米国アジアソサエティ政策研究所(ASPI)共催国際シンポジウム2017 「アジア太平洋の未来--平和と発展の新展開」

2017年10月11日

3.jpg 10月6日、都内で開催された米国アジアソサエティ政策研究所(ASPI)及び明治大学国際総合研究所(MIGA)の共催の公開フォーラムに代表の工藤が司会として登壇しました。

 「アジア太平洋の未来--平和と発展の新展開」と題したフォーラムでは、日本から、元外務大臣の川口順子氏、前駐米大使の藤崎一郎氏、オーストラリアから元首相のケビン・ラッド氏、中国から北京大学国際戦略研究院長の王緝思氏、韓国からソウル国立大学国際関係学部准教授のジョン・ジェソン氏が参加しました。北朝鮮の核ミサイル問題から南シナ・東シナ問題まで世界的に最も不安定な地域の一つであるアジア太平洋において、包括的な安全保障の枠組みをこの地域につくることの重要性について一致しました。

kudo.jpg 司会者として議論をスタートさせた工藤は、「アジア太平洋に平和で安定的な秩序を作ることは歴史的なチャレンジである。その意味で本フォーラムの試みは大変意義深い」と話し、加えて、言論NPOが北東アジアで実施してきた平和構築のための取り組みも紹介しました。そして、「世界秩序が歴史的な転換期を迎える中、このダイナミックな経済発展を続けてきたアジア太平洋地域は今や最も不安定な地域となっている。それは安保の包括的な仕組みが存在しないからである。この状況を中長期的にどう改善するのか、本当に平和で安定的な秩序を作ることは可能なのか」と問題提起をしました。

wan.jpg この問題提起を受け、まず発言を行った、王緝思教授は、アジア太平洋地域は高い経済成長を遂げてきた一方で、軍事的紛争の懸念が高まっている点を指摘し、「21世紀の問題は、地政学的な課題に直面してもこの地域が長年享受してきた平和・成長、協力を維持できるかが課題だ。いかに共通の目標を持ち、そのために米中をはじめ共通のプロジェクトに参加し、協力関係を構築できるか考えなければならない」と語りました。そのためにも最近ASPIが発表したレポート内で、4つの点、①米中の地政学的な競争の緩和、②核不拡散へのコミットメント、③領有権紛争については平和裏での解決を目指すこと、④過激主義への対応―を目標に据えて、アジア太平洋の枠組みの構築に取り組むべきだと話ました。

fuji.jpg 次に発言した、藤崎氏はこの地域大きなイシューとなっている、北朝鮮の核ミサイル問題への対応、中国の軍事費拡大とAIIBなど中国主導の枠組み、そして昨今の米新政権の方針変更について言及し、それぞれの課題への望ましい対応と今後の展望について意見を述べました。

1.jpg これらの議論を受け、ラッド氏は、アジア太平洋地域には、安全保障面で伝統的、非伝統的な課題が複雑に混在しており、これを解決することは難しくとも、緊張を管理し、各国間の対立を緩和するという目的で、域内の包括的な安保の枠組みの重要性を説きました。その上で、米国をはじめ、中国、インド、ロシア、日韓、そしてASEAN諸国が参加する東アジアサミット(EAS)が一番適切であり、この枠組みを補完し、公開の議論を通じて、安保について協力の文化を域内において醸成していくことが大事である、と伝えました。

kan.jpg 韓国から参加したジョン・ジェソン氏は、北朝鮮の核ミサイル問題に対する対応を、今後戦略的に米中の協力関係のひな形にしてはどうかとの視点を紹介しました。また、ミドルパワーの韓国としては、独自の視点に囚われがちな大国・米中の間に立ち、両者が広い視点をてるよう誘導したいと述べました。さらに、市民社会が国境を越えて自由に東アジアの将来について議論できる場が大事とも指摘し、この地域の枠組みを作る際には市民社会の声も取り入れないといけないと語りました。

kawagu.jpg 最後に発言した川口順子氏は、今後、今世紀の半ばの世界を見通した場合、新興国の重要度が大幅に増し、先進国の重要性の比重が減る中で、誰が国際公共財の担い手になるのかと指摘しました。そして、その答えとして、中国が重要なプレーヤーであることは事実だが米日のようにある程度、経済力と意思を持った複数の国々が、協調して世界の課題に取り組む「ネットワーク覇権」が重要になってくるのではないかとの見解を示しました。

 また、包括的な地域の枠組みを作るにあたり、ASEANを中心に構築してきた既存の協力体制を基盤にすべきだとの認識も示し、この中で日本は財政的制約、人口減の厳しい状況にありながらも知恵やアイデア、ソフトパワーでASEANを支えながら貢献すべきと伝えました。

 その後実施された、パネルディスカッションではアジア太平洋の秩序を作るにあたり何を基盤とすべきなのか、アメリカ、中国に求められる今後の役割は、そして北東アジア地域の最大の軍事的脅威である北朝鮮の核ミサイル問題にどう取り組むべきなのか。さらに、経済面では中国経済の改革は党大会後どのように進むのか、について、日中韓豪のパネリストの間で議論が交わされました。

 最後に工藤は、「今回のフォーラムの場を起点に、アジア太平洋地域における喫緊の困難への対処だけではなく、より大きな視点で、中長期的にこの地域への平和・安定的な秩序を作るためにどうするかという議論が始まった意義は大きい」と締めくくり議論を終了しました。