リベラル秩序や民主主義の促進に日韓は協力できるか
 ~非公開対話セッション3 報告~

2018年6月24日

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 6月22日に開幕した「第6回日韓未来対対話」は23日、10時から17時30分まで、合計約8時間にわたる3回の非公開セッションが行われ閉幕しました。

 最後の非公開セッション3では、「リベラル秩序や民主主義の促進に日韓は協力できるか」をテーマに、日韓両国から2名ずつが基調報告を行い、2時間にわたって本音の活発な意見交換が行われました。


自由や民主主義を発展させるため、日韓両国にできることとは

kudo2.jpg 最後の非公開セッションの冒頭、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が疑問を投げかけます。工藤は、世界中で民主主義や自由など、これまで世界の秩序を支えてきた規範がチャレンジを受ける中、日本と韓国の両国民が、相手国を「民主主義」だと思っている人が3割にも満たず、さらに日韓関係が重要な理由として、「民主主義などの共通の価値観を有する国同士だから」との回答は1割に満たなかった世論調査結果を紹介。こうした結果を踏まえて、「民主主義という共通の利益を大事にしながら、日韓両国が地域や世界のために役割を果たすことが本当にできるのか」ということを改めて議論してみたいと語りました。

lee.jpg 共同で司会を務める李淑鍾氏(成均館大学校国政管理大学院教授)も同調し、「戦後を支えてきた自由主義、解放市場体制、自由民主主義がチャレンジを受け、トランプ大統領の誕生による、保護貿易体制やポピュリズムの台頭する中、アジアで自由や民主主義で恩恵を受けてきた日本と韓国がいかに協力すべきか」という大きなテーマで議論したいと語り、議論はスタートしました。


fuji.jpg まず、基調報告した藤崎一郎氏(日米協会会長)は、「本来、日韓両国は、選挙、人権、言論の自由などを共有しリベラル秩序や民主主義の促進について協力すべき立場だが、そうはなっていない」との現実を突きつけます。そして、藤崎氏は日韓の間にはアメリカとの関係、そして北朝鮮問題という2つの触媒があったことを指摘。しかし、トランプ大統領の誕生や、米朝首脳会談の実現によって、日韓をつなぐ2つの触媒が無くなりつつある今、中国の台頭などによって、中国に日韓両国民がなびいていかないように、両国民を説得していく必要があると語りました。

 さらに藤崎氏は、明治150年の節目の年、明治以降の歴史を学ぶような教育改革などに取り組む重要性を指摘しました。ただ、日韓両国間で教科書の戦略的すり合わせは難しいため、大学生や高校生の修学旅行等を制度的に強化するなど、人的交流を日韓間で強めていくことの必要性を説きました。


1.jpg 続けて、申範澈氏(峨山(アサン)政策研究院安保統一センター研究委員)は、アジア域内で最も民主主義が良く定着しているのは韓国と日本の2カ国であり、両国は民主主義と自由秩序に貢献できる、と語ります。しかし、歴史に起因する政治問題が足を引っ張っているため、両国の国民は相手国を民主主義国ではないと感じているのではないか、との見方を示しました。さらに申氏は、韓国と日本がこれまでは経済的に補完関係だったものの、韓国経済が成長することで相互競争的なものに変わったことなどにも触れ、協力の足を引っ張る部分を見極めながら、両国の協力を模索していく必要があると話しました。

soeya.jpg 次に、添谷芳秀氏(慶應義塾大学法学部教授)は、米国第一主義で国際秩序に関心がないトランプ大統領を中国が巧みに利用し、米国の空白を穴埋めしようとしている現実こそ、リベラルな国際秩序にとって極めて重要な側面であると指摘。さらに北朝鮮問題については応用問題だとして、金正恩氏が非核化も理論的な選択肢として考慮していること、さらにトランプ氏のアジェンダの終着点が在韓米軍の撤退と仮定するなら、動機はアメリカ第一主義であるにもかかわらず、終着点においては米朝で一致すること、加えて、中国からみても在韓米軍の撤退は望ましい朝鮮半島の姿であり、全面バックアップできる、という3つの複合体として北朝鮮問題が動いている点を踏まえて、日韓両国はどのようにリベラルな秩序を抽出し制度化するかが鍵になる、と語りました。

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 そうした国際秩序、北東アジアの情勢の中で、日韓で何が出来るのか。添谷氏は、アメリカも中国も参加しない多国間制度という戦略的意味がTPPに生まれたことを挙げ、新しいコンテクストを確認して日韓で合意して加盟するのが理想的だと指摘。さらに、中国が進める一帯一路と日本が進める自由で開かれたインド太平洋戦略という2つを対立概念で捉えるのが東南アジアや韓国の主要な見方だが、重要な軌道修正が起きており、この2つをどういう組み合わせで考えるかが重要だとした上で、一帯一路は積極的に参加できるところは参加してリベラルな秩序を注入していく、そしてインド太平洋戦略に中国も入れていく、そうした点に、日韓の協力は十分に成立するのではないか、との見解を主張しました。

2.jpg 最後に基調報告に立った李昇柱氏(中央大学校教授)は、「自由秩序の危機というのは前にもあった」としつつも、アメリカが自国第一主義を主張し、EUからイタリアやイギリスが離脱するかもしれない、その後の対応も不透明な状況が続くなど、不確実性が増しており、グローバル化が進む中で、互いのイシューが複雑に絡み合い、複合的な問題になっているのがこれまでと異なる点だ、と指摘。さらに、これまでアメリカやイギリスなどがリーダーシップをとってきたものの、そうした国が存在しない中で、日韓が協力すべきではないか、と語りました。

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 さらに李昇柱氏は、世界でグローバリゼーションが進む中で、中国の台頭により、新興国と呼ばれる国で意思決定の過程が省略されてきた、つまり民主主義に対する信頼が危機に陥っているのではないかと指摘。さらに、日韓両国は世界で直面していない人口減少や高齢化などの問題に世界で最も早く直面した国だからこそ、民主主義の問題解決も含めて、解決策を出す必要があり、協力できるのではないかと語りました。

 4人の基調報告を受けた司会の工藤は、今回のセッションのテーマは、「リベラル秩序や民主主義の促進に協力できるか」と疑問形になっていることに触れ、自由や民主主義の規範が非常に大きな課題になっていることは事実であり、世界の国々がそれについては同意していることを紹介。その上で工藤は、「日韓では相互理解が不十分で民主主義というアジェンダをなかなか提案できなかった。なぜなら国民間、首脳間の信頼関係がないからだ」と答え、そうした可能性がないかを探るため、本音で議論してほしいと呼びかけました。

 

バター臭いものからキムチ臭い民主主義へ

 日本の元政府関係者が、民主主義のあり方について話します。「金大中元大統領は、民主主義は西欧のものではなく、李朝時代の農民運動は民主主義の一つだ。アメリカやヨーロッパだけのものではなく、民主主義が借りものであってはならない。日韓の歴史で民主主義が存在するのであれば、それを民主主義だと言わないといけない。民主主義をバターくさいものからキムチ臭いものにする」とユーモアを交えて指摘。また、ケネディ元大統領は、「民主主義はレボリューショナリープロセスで、常に進化していく。この未来対話も民主主義を作っていくプロセスに貢献していると考えるべきで、若い人たちをもっと入れるべきではないか。もう一つは共通の価値をやるなら、共同作業をしないといけない。共同作業をしていると分かってくることがある。これから仕組んでいくことが大事だ」と、来年の東京大会に向けた提案がなされました。

 一方、工藤代表の発言に戸惑いを感じた元韓国政府関係者もいました。「タイトル自体が気に入らない。協力の可能性よりも、いかにすべきなのかを問うべきではないのか。民主主義はエボリューショナリープロセスで、とても脆弱な政治体制だ。重要なのは日韓が存在する東アジアのキャパシティビルディングによって、民主主義を運営するための能力を構築していく。一番重要なのはコストシェアリングできること」と指摘します。さらに、「日韓協力でアジアの人権や法治で協力できたのだから、多様な国々を対象に両国はODAを活用して東アジアにより健全で安定的な秩序を作る。そのためには、東アジアの勢力転換期に生まれてくる新しい東アジアの秩序は、アメリカの持続的な関与と同時に、日韓両国の今日録画求められていること、ルールに基づいた東アジア体制を作るためには、重層的な地域体制を作る必要があること、という二つの要素が必要だ」と語りました。

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祭りの交流で意思疎通を図る



 日韓協力では民間が優先しています。日本の経済人は黙っていません。「議論だけでなく、アクションが大事だ、ということを常日頃言っている。世界情勢が目まぐるしく変わる中で、共通の基盤を持つ日韓がパートナーにならなくてはならない」と主張。そのために、人材協力を挙げ、これまで日韓高校生交流を続けていることを紹介。数は小さいものの2500、3000人の経験者がでており、その人たちが大学生や社会人になって、日韓未来フォーラムを作って継続している。両者が、言葉が分からなくても理解するというプロセスを経られるような経験者を増やしていきたいとしました。また、二つ目は草の根交流として、「リーダー層は信頼が崩れているが、市民は意識を共有している。蘆武鉉元大統領と小泉純一郎元首相が友情年ということで日韓交流お祭りというものがあった。これは政府ではなく民間のボランティアがやっている小さな活動だが、どんどん広がっていくことで意識の共有が出来る。日本と韓国がもっともっとよくなるということを狙っているのだ」と、さらなる具体例で説得力ある話を紹介しました。

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 ここで韓国側から質問がありました。日本のインド太平洋戦略についてです。以前のものより方針転換があったのではないか、と指摘。これに対して日本の大学関係者が説明しました。「インド太平洋戦略について、確立した方針やコンセプトはまだない。日本がインド太平洋に目をつけたのは、中国を意識したから。ただ、それぞれ地域イメージが違うので、中国を意識したという論理でやっても、一緒にやる国はいない。間に置かれると選択を迫られから最悪の選択となる」として、地域の感覚という落とし所を探さなければならないと語りました。また、「安倍政策が変わったのは大きい。中国の一帯一路でも、以前は非常に懐疑的であったものの、今は、日本に入り込めるところは入り込もうとしている」と、分析しました。

 こうした中国の陰は、日韓双方の議論に見受けられました。日本の元軍事関係者が言います。「日韓で協力できないとしたら対中国。非常に多くの中国関係の国際会議に出るが、中国はアメリカに対しては上と見て、丁寧に扱う。日本には目の前では普通だが、アメリカからまわってくる裏の情報で言えば、今度、日本が尖閣で何か行動を起こしたら、日本を蒸発させる、とか言っている。会議で中国に対して反論したら、中国の新聞に"危ないやつ"と非難された」ことを紹介。そして、日韓協力を阻むものがあるとしたら、中国との地政学的な距離の違いではないか、と際どい話を披露しました。


中国に学んでもらいたい民主主義の本質を

 「民主主義について考える時、アメリカと中国とどう向き合うのかという問題が必ず出る。アメリカの一番の強みは民主主義のチャンピオンであったことだが、今の政権では標榜できないので政権交代を待つしかない。中国は今までAIIBなど、周りと相談せずに皆に話を持ちかけてきた。民主主義は皆で議論して、一番いい案を作ろう、ということを中国に学んでもらうプロセスが必要になってくる」と語る元日本政府関係者も、中国への不信感、違和感を口にしました。

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 議論の最後に工藤代表が総評を行いました。「日本は、民主主義とマルチラテラルの形骸化に危機感を持っている。そこで、日本の民主主義自体を強靭なものにしていく、ということは世界各国とも共有できた。今回は世論調査が議論のベースになっているが、日本側から指摘されたように、設問を工夫すべき点が何点かありました。世論調査の精度を高めないといけない、と考えている。日本国民が、北朝鮮の非核化を巡って朝鮮半島の未来について問われたことはあまりなかったが、歴史は動いており、準備がもっと必要だ」と語りました。さらに工藤は、世界はどういう流れなのかと中国の政治家に問いかけたところ、①アメリカ型のオープンエコノミー②民主主義③アメリカとの同盟に反対する、との回答が返ってきたことを紹介。そして、「東アジアで共存しながら、新しい秩序を作るという新しいチャレンジが始まっている。今後、日韓が協力して、いい対話のベースにし、世界を代表する対話の場にしたい」と、参加者の前で将来への抱負と意欲を述べ、二日間にわたって行われたソウルでの「第6回日韓未来対話」は幕を閉じました。