「第5回日韓未来対話」第1セッション:なぜ日韓関係はここまで悪いのか

2017年7月29日

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YKAA0113.jpg 言論NPO東アジア研究院(EAI)が共催する「第5回日韓未来対話」は28日、東京・学士会館で非公開会議を開き、日韓を代表する識者が忌憚のない意見を述べ合いました。最初のセッションのテーマは、毎回の対話の前に行われる世論調査をもとにした「なぜ日韓関係はここまで悪いのか」。

 日本側司会の工藤は「未来に向き合うには、まず現実をおさえなければいけない。お互いフランクに話し合って、次の展開を導き出し、未来を築きたい」と出席者に呼びかけました。


日韓ともに共通の課題を持っているものの信頼関係が全くない

 世論調査によると、5年前に韓国人の8割近い人が日本に対し「悪い」印象を持っていたのが、今年は56.1%と半分くらいまで減り、回復傾向を見せています。これとは逆に、日本人の意識では、韓国に対する印象が5年前の37%から48%までマイナスの印象が増えていました。日本で韓国に「良い」という印象を持つ人は韓流ドラマを見る人で、韓国側では、日本に渡航経験がある人の半数が日本に好印象を抱き、理解が広がっていると思われます。また、「日韓関係は重要か」という設問には、YKAA0445.jpg韓国人の9割が重要と答え5年前より15%増加。ところが日本では、73%から64%へと10ポイントも減少しています。
 工藤は基調報告として、こうした調査結果を紹介し「共通の様々な課題を持っているにも関わらず、信頼が築けていない」と分析しました。


韓日関係を悪化させる4つの原因

YKAA0659.jpg 韓国側司会の李淑鐘氏(東アジア研究院院長)は「過去の歴史問題と領土問題が両国関係を悪化させてきた」と語りました。その中で李氏は三つの問題が台頭したと指摘。1982年からの教科書問題、1990年代後半からは慰安婦問題が騒がれ出し、独島/竹島問題は2000年代以降に浮上したことを挙げました。その上で李氏は、「慰安婦問題は韓国側の市民団体が提起したことが国際社会の動きに支えられ、人権問題として捉えられながら、政府間の問題になった」と説明。さらに、両国関係を悪化させる背景として①パワーの変化②利益共有の変化③アイデンティティの強化④民主化という側面――があると指摘しました。①は韓国の国力が伸びて日韓の間に力の格差が減ったことで、韓国がより対等な関係を求めるようになり②中国の台頭が、経済と安保など韓日両国間に共有する利害関係が弱体化③日韓両国の間で、民族主義的・愛国主義的アイデンティティを強化しようとする社会的な動きが、両国民の感情をお互いに刺激、そして④民主化によって両国の政府が世論に敏感になり、政策が大衆に振り回される、と説明。「韓日関係が重要なのは当然で、北朝鮮問題を背景に、韓国の日韓関係を改善したいという意思は日本より高いのではないか」と李氏は期待を込めました。


日韓両国の共通の課題の重要性

YKAA0174.jpg 続いて元駐韓国大使の小倉和夫氏は「世論調査を見ると、多くの日本人の対韓感情は、いまや嫌韓感情を越えて韓国に対する不信感にまで発展してしまっている。多くの韓国人は日本と日本人を区別しているが、日本人は韓国と韓国人をごっちゃにして韓国の国民性を問題にしているようで、これは注意すべき、危ないことであり、歯止めをかけないといけない」と警告しながらも「歴史問題の解決は無理だ」と冷静に語りました。その上で小倉氏は、「日本と韓国では国の成り立ちが違う。現代韓国の原点は、日本の植民地からの解放、独立にある。それは完全な生まれ変わりで、植民地時代を中心とする"過去"はすべて捨て去らなければいけない。一方、日本は、連合国側が少なくとも事実上、"国体の維持"を認めたことで、戦前と戦後の日本の"連続性"がある。"過去"を全面否定する韓国と、"過去"との連続性に自らのアイデンティティの象徴を見ている日本。"過去"を巡って亀裂があるのは自然の成り行きで、これが政治・外交問題化すれば、論争、紛争のもとになるのは必然とも言えるだろう」と述べました。

 さらに小倉氏は、「問題はどうコントロールするかであり、まず、日韓関係を空間的に広げ、米国、中国、北朝鮮など広いコンテクストで捉え、考えること。また、時間軸を伸ばし、両国の未来を含めて日韓関係を考察する。ドイツやフランスが50~100年であるのに、韓国は18年、日本は25年と、高齢化のスピードが早い。こうしたスピードに合わせて明日の福祉社会の在り方を模索することは、人類の明日を考える上で長期的には極めて重要なことだ」と、両国共通の視点の重要性を指摘しました。

 加えて小倉氏は、「トランプ大統領の登場に見られるように、知識人が信用されず、彼らへの不信感が高まってきている風潮を前に、知的交流だけでなく市民交流を巻き込んで公開討論するべきだ」と語りました。


現実を直視するように努力するためにも、指導者の積極的取組みが必要

YKAA0202.jpg 世論調査の韓国側の責任者だった延世大学校国際大学院の孫教授は「今回の調査で韓日両国民の相手に対する友好的印象は20%台にとどまり、否定的なイメージも50%前後でそれまでの傾向を脱していない。そこには何よりも構造的な要因がある」と分析します。さらに孫氏は、「指導者の問題で、安倍首相と朴槿恵前大統領の組合せはよくなかった。第二次安倍政権が登場して、戦争を可能にする普通の国をめざす、そのアイデンティティを強く求める政治スタイルは、韓国側に地域秩序の現状を変更する試みと受け取られて安保不安をもたらしたのだ。そこに慰安婦問題が加わり、それぞれのアイデンティティの衝突となった。嫌韓の次に不信感を呼び、バッシングを起こす厳しい状況が続いており、危機感を持たざるを得ない」と顔を曇らせました。

 その中でも孫氏は、特に慰安婦問題は合意という結果に対する両国民の認識の差が大きく、韓国民は合意を情緒的に受け入れられず、日本人の49.3%は韓国人のその不満について理解できないでいると指摘。加えて、両国の世論には、それぞれバイアス(偏り)があり、慰安婦の意見が反映されなかったとはいえ、その間で統一された意見が存在しているわけではない。日本が十分に謝罪しなかったという点は、少なくとも合意文での謝罪は、できるだけすべての表現が込められているものと評価でき、金銭で解決したという世論の評価も誇張されたものだと語りました。そして、孫氏は「そのためにも、双方の誤解を解くことが重要で、日韓双方は間違った方向に進もうとする世論を矯正し、現実を直視するように努力しなければならず、指導者の積極的取組みが必要だ」と話すのでした。


本音ベースの意見が日韓両国のパネリストから出さされた

YKAA0548.jpg 基調講演の後、日韓出席者がそれぞれ本音で意見を述べ合いました。「知識人と呼ばれる人たちが、日韓関係がいかに重要か話し合う雰囲気を作り出すべきで両国の政治家に引き継いでいくのが大事だ。」「韓国が半島の南にあるのは、日本にとって有難いこと。だから、相手が困ることはやらない、喜ぶことだけをやることで両国の首脳が合意することだ」など"対話と交流"の重要度が語られました。また、「韓国内には現在65カ所に慰安婦少女像があるが、韓国政府は決して煽ってはおらず、困ったものだと感じている人もいる」と報道では伝えられない声も出されました。

 さらに、「昔は韓国という国と韓国人は区別できが、今では、日本と同じような国になったから分けられなくなっている。戦勝国の道徳的優位性を主張する声が最近あったが、韓国は慰安婦問題を通して道徳的優位性を国際関係の場で説いている。日本が生まれ変わったというのは神話であり、生まれ変わっているなら謝罪できるはず」と慰安婦問題の複雑化を懸念する意見もありました。

YKAA0306.jpg 加えて、「世界中どこでも加害者は忘れ、被害者は忘れない。それは日韓における相違の根拠だ。日本人は近所付き合いのマナーとして、韓国の苦痛を理解すべきで、その意味で歴史を学ぶ必要がある。韓国も自分たちの歴史観だけでなく、日本に対する歴史的認識を改めてほしい」と注文を付ける出席者もいました。


サイレントマジョリティの存在を意識して誰かが声をあげるべき

YKAA0437.jpg 最後に工藤は、「皆さんの意見を聞いていて、チャンスがあるような気がしてきた。日韓関係は悪化ではなく、"もう、いいよ""関心ないよ"と諦めている意識なのだろう。でも、韓国では国民の7割が日韓関係を改善したいと思っている。こうしたサイレント・マジョリティの存在を意識し、誰かが日韓関係を改善すべきではないか、と言えば、何かが変わるのではないか、変わるきっかけになるのではないだろうか」と、日韓関係の近い将来への思いを語り、第一セッションは終了しました。