「第9回日中共同世論調査」記者会見 ― 調査結果は過去最悪に

2013年8月05日

第9回日中共同世論調査 記者会見 8月5日(月)、東京都内にて、「第9回日中共同世論調査」の結果報告のための記者会見が行われました。言論NPO代表の工藤泰志と、2006年から4年にわたり駐中国大使を務め、「第9回東京-北京フォーラム」(10月開催予定)の副実行委員長の一人でもある宮本雄二氏が出席したこの会見には、7台のテレビカメラが並び、日中両国のメディア関係者およそ50人が参加しました。

 
 今回で9回目となるこの共同世論調査は、日中両国の相互理解や相互認識の状況やその変化を継続的に把握することを目的として、言論NPOとチャイナデーリー紙が2005年から両国で毎年行っているものです。共同世論調査と併せて両国で有識者アンケートも実施しており、会見ではその結果も公表されました。

工藤泰志 会見ではまず、言論NPO代表の工藤が、今回の世論調査の注目点をスライドも活用して、約20分にわたり報告しました。このなかで工藤は、「両国の国民感情は過去9回の世論調査で最悪となったが、これはかなり危険な状況だ」と述べ、この感情的な対立が両国間の全面的な対立に発展することへの強い懸念を表明しました。そして、民間レベルの様々なステークホルダー(当事者)による対話で、こうした事態を打開するきっかけ作りたいとの決意を示しました。


 個別の結果を見ると、「相手国に対する印象」に関して、中国に対して「良くない印象」(「どちらかといえば良くない印象」を含む)を持つ日本人は90.1%(昨年84.3%)、日本に対して「良くない印象」を持つ中国人は92.8%と、いずれも9割を超え、これまでの調査で最悪の結果となりました。特に中国人の日本に対する「良くない印象」が、改善傾向を示していた昨年の64.5%から一転して28ポイントも悪化している点が特徴的です。

 次に、「相手国の社会・政治体制」については、日本人の7割近くが中国を「社会主義・共産主義の国」と見ており、「全体主義(一党独裁)」や「軍国主義」が3割台後半でこれに続いていますが、傾向は昨年とほぼ同じです。一方、中国人では、現在の日本を「覇権主義」と見る人が昨年の35.1%から48.9%に大幅に増加し、最も多い回答となりました。また、「軍国主義」と見る人は昨年(46.2%)より減少したものの、41.9%と依然として4割を超えています。

 「日中関係の発展を阻害する主な問題」を聞いた設問では、日本では72.1%(昨年69.6%)、中国では77.5%(昨年51.4%)が「領土問題」と回答し、両国で突出しています。また、日本人の6割、中国人の8割が、「日中間に領土問題が存在している」と考えていることがわかりました。特に中国人では、領土問題の存在を意識する人が過去一年間に急増しています。さらに、「軍事紛争の可能性」については、日本人は半数が日中間で「軍事紛争は起こらないと思う」と見ていますが、中国人の半数以上が数年以内か将来的に日中間で軍事紛争が起きると考えており、両国民の異なる認識を見てとることができます。

 また、メディア報道の在り方に関しては、日本メディアが日中関係について「客観的で公平な報道をしている」と見る日本人は2割強しかなく、この割合は昨年と変化がありません。他方、中国人の実に84.5%が、自国の日中関係に関する報道を「客観的で公平」と判断しており、昨年の64.4%から大幅に増加していることは注目に値します。

 これらの結果を受けて工藤は、「(両国民の感情悪化の)主要な原因は尖閣諸島をめぐる対立だが、中国ではそれが歴史認識問題につながり、日本が尖閣において覇権的な力で支配を拡大しているという、日本からすればかなり違和感のある認識が中国社会で支配的になっている」と述べました。そして、日本と中国では国民間の直接交流が不足し、相手国を知るための情報源の多くを自国メディア報道に依存している点を挙げ、「国民間の感情悪化は、メディア報道などによって加速している」と指摘しました。特に、中国については「昨年の調査で見られた傾向、例えば、中国のナショナリズムやメディア報道の行き過ぎを懸念する意識が、今回はほとんど見られなくなり、加熱するメディア報道と一体化する増幅した空気が見られる」としたうえで、それに呼応するように日本側の感情も悪化していることを指摘し、「この状況は、もはや放置すべき段階を超えている」と懸念を示しました。

 そのうえで工藤は、「こうした状況を生み出しているのは、政府間の明らかな対話不足にあり、こうした国民レベルの感情悪化を、日中両政府は両国の重大な課題として考える段階にある」と述べ、政府間対話の必要性を指摘しました。同時に、困難な局面にある今こそが、「東アジアの問題にかかわる民間の様々な当事者が、両国間の対話に乗り出すべき歴史的なタイミングである」と述べ、「第9回東京-北京フォーラム」への決意をあらためて示しました。

宮本雄二氏 続いてコメントした宮本氏は、「中国は日本を経済規模で追い抜いたが、いまだに歴史の呪縛に囚われている」一方、「日本は経済で抜かれたことにより自信を失っている」と指摘し、「日本も中国も自信を取り戻してお互いに向かい合えばもっと良い関係を取り戻すことができる」と述べました。

 さらに、調査結果悪化の最大の要因である尖閣諸島問題について、「日中両国がそれぞれ尖閣に関する『物語』を独自に創り上げて、それをそれぞれの国民が正しいと信じ込んでいるときに、この問題に正面からぶつかっても解決は難しい」としたうえで、両国の首脳が「戦略的あいまい性」によってこの危機を乗り越えるべきだと指摘しました。

 同時に宮本氏は、「日中関係は重要か」という設問では、日中両国ともに「重要である」との回答が今も多数を占めていることに触れ、「日中関係改善に向けての希望は残っている」と述べました。

第9回日中共同世論調査 記者会見 その後の活発な質疑応答を経て、記者会見の最後に工藤は、調査結果で示された危機的な日中関係の状況を打開するため、「今年35周年を迎える日中平和友好条約の現代的な意義について日中両国で議論し、何らかの合意を生み、それを世界に向けて発信する」と述べ、10月開催予定の「第9回東京-北京フォーラム」に臨む強い決意を表明しました。

 予定時間終了後も、約1時間にわたり多くのメディア関係者から質問が相次ぐなど、現在と将来の日中関係と、この共同世論調査への関心の高さをうかがわせる会見となりました。

 8月5日(月)、東京都内にて、「第9回日中共同世論調査」の結果報告のための記者会見が行われました。言論NPO代表の工藤泰志と、2006年から4年にわたり駐中国大使を務め、「第9回東京-北京フォーラム」(10月開催予定)の副実行委員長の一人でもある宮本雄二氏が出席したこの会見には、7台のテレビカメラが並び、日中両国のメディア関係者およそ50人が参加しました。