北朝鮮の核放棄に向けた日米協力のあり方を議論
-全米アジア研究所(NBR)との意見交換会 報告

2018年2月14日

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 2月12日、米国のシンクタンクである全米アジア研究所(NBR)から2人の安全保障専門家が東京・八丁堀の言論NPO事務所を訪れ、日本の安全保障関係者との間で意見交換会を実施しました。

 対話のテーマは「北朝鮮の核開発をやめさせるための周辺国の協力について」。参加者は以下の通りです(敬称略)。

【米国側】
ロイ・カウプハウゼン(NBRシニアバイスプレジデント、元米国陸軍将校)
ジョナサン・グリーナート(同国家安全保障研究部門議長、元米国海軍作戦部長)
【日本側】
工藤泰志(言論NPO代表)
西正典(元防衛事務次官)
宮本雄二(元駐中国大使)


「北朝鮮の核の排除」「平和解決」の目標は日米で一致しているか

IMG_3131.jpg 冒頭、工藤は、昨年12月に言論NPOなどが行った日米共同世論調査の結果を説明。北朝鮮の核保有や、日本と韓国の核武装を認める米国人がそれぞれ約4割も存在することが明らかになったことを挙げ、「日米間では、対北朝鮮政策の目標が本当に一致しているのか。両国民の間には認識ギャップがあり、世論を課題解決に向かわせる必要が出てきている」と、問題意識を語りました。

IMG_3098.jpg 続いて、米国側が今回の訪日の目的を「日米韓が戦争の危機にどう連携できるか、どのような事態になればこちらとして軍事行動に出るのか、日本の専門家と議論したい」と説明。言論NPOが進める「言論外交」について、課題解決に向けた世論を喚起しながら政策形成者に働きかける手法は非常に有用であり、注目している、と語りました。

 日本側参加者から、北朝鮮を対話の場に引き出す戦略や、そのアクションプランを作ることの重要性を強調。特に、「まず日米が徹底して政策調整し、韓国、中国、ロシアがそれに協力せざるをえない状況を作っていく」ことが必要だと語りました。そのために、日本の政権が安定している今の機会を活かし、今回のような会合を通して専門家同士、続いて政府同士が共通のポジションを明確にすることが必要だと指摘しました。

 さらに、日本側から昨年秋に成立した国連の新しい制裁決議によって、「核開発をどこまで進めるかという点で北朝鮮側にあった時間のメリットがなくなり、それが我々の側に移ってきた」との見方が提示されました。その上で、「トランプ大統領の動きが予見不可能なので、北朝鮮は軍事的な冒険を控えており、それは北朝鮮にとっての手詰まりでもある。この先数ヵ月の間に、北朝鮮がそこからの出口を探るような動きが出てくる」とし、最悪のプランを想定した軍事面での準備と、外交における平和解決のための努力との双方が重要だ、と語りました。


地域の非核化とは逆方向に傾く世論にどう対応すべきか

IMG_3113.jpg 次に、工藤が改めて世論の課題に言及。「日米が非核化という目標設定に合意し、それを世論に明らかにして説得しなければならない。そうした議論がないと国民は不安だらけになり、私たちのシナリオと別のことを考えてしまう可能性がある」。実際に、昨年の日米共同世論調査では北朝鮮の核保有を認める米国人が38%に上った一方、日米同盟に対する不信感を背景に、日本の核武装を容認する日本人が12.5%に上り、1年間で倍近くとなったことを説明しました。

 これに対して米国側からは、米国でも日本でもメディア報道などでは北朝鮮自体の動向がテーマになっており、核の脅威に対して国民をどう安心させればいいのか、ということに焦点が当たっていないと指摘がなされました。さらに、日本や韓国に在住する米国人の中に、現状のミサイル防衛の効果に懐疑的な声があることを紹介した上で、「その限界については正直に説明するしかない」との見解を示しました。


中国との対話で得られた日米協力への示唆とは

 2カ月前の「第13回東京-北京フォーラム」で中国の軍関係者と議論を交わした日本側からは、制裁の効果は中国側も認めており、制裁強化による非核化への意欲は感じられた、との説明がなされました。その上で、「習近平政権は制裁を現場レベルで実行しようとしている。制裁の履行状況について圧力をかけるために有効なのは、トランプ大統領と習主席の直接対話だ」と提案。また、北朝鮮問題をきっかけに日米の防衛協力の動きが進展していることが、中国にとって北朝鮮に問題解決を働きかけるインセンティブになっている、との発言も見られました。

 一方、日米の参加者は、これまで米露が2国間で進めてきた核軍縮の枠組みに中国を組み込むことが大事になってくる、との見方で一致。日米韓がミサイル防衛網を強化すれば、その警戒感から中国が自国の核戦力を増強する恐れがある(日本側)、中国が「第三の核大国」になることを懸念しており、中国の核プログラムは近代化し、その拡大に制限もかかっていな中で、米露と中国との間で緊張が高まることのリスクを中国側に伝えていくべきだ(米国側)などの指摘がなされました。

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 最後に工藤は、「大変本質的な意見が交わされ、今後の議論のシナリオ作りの一助になった。今後もNBRのような米国のシンクタンクや有識者と連携していきたい」と振り返り、2時間にわたる意見交換会を締めくくりました。

 言論NPOは、北東アジアの平和構築に向けた「言論外交」の取り組みを2018年も引き続き展開していくほか、3月に世界10か国の主要シンクタンクの代表を招いて開催する「第2回東京会議」の第2セッションでも、「北朝鮮の核開発の排除と戦争回避のシナリオをどう描くか」をテーマとする予定です。今後の展開にご注目ください。