不安定化する北東アジアでの民間外交の重要性 ~代表の工藤が笹川平和財団米国で講演~

2017年1月12日

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 1月11日、言論NPOは笹川平和財団米国(SPF-USA)との共催で講演会を実施し、約100名の聴衆が参加しました。講演会冒頭、同財団会長のデニス・ブレア氏が挨拶を行った後、工藤がメインゲストとしてスピーチを行いました。

 同時間帯に、アメリカ新大統領となるドナルド・トランプ氏の初の記者会見が実施される中、代表の工藤は、新しい時代における北東アジアでの民間外交の意義と可能性について、2005年から継続して行われてきた日中共同世論調査を始め、日韓共同世論調査日米中韓4カ国世論調査の結果を交えながら、北東アジアでの世論の動向から読み解く政治・外交的課題や展望について説明しました。


IMG_1180.jpg 工藤は講演の冒頭、過去12年の間に日中間の外交関係が合計5年間にわたって停止していた期間があったこと、その隙間を民間外交が埋め、民間の対話チャネルが北東アジアの平和環境づくりに大きな役割を果たしてきたことを紹介しました。

 続けて、工藤はこれまで行ってきた世論調査結果を示しながら、日中韓の国民に想像以上に相互理解がないこと、その要因として直接交流の圧倒的な不足と、相手国を知る情報源としてメディア報道へ過度に依存している状況を指摘しました。一方で、昨今、中国から観光や就職で来日する人が大幅に増加したことから、日本への印象が改善している点に触れ、日中間の直接交流が2国間関係の新たな発展の可能性になっていることを紹介しました。

 次に工藤は、北東アジアの未来や平和について、アジアにおける中国の影響力の増大と、日米と中国の地政学的な対立という2つの変化が、日中韓3カ国の国民の意識の変化に影響を与えていることを指摘しました。その上で、注目するいくつかの変化として、日中関係において、政府間関係の改善と国民感情の改善の歩調が合わなくなってきていること、中国人の中で尖閣周辺で軍事紛争が起こると考えている人が6割を超えるなど、安全保障面の行き過ぎた危険な意識が存在していること、8割を超える中国人がロシアを信頼できるパートナーと考えていることなどを挙げました。

 さらに、慰安婦合意を機に一旦は改善に向かった日韓世論が、現在進行形で再び悪化を始めていることにも触れ、日韓関係に対する国民感情が複雑な点として、歴史問題に対する根深い不振だけが要因ではなく、韓国国民に、日本の安全保障政策への十分な理解がないことも要因だと指摘。具体的には、韓国人の8割を超える人たちが「北朝鮮」に対して軍事的脅威を感じてるとともに、4割近くが「日本」にも脅威を感じていること、現在の日本と韓国との間に軍事紛争の可能性を感じている韓国人が4割近くも存在するという世論調査結果を紹介。その理由として、日本が昨年、集団的自衛権の行使を可能とした憲法解釈や法制度の確立、米国との同盟の強化の目的が、軍関係者には理解されているものの、日米と同じ側に立つはずの韓国国民に十分に理解されず、かつての日本の歴史問題とつながって理解されている現状を指摘しました。

 講演の最後に工藤は、今後、中露の影響力の拡大と米国の相対的なプレゼンスの低下、朝鮮半島情勢などによって、未だかつてないほど世界が不安定化する中、日本、中国、韓国の約半数の国民が、「北東アジアで目指すべき理念」として「平和」を挙げたことを紹介し、今後、北東アジアに平和的な環境をつくり出すための1つの希望となる結果だ、と語りました。

 そして、民間側がこうした北東アジアに課題解決の意思を持つ世論を喚起し、平和の実現に向けて動き出すことで、政府間外交が動き出す基礎づくりになる、そうした動きを作り出すことが言論NPOの役割だ、と今後の決意を明らかにし講演を締めくくりました。

IMG_1223.jpg その後、カーネギー国際平和財団上級研究員のジェームズ・ショフ氏の司会の下、ブルッキングス研究所北東アジア政策研究センター所長のリチャード・ブッシュ氏とのディスカッションに移りました。両氏は、これまで言論NPOが10年以上にわたり取り組んできた世論調査の実施・分析、及び調査結果を元に実施する民間対話の重要性を強調した上で、3カ国の世論の動向が各国政府の内政や外交政策に重要なインパクトを与えている点、各国のメディア報道の傾向と問題点、北朝鮮問題などで本来協力すべき日韓の協力がなかなか進まないことへの懸念が示されました。

 続けて行われた約100名の聴取と質疑応答では、北東アジアにおける台湾の役割についての指摘がなされるなど活発な議論が行われ、講演会は終了しました。

 言論NPOは今後も、北東アジアの平和環境づくりを目指し、日中・日韓・日米中韓4カ国世論調査結果を基に民間対話を実施し、その内容を米国の政策コミュニティやシンクタンク関係者、有識者に伝える取り組みを継続していきます。

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