座談会:中国側の意識も大きく「進化」しつつある ~日本側出席者が感じた変化とは~

2017年4月20日

【座談会出席者】
明石康(元国連事務次長、同フォーラム指導委員会委員長)
宮本雄二(元駐中国大使、同フォーラム指導委員会副委員長)

【司会】
工藤泰志(言論NPO代表、同フォーラム実行委員会委員長)


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「第13回東京-北京フォーラム」の事前協議を終えた4月19日、日本側から協議に参加した言論NPO代表の工藤泰志(同フォーラム実行委員会委員長)、明石康氏(元国連事務次長、同フォーラム指導委員会委員長)、宮本雄二氏(元駐中国大使、同フォーラム指導委員会副委員長)による座談会を、北京市内のホテルにて実施しました。
 座談会の論点は3つ。今回の事前協議の成果をどう評価しているのか、自由貿易体制や民主主義が挑戦を受け、また北東アジアでは安全保障環境が不安定化する中で、この日中対話には何が問われているのか、そうした歴史の転換点にあって、我々は何を実現し、どう貢献していくのか、です。工藤が司会を務め、両氏にお話を聞きました。


2017-04-20-(18).jpg工藤:明石さん、宮本さん、どうもお疲れ様でした。今私たちは北京にいます。今年13回目の「東京-北京フォーラム」を北京で開催することになっているのですが、その打ち合わせにやってきました。

 今年は日本と中国の関係で言えば国交正常化45周年、来年は日中平和友好条約締結40周年に当たり、世界的に考えれば世界の安定的で自由な秩序に大きな影響が出る問題が噴出しているばかりでなく、北朝鮮の問題を含めたアジアの安全保障環境が非常に不安定化しています。その中で、私たちは日本と中国の間で議論して、こうした問題に関して色んな形で取り組んでいくということを今年始めなければいけない。今年の「東京-北京フォーラム」はその意味でも非常に大きな課題に直面している一方で、大きなチャンスでもあると思っています。それを始めるために、我々は今回の協議にやってきました。

 色々なことを合意しましたので、今日はその話を明石さん、宮本さんと話をさせて頂ければと思います。今回の事前協議はどうでしたか。非常に大きな成果があったと思うのですが。


中国側の「東京-北京フォーラム」に対する期待の高さが感じられた

2017-04-20-(1).jpg明石:世界中で色々大きな変化が起きている中で、日中の過去12年も続いた大変重要な民間対話がこれからどうなるのか、我々の相手である中国の人たちはどうそれに対応してきてくれるか、というのは非常に大きな宿題であったのです。しかし、我々の予想以上に中国の関係者は蒋建国主任をはじめ、積極的にこの日中の対話というものを評価していました。また政府間の外交はもちろん大事なのですが、それ以上に政府とは直接の関係がない、特に有識者の対話が世論を形成する上で影響を与え、また間接的には政府の政策にも影響を与えうるということで、それに対する期待感を我々が述べる前に中国の人たちが述べていたので、私は非常に良い意味で驚きました。


中国側の体制変更にもかかわらず具体的な成果を出すことができた

2017-04-20-(9).jpg宮本:私が一番心配していたのは、これまで中国側の実質的なトップでやってきていた周明偉さんが退職され、張福海(中国国際出版集団総裁)さんが担当をされるということです。中国ではトップが代わると事務的効率が著しく落ちるというというのが普通ですから心配していたのですが、想定を遥かに上回る形で第13回の全体テーマについて明確に合意ができましたし、それは言論NPOのホームページで皆さん目にされている通りです。

 それから蒋建国新聞弁公室の主任からも再度、「自分たちはこの『東京-北京フォーラム』を重視して、これを発展させるしかない、やる以上は必ず成功させてさらに良いものにしていく」という力強い言葉がありましたので、そういう意味では我々が心配していた体制が整うのかという懸念については、払拭できた。なおかつ、それを証明するような具体的な成果が色んな合意で実現したな、と思っていますので、十分満足できる事前協議だったと思っています。

工藤:今回の事前協議で決まったことは、言論NPOのホームページに出ていますが、今年は中国で共産党大会があり、それを踏まえてその後にこのフォーラムをやるということが決まりました。つまり、今年12月頃にこのフォーラムが北京で行われるということになりました。分科会のことに関しても、おおよそ原則的な合意ができた。また、今まで宮本さんが中心になってやって頂いていた安全保障の対話についていえば、北朝鮮を含めて色んな形の不安定要因がある中で、この北東アジアに平和的な関係を作るということを目的に常設化するということが今回決まったのは、非常に大きな一歩だと思います。これは今までのフォーラムで過去なかったことで、やはり私たちが平和という問題に関して強くコミットしていくという姿勢の表れだと私は思っています。

 次に、世界そしてこの地域の大きな変化の中で、いま我々の対話にどういうことが問われているのかということについてお聞きしたいと思います。


世界的な視点から日中関係を考える機運が中国側で高まっている

2017-04-20-(4).jpg明石:中国も他の世界の国々と同じく、アメリカにトランプ政権が出てきたというのをかなり不安な目で見ていたと思うのですが、フロリダにおけるトランプさんと習近平さんの会談が、内容は分からないものの、シリアの問題、北朝鮮の問題など大変な懸案があったにもかかわらず、割と両者が良い気持ちで別れるような結果になったと感じさせる雰囲気がありました。習近平さんはスイスのダボス会議では「中国はアメリカに代わって世界の自由経済のトップランナーとして、リーダーシップを発揮するのだ」というような気構えさえも感じられました。それに比べて今回は、もうちょっとリラックスした雰囲気の中で、東アジア、特に北朝鮮関連でいままでも中国は色々やってきたと思うのですが、「やれることはやろう、アメリカに対しても北朝鮮に対しても言うべきことは、中国としても限界はあるけれども言おう」という空気が何となく感じられた。

 そういう意味で、日本の識者の持つそういう考え、期待を聞きたがっているし、外交当局は色々考えているに違いないのですが、やはり色々な人の色々な意見に耳を傾けてみたい、できれば前に一歩踏み出さないといけない、難しい局面に立たせられているが何か前向きに考えたい、という態度が何となく感じられました。私は中国がこのように、我々と同じ問題意識を持っているとは思っていたのですが、あからさまに「一緒に協力して良いものにしましょう」といった雰囲気が感じられたのはとても嬉しかったです。

宮本:やはり世界的な規模で、我々の将来についてしっかり考えないといけない大きな問題を突き付けられている。それは皆さんご存知のような、経済であり、安全保障の問題なのですが、それを踏まえて我々がどうにかしないといけない、即ち日本と中国の関係をどうにかしないといけないということを、中国側も強く意識し始めたな、ということを、今回、私は感じました。今までのように、一つの方角からだけで日中関係を見てしまうと、南シナ海だ、東シナ海だ、ということ以上に視野が広がらないのです。

 世界の視野で日中関係をもう一回眺めてみようというエクササイズが日中で、できつつあるのではないでしょうか。そうすると、全く新しい視点からこの日中関係をもう少ししっかりしたものにしないといけない、即ち日中関係を前に進めることによって、こういう世界的な課題に我々は一つの答えを出しうるのではないか。そういう方向に進むべき時期に来たのではないかということを、中国の人も感じ始めていると思いましたので、次の展開を考える上で、節目にあるこのチャンスを掴むか掴まないか、我々の知恵が試されていると思いました。

工藤:今回の事前協議でも、日本側はこの対話に非常に強い想いがあるので、結構大きな理念的なことを言いました。それに対して中国側で賛同するという声がありました。こういう変化が激しい新しい時代、世界が大きな変化の途上にある状況の中で、日中関係を正常化していく、それも単なる正常化ではなくもう一歩高いレベルにしないといけないのだということに対して、日本側だけでなく中国側にもそれに反応した見方があるということを、我々は知ったわけです。ひょっとしたらいま、時代の大きな歴史的な転換点にあるのではないか。その中でこういう12年間も続けた対話チャネルという、私たちはその役割を果たすべき一つの土俵を持っているわけですから、何としても今年の対話で、それをうまく活用していきたいと思っているのです。

 最後の質問になりますが、今回の私たちの対話において、世界的な大きな流れやアジアの大きな変化の中でどのように貢献し、何を実現しなければいけないのでしょうか。


国際経済秩序とアジアの平和に関して日中がイニシアティブを発揮すべき

宮本:今回の全体テーマは、世界の国際経済秩序をより開かれたものにする、それからこの地域の平和をいかにして確保するかをお互いに考えましょう、という大きなテーマになったのですが、中国は世界のことに関して相当高いレベルにキャッチアップしてきていて、大きな問題を考えているなと思いました。逆に言えば中国もそれぐらい進んでいるということなのです。中国も世界全体のことを考えながら発想する時代に入ったな、と思いました。その結果やらないといけないのは、世界全体のことを見据えて我々は何をするのかということです。

 経済に関して言えば、自由貿易を中心とする国際経済秩序をいかにしてさらにしっかりしたものにしていくかというところで知恵を出す。それから中国も、経済発展にはものすごく苦労していますから、日本と協力して何ができるかとか、そういう議論は当然深めないといけないと思います。

 この地域の平和という観点からすると、今年の12月までに決着がついていると一番良いのですが、決着がついていなければやはり北朝鮮の問題が大きなテーマということになるでしょう。例えば、こういう時に我々としてどういうふうにアプローチしたら良いのか。中国がどうしても取りたいと思っているのはこれとこれで、アメリカがどうしても取りたいと思っているのはこれで、北朝鮮はこれがないといけない、というような大きな条件がそれぞれにあるでしょうから、その上で、そろそろ日本がイニシアティブをとって、北朝鮮の平和を実現するためのロードマップなり、考え方が日本から出てこないかなと強く希望しています。中国と日本の物理的な力の差は確実に開いていて、年々、中国のほうが経済面でも、軍事面でも我々を置き去りにしている。そういうところでバランスのとれた日中関係を構築するということになると、日本のソフトパワーだと思いますから、そういうことも視野において、我々の立場をこういう場で打ち出していく。そういう機会になれば良いなと思っています。


民間外交の理念が改めて日中で共有された

明石:外交問題は常に複雑だし、過去の重荷がのしかかってくるので、我々はともすると自分の影響する力がゼロであると悲観論に陥りがちなのですが、誰も答えは持っていないが何かしなくてはいけない、できれば一緒に何かしよう、という雰囲気が今回中国で極めて強く感じられたし、我々の持ってきた色々な提案もかなりの程度まで中国側は進んで受け入れてくれました。一部は色々修正もされましたが、全体としては、本当に前向きな態度になっている。

 宮本さんも言っていましたが、事務当局の張福海さんの人柄もあって、非常にオープンで、「ここまでは受け入れるが、ここからは我々のメンツも考えてくれないか」、といった態度も非常に友好的だったので私は新鮮な感じを受けましたし、東京から我々が持ってきた土台というものが、中国側によってほとんど議論なしに受け入れられました。細かい点については、これから実際にこのフォーラムが行われる前に色々やることがたくさんあるのですが、希望を持って準備ができそうだな、という感じがしました。

工藤:今のお話をお聞きになっている人の中には、これは一体どういうことなのだろうと考えている方がいらっしゃると思うのです。国連を昔代表していた明石さん、中国の大使として活躍された宮本さん、そして言論NPOの工藤がここにいることです。我々は単なる対話をしたり、議論するためだけに北京にやっているのではないのです。我々は困難を乗り越えて、課題を解決するために動いているわけです。外交は政府が行うものですが、だからといって民間の私たちが傍観者であってはいけない。課題に向かい合っていくというということがやはり時代を変えるし、色んな問題を変えていく一つのきっかけになるだろうと我々は信じて、この12年間やってきました。そして、私たちは今、歴史的に大きなチャレンジを迎えようとしています。この動きや私たちの考え方をこれからどんどん発信していきますので、是非皆さんと一緒に考えてこの状況を変えていきたいと思っています。今日はどうもありがとうございました。

※本事業は、独立行政法人国際交流基金(知的交流会議助成プログラム)から助成を受けています。

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