環境分野での日中協力をどのように進めるのか

2015年10月25日


 「第11回東京-北京フォーラム」の特別分科会は、「観光、環境、日中が直面する課題での協働発展―地域レベルの課題解決から協力基盤の拡大する」と題し、日中計18人のパネリストが参加して行われました。

 環境問題がテーマとなった前半では、地方自治体や研究機関のトップらが、これまで進めてきた取り組みを紹介するとともに、今後、環境分野での日中協力をどう進めていくかに焦点を当て、対話を展開しました。

 始めに、日本側司会を務めた小島明氏(元日本経済研究センター会長、世界貿易センター東京会長、政策研究大学院大学(GRIPS)理事・客員教授)が、「しばらく途切れていた地方対話をバージョンアップし、もう一つの日中関係をつくっていくというチャレンジだ」と、本分科会を「特別」と名付けている意義を説明しました。


日本の技術と中国の市場ニーズとの間には、強い相互補完性が存在

no image 続いて、黄暁勇氏(中国社会科学院大学院院長、全国日本経済学会副会長、愛知大学客員教授)が中国側の基調講演を行いました。黄氏は、中国が過去30年間、経済成長の中で環境保護にはあまり力を入れていなかったと述べた上で、「現在、中国の環境は非常に悪化しており、特に大都市で水質汚染や大気汚染などが持続的発展の妨げになっている」と警鐘を鳴らしました。

 その上で、「中日両国は、省エネ、環境保全の産業や技術協力などで相互補完性が強く、協力の可能性が非常に大きい」と指摘しました。世界でトップレベルにある日本の技術開発と、中国の巨大な市場ニーズとを組み合わせることでWin-Win関係の形成が可能であり、実際に、日中の企業が共同で実施するエコシティ建設プロジェクトの規模が10兆円に達する見込みとなるなど、「日中の当事者は環境協力の重要性を認識するだけでなく、すでに行動に移っている。未来は非常に明るい」と述べました。

 また、技術だけでなく制度・政策面にも中国の課題があると指摘。日中が環境保全に関する政府間対話を行い、炭素の排出量取引のような市場管理メカニズムにより低炭素産業に生産要素を集中させていることや、国の法律を地方でどのように執行するか、といった面で、中国が日本から学ぶべきだと主張しました。

 また、日中の技術、産業、および政策面での協力が両国関係を改善する契機にもなると指摘し、加えて、地域的、グローバル的視野で中日両国の環境協力を見直すことの必要性について、「黄砂やPM2.5、海洋汚染などの環境問題は一つの国の責任だと言い切ることはできず、すべての国が被害者である。中日両国に韓国などを加えて環境保全における交流・協力を行うことが、経済的利益だけでなく日中および他国の経済発展や社会安定にもつながる」と述べ、二国間にとどまらない多国間の環境協力の必要性を訴えて、基調報告を締めくくりました。


中国の将来を見据えた、日本からの戦略的な協力が必要

 日本側からは、小柳秀明氏(地球環境戦略研究機関北京事務所長)が、18年間にわたる中国との環境協力の経験を踏まえて基調報告を行いました。「中国は日本と比べて面積、人口とも大きな国であり、日本が全面協力するには大きすぎる」と指摘。協力の効率を高めるための戦略性が必要であるという見方を示しました。

 その例として、過去10年における水質汚染分野での協力について紹介。2006年ごろから日中関係が好転して「戦略的互恵関係」の理念が掲げられたことを契機とし、まず両国の閣僚級の合意により日中共同研究を開始。その上で「今後10年の中国でどのような問題が大切になるのか」を見極めるため、専門家が6つの省を回る調査を開始。そして、当時、中国が進めていた農村開発によって顕在化することが予想される、農村や小都市での水質汚染の問題に重点を置いて取り組んだという経緯を説明しました。

 一方、大気汚染問題に関する日中協力について小柳氏は、従来太いパイプを持つ地方自治体同士の友好関係を利用して、環境省が自治体間の連携を資金面、技術面から支援するプラットフォームを設立、多くの主要都市の参加につなげた事例を紹介しました。

 最後に、「日本は政策、技術の両面で進んでいると思われているが、今、難しい局面に立たされている」と指摘。その理由として、日本の自治体で公害対策に苦労した世代は引退しており、公害を知らない現役世代の職員は今の中国の現場を理解するのが難しいことや、日本は技術開発の誘因となる新たな規制が導入されていないことを指摘。「今の中国では日本よりも厳しい法規制が導入されている。その対策に日本企業が参加していくことが、将来、アジアの他の国で同様の問題を解決していく上でも重要である」という展望を語りました。


環境分野でも、メディアが相手国への理解を促す役割を果たすべき

 賈峰氏(環境保護部宣伝教育センター主任)は世論の役割に言及。中国と聞いて大気汚染を連想する日本人が多いことや、日本人の60%が「大気汚染対策において日中の協力が可能だ」と答えている世論調査結果を挙げ、日中の環境協力が国民の期待にもかなっていると述べました。また、両国の国民が相手国への理解を依存しているメディアが、環境分野における深い討論を行い、この分野での相手国への理解を促す役割を果たすべきだと主張。

 そして、「環境問題は、中国だけでなく日本でも国民の幸福に直接結びついている。環境協力が、両国の友好往来を促進することにつながる」との認識を示しました。


 伊原木隆太氏(岡山県知事)は、日本有数の工業地帯を抱える同県の公害対策を振り返りました。「30~40年前は大変な公害だったが、東京やアメリカでの勤務から帰ってきたら海がすごくきれいになっていた」と自身の経験を披露。その要因として、70年代以降、国の基準よりさらに厳しい総量規制を設けたことを挙げました。

 一方、現代の経済学的な見地では、総量規制は最適な政策手法ではなく、排出権取引の方が費用対効果を発揮すると指摘。また、日本の規制が水や空気の「濃度」を基準としていたため、排水をさらに水で薄めた上で排出する、といった、本質的な課題解決にはつながらない対策が横行したことを挙げ、今後の中国に対し「一時的に規制をクリアできたとしても、全体で見れば意味がないような制度設計は避けてほしい」と呼びかけました。


国民の環境問題への意欲においても、中国は日本を評価

 潘濤氏(北京市環境科学研究院副院長)は、現在、深刻な事態にある中国の環境問題にとって、水俣病などを解決した日本の経験は優れたモデルになるという見解を示し、日本の経験や設備、技術の面だけでなく、国民の環境に対する意欲についても、中国は日本を見習うべきだという見解を示しました。

 また、未来の中日関係の展望について、「北京が環境対策の先進度で東京に追いつくには20~30年かかる」ないとの考えを示し、国家レベル、都市レベルでの施策に必要な資金や技術の提供において日本にも役割を発揮するよう呼びかけるとともに、「日中の環境面での協力は両国の経済交流にも資すると思う」と述べました。

 山下和弥氏(奈良県葛城市長)は、小都市ならではの取り組みを紹介。複数の企業が職員を市に派遣し、代替エネルギーとしての小水力発電の調査・実証や生ごみの減量対策に取り組んでいることに言及しました。
 そして、「葛城市は小さな町だが、環境問題は小さな地域で起きている問題であり、小さな町から流れをつくっていくことはできる。また、小さな自治体の集まりである県や国が、交流を通して意思疎通を図りながら協力していくのが望ましい」と述べました。

 趙喜梅氏(天津市環境保全局国際協力所所長)は、同市の環境政策や、同市と日本との環境協力を紹介。2013年から市政府の指導のもと、「美しい天津第1号プロジェクト」を発足させ、空気、水、コミュニティ、村の「4つの清潔」および街の緑化を柱として、燃料や排出ガスの法規制による汚染対策に着手したことが奏功し、天津市のPM2.5濃度が今年に入って14%改善されたなどの成果を報告しました。

 日本との協力については、近年、日本の自治体や企業などとさまざまな交流活動を行い、ノウハウの提供を受けたことを説明。北九州市の協力により、自動車の分解や家電製品の循環利用などの設備を有する循環経済のモデルパークを建設したことを紹介しました。そして、「今後も政策や技術の面で日本との協力を深め、日本の進んだ経験を天津で花咲かせたい」と語りました。


「他地域、次世代のために」という理念に基づく街づくりを世界に発信する

 藤田裕之氏(京都市副市長)は、京都の街の魅力について「千年以上の歴史、芸術、文化に加えてそれを支えた市民のライフスタイルであり、その背景にある自然への感謝の精神」だと紹介。物を大切にする「しまつの心」が、家庭の食用油を公営バスの運営などに再利用する取り組みに活かされていると説明しました。

 また、美しい環境を支えている宗教性、精神文化の拠点としての京都の街が、人々の暮らしと融合している。その基本になるのは『自分さえ良ければ』『今さえ良ければ』という意識から脱却することだ」と述べ、「他の地域、また次の世代のために美しい環境を残していこうという理念のもと、京都議定書に恥じない街づくりを世界に発信し、また、中国、とりわけ友好都市である西安市との連携を図っていきたいという考えを示しました。

 岡口憲義氏(神戸市副市長)は、「省エネ」「創エネ」の技術を柱とした環境モデル都市としての事業を紹介しました。石炭火力発電所の発生蒸気を周辺の企業に供給することで市内の年間電力消費量の1.5%、太陽光発電でその2%を生み出していることに触れ、「太陽光発電による発生電気量の2%を出している。施設や技術の実績はまだわずかなものだが、中国でこれを進めれば神戸の比ではない大きな成果が出る」という期待を述べました。

 最後に、中国側司会の王恵(北京市新聞弁公室主任)が「非常に良い議論がなされた」と振り返り、環境をテーマにした前半の議論は終了しました。

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