主義や市場経済主義に対して実際に否定的な見方は多くはないというように考えています。

 これはもしかしたら、近い国であるがゆえに懸念が高まっていると見ることも可能であると思います。もし日本や韓国が地理的に遠い国であったならば、これほど懸念が高まることはないであろうと考えています。

 これはつまり、お互いが経済的に、また地理的、文化的、社会的にも非常に近い関係、お互い密接に影響し合うという関係であるがゆえに、お互いの動きに対して非常に敏感に反応し、関心を持っていることの証であると考えます。

 ですから、韓国人が日本の政治・経済、社会システムについて、「軍国主義」であると答えた人が5割以上もいたということは、実際に日本を「軍国主義」であると見なしているということではなくて、今後、日本が軍国主義に向かってはいけないという1つの望みを盛り込んだものであると見た方が、私は適切であると思います。

工藤:どうもありがとうございました。5月11日には、私たちは対話を行いますので、やはりこの世論調査の結果を一つのベースにして、両国民の相互理解というか、本音で何でも言い合って、お互いの認識に食い違いがあるのであれば、それを埋めていくような、そういうような対話をしていきたいと思います。

工藤:先ほど、共同の記者会見が終わりました。この調査は、韓国側は東アジア研究院(EAI)が行いましたが、研究員の鄭源七さんに残ってもらいましたので、今回の共同世論調査に対しての韓国の認識について、私がどうしても聞きたいことを伺って、それを皆さんにも聞いていただこうと思っています。